第一次世界大戦年表
オーストリア＝ハンガリー二重君主国による「最後通牒」（1914 年 7 月 23 日）再考 ─ F. ヴィースナーの『覚書』にみる開戦決断の背景 ─

p200
PART SEVEN =COUNTDOWN
CHAPTER 32: ベルリンでの対決

＜ドイツ＞
p201
ドイツの軍の指導的人物たちは7月にこれ見よがしに休暇を取っていた。カイザー、首相、外務大臣も同様だった。実際、彼らは時々、秘密裏にベルリンに戻っていた。そして彼らの側近たちは軍将校に十分な情報を提供し続けた。

　オーストリア側が最後通牒の期日を定めた後、ベルリンは指導者らに静かに帰還するよう合図した。彼らは7月23日以降、単独で戻ったが、その後お互いを探し求めた。

　ザクセン州とバイエルン州の武官の報告から私たちが知っている一種の移動秘密会議では、一方ではドイツ軍の指導者が、他方では文民指導者である首相と外務省職員が何をすべきかを議論した。

彼らの最良の情報は、オーストリアがセルビアを攻撃するまでには少なくともあと2週間（おそらく8月12日）かかるだろうと主張したことだった。ドイツ人らは軍人も民間人も同様にオーストリアの怠惰にうんざりしていた。

　ドイツ首相と文民の同僚らは待機作戦を実施した。彼らは、自分たちの計画、そしてウィーンの計画が実現するためにもっと時間をほしいと求めた。彼らは計画を変更するには、少なくとも数日間を要したのだ。

　将軍らの大部分はモルトケと陸軍大臣エーリッヒ・フォン・ファルケンハインによって率いられ、ドイツがロシアとその同盟国に対して軍事行動を取るよう主張する上で中心的な役割を果たした。

🅟202
　モルトケは、しばしば考えを変え、時には遠慮しながらも、状況がかつてないほど有利になったため、戦争をする時が来たと力強く主張するという興味深い役割を果たした。

ベルリンでは、波瀾万丈かつ決定的な一週間の構造は、大まかに言えば、田舎での数週間（の休暇）から戻った国の指導者たちが日曜日の午後から月曜日の夜（7月26～27日）をアップデートと意見交換で過ごして、火曜日から木曜日（7月28日から30日まで）は彼らの間で問題を議論し、金曜日から月曜日（7月31日から8月3日まで）は行動に移した。これらは、ドイツの指導者同士が争い、考えを変え、恐怖と怒りの暴力で脳卒中や心臓発作の危険を冒した決戦の日々だった。

休暇から戻った後、戦争と平和の問題について議論する主要な高官の中には、フォン・モルトケ参謀総長、フォン・ファルケンハイン陸軍大臣、フォン・リンカー軍務長官といった重複するドイツ軍指導者らが含まれていた。

モルトケにとって、この議論は特に苛立たしいものであった。その理由の一つは、文民指導者たちが彼の視点も目的も共有しなかったこと、そして一つには、彼らが知らないこと、つまり彼らに言えないことを彼が知っていたことだった。

1997年、Holger Herwigは、「モルトケの論文がほぼ完全に破棄されたことで、『モルトケの考え方と1914年の戦争推進との正式な関係が妨げられた』」と書いたが、それはもはや真実ではないようだ。

最近出版されたAnnika Mombauerの伝記は、前述したように「ｐ37参照）、これまで未使用だった文書に部分的に基づいており、モルトケの思想、言葉、行動を解釈することが可能になった。

　7月3日にモルトケの副官と話したザクセン州の将校は、大参謀（モルトケ）は「もし今戦争が起こったら喜ぶだろう」という印象を受けたと報告した。 Annika Mombauerの言葉を借りれば、7月の危機は「（戦争の）脅威ではなく機会を提示しているように見えた」という。

モルトケが7月下旬に一時、好戦的な同僚らを驚かせながらも自制した理由は、これで説明がつくかもしれない。彼はロシアの動員を恐れなかった。彼はそれを心から望んでいた。もしそれが彼自身の計画を数日遅らせることを意味するのであれば、（ロシアの動員はドイツにとって）それだけの価値は十分にあったことだろう。それが勝敗を分ける可能性もあった。さらにモルトケは、ロシアの動員準備が考えられていたよりも小規模であるという情報を入手した。

　しかし、モルトケは、祖国にとって時間が残り少なくなっているということをほぼただ一人、気づいていた。ドイツはモルトケ自身の大戦略に従うことに専念していたが、それを知っている人はほとんどいなかった。カイザーと（7月31日まで）首相ベートマンは、ファルケンハインと同様に闇の中にいた。彼らの誰も、モルトケが戦争の序盤戦で実際に何を計画していたのかを知らなかった。

🅟203
　モルトケは、驚くべき一貫性をもって、ドイツはロシアとその同盟国であるフランスに対して直ちに予防戦争を開始すべきであると長い間信じていた。しかし、彼はまた、ロシアが戦争を開始した、つまりロシアがドイツを攻撃しているとドイツ国民を説得できた場合にのみ、そのような予防戦争を成功させることができると考え続けていた。

　そこで彼は、ドイツは自制し、ロシアが最初の行動を起こす、つまり動員するのを待つべきだと主張することもあった。しかし、週が経つにつれて、彼は反対の見方に変わった。つまり、すぐに攻撃するということである。

モルトケは悲観主義者だった。彼は、早急に行動を起こさなければ、ドイツ人、特にプロイセン系ドイツ人が最終的には膨大な数のスラブ人に圧倒されてしまうのではないかと懸念した。彼は、ロシア皇帝が帝国を近代化して再軍備する前に、ロシアとの戦争を始めるよう頻繁に主張していた。しかしモルトケはまた、近代において列強間の戦争がヨーロッパを破壊するだろうと予見していた。

　1913 年 4 月まで、ドイツはロシアに対してのみ戦争を行う代替戦争計画を持っていた。 もはやそれは真実ではなかった。モルトケは 1913 年から 1914 年にかけて参謀に、フランスとロシアに対する二正面戦という 1 つの不測の事態に対処するためのみの現在の戦争計画を作成させた。彼には計画の詳細を極秘にしておく十分な理由があった。

　モルトケ計画の第一段階では、シュリーフェンの 1906 年の覚書の主要な内容の一部 (すべてではない) に従ったことを思い出されたい。ドイツはベルギーを通ってフランスに侵攻する際に大規模な兵力を投入する一方、小規模ではあるが依然として重要な兵力が、ロシア軍の攻撃が予想される進路を阻止する予定だった。

＜ドイツとオーストリアの間の齟齬＞

1914年の今、ロシアはシュリーフェンが覚書を作成したときやモルトケが参謀長に就任したときよりもはるかに迅速かつ強力に行動することができた。そのため、戦争が始まったときにドイツを守るためにオーストリア軍全体をロシア戦線に展開することが一層急務となった。

　明らかにそれが、モルトケが常にオーストリア同盟の主導的擁護者であった理由であり、オーストリア＝ハンガリー帝国における彼の対極であるコンラッドと温かい個人的な関係を築いた理由でもあった。

それはまた、ロシアが攻撃した場合にオーストリアにドイツの支援を約束した理由でもあった。しかしモルトケは、オーストリア・ハンガリーに何が求められるかについては明らかにしなかった。

p204
　モルトケは秘密を守り、コンラッドも秘密を守った。コンラッドが見たように、あるいは少なくとも後に彼が主張したように、オーストリアはセルビアを粉砕し、ドイツはロシアの干渉を阻止するだろう。彼の敵――オーストリアの敵――はセルビアだった。コンラッドにはロシアと戦う気はなかったのだ。モルトケがコンラッドに隠しておいたことは、戦争になったらオーストリアは（ドイツのために）ロシア戦線での戦闘に専念するためにセルビアとの紛争を従とさせなければならないということだった。（c.f.p271、299～)

　モルトケにはもう一つ秘密があった。それはカイザーや陸軍大臣、あるいはカイザーの陸軍内閣長官でさえ彼が共有できなかったものだった。それは主に彼の元アシスタント、エーリッヒ・ルーデンドルフによって彼のために考案されたものでした。それは宣戦布告の瞬間にリエージュ要塞（ベルギー）を奇襲占領する計画だった。それが行われない限り、フランスとベルギーへの侵攻はおそらく失敗し、それに伴う戦争も失敗するであろう。したがって、フランスかベルギーが何らかの形でドイツの動きを阻止していたら、それは大惨事になっていたことだろう。

　軍事史家のJohn Keeganが語っているように、ムーズ川の通行を阻止するリエージュとナミュールの要塞は「ヨーロッパで最も近代的」であった。それらは「当時存在していた最も重い銃による攻撃に耐えるように作られました・・・それぞれの城は、周囲 25 マイルの円形に独立した砦が配置されて構成されていました・・・お互いに自分の銃の保護を貸すためです。」彼によれば、リエージュには 400 門の大砲があり、12 の砦に配置され、「すべて鉄筋コンクリートと装甲板で保護され」、4 万の軍隊が駐屯していたという。

　ドイツの戦争開始が早ければ早いほど、リエージュ作戦にとって有利になった。 （作戦の）延期が決まれば、その日はいつでも、フランスやベルギーがドイツの動きを占ったり、予想したりする日となった。一方、モルトケは、ロシアが侵略者であるかのように見せかけることができるまで、ドイツはロシアに対する宣戦布告を延期する必要があると常々主張していた。

　遅かれ早かれどちらになるのか？ 1914 年 7 月の最後の週、モルトケは刻一刻と日ごとに考えを変え、目に見えて苦悩していた。

CHAPTER 33: JULY 26
p206
＜英国＞
ダウニング街の角に位置し、パーマストン卿の好みに合わせてイタリア風の宮殿として 1860 年代に再建された外務省の建物は、職員に長時間労働を要求するような過酷な施設ではなかった。彼らは朝は遅くまで寝ていられた。外務省の歴史家ザラ・シュタイナーによると、平日は「公務時間は十二時から六時までだった」という。

　週末には一人が田舎へ出発した。問題の週末、首相と外務大臣、そして事実上彼らの知り合い全員がいつものように田舎にいた。アスキスはゴルフをしており、グレイはマス釣りをしていた。ウィンストン・チャーチルは妻と子供たちと一緒にビーチで砂の城を建てていた。したがって、ロンドンの外務省長官アーサー・ニコルソン卿が、日曜日の7月26日にオフィスに出勤すべきだったのは注目に値する。

　彼を待っていた電報には、悲惨なニュースが含まれていた。セルビアはオーストリアの最後通牒に返答する前の、前日25日PM3時に動員を命令していた。そしてオーストリアがセルビアとの関係を断絶したとの報告がウィーンから来た。「戦争が差し迫っていると考えられています。ウィーンでは最大限の熱狂が蔓延している」と英国大使は、ハプスブルク帝国の首都から、（母国に）電報を送った。

＜ロシア＞
　サンクトペテルブルクより：「ロシアは、オーストリアがセルビアを打ち破り、バルカン半島の主要国になることを許すことはできない。」同公電によると、セルビアは動員を発令し、ロシアは動員の予備準備を発令した。今後は動員のあり方が問題となり、さまざまな形態の戦争準備、つまり準備段階、完全に満たない動員、および隣国への行進や攻撃に至らないその他の態勢の違いについて、際限なく議論されることになるだろう。

p207
＜英国＞
　外務省長官アーサー・ニコルソンは行動を開始した。彼は 2 つの方便を念頭に置いていたが、それらは相互に排他的であった。一方を押した場合、もう一方はブロックされた。そこで彼は選択を迫られた。

彼は、直接関係する二大国であるオーストリアとロシアの間の直接対話を求める運動は採用しなかった。その代わりに、彼は、関与していない列強国のドイツ、イタリア、フランスの大使による会議をロンドンで招集し、（各国が）イギリスと会談し、そこでオーストリア＝ハンガリーとセルビアの間の紛争を平和的に解決することを提案した。これが前年のバルカン戦争に（一応の）終止符を打ったプロセスだった。グレイはカントリーハウスからニコルソンにゴーサインを送り、ニコルソンはその提案を関連する外国の首都に電報で送った（訳注；後世これは、グレイの発案とされることになる）。

　アスキスは腹心のベネチア・スタンレーに対し、「ロシアが我々を引きずり込もうとしている」と懸念していると語った。彼は彼女に次のように書いた。「今朝のニュースは、セルビアが主要な点で降伏したということだが、完全かつ最終的な屈辱を（セルビアに負わせることを）覚悟したオーストリアがいかなる留保なら受け入れるかどうかは非常に疑わしい。興味深いのは、ほとんどの点ではないにしても、多くの点でオーストリアは良いケースを持っているのに対し、セルビアは非常に悪いケースであるということだ。しかし、オーストリア人はヨーロッパで最も愚かな国民であり（イタリア人が最も不誠実であるのと同じように）、彼らの手続きには残忍さがあり、大国が幼い子供たちを理不尽にいじめているとほとんどの人が思うでしょう。いずれにせよ、これは過去40年間で最も危険な状況です。」

　それは必ずしもアスキス内閣の見解ではなかった。その夜、その夜、デビッド・ロイド・ジョージ大蔵大臣は友人に別のことを語ったと言われている。「ロイド・ジョージは、オーストリアはいかなる自尊心のある国も応じることのできない要求を行ったと述べた・・・彼は、状況は深刻だが、平和が訪れると思っていると述べ、実際、彼はそう強く思っていたと語った。」

Britain and the Origins of the First World War (1977)の中で, Zara Steinerは、1914 年 6 月 28 日の暗殺後の数週間を振り返り、次のように示唆している。「出来事のカレンダーだけが、緊張の高まりを捉え、ヨーロッパ国家システムの崩壊に終わったすべての首都間の相互作用を描写するだろう。」

　ベルリンとウィーンに関する限り、これには強い真実の要素がある。しかし、例えばパリやローマ、ロンドンなどでは、日に日に緊張が高まることはなかった。 オーストリアとドイツは、ほぼ4週間にわたって他の大国から陰謀の秘密を守ることに成功した。 6月28日朝の殺害事件から7月24日朝まで、緊張レベルの顕著な上昇はなかった。

p208
　そして、7月24日金曜日の真夏の週末に突然、本格的な戦争の危機がヨーロッパの指導者たちに襲い掛かった。彼らを気づかずじまいだった。 7月23日まで、英国内閣は外交問題にまったく時間を費やさなかった。 7月26日、大蔵大臣ロイド・ジョージは依然として平和が維持されると信じていた。

＜ロシア＞
その後の日曜日の26日、ロシアではサゾーノフとプルタレス駐露ドイツ大使の政治家２人が鉢合わせた。プルタレス駐露ドイツ大使は、ロシアのサゾノフ外相と同じ列車に乗ろうとしていたことに気づいた。それは彼らの別荘が互いに近かったために起こったのだ。（Mc Meekin JULY1914　Count down to war p209）

プルタレス駐露ドイツ大使はこの状況を利用して、サゾノフに大国会議「欧州フォーラム」の開催を求める英国の提案を拒否するよう説得した。それは「扱いにくい」だろうから、と大使は主張した。機械的な動きが遅すぎるのだった。

その代わり、ロシアはオーストリアと直接交渉すべきだ、とした。（より有望な（多国間）会議の提案が阻止されることになったために、ロンドンが、直接交渉に向けたキャンペーンを開始しないことを決定したことは記銘されるべきことだろう。）ドイツ大使によると、オーストリアは「セルビアを飲み込むことは考えておらず、セルビアに有益な教訓を与えたいだけだ」という。

ドイツ大使の報告によると、サゾノフはその提案（多国間会議ではなく、直接交渉）に従うことを約束したとのことだった。

　サゾノフは融和的な態度を取っていた。 同氏はオーストリアの要求のほぼすべてが受け入れられることに意欲を示した。 実際、彼は二重君主制との直接交渉の可能性を模索している間、英国の会議の提案に基づく行動を延期し続けた。 しかしオーストリアはいかなる譲歩も拒否した。 サゾノフは重要な数日を無駄にせざるを得なくなった。

＜英国＞
英国では、海軍予備役の隊員は演習後すぐに帰国した。艦隊自体は27日月曜日の朝に解散する予定だった。 26日日曜日、First Sea Lordバッテンバーグのルイ王子は、海岸にいたFirst Lord of the Admiraltyウィンストン・チャーチルと電話で二度会談した。ルイ王子はオーストリアがセルビアの返答を拒否したという知らせを彼に伝えた。

　そこでチャーチルかルイ王子のどちらかが艦隊に分散せずにそのまま残るよう命令した。チャーチルはロンドンに来て、午後10時に到着した。彼はグレイ外務大臣に会いに行き、下された命令を公表することが有益かどうか尋ねた。グレイはそうすればよい、と答えた。チャーチルはそうした。それはドイツの注意を引くことを狙った、威嚇射撃だった。

p209
ドイツの意図に懐疑的だった外務省の側近らの見解に反して、グレイはベルリンに対して、そうした疑惑を有利に運ぼうとした。 1914年のグレイの戦略は、1913年と同様に、英仏露のブロックがあるとドイツは見ているだろうという理論に基づいて英独共同アプローチに移行することであった（訳注；歴史家チャムリーは、英仏協商に縛られた柔軟性のない外交によりドイツとの対決を招き、第一次世界大戦になってしまったと主張しているがエドワード・グレイ）。

言い換えれば、英仏露の間で非公式の同盟が結ばれていたからこそ、英国がどちらかの側に立っているように見えないように、最初からドイツに近づく必要があったのである。

　それにもかかわらず、ベルリンはグレイの（多国間）会議の提案を拒否し、それは仲裁であり、オーストリアに対する法律の制定であると主張した。グレイはそれを否定したが、ヤーゴはその否定を受け入れることを拒否した。一方、ドイツの準官報である北ドイツ官報には、オーストリアを全面的に支持する声明が掲載された。

　英国外務省のニコルソン長官はグレイに対し、「ベルリンは我々をもてあそんでいる」と語った。もしドイツがイギリスのような中立国ではなく、隠れた好戦国、実際にはオーストリアの隠れた後援者であれば、グレイの戦略は無駄であることが分かるだろう。ニコルソンはそうは言わなかったが、実際には、その通りであった。

＜フランス＞
パリでは、フランス外務省の政治部長はドイツ大使に対し、「戦争を目的としていないのであれば、ドイツの態度は単純に考えても説明がつかない」と語った。ドイツ大使はそれを否定したが、彼は何も知らなかった。ベルリンは彼を暗闇の中に置き去りにした。

p210
＜オーストリア＞.
ウィーンでは、ベルヒトルトはベルリンのヤーゴから、他国が和平交渉に介入する前に直ちに宣戦布告するよう促されていた。次に、オーストリア＝ハンガリーの外相ベルヒトルトは、過去に開戦を執拗に主張していた陸軍長官コンラッドに圧力をかけようとした。コンラッドは準備ができていないと主張した。コンラッドの説明では次のようになる。

🅟210
ベルヒトルト: 多様な影響に終止符を打つために、セルビアに対する宣戦布告をできるだけ早く行いたいと考えている。いつなら宣戦布告はできるか？

私（コンラッド）：作戦がすぐに開始できるほど十分に準備がなされたら、つまり 8 月 12 日頃に開始されるだろう。

ベルヒトルト: 外交状況はそこまで持たないだろうに。

　コンラッドは、オーストリアは自制しなければならないと答えた。ロシアの状況だけを見れば、ロシアは何を意図していたのか? 少なくとも8月4日か5日まで待つ必要があった。「それではだめだ！」ベルヒトルトは叫んだ。

＜ロシア＞
駐ロシア・ドイツ大使は、サゾノフと長時間会談を行ったと報告した。ロシア外相サゾノフは「融和的」だった。同氏は、戦争を防ぐために必要なあらゆる手段を尽くす用意があると強調していた。同氏はドイツに対しても、その目標を達成するために必要なことは何でもするよう「緊急に懇願」した。セルビア人は同じスラブ人ではあったが、ロシアの政策は「同情」だけによって導かれたわけではなかった。それは、力のバランスを維持し、重要な利益を保護する必要性によって導かれたのである。

　駐ロシア・ドイツ大使は次のように報告した。「私は特に指摘した・・・もしオーストリアが本当にセルビアが屈服する口実を探していたとしたら・・・オーストリア側は何らかの行動を開始したということをすでに我々は聞いているはずだ。」

　それはオーストリアの異常なまでの動きの遅さにつけこんだ巧妙な方法だった。ウィーン文民政府は軍に行動を起こさせようとしており、ドイツもオーストリア人に武器を取るよう促していた。

＜ドイツ＞
ベルリンにて。モルトケ参謀長は、7月26日朝から首席補佐官とともに仕事に戻った。その後モルトケはドイツ外務省Auswärtiges Amtに赴き、ヤーゴと問題を検討した。会談の過程で、モルトケは戦争が始まった場合に使用されるベルギーへの最後通牒草案をヤーゴに提供した。これはセルビアではなくフランスとの紛争、つまり局地的な戦争ではなく大規模な戦争を想定していた。

　最後に、モルトケは前日（チェコのカールスバッドから）帰国して以来ほぼ絶えず電話をしていた首相と会談した。

🅟211
　彼の妻によると、モルトケは帰国後の状況に「非常に不満足」だったという。その週末に戻ってきて会議を開き、意見交換を行っていた他のオフィサーたちも同様だった。（ドイツが）意図的に遠ざかっていた3週間で、オーストリアはセルビアを粉砕するはずだったが、実際には最初の動きさえしていなかった。口を閉ざされていたはずのロシアは予備的な軍事措置を講じていた。ベートマンの計画は瓦解しつつあった。既成事実 fait accompliの提示――彼の当初の計画――は起こらなかった。紛争の局地化（彼の急ごしらえの第二計画）も実現しなかった。

英国は外交的取り組みを検討し（訳注；26日、イギリス外相エドワード・グレイ、英・仏・独・伊の大使会議を開くことを提案した）、ロシアは行動を起こすことを考えていた。

CHAPTER 34: JULY 27
🅟212
＜ドイツ＞
カイザー・ヴィルヘルム 2 世は、北方海域での航海から戻ろうとした。政府が彼に十分な情報を提供していないことが明らかになったとき、彼は航海を打ち切った。

ベートマンは（カイザーの）到着時に彼に会い、辞任を申し出たが、ヴィルヘルムはそうはさせようとしなかった。ベートマンの前任者ビューローによれば、カイザーは次のようなことを言ったという。「あなたはスープを調理したので、今度はそれを食べなければならない。」その後、ポツダムの宮殿に定住したヴィルヘルムは、外交公電の最新情報を入手し、政府および軍隊の指導者らと会談した。

　7月5日から6日にかけて主にベートマンによって策定された計画によれば、本来ならヴィルヘルムは、ハプスブルク軍がベオグラードを占領しているのを見て、粉砕されたセルビアが合意した降伏条件の履行を監督するために帰還するはずだった。外部の力がそれを防ぐには、すべてがあまりにも急速に起こったであっただろう。彼らにはそれについて何もすることができなかったことであっただろう。ロシアとその同盟国は避けられない事態の前には屈したはずだった。

　しかし、起こったことはそうではなかった。ヴィルヘルムが理解したのは、オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアを平和的に屈服させる機会を逸していた、ということだった。今やセルビアは立ち向かう準備ができており、イギリス艦隊が出動し、ロシアは戦争準備への第一歩を踏み出した。英国は、オーストリアが7月25日にすでに拒否した条件よりも不利な条件で紛争を解決する可能性のある外交会議の開催を求めていた。25

🅟213
　計画的な休暇から戻ったドイツ語圏諸国の指導者たちは、次の行動を決定する必要があった。この週は決定的な週となった。ドイツとオーストリア政府の主要メンバーが差し迫った危険として認識していたのは、グレイが4カ国の調停案を成功させ、戦争の勃発を防ぐかもしれないということであった。ウィーンとベルリンの外務省では7月27日、平和への恐怖の始まりが見られた。

ドイツ自身も、グレイ会議の構想を拒否していた。 ドイツ政府はこの提案をオーストリア＝ハンガリー帝国に送付することに同意したが、一方でウィーンの同意を得ようとするグレイの努力を密かに妨害した。（Fischer, Fritz Germany’s Aims in the First World War p70）

　ベートマンは、この提案に拘束される理由を役人の一人に説明した。彼は、「われわれはすでに英国の会議開催提案を拒否していたので、直近のの提案を通す（pass on）ことを拒否することはできない」と述べた。

「もし我々があらゆる調停の試みを拒否したら、全世界が我々に大火の責任を負わせ、我々を本当の戦争屋だと非難するだろう。そうなると、あたかも戦争が押し付けられたかのように見せなければならないドイツでの我々の面目がなくなってしまう。」（Mc Meekin JULY1914　Count down to war p235）

それまでオーストリアが戦争に進むことについて話していたベートマンは、突然ドイツが戦争に進むことについて話し始めたのだ。

　ドイツ政府は、英国の（直近の）和平計画を推進する一方で、オーストリアにはそれらに注意を払わないように非公式に忠告した。 駐独オーストリア大使はウィーンのベルヒトルトに電報を送り、ヤーゴからの以下のメッセージを「極秘に」伝えた。ヤーゴは、ドイツはグレイからの調停提案（7月26日の、英・仏・独・伊の大使会議を開くことの提案）を間もなくウィーンに転送すると述べていた。

（ヤーゴからベルヒトルトへ）
「ドイツ政府は、自らはこれらの(グレイからの) 提案に同調せず、逆にそれらの提案を無視するよう忠告するが、英国政府を満足させるためには提案を通さなければならないことを最も毅然とした方法で保証する。」

ベルリンは英国がフランスとロシアの側につかないようにしたいと考え、「もしドイツがイギリスの和平計画を伝達することを拒否したことをE・グレイ卿に率直に伝えれば、その目的（英国がフランスとロシアの側につかないようにすること）は達成されないだろう。」と語った。

　ヤーゴは、グレイが彼に、オーストリアの最後通牒の修正を求める嘆願書を転送するよう求めたと報告した。ヤーゴは同僚に対し、オーストリア人に”それを渡すよう”指示するのではなく、ウィーンの大使にメッセージを送ったと説明した。したがってヤーゴは、英国の声明を「ウィーンに」転送したことをグレイに正直に伝えることができたと結論付けた。

　ベートマンは、他の大国はオーストリアとセルビアの間の紛争に関与すべきではなく、したがって、英国はその影響力を利用してロシアに「（戦争の）局地化」を受け入れるよう説得すべきであった、というという、前週の主張を継続した。

グレイは、セルビアはオーストリアの要求に応じて事実上すべてを譲歩したと指摘した。そしてグレイは、これはロシアがセルビアに対して加えた圧力のせいだと考えた(訳注；これはグレイのロシアへの買いかぶりであり、実際にはロシアからの”応援を”受けて ,セルビアは、オーストリアに強硬策を取るようになった。c.f.「夢遊病者たち」ｐ691～）。英国の要請を受けて、ロシアはセルビアを抑制した。今や、英国はドイツに対して、オーストリアを抑制するために影響力を行使するよう求めていた。

🅟214
　しかしドイツはグレイの提案を拒否した。ヤーゴは、ロシアとオーストリアは交渉に入ろうとしているので、他の行動を取る前にその結果を待つべきだと主張した。以前と同様に、彼は（グレイ首唱の四か国）会議提案を阻止するために（二国間）交渉提案を利用していた。

＜英国＞
その朝の閣議でグレイは同僚に対し、戦争になった場合にフランスとロシアを支持する用意があるかどうかを決める時期が来たと語った。これは、ヨーロッパの戦争危機のみに特化した最初の内閣会議であった。与党の自由党は平和主義的な見通しを持つ傾向があった。イギリスにフランスの援助を義務付ける条約はなく、内閣はヨーロッパ戦争への介入に圧倒的に反対した。

グレイは依然として戦争の勃発を防ぐことに注力していたが、それを防ぐことができない場合にはイギリスも戦争に参加しなければならないと考えていた。 アスキス首相は外務大臣グレイを支持する強い意向を持っていたが、彼の主な関心は、どのような政策が採用されたとしても自由党の団結を維持することであった。

閣議後、ウィンストン・チャーチルは海軍業務の即応性を確保するための計画の策定に着手した。彼は本領を発揮していた。彼はインドとスーダンでの戦場経験があり、民間人としてボーア戦争での目覚ましい功績が政治家としてのキャリアをスタートさせるのに役立った。戦争屋ではなかったが、彼は武力衝突を誇りとしていた。

p215
　その日の午後、彼は脆弱な箇所に警備隊を配置し、奇襲に対する予防策を講じ始めた。海軍本部は陸軍省と協力して、報道機関に自主検閲を求める最善の方法を検討するための小グループを招集した。敵にとって有益な情報を開示してはならなかった。

　その場にいた報道官のジョージ・リデルは後に日記に、政府報道官が「大陸の状況が非常に深刻になっていることを私たちに知らせた」と記録している。政府報道官は、軍隊や船舶の移動が・・・密かに必要になるかもしれないと述べた。」と記録している。そして、ニュースが公にならないようにする方法を尋ねた。

リデルは新聞社に宛てた書簡を起草し、それが公布された。これは差し迫った戦争について報道機関に向けた最初の公式な示唆となった。その結果は驚くべきものであった。情報は一切漏洩せず、ドイツ人は何が行われているかを知らなかった。」

　その夜、チャーチルは軍隊に非公式の警戒態勢を敷いた。世界中の遠く離れたイギリス海軍の艦隊に彼は電報で次のように言った。「機密事項。ヨーロッパの政治状況により、三国同盟と三国協商国の間の戦争は決してあり得ないことではない。これは警告電報ではないが、敵対的な戦闘員の可能性を追跡する準備をしてください・・・（ただし）この措置は純粋に予防的なものです。」

＜フランス＞
パリ駐在のドイツとオーストリアの大使は、自国政府の計画や考え方については秘密にされていた。これは、政府首脳が依然として海上にいて、事実上指導者のいない首都で見られたように、事態にさらなる混乱を加えた。

　明らかに、オーストリア大使は、自国政府がセルビアの降伏間近の文書を拒否したことに驚いたようだ。彼はウィーンの上司たちに次のように語った。「セルビアの（降伏間近の文書）応諾は、強い印象を与えました。私たち（オーストリア人）の態度は、どんな犠牲を払ってでも戦争を望むという意見を生み出すことでしょう。」

＜英国＞
駐英・ドイツ大使であるリヒノフスキーは英国好みきであり、必ずしもベルリンの信頼を集めていたわけではなかった。 7月27日までに、彼は上司の判断に強く疑問を抱いていた。セルビアとオーストリアの間の確執が局地化できないとき、そしてイギリスがそのことを知っていたとき、どうして外務省の指示に従って紛争の局地化を主張できたのだろうか？

オーストリア＝ハンガリーは、ロシアに介入を強いるような形で喧嘩を吹っ掛けた。小さな戦争が大きな戦争につながる可能性があった。 「イギリスとの今後の関係全体は、会議へのグレイの動きの成功にかかっている」。もしベルリンがオーストリアとの同盟のために他のすべてを犠牲にしたとすれば、「（英国とドイツとの）最近結ばれた関係を修復することは二度と不可能になるだろう。」

p216
　危機に直面したグレイの方式は、危機に対処するためにドイツとのパートナーシップを求める（どだい不可能な）ことであった（c.f. p209）。駐英・ドイツ大使リヒノフスキーが本国政府に指摘したのは、もしベルリンがこのまま突き進むなら、将来的にはグレイはその提案を引っ込めるだろう、というものだった。英国外務省の高官らはすでにこの点でグレイを批判していた。一部の外国指導者も同様だった。

　その夜の夕食時、ロシアの外交官はイギリスの政治家に「戦争は避けられない、イギリスのせいだ。戦争は避けられない」と語った。もしイギリスがロシアとフランスとの団結と、必要に応じて戦う意向を直ちに宣言していたら、ドイツとオーストリアは（戦うことを）躊躇していただろうに。」

＜ドイツ＞
少なくとも1912年12月の軍評議会以来、ドイツ軍指導者らは自らが予見し、避けられないとみなした欧州紛争について、ロシアを非難することに集中してきた。これはモルトケの路線であり、今も続いていた。

7月27日、フォン・ミュラー提督も同様の意見を述べた。ドイツは「ロシアが自らを間違った立場に置くようにさせる冷静さを保つべきだが、それが避けられない場合には戦争にひるむべきではない」と彼は日記に語った。ベートマンはこれに関して軍の意見に同意し、「いかなる場合においても、ロシアは容赦なく不当な立場に置かれなければならない」とヴィルヘルムに語った。

＜オーストリア＞
英国大使は他の大使との会話の後、グレイに次のように電報を送った。「オーストリア＝ハンガリーの覚書は戦争を不可避にするために作成された。オーストリア＝ハンガリー政府はセルビアと戦争する決意を完全に固めている。オーストリア＝ハンガリーは大国としての立場が危機に瀕していると考えている」、そして「この国はセルビアとの戦争の見通しに狂喜している」と述べた。

CHAPTER 35: JULY 28
p217
＜オーストリア＞
7月25日に下された決定に従い、オーストリア・ハンガリー帝国は7月28日に部分的な動員を命じた。最終的にハプスブルク軍の半数はセルビア国境沿いに陣取るよう命じられた。これはオーストリア参謀本部の対セルビア戦争計画にのみ準拠して行われた。局地化は賭けであった。コンラッドはベルヒトルトに対し、ロシアの介入を阻止するようにドイツに尋ねるように要請した。

＜ドイツ＞
ドイツの指導者らは、週末に始まった議論を続けた。 7月28日までに、彼らの間に意見の相違はあるものの、彼らが行動を起こす気になっていることが明らかになった。ドイツはオーストリアが何かをするのを待つのは諦めるつもりだった。ドイツは自分自身のために、動くことを決意した。陸軍大臣によれば、「犠牲を払ってでもこの問題を戦い抜くことが決定された」という。 ドイツ人らはセルビアとの戦いについて話していたのではなく、ロシアとフランスとの戦いについて話していたのだった。

　モルトケは最も極端な立場を取っていた。以前と同様に、彼は予防戦争を主張した。彼の立場は、戦争は避けられず、ドイツに対して時間は迫っており、2年ほど以内に勝算は変わるだろうというものだった。1914年にはロシアとフランスが負けるかもしれないが、1916年か1917年にはドイツが負けるかもしれない。したがって、ドイツは今すぐ攻撃すべきである。

　モルトケが見たように、7月の危機はドイツにとって幸いなことに、ドイツを「極めて有利な状況」に置くほどに発展した。収穫は目前に迫り、毎年恒例の新兵訓練は終了したが、ロシアとフランスが本格的に準備が整うまであと2年はかかるだろう。オーストリアはドイツ側で戦わざるをえない立場にあり、それが極めて重要だった。モルトケはこう要約した。「今ほどうまく打てることは二度とないだろう。」

p218（c.f.「夢遊病者たち」ｐ774～　Fischer, Fritz Germany’s Aims in the First World War p71　Mc Meekin JULY1914　Count down to war 241）
＜無視されたカイザーの意向＞
7月28日の朝、前日のクルーズから戻っていたカイザー・ヴィルヘルムは、オーストリアの声明に対するセルビアの返答を初めて読んだ。それで彼は納得し、オーストリアは望むものをほぼすべて手に入れた、と外務省のヤーゴに対して手書きで書いた。彼の見解では、これは「最も屈辱的な種類の降伏」であり、その結果、”戦争のあらゆる要因が”消え去った」。しばらくあとの文で、彼は「戦争の原因はすべて消え去った」と繰り返した。

　もはや戦争を始める必要性はなくなった。実際、ベルヒトルトとは異なり、ヴィルヘルムによれば、「私はそのような理由で（オーストリアのような）動員を命令することは決してなかっただろう。」とのことだった。

　（彼は続けた。）「それにもかかわらず、紙片は、その内容と同様に、行動に移されない限り、ほとんど価値がないと考えられる。セルビア人は東洋人であり、したがって嘘つきであり、策略家であり、回避の達人である。」

したがって、セルビアが約束を守るまで、オーストリア軍は、ベオグラードを含むセルビアの一部を人質として一時的に占領するべきである。その上でカイザーは、「私には和平を仲介する用意がある」と書いた。

この問題の解決により、ベオグラードを占領したハプスブルク軍は、成功を収めたかのように満足することとなったことだろう。和平の仲介において、ヴィルヘルムは、オーストリア＝ハンガリー帝国の名誉と自尊心を守るよう注意すべきだった、と書いた。

　カイザーはヤーゴに対し、彼が述べた根拠に基づいてオーストリアとセルビアの紛争を調停する用意があることをウィーンに知らせるよう命じた。オーストリア人には、もはや戦争をする理由はないと告げられることになった。カイザーはまた、同じ結論を書面でモルトケに通知した。

　カイザーの最近の伝記作家の一人、クリストファー・クラークは次のように書いている。「おそらく、7月28日の（カイザーから）ヤーゴへのこの手紙で最も衝撃的なことは、それが何の行動も惹起しなかったことだろう・・・ ヤーゴに対するカイザーの指示は、ウィーンに対するベルリンの表明には何の影響も与えなかった。ベートマンはウィーン（駐オーストリア・ドイツ大使チルシキー）に電報を送り、ヴィルヘルムの見解の一部を繰り返したが、「オーストリアは戦争をやめ、戦争をせず、代わりにカイザーにセルビアとの争いを仲裁させるべきだ」という最も重要な点は省略した。（c.f． 夢遊病者たち P777)

p219
　バイエルンの将軍は日記の中で次のように述べている。「そこには不幸にも・・・平和のニュースがあった。カイザーは絶対的に平和を望んでいる。・・・彼はオーストリアに影響を与え、オーストリアがこれ以上（戦争政策を）続行するのを阻止したいとさえ考えている。」

　フォン・ファルケンハイン陸軍大臣によれば、カイザーは「もはや戦争を望まず、たとえそれがオーストリア・ハンガリー帝国を窮地に陥れることになっても、戦争を避ける決意をしているという明確な印象を与えるような混乱した話をした」という。

　しかしファルケンハインはカイザーに「もはやご自分の手で事件をコントロールすることはできないのですよ」と念を押した。他の状況であれば、これは驚くほど不服従に見えたことだろう。

しかし、1908 年のデイリー・テレグラフ事件以来、カイザーの立場は不安定だった。ファルケンハインの注意喚起のわずか2か月前の1914年5月、ウィルソン大統領の特使エドワード・ハウスはベルリンから次のように報告していた。「軍事的な寡頭制」が最高であり、「戦争を決意」し、「カイザーが平和につながる道を歩む兆候を見せた瞬間に彼を退位させる」準備ができていた。

もちろん、現実を把握するのがやっとの、脆弱だったヴィルヘルムは、自分の立場の危険性を十分に把握して生きていたわけではなかったかもしれない。あるいは、ハウスが誇張した可能性もある。

　しかし、カイザーの知らないところで多くのことが起こっていたことは疑いの余地がない。実際、ヴィルヘルムが知らなかったことの一つは、その前日、ヤーゴがウィーンに電報を打って、オーストリア政府に対し、セルビアに対する即時宣戦布告をするよう促し、事実上、命令をしていたということだった（Mc Meekin JULY1914　Count down to war　p223）。

ヤーゴは、平和を維持するための会議の開催を求める英国の提案はもはや成立し得ない、と（オーストリア政府に）警告していた。ドイツの外務大臣ヤーゴは、（オーストリア政府に）この警告を送る前にカイザーに相談もせず、（オーストリア政府に）警告が送られたことをその後も知らせなかった。

＜オーストリア－宣戦布告＞
　オーストリアでも、消極的な君主が振り回されていた。皇帝フランツ・ヨーゼフは宣戦布告を躊躇しており、そうしたうえで、大臣たちは、宣戦布告のためには皇帝の同意を得なければならなかったのだ。

ベルヒトルトは、セルビア軍がオーストリア軍に発砲したと――誤って――報告することで、皇帝の同意を得た。実際、これはたった 1 つの単独の事件であったが、セルビア人に対して発砲したのはオーストリア軍であった。

ウィーンはもはや戦争だった。結論は前日に出ていた。ドイツ外務省の圧力に応えて、オーストリアはついにセルビアに宣戦布告した。ドイツ大使によると、これは「主に干渉の試みを阻止するために」行われたという。

p220
　他の多くのことと同様、オーストリア人はそれをぎこちなく行った。和平合意の旗を掲げた特使による宣戦布告を送ることは不可能であった。なぜなら、宣言が受領されるまでは両国はまだ戦争状態になく、白旗は不適切だったからである。ベオグラードにはもはや代表者がいなかったため、ハプスブルク政府は電報でセルビア政府に宣言を送った。それが適切な当事者に受け取られる保証はなかった。この事件で、セルビア政府は奇妙な電報を受け取ると、ヨーロッパの主要首都に電報を送り、それがデマかどうかを問い合わせた。宣戦布告ではセルビア軍によるオーストリア軍への攻撃疑惑に言及した。

　オーストリアの参謀長コンラッドは布告の発令に反対していた。 彼は軍隊の行進準備が整うまで2週間ほど待ちたいと考えていた。しかし、国際外交に追いつかれ、オーストリア＝ハンガリー帝国には時間がなくなってしまった。

　その夜、オーストリア軍の砲兵隊は、ドナウ川の狭い国境を越えてベオグラードを短時間ではあるが効果のない砲撃を行った。

＜パリ＞
フランスは戦争の危機について何も知らなかった。誰もが話したニュースは、カイヨー夫人が無罪になったということであった！

＜ロシア＞。
ロシアは、これまで「戦争準備」として警戒を呼びかけていた4つの軍管区で動員を開始した。

ヴィルヘルムは、オーストリアを抑制する努力を台無しにしているのが自分の外務省であることを知らずにツァーリにメッセージを送った。その中で彼はいとこ（ツァーリ）に、皇帝一族の家族の一員を殺害したセルビア人を処罰するという点で「あなたも私も、そしてすべての主権者も共通の利益を持っている」と想起させた。

「これ（フェルディナンドの殺害）に関しては政治はまったく関与していない。」しかし、カイザーは続けた。「その一方で、あなたとあなたの政府が世論の流動に直面することがどれほど難しいかはよく理解しています。」ロシアのナショナリズムは、計り知れないが、それでも大きな力であり、ニコライにとっては政治生命直轄の事実であった。（ヴィルヘルムがそのことを知っているか否かに関わらず、ロシア参謀本部からも動員の圧力がかけられていた。）

カイザーはツァーリに、彼の「心からの優しい友情」について語り、「私は、オーストリア人が誠実に対処するよう導くために最大限の影響力を行使している。」と彼に断言した。

p221
　このメッセージは、オーストリアがセルビアに宣戦布告した後に行われたウィリーとニッキーの書簡の最初のものであり、ツァーリからのメッセージと交差した。

「返信をありがとう・・・私を助けてくださるようお願いします。弱小国に対して卑劣な戦争が布告された・・・ [すぐに]私は自分に課せられたプレッシャーに圧倒されるでしょう・・・戦争につながる極端な措置を講じることのために。欧州戦争になるような惨事を回避するために、私たちの古い友情の名において、同盟国の行き過ぎを阻止するためにできる限りのことをしていただくようお願いします。」（Tsar Nicholas and Kaiser Wilhelm telegram）

＜英国＞
グレイは、ロシアとオーストリア間の直接交渉が平和を維持する最善の可能性をもたらすという見解に変わった。

＜ドイツ＞
ベートマンは、ドイツを大規模な戦争と戦う立場に置くことに注意を向けた。国内世論の不一致が主な障害だったため、政府は現在、戦争の際にも忠誠を保つという労働者階級の代表の合意を取り付けることを目的として、社会民主党（S.P.D.）との協議に入った。これは本当に懸念していたことだ。ＳＰＤ執行委員会は「オーストリア・ハンガリー政府の軽薄な挑発」を非難し、支持者らを街頭で呼び掛けた。その新聞は戦争がその後に革命をもたらすだろうと予測した。 7月28日にベルリンで起きたデモは警察が鎮圧しようとしたが、首都そのものに暴力をもたらし、今後さらなる騒乱が起こる単なる前兆に過ぎないかに見えた。

　しかし、ベートマンはS.P.D.との協定交渉に成功した。国家的危機のこの瞬間には、指導者たちは政府の後ろに並ぶ必要があったのだ。

一方、カイザーは和平への決断が部下たちによって妨害されたことにまだ気づいておらず、自分の行動が遅すぎたのではないかと困惑していた。彼は「ボールは転がりつつあり」「もう止めることはできない」と述べた。

＜英国＞
チャーチルは海軍を「準備態勢」に置くために海軍本部がとったさまざまな措置をジョージ5世に報告した。講じられた措置の多くを詳述した後、彼は君主に対し、「これらの措置が決して介入を妨げたり、大国の平和が保たれないことを当然のこととするのを強調することではない」と断言した。

p222
真夜中、チャーチルは妻にこう書いた。「美しい愛する人よ、すべては大惨事と崩壊に向かう傾向にあります。」英国は「キリスト教世界の心を襲った狂気の波に対して、いかなる重大な責任も負っていない」と彼は続けた。

アスキス首相は腹心のヴェネシア・スタンリーに、フランス政府が資金調達のためにロンドン証券取引所で証券の大量売却を命令していると知らされたばかりで、「不気味だ」と書簡を送った。命令を受けた英国のロスチャイルド家は、その命令の実行を拒否した。その後、アスキスは「オーストリアが戦争を命令した」と報じる電報を受け取った。ヴェネシア・スタンリーは時折首相に、首相と立場を交換したい日があると語った。おそらくそのような日はないだろう、と彼は示唆した。

トップページへ戻る	初期多声音楽
Leoninのページへ	中世楽のページへ
ペロタン（Alleluja Nativitas)	ペロタン　vvlausulaのページ
前ページへ	次ページへ