ｐ78
The Collapse of Bethrnann Hollweg's Policy（世界大国への道 p91）
　リヒノフスキーは、グレイが再び（訳注；グレイは、26日に英・仏・独・伊の大使会議を開くことを提案していた）非常に熱心に(英・独・　仏・伊）4カ国の調停案を繰り返し、英国はドイツの手助けがあれば中立国として、一方ではオーストリア・ハンガリーと、他方ではセルビアとロシアとを調停する用意があると強調したと報告した。だが、フランスが戦争に巻き込まれたら（ドイツがフランスを攻撃すれば）、イギリスは傍観することはできないだろう。

こうした言い分は、ドイツがオーストリアに、セルビアに対して軍事行動を取るよう促し、戦争の責任がロシアにあるとすれば、イギリスは結局のところ中立を保つことになるだろうという確たる希望において、「平静を持って」ヨーロッパ戦争の見通しについて対応できると信じていた（ドイツの）計算を覆すことになった。

今や、状況は突然危険なものになった。 ヤーゴが、英国は直ちに介入するだろうと考えていたジュール・カンボンに自信満々にこう告げたのは、わずか 3 日前のことだった。「あなたはあなたの情報を持っている、私たちは私たちの情報を持っている。 私たちはイギリスの中立を確信しています。（origin p429.htm 時系列7月27日）」2

＜方針変更；調停に応じるべきである　電報200号＞
ドイツ人たち、とりわけベートマン・ホルウェグは、リヒノフスキーの報告に驚き、打ちひしがれさえし、自分たちに自信が持てなくなった。

危機の間の彼らの政策の基盤は崩壊した。フランスが戦争に「巻き込まれた」場合、イギリスは中立を保つことはできないであろう。リヒノフスキーのメッセージを知らせるために、（ベートマン首相から） 30 日午前２時55分に、に駐オーストリア・ドイツ大使チルシキーに送られた電報には、新たな状況が描写されていたのだ。３（ DD, II, No. 395, Chancellor to Tschirschky, sent 2.55 a.m.Mc Meekin JULY1914　Count down to war　p281）

p79
　それゆえオーストリアがすべての調停を拒否した場合、英国は我々（ドイツ）に敵対し、イタリアとルーマニアはおそらく我々に味方しないという大騒ぎに直面することになります。私たちは 4 つの大国に対して 2 つの大国であるべきです。イギリスが敵であれば、作戦の重みはドイツにかかるだろう・・・このような状況のもとで、我々はウィーンの内閣に対し、現在の名誉ある条件の下で調停を受け入れることを緊急かつ断固として提案しなければならない。 拒否した場合に起こるであろう結果について、私たちとオーストリアに課せられる責任は、並外れて重いものとなるでしょう。

　わずか5分後の午前3時00分、ベートマン・ホルウェグはウィーンに2回目の電報（ Id., No. 396, id, to id., sent 3 a.m.）を送り、ロシアとのいかなる意見交換も拒否しないよう、同盟国（オーストリア）にさらに精力的に呼び掛けた。べートマンはさらに、「われわれには同盟国としての義務を果たす用意があるが、われわれの助言を無視して軽薄にウィーンがわれわれを世界の大火に引き込むことを許すことは拒否しなければならない」と続けた。Mc Meekin JULY1914　Count down to war　p281

　同時に作成され、深夜にウィーンに発送されたこれら 2 つの文書は、同じ 7 月 30 日の午後にプロイセン国務省に宛てたベートマン・ホルウェグの演説とともに、ドイツの政策の平和的な性質を証明し、そしてウィーンを後退させる（調停を受け入れる）ために、ベートマン・ホルウェグが行った「絶対的な必死の努力」を示すために使用された。

しかし、それらについて重要なことは、ウィーンにイギリスの提案を受け入れさせようとするベートマン・ホルウェグの緊急の試みというよりも、7月20日から30日の夜の文書や7月30日自体の文書の中に類似点が見つからないという事実である。ロンドンからの知らせを受けて最初に出された至急報は、英国の態度に関する予期せぬ情報から生まれた衝撃の産物だったのである。

　遅くとも29日午後11時5分までは、ベートマン・ホルウェグは、以前の「局地化」政策と完全に一致させて、ロシアに対して、「オーストリアとの武力衝突も引き起こさないようにするために」、ほぼ最後通牒的条件で勧告していた。（訳注；世界強国への道 p93　こちらではより強い口調で、ドイツを非難している）。

午前0時30分、彼はウィーンにロシアの部分的動員を知らせ、以下、追加した。「全体的な大惨事を回避するためあるいは」（そしてこれは、カイザーや参謀本部の影響を受けずに、ドイツの文民政策が一貫して従う術策を明らかに示している）、「いずれにせよ、ロシアを不当な立場に置いておくためには」、ウィーンが電報第電報174号に従って[ロシアとの]対話を開始し、継続することを緊急に願わなければならない。3（ Id., No.380, Chancellor to Pourtales,July 29; No.385, id. to Tschirschky July29 (author's italicrf,）

「ロシアの動員」から首相が導き出した推論は驚くべきものである。なぜならば電報第電報174号には、28日にヤーゴが駐オーストリア・ドイツ大使チルシキに送ったものであり、ウィーンにイギリスからの調停提案に関する最初の情報を与えていたが、次のような特徴的な付け加えがあったからである。すなわち、「われわれ（ドイツ）がオーストリアを（我々の側に）引き留めたいという印象を与えることは、細心の注意を払って避けなければならない（ロシアに戦争責任をなすりつけるために、オーストリアには交渉に応じる風を装わせる）。」という一文である。

p80
7月30日の朝には、ベルリンはオーストリアに対して、絶対的に圧力をかけるという政策（白紙小切手の破棄）となった。 （Mc Meekin JULY1914　Count down to war　p282）

ベートマン・ホルウェグがロンドンからのリヒノフスキーの報告を目にしたのは午前0時30分過ぎだった。彼はこれを午前2時55分に、最初の緊急警告ととともに、ウィーンに送った。（Mc Meekin JULY1914　Count down to war　p281）

しかし、この電報は、「世界大火」を防ぐためのドイツの「勧告」が実際に何をもたらしたのかも説明している。結果として、オーストリア＝ハンガリー帝国はまったく「強硬」でも頑固でもなく、戦争に乗り出すこともなかったし、ドイツもその後オーストリアに引きずられることはなかった。

さらに、オーストリア・ハンガリー帝国は、この危機に深く関与していたベルヒトルトもティサも、大国としての同国がドイツの圧力に今さら屈することはできない考えていたし、しかもその圧力はドイツが利用できる全重量をかけているようなものではなかった。さらに、議論が進むにつれ、ウィーンは、君主制の構造を強化する方法が、ドイツによって補われる戦争によるものであるという確信をますます深めていった。

　しかし、文書類の例外的な性質を明らかにする状況はこれだけではない。 7月30日中に出された警告もあった。というのは、すぐ次の文書が、ベートマン・ホルウェグが主に懸念していたのは、平和を守ることではなく、戦争の責任と罪をロシアに転嫁することであったことを明白に示しているからである。

しかし、本質的な点は、ベートマン・ホルベグの政策の前提、つまり彼が7月5日と6日に定めた戦争遂行の条件（オーストリアが急速に攻撃し、セルビアを粉砕し、ヨーロッパに"既成事実fait accompli"を突きつけること）が崩壊したにも関わらず、（その後）彼は自らの政策を変更し、ウィーンと明確に話し合い、ウィーンが従うよう強制する決意を固めることができていなかったということであった。

この趣旨の宣言や、オーストリアがこうしたこと（7月5日と6日に定めた戦争遂行の条件）ができなくなった場合には（ドイツは白紙小切手を無視して、オーストリアを）見放す、との脅しがあれば、非常に不利になった状況下で行われた戦争の惨事からドイツ帝国を救えたかもしれない。しかし、何も行われなかった。それどころか、7月30日途中から旧政策が再開されたのだ（訳注；電報200号の取り消し、204号発号）。

　このことは、ベートマン・ホルウェグが状況を報告した7月30日のプロイセン国務省の会議の記録から明らかである。彼の主な関心事は「ロシアを有罪とさせること」であり、そしてウィーンがドイツの提案を受け入れれば、つまりはペテルブルグに、オーストリアが自分の要求を満たすための保証として、セルビアの一部を一時的に占領することだけを意図していた（fait acoompli)ということを確信させれば、これは最も容易に達成されるだろうと彼は考えた。

しかし、なぜベートマン・ホルウェグが依然としてロシアの「戦争罪」を主張し続けたのかも明らかになる。以前は彼の主な動機はイギリスの中立を確保することであったが、その希望は事実上消え去ったと彼は今苦々しく述べている。（イギリスとの和解に次いだ）首相としての彼の「使命」の第二の要素（ロシアの「戦争罪」を主張）が、今やますます前面に出てきているのだ。

p81
もしロシアから宣戦布告が来れば、社会民主党に対しては「何も恐れる必要はない」と彼は語った。「ゼネストだろうが部分ストライキだろうがあるいは妨害行為だろうが、もはや関係ない。」

イギリスの介入によって、ベートマン・ホルウェグの動機の重点は移ったが、それ以上の変化はなかった。。このことは、その夜9時にウィーンに送られた至急報（電報200号）とその中止（電報202号）にはっきりと表れており、それは間接的に、その夜に行われたドイツの動きにも影響を与えた。

　もし[ドイツ首相は7月30日の夜に駐オーストリア・ドイツ大使チルシキーに電報を打っていた]ウィーンがまったく譲歩を拒否するなら、ヨーロッパ大火の勃発の責任をロシアに負わせることはほとんど不可能になるだろう[戦争を防ぐためではなく、ロシアに責任を負わせる]。国王陛下が、ツァーリの要請に応じてウィーンへの介入を引き受けたのは、彼が、我々が戦争を望んでいるという反駁できない疑惑を呼び起こすことなく（譲歩を）拒否することができなかったからである。（電報200号）

　英国がパリとサンクトペテルブルクで調停を試みていることをほのめかしながら、彼はこう続けた。

　もしウィーンがすべて(の譲歩）を拒否する一方で、英国のこうした努力が成功してしまえば、ウィーンは戦争を始めようとしていることを証明してしまい、ロシアは無罪のままで、我々はその戦争に巻き込まれることになるだろう。このことは、私たち自身の人々の目から見て、まったく不可能な立場に私たちを置くことになる。したがって、私たちができることは、あらゆる面でウィーンの立場を守るグレイの提案を受け入れるよう、ウィーンに緊急に勧告することだけです。（電報200号）

　この電報200号は、ドイツの政策を支配する要素として①イギリスの中立性、②ロシアの戦争罪、③国家の団結が極めて重要であることを改めて強調している。

しかし（ちょうど入電したばかり）の、平和を守るためのドイツとイギリスの協力を示唆するジョージ国王からハインリヒ王子(Kaiserウィルヘルムの弟）への電報の運命によって明らかなように、ドイツのイギリスに対する平和的抗議は純粋に術策的であった。２

この電報は7月30日深夜（午後11時８分）に到着した。イギリスが中立を保つかもしれないという希望の光は漠然としていたものの、ウィーンが「グレイの提案を受け入れるべき」というベートマン・ホルウェグの要求は、わずか12分後（午後11時20分）に取り消されてしまったのだ。

同時にベートマン・ホルウェグ首相は、ウィーンに対してかけていた（和平への）圧力を完全に解除した――それはもともと相当に弱かったのだが――。

＜30日夜、さらに方針変更（電報~~200号~~、201号、204号＞
ドイツの「和平運動」の術策的な性質をこれほど明白に示す証拠はない。駐オーストリア・ドイツ大使チルシキーに送られた指示3（電報200～4号）と比較すると、これがさらに明らかになる。

電報第200号はウィーンに対し、（グレイからの）調停を受け入れることを求めていた。受け入れなければ、ロシアは「責任を負わない」からである。

p82
同じ時間にヤーゴが送った電報第201号は、ドイツが「再び同じステップを踏むことはできない」という理由で、（ドイツは）パリとサンクトペテルブルクにおいて共同の措置（demarche）をするというオーストリアの提案を拒否した。電報第202号は電報第２00号を取り消した。電報第203号は電報第202号について説明し、7月31日の電報第204号はオーストリアのロシアへの即時参戦を要求した。

　ジョージ国王のメッセージによるキャンセル電報の説明の他に、ベートマン・ホルウェグは、まだ送っていないものの、チルシキ宛に以下の軍事説明の電報草稿を起草していた（202号が暗号化されたもので、送られなかった）１。「私は第200号の実行を取り消した。なぜなら、参謀本部から、わが同胞による軍事措置が、ことに東方において迅速な決断が迫られているとの連絡があったからである」。これは、ロシアの部分動員の知らせが到着した7月30日にますます顕著になり、大きな説得力を獲得した軍事的考慮をほのめかした。

第一次世界大戦の始まり
（ドイツから）ウィーンに送られた二つの要求（電報201号（共同歩調の拒否）、204号（ロシアへの即時参戦要求））は――術策的な理由からであり、決して「平和を守るための必死の努力」によるものではない――英国の提案を受け入れる要求であり、オーストリア＝ハンガリーに対するロシアの部分的動員の知らせが届いたときにモルトケが始めた措置に目を向けてみると、英国の態度を考慮したためらいであったことが、これまで以上にはっきりと表れている。

モルトケとファルケンハインは7月29日までに、カイザーの命令に従い、またイギリスの中立を望むベートマン・ホルウェグの希望を尊重して「差し迫った戦争状態」の宣言を延期していたが、7月30日の朝にはそのような考慮事項はすべて撤回された。外務省（おそらくツィンマーマン）が、ロシアが部分動員を命じたというプルタレスの報告書に関するカイザーの欄外メモを参謀に伝えたときのことはさておき。

ロシアが「オーストリアに対して動員している」というサゾノフの発表に対するヴィルヘルムのコメントは「それなら私も動員しなければならない」であり、彼はさらにこう続けた。「そして彼[皇帝ニコライ2世]が、(ヨーロッパ戦争に対する)罪を自ら負うことになる。」・・・「私の試みた調停は失敗に終わったと考えている。」

このような演劇的賢明さにより、ヴィルヘルム 2 世は、別の機会に「調停官の職」と呼んだものを定めたが、この職は彼が実際には決して引き受けなかったものであった。

p83
そこでベートマン宰相はカイザーに対し、「ベルヒトルトに求めたオーストリアの対セルビア措置の目的と範囲について、ウィーンがペテルブルクにいかなる説明を行っても、ロシアの罪はさらに重くなり、全世界にそれをより明確に証明することになる」と通告した。1

このようにして、ベートマン・ホルウェグは7月30日に再びカイザーに、自らの政策の基本原則を示した。

　しかし、7 月 30 日の正午は他の点でも重要である。この数時間の間に、カイザーはロシアの部分的動員とイギリスの態度の両方に関するさらなる情報を入手した2。後者は、「ドイツとフランスの間で戦争になったら、英国艦隊が海上で即座に我々に攻撃を開始するだろう」というロンドンの海軍武官からの「報告によって裏付けられた。3

この報告はカイザーに並外れた驚きと幻滅を引き起こした。カイザーと弟のハインリヒ王子は、「我々はこのような事態を避け、中立を保つために全力を尽くす」というジョージ王の最初のメッセージに基づいて、ジョージ王への返答をでっち上げていたところだった。4

カイザーは英国が中立を維持することを長い間望んでいたが、非常に遅まきながら（29～30日深夜にそれを否定する）急使が彼に届いたとき、状況は一変した。

それらが（ある程度戦闘的だった）ベートマン・ホルウェグに与えた影響は、一時的なためらいと後退を引き起こした。（平和主義者だった）皇帝の場合はその逆であった。「不誠実な英国人」、「あの不潔な野郎、グレイ」、「あの不潔な乾物屋の国」に対する彼のむき出しの憎悪は、すさまじい力によって拡がった。「イングランドは、我々が安全に囲いの中にいて、いわば用済みだと思った瞬間にマスクを外した。」

カイザーは今、誰が真の戦争犯罪者であるかを発見した。なぜなら、英国の支援がなければロシアは戦争を始めることは決してできなかった（訳注；ポアンカレやサゾノフは逆に、英国が露仏と協調する（中立を破棄する）ことが世界大戦予防に重要だと発言していた）からだ。「戦争と平和に対して責任があるのはイギリスだけであり、もはや我々ではない！」（Fromkin, David. Europe's Last Summer p226）.　皇帝の欄外メモはますます広範囲に広がった。5

ドイツは包囲される。殲滅戦争が協調的に行われる。ドイツは崩壊するだろう。これはすべて意図的な「反ドイツの世界政策だ」。そして「些細な譲歩ひとつでイングランドを説得したり懐柔したりできると信じている人々もいたなあ！！！　そして我々は首を絞め縄に掛け、それでイングランドをなだめることを期待して、海軍計画にゆっくりとした行進さえも導入したのだ！！！」とカイザーは、首相への皮肉を込めて書いている。

ヴィルヘルム 2 世は自分が裏切られ、二重の十字架を背負ったと感じた。「死んだエドワード七世は生きている私よりも強い。

p84
しかし同時に、これがグレイの警告とプルタレスの報告のさらなる歴史的重要性であるが、カイザーが長年温めてきた考えは、イスラム世界に爆発的な革命を引き起こすことによって大英帝国を破壊するという、意識的な目的へと変わった。それが勃発する前から、戦争はひとつではなくなっていたのだ。

　戦争が勃発する前でさえ、この戦争は内閣間の伝統的な戦争の一つではなくなっていた。7月28日、ベートマン・ホルウェグはトルコに、ロシアに対する同国の領土を保証する同盟に関する最終的な条件を提示した。それは、戦争の場合に、もしもトルコが自国の軍隊をドイツ軍の指揮下に置き、ロシアが交戦国として戦争に参戦した場合には、ドイツの側につくようさらに自らを拘束するものとなったことだろう。オーストリアとセルビアの紛争は「局地的」なものとして扱われたが、全体の危機は大規模な戦争の観点から見られた。

7月30日、トルコを英国に対抗させる大々的な革命戦争の拠点とすることを目的として、より集中的に交渉が再開された2。

この政策転換の結果、8月には驚くほど迅速にドイツ・トルコ同盟が締結され、そしてドイツの巡洋艦ゲーベン号とブレスラウ号がコンスタンティノープルに派遣された。

7月30日と31日、コーカサス、特にポーランドで反乱を引き起こし、ロマノフ家の保守的な帝国権力に対する革命を開始するための準備が開始された。それは、東部中部ヨーロッパの革命で終わった。

モルトケの言葉を借りれば、ドイツが「何の留保もなく採用する権利がある」と感じていた「敵に損害を与えるあらゆる手段を最大限に活用する」という戦略は、一貫して実行された。

8月にモルトケは、ベートマン・ホルウェグに対して、ドイツの革命計画の概要をスケッチした。トルコはインド、エジプト、ペルシャでの作戦の拠点とされ、日本は極東を日本の利益圏として認める見返りにドイツとの同盟を支援し誘導され、南アフリカ連合は中央同盟国との同盟に引き込まれなかったとしても、スカンジナビアは転覆され、中立化された。同様に、バルカン半島、ベルギー、イタリアの状況も遅滞なく明らかにされることになった。３

　8月5日、モルトケはポーランドでの反乱計画が策定されたことを首相に報告し、さらに「インド、エジプト、そしてコーカサス」（すでに8月2日に触れた）に言及した後、革命活動を北米にまで拡大した。

「アメリカの感情は、私たちにとって友好的です。もしカナダが戦利品として差し出されれば、おそらく米国は海軍を英国に敵対させるよう仕向けられるかもしれない。」と彼は報告した。4

p85
　しかし第一に、カイザーの態度により、軍はプロイセンとドイツで行動を開始することができた。ロシアの部分的動員は、ドイツの目には、まだドイツが総動員を開始する十分な根拠を構成していなかったので、モルトケはオーストリア・ハンガリーに対し、ロシアに宣戦布告することなく即時総動員を行うよう圧力をかけた。なぜなら、ドイツのCasus foederis（同盟体制発動事由）はロシアが宣戦布告した場合にのみ高まるからであり、モルトケは、もしロシアが宣戦布告したとしても、依然として英国が参戦することはないと信じていたからである。

その後、30日11時50分にプルタレスからの電報でロシアの部分動員の規模が明らかになり、軍は警戒をした。

それにもかかわらず、ベートマン・ホルウェグは、30日の正午にファルケンハインとティルピッツに面会したとき、再び国内政策を理由に「差し迫った戦争の脅威」の宣言の延期を確保することに成功した。

しかし、招かれてもいなかったのに会議に出席していたモルトケは、今度は独自の行動をとった。彼はコンラッド2に、直ちにロシアに対して動員するよう（セルビアに対する処分を二の次にさせる）緊急警告を送った（Fromkin, David. Europe's Last Summer p226）。その理由は、ロシアによる部分動員の宣言だった。（リッターによれば、「したがって」、「ロシアが最も重要であるかのように見せかけている」）。ただ「そうすればこんどは、ドイツに対抗するCasus foederis（同盟体制発動事由）が発動されたことだろうが）。

平和を維持するための英国の直近の措置は否定されるに違いない。「ヨーロッパ戦争を長引かせること」は「オーストリア＝ハンガリー帝国を維持する最後の手段」だった。「ドイツはどんな状況でも参戦するだろう。」夕方、モルトケは要求を繰り返し、「ドイツは動員する」という保証を送った。

駐ドイツ・オーストリア大使セジェーニは、「最近まで、すべての権威あるサークルは、ヨーロッパの紛争の可能性を最も完全な平静さで見ていた」と報告した。7月30日以降、緊張の兆候が明らかになったが、その理由は欧州戦争の勃発に対する不安ではなく、「一般的な紛争の際にイタリアが三国同盟のパートナーに対する義務を履行できないのではないかという不安」だった。

ベルリンとウィーンが「全面紛争に安全に突入するためには絶対にイタリアが必要だ」という理由だけで、ドイツはウィーンに対して――モルトケが30日に二度行ったように――補償問題をめぐってイタリアとの会談に限界まで取り組むよう繰り返し圧力をかけてきた。

30日午後9時、ベートマン・ホルウェグとヤーゴは、遅くとも翌日の正午までに「差し迫った戦争状態」を宣言しなければならないというモルトケとファルケンハインの主張に屈した。

p86
夜の会議からわずか 3 時間後の真夜中、モルトケは副官のフォン・ヘフテンに国民、陸軍、海軍に対するカイザーの布告の草稿を作成させた。7月31日午前、ロシアの総動員が確認された場合には、この宣言に準じた動員措置の命令が発令されるべきであることが合意された。

　ロシアの総動員の報告は7月31日正午に確認された。午後、カイザーは宮殿のバルコニーから演説し、「差し迫った戦争の脅威にさらされている」と宣言し、「彼らは我々の手に剣を突きつけている」と宣言した。

ロシアの総動員命令を待ったベートマン・ホルウェグの勇気はこうして報酬が得られた。ドイツ国民はいわれのない攻撃を受けたと確信して戦争の準備ができていたのだ。

サゾノフはこの切り札を手に入れた。ベスマン・ホルウェグは、ロシアを有罪と見せかけることで、社会民主党からの反対の可能性を排除することもできた。

31 日、レルヒェンフェルトはミュンヘンに対し、社会民主党は「義務を負っており、平和を支持してデモを行った」が、現在は「全く沈黙を保っている」と、皮肉ながらも安堵を込めて報告した。２

これは、ロシアに最後通牒として12時間前までに通告し、ドイツの総動員を8月1日まで（ロシアの配置の完全性によって可能となった）延期する目的でもあった。

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