第一次世界大戦年表
オーストリア＝ハンガリー二重君主国による「最後通牒」（1914 年 7 月 23 日）再考 ─ F. ヴィースナーの『覚書』にみる開戦決断の背景 ─

CHAPTER 47: WHAT WAS IT ABOUT?
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私たちが何かが戦争の「目的」だったと主張するとき、私たちはさまざまな事柄を考える。その中には、次のようなものがある。なぜ政策決定者は彼らが戦争に向かうと言ったのか、なぜ彼らは実際にそうしていると信じたのか。そして最終的に紛争の結果、何が判明したのか。

　オーストリア・セルビア戦争の場合、ウィーンはサラエボ虐殺事件の正義を求め、将来同様の犯罪が起こらないようにするために戦争をするつもりなのだ、と主張した。（だが） オーストリアの指導者たちが実際に信じていたことは、多少異なっていた。彼らは、帝国の多国籍性を維持するために、言い換えれば、オーストリア＝ハンガリー帝国の崩壊を防ぐために戦っていると考えていた。

彼らの目からすれば、セルビアは、もしもバルカン戦争から数年の猶予を与えられていれば、1914年に成立したハプスブルク帝国内の南スラブ人およびそうでない国のリーダーシップを引き継ぐ恐れがあった。つまり彼らは帝国の存続のために戦っていたのである。

セルビアの場合はさらに単純だった。 セルビア人は攻撃されたので戦った。もし彼らが負けたら、オーストリアは彼らをばらばらにするつもりだった。 セルビアは独立していても存在を失うことになったことだろう。

再建に数年の猶予があれば、セルビアはハプスブルク帝国に対して強力な挑戦を開始するだろうとオーストリア人が信じたのは正しかったかもしれない。したがって、同盟国であるドイツと同様に、オーストリアは 1914 年に予防戦争として構想したものを開始したのである。

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皇帝は治世の初期に海軍の主張を擁護していた。彼はティルピッツが提唱した、ライバルとしてのドイツ帝国が英国のようになるような挑戦計画を支持していた。もしその計画が成功していれば、ティルピッツが正しければ、ドイツはヨーロッパの支配的な大国から世界の支配的な大国に変わっていただろう。

　しかし、それは 1914 年のドイツ政府の目標ではなかった。少なくとも短期的な目標ではなかった。敵となったのは（海軍国）イギリスではなく（陸軍国である）ロシアだったのだ。

海軍は陸軍に取って代わられた。ティルピッツはモルトケとファルケンハインにその大部分を奪われた。当時ドイツの政策を決定していた人々、つまり陸軍の将軍たちは、（英国やフランスのように海外進出をするのではなく）ドイツがすでに得たものを保持することを目指していた。

彼らはヨーロッパ大陸における自国の優位性を維持したいと考えていた。彼らは、将来よりも勝利の可能性が高まる一方で、フランスの支援を受けたロシアが将来その地位に挑戦するのを、ただちに戦争を引き起こすことで阻止したいと考えていた（予防戦争論）。

　消極的な皇帝に戦争政策を押し付けたベルリンの陸軍将校らの動機は、増大するロシアの力に対する恐怖だった。チュートン人とスラブ人の対決は避けられなかったという彼らの考えは、今日私たちが信用できるものではないが、彼らの恐怖は本物だったのだ。

1914 年にドイツを率いた人々は、彼らの目から見て防衛政策を追求した。それは、ヨーロッパにおけるドイツの既存の軍事的支配を維持することを目的としたという意味で保守的であった。

敵、つまり彼らがいつか対峙しなければならない挑戦者は、ロシアだった。明日ではなく今日セルビアと戦うことを選択したオーストリアと同様に、ドイツ、つまりドイツの軍事指導者たちは、明日ではなく今日ロシアと戦うことを決定した。

　1914 年 7 月末のベルリンの意思決定者たちの見解では、この戦争は何だったのか。それは、ドイツとロシアのどちらの国が今後ヨーロッパの覇者となるかということであった。

共産主義理論家で後にロシアの独裁者となるV・I・レーニンは、戦争中、まだチューリッヒにいたときに、この戦争は帝国主義に関するものであると書いた。 レーニンはイギリスの理論家J・A・ホブソンに触発され、資本主義は最終段階に入っており、主要先進国は、植民地的な帝国を得ることで、専属市場（買い手が売り手を選択する余地がない市場）としてそれを利用することによってのみ経済を拡大できた、と主張した。彼が見たところ、1914 年の戦争は帝国のための戦争であった。

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　レーニンは間違っていた。 それはヨーロッパ大陸のコントロールのための戦争（訳注；ナショナルな戦争）であり、アジアやアフリカにおける（植民地）帝国のための戦争（訳注；インターナショナルな戦争）ではなかった。しかし、彼の書いたことはもっともらしく、特に 1920 年代と 1930 年代には広く信じられていた。そのエヴィデンスは説得力があるように思えた。

　1919 年に世界大戦が終わると、その結果の 1 つが、大英帝国の劇的な拡大であったことがわかった。イギリスはアフリカでドイツの植民地を占領した。 100万人の英国軍が中東を占領していた。これらの結果を観察した人の中には、これは帝国主義戦争であり、最初から帝国拡大のための戦争であったという結論を導き出した人もいたが、それは幻想であった。

1914年8月、グレイとアスキスは英国を戦争に参戦させる際、帝国を拡大する願望を抱かず、帝国をさらに拡大するための戦略も追求しなかった。要するに彼らは、より多くの領土を獲得するという希望や期待を持って自国の戦争への参加を主導したわけではなかった。（レーニンは間違っていた。）

ドイツも同様であったが、ドイツは 1914 年 9 月にはすでに野心を拡大しており、両国の他の国々も同様でした。彼らは自分たちが持っているものを守るために戦うことから始めた。

しかし、あらゆる可能性が開かれた戦争になると、彼らは願望リストを作成し、その後、自分たちの願望に固執するようになり、それを達成することなく平和を作ることはしないと決心した。彼らが長く戦えば戦うほど、彼らの戦争目標はより贅沢なものになった。ドイツもそうだし、フランスやイギリスもそうだった（訳注；日中戦争における日本もそうだった）。

　他のところでも書いたように、戦争を引き起こしたのは帝国主義ではなかった。帝国主義の新たな波を生み出したのが戦争だった。和平会議で主戦派が求めた要素は、そもそも彼らを最初に戦争へと駆り立てた要素とはほとんど似ても似つかぬものだった。

我々はこれまで、オーストリアとドイツが戦争になった理由を見てきた。 (それは複雑な様相があったが)何がフランスとロシアを戦争に参加させたのかは、「ドイツはフランスとロシアに宣戦布告し、フランスとロシアは自国を守った」という一文でカバーできる。 1914年8月にドイツとオーストリアに対して団結した大国の中で、イギリスだけが参戦するか撤退するかを自ら決定する自由を持っていた。

　戦争の起源に関する最も驚くべき物語の一つは、8月1日か2日にはほとんど戦争参加に反対していた英国人がどのように考えを変え、8月3日までに全会一致で参加に賛成するところまでいったのか、という話である（c.f.夢遊病者たちp806）。彼らはエドワード・グレイ卿から考えを変えるよう説得された。彼が自分で運んだ問題はベルギーだった。

　ベルギーの中立は、19世紀中に列強によって二度にわたって保証されていた。英国が保証人としてベルギーの中立を選択した場合には、それを守る権利があることに疑問の余地はなかった。それほど明確ではなかったのは、他の署名国が介入しないことを決定した場合、英国に介入する”義務があるかどうか”だった。欧州列強による保証が共同なのか個々であるのかという点で大きな疑問があった。

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　しかし、理由は何であれ、ベルギーの大義はあらゆる種類の英国人の間で、政治や説得などの感情的な反応を引き起こした。

英国の名誉のためにはベルギーを守るという約束を守る必要があると言う人もいた。ドイツは条約の義務に違反し、”約束を守らなかった”として罰せられるべきだとの意見もあった。中立とそれを守るためのベルギーの献身的な姿勢を称賛する人もいた。さらに、イギリスは大国が小国の権利を踏みにじらないようにすべきだと考える人もいた。また、ベルギーの中立をイギリスの死活的利益とみなして、潜在的な敵の手にある海峡の港をイギリス諸島への戦略的脅威とみなす人々もいた。

　多くの英国閣僚、議会、そして国民にとって、ベルギー問題のこれらの側面の一つ、あるいはグレイが８月３日の下院での巧みな演説で巧みに組み合わせたものは、考えの変化をもたらした。

グレイの演説を聞いた人にとっては、ベルギーの殉教は（参戦の）名目ではなく、それはイングランドとその国民を生きるか死ぬかの闘争に投げ込んだ、正直な、正真正銘の理由だった。それが、イギリスが戦争をすると”言った”理由だった。そしてそれが英国が戦争を始めると”信じた”理由でもあった。

　しかし、国を戦争に導いたアスキスとグレイは、イギリスの理想のためではなく、イギリスの死活的利益のためにそうしたのである。 もしベルギーの中立がドイツではなくフランスによって侵害されていたら（訳注；それはあり得ないことだろうが）、アスキスとグレイは見て見ぬふりをしていたであろうと信じる理由がある。しかし、ドイツが行ったことがイギリスを脅かした。大国としてのフランスを破壊することで、ドイツはヨーロッパの力の均衡を破壊し、英国の世界的覇権に終止符を打つ恐れがあるだろう。ドイツは、英仏海峡の港を含むフランスとベルギーの大西洋岸の長さを制御することで、イギリスの島々を攻撃、砲撃、侵略に対して永久に脆弱にすることになるだろう。アスキスとグレイにとって、戦争は力の均衡と国家安全保障に関わるものだった。

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かつて、歴史家は（前に引用したエリー・ハレヴィが言ったように）、第一次世界大戦における英独の決闘は、既存のヨーロッパ体制における英国の優位性に対するドイツの挑戦が原因である、と一般に主張していた。イングランドは現状を維持するために防衛戦争を戦っているように描かれていた。すなわち、ドイツは世界秩序を変えようとするダイナミックな侵略者であった。

　さて、その理論には武装が必要となる。（実は）ドイツもイギリスも、少なくともいくつかの点で、彼らが認識している既存の力の均衡を維持しようとしていた。ドイツは同盟国としても大国としてもオーストリアを失うわけにはいかなかった。イギリスは同盟国としても大国としてもフランスを失うわけにはいかなかった。ドイツはオーストリアを救うために戦った。イギリスはフランスを救うために戦った。まず第一に、双方は自分たちが持っているもの、つまり最も近い同盟国を保持するために戦争を始めた。その意味では、それは最初は――最初だけではあるが――双方の守備的な衝突だった。

　ドイツのプロイセンのユンカー集団の場合、それはより大きな意味での防衛戦争でもあった。モルトケの将校団には、ドイツ国内でさえも、その価値観、生き方、支配的な地位をより長く維持する方法が見当たらないことに由来する悲観的な感覚が吹き込まれていた。

私たちは、ドイツ政府が 1914 年 9 月に戦争目標に関する壮大な計画、つまりグランドデザインを準備したという見方をフリッツフィッシャーに負っている。それは（ドイツの）拡張主義であり帝国主義であった。しかし、それは7月のプログラムではなく、9月のプログラムであった。 ファルケンハインとモルトケを突き動かしたのはそれではなかったのだ。

　それは1914年の交戦参加者だけでなく、後に戦闘に参加した人々にも当てはまった。ある国が戦争に突入した原因は、その国が戦争を継続した原因と必ずしも同じではなかった。彼らはある一定の理由で戦争を始めたが、紛争が続くにつれて敵と戦う別の理由が生まれてきた。相手側との相違は拡大し、激化し、新たな境地へと移った。

イギリスの紛争への参戦は、ヨーロッパ戦争を世界戦争に変えた。 1917 年にアメリカが戦争に参戦し、世界情勢に参入したことにより、勢力均衡の方程式が変化した。アメリカの参加は、その年の2つのロシア革命とともに、それまでには存在しなかったイデオロギー的な側面を紛争にもたらしたが、それがその後の20世紀を形作ることになった。

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　しかし、当初は単に大国がその場に留まり、自分たちが持っているものを保持するために戦っていたに過ぎなかったのだ。

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CHAPTER 48: WHO COULD HAVE PREVENTED IT?

1914年7月、経験豊富で才能のあるヨーロッパの政治家たちは、彼らに与えられた数日間で、戦争の勃発を阻止しようと奔走した。なぜ彼らは失敗したのか？一部の人が言うように、彼らが単に十分なスキルを持っていなかったからなのか？ 90 年が経過し、何ができたのかについての憶測は事実上終わりがなかった。何かできたのであろうか？

　今日の共通の前提は、受け入れられる条件で平和が得られるなら、誰もが平和を望んでいるということである。当時ヨーロッパが理解していなかったのは、例外的に、1914 年の 2 つの政府（オーストリアとドイツ）には（こうした概念が）当てはまらないということであった。ウィーンはセルビアと一緒の道を行こうとしたわけではなかった。むしろ、セルビアとの戦争を引き起こしたかったのだ。ベルリンはロシアと一緒の道を行こうとしたわけではなかった。ロシアとの戦争を引き起こしたかったのだ。いずれの場合も、政府が望んでいたのは戦争そのものだった――より正確に言えば、政府は、敵国を打ち砕きたかったのだ。そしてそれは、成功した戦争（戦勝）だけが可能にするのである。

　平和を維持するには少なくとも 2 人が必要だが、戦争を始めるには 1 人だけで十分なのである。 政府が戦争を起こす決意を固めた場合、どれほど広範で想像力豊かな宥和政策であっても、それを抑制することはできない。ヨーロッパは1914年に何が起こったのか理解できず、1938年から1939年のミュンヘンの余波で再びその教訓を教えられなければならなかった。侵略を開始しようとする政府を阻止できるのは、対抗する力だけなのである。

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オーストリアの戦争の場合、ウィーンは、ベルリンが保護を提供しなくても、セルビア攻撃をせざるを得ない、と認識していた。（幸い）ドイツの保護が与えられたので、好きなことを自由に行うことができた。もちろん、オーストリアもハンガリーの承認と支援を得る必要があった（実際にそうした）。その後はもはや、オーストリア＝ハンガリー帝国の戦争への行進を止めることはできなかった。

　ヨーロッパの政治家たちはオーストリアの動機について何も知らなかったため、混乱していた。彼らは、ハプスブルク帝国がそのふりをしているものは何か、を考えていた。つまりハプスブルク帝国は、救済を望んで不満を抱えている国であると思っていた。

実際にはしかし、その不満が解消されることを望んでいなかった。口実が欲しかったのだ。オーストリアは正義を求めなかった、それは本当にやりたいこと、つまり戦争をするための口実を奪うことになったからである。最後通牒を出したのは、セルビアをいじめて受け入れさせるためではなく、むしろセルビアに拒否を強要するためだった。

　もちろん、オーストリア＝ハンガリー政府の複雑な機構はゆっくりと動いた。 8月初旬になっても、ハプスブルク軍は7月には決まっていたはずだった敵対行為を開始していなかった。しかし、二重君主制は、どんなにカタツムリのようなペースであっても、決して立ち止まることなく、決して逸脱することなく、決して気を散らしたり脇道にそれたりすることなく、その目標に向かってまっすぐに前進した。それは戦場に向かっていた、そしてそこへ行くことを妨げるものは何も許さなかった。

　イギリスやフランス、あるいはロシアさえも、オーストリアの対セルビア戦争を止めるために何か別の行動をとれただろうか？今、私たちは、彼らが何をしてもオーストリアのセルビア攻撃を阻止できなかったことを知っていることで満足を得ている。オーストリアは戦争を望んでおり、ドイツだけがそれを抑止できたことであろう。

ここには 2 つの反実仮想がある。 1つ目は、（オーストリア側が）ドイツ側の条件での和平に合意せずに、ドイツ政府が7月27日以降にカイザーの命令に従い、二重君主制への支持を撤回した可能性である。その結果は、ドイツ語圏の同盟国にとっては目覚ましい外交的勝利となったかもしれない。おそらくオーストリアに有利な条件で和平が確保され、セルビアは厳しく罰せられただろう。

　2番目の反事実は、ロシアが紛争から身を引いたかもしれないこと。もしロシアがサラエボ事件におけるセルビアの有罪を確信していたら、このようなことが起こったかもしれない。ロシアは、国王殺しやテロリストに対してオーストリアと共通の大義を立て、セルビアとの取引において、ドイツが行ったように、ウィーンに白紙の小切手を与えて、可能な限り問題を解決することもできただろう。

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　もしロシアがそうしていたら、ドイツの軍事指導者らから、ロシアとフランスに対して提案された戦争を開始するために必要な条件と口実を奪っただろう。世界大戦は少なくとも延期され、阻止できたかもしれない。

ドイツ戦争の場合、むしろ敵対行為を開始しようとする人々の前に立ちはだかるものが多かった。ドイツの労働運動と社会民主党を説得する必要があったが、それは動乱の7月最終週に首相ベートマンによって達成された。ドイツの将軍たちの複雑な要求、つまり戦争を始める前にしなければならないことは、オーストリアに関係していた。

　前に見たように、ウィーンはその軍隊をセルビア人の思惑という一つの目的のために軍隊を投入するよう強いられる代わりに、別の思惑において、すなわちロシアに対するドイツ人の十字軍にその軍隊を使用するよう説得された（訳注；第52章参照）。ベルリンはこれを（逆に）、ドイツに対するロシアの十字軍として国内に示していた。

　しかし、すべてが達成されたにもかかわらず、ドイツ政府が最も有利な時期、つまり 1914 年 8 月 1 日となったときに戦争を開始することを止めるものは何もなかった。世界最強の軍隊を擁する大陸最強の大国は、その地位を維持するために必要と思われることを行っていた。それを止めることはできなかったという結論には抗えまい。

20世紀を通じて何らかの形で問われた質問は、歴史家のジェイムズ・ジョルによって次のように述べられた。「戦争は直前の危機、つまり1908年、1911年、1913年には回避されていた（訳注；もっと言えば、1853年のクリミア戦争も、やや別の意味合いになるが、そうだっただろう）のに、なぜ1914年には回避されなかったのか？」。

一つの回答は、前の危機ではどの大国も戦争を望んでいなかったということだ。 1914年にはそうした国々のうち2国が戦争を望んだ。そして、ドイツが以前の危機で戦争をしたくなかった理由の一つは、オーストリアをあてにすることができなかったことであり、ドイツの将軍たちは、戦争の最初の数週間にオーストリア軍がロシア軍を阻止しなければ、勝利できないかもしれないと確信していた。

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CHAPTER 49: WHO STARTED IT?

簡単かつ大まかに言うと、答えは、オーストリア＝ハンガリー政府がセルビアとの局地戦争を始めたのに対し、ドイツ軍指導者は第一次世界大戦または第一次世界大戦として知られるようになったフランスとロシアに対する世界規模の戦争を始めたということだ。（Mac Meekin The RUSSION ORIGINS of the First World War　p43参照）

現代世界における戦争は、複雑な理由で勃発する傾向があり、意思決定プロセスにさまざまなレベルで多数の参加者が関与する。組織的な圧力と同様に、非個人的な力が作用する可能性がある。文化的な好みや親和性が出来事を形作ることがある。現代社会ではさまざまな利害関係が働いているため、国が戦争をするかどうか、いつ戦争をするかを決定する上で、国際関係と同じくらい国内政治が関心の的となることがよくある。それでも、実際に起こることの多くは、事故、失策、誤解、個人の特性、その他のランダムな要因によって説明され続けている。

　第一次世界大戦の特徴は、それが現代に起こり、いくぶん民主的で、ある程度国民の声に応えたにもかかわらず、その原因となったのはごく少数の人々、つまり少数の国の一握りの人間だけであったということである。それは単に少数の個人が決定を下したというだけではない。驚くべきことに、何かが起こっていること、あるいは決定が下されるべきであること、あるいは下されつつあることを知っている人さえほとんどいなかった。それは秘密裏に発生し、実行された危機であった。

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　もちろん、より広い視野で見ると、数十年、さらには何世紀にもわたって、大戦争が勃発した世界を創造する強力な力が働いていた。つまり、産業革命の爆発、ナショナリズムの広がり、科学の台頭、帝国主義の勝利、そして 1860 年代と 1870 年代にドイツが統一された過程で生まれたドイツ社会の軍国主義である。しかし、こうした大衆運動や出来事は、戦争の即時勃発を説明するものではない。なぜヨーロッパが 1913 年の夏に爆発物への点火を行わず、1914 年の夏に点火を行ったのかについては何も明らかにされていない。

　導火線に火をつけた人々は、もちろん、家族背景、社会、そして彼らが行動した歴史的状況の産物であった。彼らも、そして誰も、自分自身だけで実際に語ることはできなかった。たとえばモルトケが演説したとき、彼は大参謀本部の650人のメンバーに向けて、そしてある程度は将校団全体に向けてそうしたのである。彼は自分の職務の重みを語った。彼は単なる個人以上の存在であった。

　一人または複数の個人が第一次世界大戦を始めたと示唆する際、私は最も日常的で普通の意味で言葉を使用している。私が言いたいのは、戦争を始めようと考え、戦争を始めるように意図的に行動し、その行為によって戦争を始めることに成功した人々がいたということである。したがって、殺人ミステリーの探偵は、図書館で来客に関する証拠をまとめながら、非難するように指をさして、「それをやったのはあの人だ!」と言うかもしれない。ドイツの場合はモルトケを指す。彼は世界戦争を始めたが、それは意図的に行われた。

オーストリア・セルビア戦争の場合、明らかな犯人はガブリロ・プリンツィプであった。 10代の漂流者で売れなかった詩人は、おそらく（確実ではないが）サラエボ殺人計画を思いつき、それを指揮し、中止の命令、引き返しの願い、状況の変化にも関わらず、その決意と粘り強さによってそれをやり遂げたのだろう。（訳注；モルトケとプリンツィプを同列に論じるのはあきらかにおかしいだろう）

しかしプリンツィプはオーストリアにセルビア侵攻を促すつもりはなかった。それどころか、捕虜たちによる尋問を受けて、彼はセルビア人と自分との関係を彼らに知られないよう努めた。さらに、オーストリア＝ハンガリー外務省は、プリンツィプが攻撃する前からセルビア破壊計画を進めていた。問題を抱え混乱した青年テロリストは、確かに道を塞いでいた大公を殺害することでオーストリア侵攻への扉を開いたが、プリンツィプはそれを知らなかった。その点において、彼のしたことは不注意だった。

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　皇帝ヴィルヘルム、首相ベートマン、ヤーゴ外務大臣、そしてドイツの軍人や民間人の同僚らは、オーストリアにセルビアへの攻撃を開始するよう奨励し、その戦争の直接の責任者となった。カイザーの場合は緩和策があった。平和的な解決策があるように見えたとき、彼は熱心にそれを選んだ。

オーストリア＝ハンガリー帝国の外務大臣レオポルト・フォン・ベルヒトルト伯爵は、セルビア戦争を引き起こした最大の責任者であった。 バルカン戦争中またはその後のある時点で、彼はセルビアを打ち砕き、政治の要素として完全に排除することによってのみ祖国は存続できると決心した。

彼は、単なる外交的な勝利では実体がなく、長続きしないかもしれないと信じていたようだ。戦争での勝利だけが彼の目標を達成するが、それはドイツがロシアの干渉を阻止し、大国オーストリア＝ハンガリーが小国セルビアを粉砕した場合にのみ達成できる。

　ドイツの白紙小切手を受け取るとすぐに、ベルヒトルトは戦争の開始に向けて全力を尽くした。彼はプリンツィプと同様、粘り強く、くじけなかった。彼は脇に追いやられることを拒否した。

　彼は、たとえ有利な条件であっても（そしてこれが他の指導者を混乱させた）平和維持に陥りかねない会話や交渉に引き込まれることはなかっただろう。欧州政治の他の関係者たちは、自分たちには何かが欠けていると感じていたため、7月の危機を独特の不可解なものに感じていた。

彼らに欠けていたのは、ウィーンが平和を望んでいないという認識だった。彼らは、ベルヒトルトが彼の条件を守ることを希望すると考えていたが、それは極端だったかもしれない。しかし、彼は自分の条件やいかなる条件も望んでいなかった。彼は戦争をすることを好んでいたのだ。（訳注；1913年までのベルヒトルトは真逆であった。当時彼は、「ヨーロッパ協調の帰依者」と言われていた。外交政策による問題解決の挫折が、彼をしてこのような強硬派せしめた、と言えよう）。

戦後に（彼の特使オヨス伯爵が1914年7月にベルリンでの会話で明らかにしたように）彼は（皇帝が望んでいたように）、こびるようなセルビアを望みはしなかった。彼はセルビアがまったく存在しないことを望んでいた。セルビアがオーストリアにもたらした問題に対して、彼は最終的な解決策を望んでいたとも言えるだろう。

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　ベルヒトルトは強いハンディキャップの下で活動した。オーストリア＝ハンガリー国家の機構は気が狂うほどにのろまだった。彼はドイツ軍が要求した”既成事実fait accompliを達成するのに十分な速さで動くことができなかった。

すべてには時間がかかった。その間に大国が平和を押し付けるかもしれない。彼の軍隊は何週間も動けなかったので、とにかく宣戦布告し、潜在的な和平交渉者をかわすために「戦争中」というステータスを利用することしかしていなかった（Mac Meekin　The RUSSION ORIGINS of the First World War Chapter3 Russia's War p81参照）。

　ベルヒトルトは、エーレンタールから受け継いだ、扇動的な外務省スタッフに囲まれていた。彼らが彼にインスピレーションを与えたのかもしれない。オーストリア＝ハンガリー帝国の内閣は、一週間彼に反対し続けたティサさえも彼を支持した。全員が戦争に対する責任を共有した。コンラッド参謀総長がベルヒトルトの戦争開始における完全なパートナーであったことは言うまでもない。

　ベルヒトルトには、目標を追求する上で 1 つの大きな資産があった。他の大国の外務大臣であれば、同盟国によって統制がされていた。ロシアが隣国を侵略したければ、ロシアの軍拡に資金を提供していたフランスは、サンクトペテルブルクがそうすることを阻止したことだろう。

1911年にドイツがモロッコに干渉したとき、オーストリアさえも支援を拒否し、それによってベルリンの阻止に協力した。欧州で唯一、自国を抑制せず、盲目的に支援してくれる同盟国があった国が一カ国だけあった。それはドイツの無条件支援を受けたオーストリアであり、あらゆる予想に反して戦争を始める決意をした男が率いるヨーロッパ唯一の国であった。

　なぜベルヒトルトは戦争を起こすことができたのか？答えは、彼を止める人がいなかったからである。私たちが今日知っているように、彼は同盟国ドイツにが彼に白紙の小切手を与えたヨーロッパの唯一の指導者であった。ただし、彼がそれを自分で使用したわけではないことに注意されたい。彼が宣戦布告したのは、ドイツの外務大臣ヤーゴからそうするように言われたとき、そしてそのためだった。つまり、ヤーゴもオーストリア・セルビア戦争を始めたもう一人の人物だったのだ。

　ロシアとフランスに対する予防戦争の場合について、ドイツ軍指導者らは長い間それを熟考していた。危機が起きるたびに浮上する傾向にあった政策提案だった。モルトケはそれを推進している人物として通常引用されるが、彼は士官軍団全体を代表して発言したようである。したがって、7月の危機が勃発したとき、ドイツの将軍たちは、ただ話すだけでなく行動を起こす時が来たと考えた。

　ファルケンハインとモルトケが先制した。彼らは、1914 年の夏に戦争の真の決断を下した、軍の同僚の支援を受けていた将校であった。彼らは、自分たちが何をしているのか分かっていると思っていた。モルトケは戦争がヨーロッパ文明を破滅に導くだろうと予測していたが、戦争は避けられないと感じていた。彼は、自分が決めているのは、自分が決める立場にあるすべてのこと、それがいつ行われるかだけだと信じていた。そして彼はそう決めた。

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　ここでもまた、2つの戦争ではなく1つの戦争という観点から考えると問題が混乱する。当初、暗殺と白紙小切手の時点では、セルビアの戦争主導権だけが議題に上っていた。戦争はオーストリア人によって提案されたのだ。しかし、オーストリアのための実際の作戦計画を策定したのはドイツ文民政府であった。そして、オーストリアの実績を監視していたのは文民政府、つまり首相と外務省だった。

　オーストリア・ハンガリー帝国は、7月最終週までに戦争開始にしても（ドイツ将校団の意見）、あるいは和解に達することにしても（ドイツ皇帝の意見）、ほとんど進展がなかったので、ドイツのどちらの側も、首相や外務省やオーストリア人に引き続き作戦を担当させるつもりはなかった。

　ウィーンは戦争を開始して勝つことを望んでいたが、7月末の時点でそれはできなかった。作り出されたものは、皇帝とベートマンにとって作られて欲しくないものだった。すなわちそれは、ある程度ヨーロッパの大国すべてを巻き込んだ戦争危機だった。しかし、ドイツの将軍たちは、実は戦争の危機は彼らが望んでいることであると理解し始めた。

　このような戦争危機と国際化は混乱を引き起こした。 7月中は、モルトケ、ファルケンハイン、その他のドイツ軍指導者らは見物人として、そのような混乱がどのように利用されるかを熟考した。彼らはオーストリアがセルビアを挑発することに喜んでいたが、それはドイツにとってほとんど意味がなかった。しかしオーストリアがそれに失敗し、その際におそらく表裏一体的に自らも関与したため、ドイツは今度はドイツ独自の新たな戦争構想、つまりヨーロッパの他勢力に対する戦争を開始する際にオーストリア＝ハンガリー帝国の全面的な支援を当てにすることができるようになった。

　そのため、ドイツ政府は7月25日の週末から政策変更を進めていた。 皇帝と宰相は若干の不安を抱えながらも、モルトケとファルケンハインの思い通りにさせた。ヨーロッパの戦争危機の混乱の中で、ドイツの将軍たちは、ある戦争を別の戦争に巧みに置き換えた。世界は当時もその後も、一方が他方から生じたと信じるように欺かれてきたが、実際はそうではなく、他方を追求するには一方が上書きされなければならなかった。

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　モルトケとファルケンハインの側にとって、それは最高のご都合主義の行為であった。彼らは隙を見て、素早くそれを利用した。彼らはあたかも、燃料を満タンにして離陸準備を整えて滑走路に停まっていた旅客機にり込んで強奪し、銃を突きつけて機長に予定目的地から反対方向のどこかへ進路変更を強要したかのようだった。

モルトケとファルケンハインは前例のない政治的ハイジャック行為に成功した。彼らはベルヒトルトのセルビアに対する戦争を引き継ぎ、代わりにフランスとロシアに対する彼ら自身の戦争に強制的に連れて行ったのだ。

CHAPTER 50: COULD IT HAPPEN AGAIN?
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第一次世界大戦後の 1920 年代と 1930 年代、生き残った人々は、この悲惨な紛争をヨーロッパの内戦とみなすようになった。それを引き起こしたことは、恐ろしい間違いか恐ろしい犯罪として非難された。この大惨事の最も重要な教訓は、人類がそのようなことを二度と起こさせてはならないということであると考えられた。

　もちろん、1939年から1945年にかけて、連合国（フランス、イギリス、ロシア、アメリカ）が1914年から1918年の間には解決されなかった戦いを続けたとき、同じことが再び起こった。しかし、彼らが1914年から1945年の世界大戦の第二部を終わらせるはずだった和平条件での合意に失敗した時、英国、ロシア、米国といった残存大国間の実際の敵対関係は展開しなかった。彼らは代わりに「冷たい」戦争に舵を切った。

　1962 年のキューバ危機に対処する際、ジョン F. ケネディ米国大統領は、バーバラタッチマンの『8 月の銃』で、第一次世界大戦の起源について読んで学んだことを思い出した。彼は、戦争は予期せぬ連鎖反応の結果であると感じていた。

　ケネディ世代は戦間期、アメリカの主要な教科書であるシドニー・B・フェイ著『世界大戦の起源』で、列強はいずれも自国間での戦争を望んでいなかったと教えられた時代に教育を受けた。

にもかかわらず、彼らは第一次世界大戦に巻き込まれており、オーストリア＝ハンガリー帝国は他の国々よりも責任を負っていた。ウィーンは意図的に戦争を引き起こしたわけではないにもかかわらず。同様の見解はタッチマンによって広められ、その著書は多くの読者に届けられた。

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　フィッシャー以前の時代に入手可能な証拠に基づくと、フェイの教えは真実に近いようで、ヨーロッパでも一流の学者や政治家が彼のような結論に達した。

　元イギリス首相デビッド・ロイド・ジョージは戦争回想録の中で、「諸国家は何の不安も狼狽も見せずに、崖っぷちをずるずる滑って、沸騰する戦争の大釜に突入した」と主張したのは有名である。 20世紀の最も偉大な政治思想家の一人であるレイモンド・アーロンは、1914年7月の物語の中で「主要な主体の誰も意識的にも直接も望んでいなかった第一次世界大戦の勃発」を見た。
　
　第一次世界大戦から学ぶべき教訓は、各国政府が統制を失わないよう注意しなければならないということであると世界に語られた。対立を不用意に敵対行為に波及させてはならない。小さな戦争が大きな戦争にエスカレートすることを許してはならない。山火事が森林火災になることを許してはならない。

＜Fromkinの見解＞
　これらは学ぶべき良い教訓であるが、それを教えてくれたのは 1914 年 7 月ではない。当時、ヨーロッパが戦争になったのは偶然ではなかったのだ。それは二つの政府による計画的な決定の結果なのであった。この両国が近隣諸国を侵略してしまうと、近隣諸国には平和を維持する方法はなかった。

第二次世界大戦でもそうであった。真珠湾では、日本は攻撃を開始することで、自らのためだけでなく、（戦争に）不本意な米国のためにも、戦争か平和かの決断を下した。 1941年当時、アメリカにはヨーロッパにおいてもう選択肢はなかった。ヒトラー率いるドイツは米国に宣戦布告し、米国はこれに応じる義務を負った。

　繰り返しになるが、平和を維持するには二人以上が必要だが、戦争を始めるのは一人だけである。そしてそれは、再び同じことが起こる可能性があることを意味している。侵略者は今日でも大規模な戦争を始める可能性がある。たとえ他の大国が平和維持を望んでいても、他の国々がそれを抑止するのに十分な力を持っていない限りは（訳注；2022年勃発のウクライナ戦争がまさにそうだし、中国による台湾進攻の危機もそうだろう）。

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当時と今では大きく変わったことが少なくとも 1 つある。 1914 年、戦争の勃発は国民にとってほぼ完全な驚きであった。今日のオープンワールドでは、（たとえそうなったとしても）少なくとも何らかの事前警告があるであろう。それはひいては、国民や議会に少なくとも自分たちの意見を知らせる機会を与えることになるだろう。それがどの程度の違いを生むかを予測するのは困難であるが。

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CHAPTER 51: SUMMING UP
1914 年夏の国際紛争は 1 つの戦争ではなく 2 つの戦争で構成されていた。どちらも意図的に始められたものである。それらは絡み合っていた。これらは、相互の必要性によって結びついた、ライバル同士の帝国によって始まった。片方の戦争はハプスブルク帝国によって開始され、もう片方はドイツ帝国によって開始された。いずれの場合も、戦争開始の決定は数人のトップによって行われたが、彼らの国民はそのような決定が検討されていることはおろか、行われていることも知らなかった。

　戦争は力の問題だった。具体的には、当時世界の大部分を支配していたヨーロッパの大国の中での相対的な順位に関するものであった。ドイツもオーストリアも、自らが下降線を辿っていると認識していた。それぞれが今の場に留まるために戦争を始めた。

　オーストリアの対セルビア戦争は、多くの悲惨さがあっても、小規模なバルカン半島戦争と同様、歴史の小さなエピソードの一つであった。もしそれがドイツの将軍たちに独自の戦争、つまり世界規模の紛争に成長したヨーロッパ紛争を始めるために必要な条件を提供していなければ、この出来事はすぐに忘れ去られただろう。

1914年から4年間という長い間、塹壕にいた兵士たちは、戦争は無意味だと信じるようになったが、実際はそうではなかった。それは誰が世界を統治すべきかという政治における最も重要な問題に関するものであった。

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　この問題は 1914 年のドイツ戦争によって明らかになった。その後の数十年で、それに対抗する新たな権力や勢力が台頭した。ドイツとロシアのどちらがヨーロッパを支配すべきか、そしてヨーロッパがアフリカとアジアの大部分を支配し続けるべきかという問題は、共産主義、ファシズム、ナチズム、自由民主主義などの対立するイデオロギーと重なる問題であった。

1990 年代までには、その疑問はついに答えられたように見えた。世界のほとんどすべての民族は、外国人に支配されるのではなく、自らを統治した。そして、その定義がどのようなものであっても、ほとんどの人は民主主義を熱望していた。

1914年の戦争決定には目的はあった。そして、何世代にもわたる歴史家が教えてきたように、戦争自体は無意味ではなかった。それどころか、国際政治における本質的な問題、つまり誰がどのような信仰の旗の下でヨーロッパ、ひいては世界において覇権を達成するのかを決めるために戦われたのである。

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第 52 章:オーストリアの戦争

当初から、つまりオーストリア外相ベルヒトルトが外務省に計画を進めさせた 6 月中旬から、ウィーンの意図は外部の干渉なしにセルビアを粉砕することであった。すべてのリソースをセルビアのキャンペーンに集中できるようにすることがオーストリアの夢であった。ウィーンは7月28日にセルビアに宣戦布告していた。オーストリアの参謀長コンラート・フォン・ヘッツェンドルフは即座に、軍隊の半数を鉄道でセルビア国境に送り、残りの半数を予備としてバックアップさせた。

　オーストリア人は、自分たちと同盟国ドイツが目的を同じくして活動していたことをほぼ同時に知った。 ウィーンは、ベルリンがロシアを戦争から遠ざけるための措置を講じてくれると信じてセルビア侵攻を計画していた。だがむしろドイツは意図的にロシアを戦争”へと”引き込んでいた。

　ドイツは7月27日の週に戦争を選択し、7月31日にその行動を最終決定した。その日動員が発令され、翌日ロシアへの宣戦布告となった。モルトケとベルリンの同僚らはコンラッドに対し、当分の間、セルビア遠征を中止し、その代わりに軍隊の大部分をロシア国境に送り、セルビアの攻撃の可能性から守るための骨格部隊だけを残すよう告げた。

だがコンラッド（オーストリア参謀総長）がそれに従った場合、つまり古い陣地に就く前に軍隊を新しい陣地に呼び戻した場合、彼は行政上の混乱を引き起こす危険があった。

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　このような動員の兵站は困難であった。いずれにせよ、コンラッドはそんなことをしたくはなかった。彼は何年もの間、セルビアとの戦争を起こそうと計画していたので、最後の瞬間にそれをあきらめるのは、忍び難かったことだろう。そうした合意も得ていたわけだし、それはドイツをまず助けるためでもあった。

コンラッドは軍隊をしばらくセルビア戦線に残すが、8月18日に、一部を撤退させてロシア戦線に再配置することを決定した。

　コンラッドは、ドイツが白紙小切手を引っこめる前に、ドイツの白紙小切手を現金化したいと考えていた。コンラッドは7月に開始し、かつ完了するはずだったセルビア侵攻を8月に開始しようとしていた。 8月2日付のモルトケへの書簡の中で、ロシアの参戦を阻止する形で対セルビア作戦を継続していると説明した。

　コンラッドのさまざまな説明から浮かび上がってくることの一つは、彼がドイツの政策と目的が変わったことを理解していなかったということである。

7月5日から6日にかけて、カイザーは、オーストリアがセルビアを撃破することに成功している間、ヨーロッパは傍観者として活動を休止し続けることを望み、そしてそう確信していた。ドイツの政策は、ロシア、フランス、イギリスなどが参戦しないように（各国を）説得することであった。

だが、モルトケ、ファルケンハイン、そして彼らの同僚たちによって活気づけられたベルリンは、その立場を逆転させた。コンラッドは、ドイツはもはやオーストリアの戦争を支持していないが、オーストリアはドイツの戦争を支持しなければならないと（彼らから）言われていた。

モルトケとコンラッドは、戦争計画を実際に完全に調整したことはなかった。それぞれが自分の目的のために相手を利用することを提案したため、両軍司令官はお互いにあまりオープンになるわけにはいかないと感じたのかもしれない。いずれにせよ、彼らは戦争の最初の数か月間、それぞれが自分の道を進み、自分の思い通りに進もうとしたため、その代償を支払っていた。

　コンラッドはロシアの抑止を望んでいた。彼はロシアと、あるいはフランスと、後にはイギリスと、あるいはさらに後にはアメリカとも戦争をしないようにしていた。 コンラッドが考えたように、ドイツの役割はロシアを戦いから遠ざけることであり、ロシアを紛争に持ち込むことではなかったのだ。 1914 年の夏、コンラッド（オーストリア）が戦いたかった唯一の国はセルビアであった。8

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　しかし、サラエボ以前の歴史が示しているように、ドイツはセルビアを危険とは見ていなかった。 バルカン王国を排除する必要はないと感じていた。セルビアを恐れたのはコンラッドとその政府だった。

モルトケはロシアとその同盟国フランスを恐れた。ドイツの観点からすれば、セルビア紛争の唯一の使い道は、ロシアとフランスに対するドイツの戦争において、オーストリアがドイツに忠実であり続けるよう縛り付けることだった。 1914 年 8 月 1 日までに、その目標は達成された。モルトケの観点からすれば、セルビア事件はその目的を果たした。しかし、コンラッドの観点からはそうではなかったのだ。

そのためコンラッドは、絡み合った二つの戦争の最初の数週間はサボり、兵士たちに北ではなく南の列車に乗るように命じた。そうすることで、彼はセルビアと1対1の私的な決闘を行うための、つかの間のチャンスを祖国のためにもたらした。彼の軍隊はセルビアに侵攻した。彼らはセルビア人を戦いに連れ出した。そして、痛烈に、圧倒的に、オーストリアは負けたのであった！

　ハプスブルク軍は最初の位置のズレや混乱から決して回復していないようであった。セルビアを攻撃して敗北した後、彼らの私的な戦争は終結し、より広範な紛争に加わった。彼らはロシア戦線に移動したが、そこでも潰された。

　John Keeganによれば、1914年12月初めまでにハプスブルク帝国はもはや軍事大国ではなくなっていた。彼は、動員された335万人のうち126万8千人を失ったと語った。オーストリアはドイツ軍最高司令官の下、征服するというよりも生き残るための戦いを続けた。

　コンラッドは絶望していた。戦争が始まって勲章を授与されたとき、彼はこう述べた、「何のために（戦うのかを）知ってさえいたら」。失敗が増えるにつれ、彼は同僚たちに、戦争に負けたら「愛するジーナの慰めがかえって負担になる」と打ち明けた。彼は自己憐憫に打ちひしがれていた。すべての責任は「私に押しつけられるだろう」と彼は振り返った。「おそらく私は無法者のように現場から消えなければならないだろう。私には家もなければ、晩年に側に立ってくれる女性もいません。」

　彼は、かつての師、フランツ・フェルディナント大公のことを思い出した。彼は愛するオーストリア軍をとても気にかけ、セルビアと戦い、ロシアを離反させる計画に毎年反対してきた。大公の殺害は、彼（大公）が熱心に反対していたまさにその戦争を引き起こすために、ウィーンによって冷笑的に利用された。

その夏に、フランツ・フェルディナンドの影が世界中に大きく現れた。彼はどう思っただろう？彼なら何と言っただろうか？彼ならどうしただろうか？もし大公がまだ生きていたら、コンラッドは「私を撃っていただろう」と認めざるを得なかった。

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CHAPTER 53: GERMANY’S WAR

ベルヒトルト（特に7月）とコンラッド（特に8月）は、オーストリアをセルビアとの戦争に導いた積極的な工作員だった。彼らは二重君主制の内閣と外務省からの全面的な支援と、少なくとも年老いた皇帝の承認を得てこれを行った。二人がそれをしたこと、そしてそうするつもりだったことに疑いの余地はない。この点に関する唯一の問題は、ベルヒトルトが外務省スタッフからどの程度影響を受けたかということである。

　ベルヒトルトは、広範な戦争に最も責任を負った人物として頻繁に名前が挙がる。今からわかるように、それは真実ではない。この告発は二つの戦争を混乱させる。彼が望んでいたのは（コンラート同様）セルビア戦争であり、他の戦争ではなかった。彼は、必要であれば、より広範な紛争の危険を冒すつもりであったが、それを望んではいなかった。

　ロシアとフランスとの戦争を望んだのは小モルトケだった。 過去の危機では、状況が決して適切ではなかったために、彼は常にそのような戦争を始めることを控えていた、あるいは差し止められてきた。すべてが整わなければならなかったのだ。皇帝の権威は衰えつつあり、オーストリアの参加は確実であり、ロシアは侵略者であるかのように見せなければならなかった。

1914 年 7 月の終わり頃、突然、すべてが”うまくいきはじめた”。モルトケはチャンスに飛びついた。彼は自分の時が来たことを悟り、それを掴み取った。ベルリンの7月の議題で、ベルヒトルトの戦争を彼の巧みなすり替えで置き換えたことは、誰が何を引き起こしたのかについてその後何世代にもわたって闇に葬る、ある種の自信を与えるトリックだった。彼は7月初旬の政策を7月下旬の政策に置き換え、１つの戦争を別の戦争に置き換えた。

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　自分よりも大きな力を代表していなければ、モルトケはそれを成し遂げることはできなかったであろう。 彼は、ドイツ生活の軍事化が戦争につながったプロイセンのユンカー士官階級を代表していた。ドイツの軍国主義文化は、とりわけハウス大佐によって、来るべき戦争の原因として1914年に特定されていた。

ドイツは 8 月 1 日にロシアに宣戦布告した。ドイツが提案したスケジュールは、モルトケの計画であった。この計画では、ドイツ軍は6週間以内にフランスの地で運命のランデブーを果たすことが求められていた。場合によっては、ロシアの同盟国であるフランスを戦闘に持ち込むことになる。戦いは決定的なものとなるだろう。それはフランスを戦争から、ロシア同盟から、そしてヨーロッパの政治史から締め出すことを目的としていた。

　8月1日から6週間後、ドイツ軍はフランスの地で確かに運命のランデブーを果たした。フランスとイギリスの交友にとって、それは心臓が止まるほど危機的な出来事だった。すなわち、ドイツがほぼ勝利したのだ。フランスとイギリスがそうなる代わりに。

そして戦闘、第一次マルヌの戦いが終わった。そこでわかったことは、どちらの側もすぐに勝利することも、本当の勝利を獲得することもできないということだった。その代わり、この紛争は4年間続く持久戦となり、勝者も敗者も同様に破滅することになった。 1918年のその結果も決定的なものではなかった。当事者が互いに敗北を受け入れなかったためである。

一方ではドイツ、他方ではロシア、フランス、イギリス、アメリカとの間の戦争は 1939 年から 1941 年にかけて再開された。そして、大陸でどの国が最高の権力を持つのか、そして米国と英国がその覇権を受け入れるかどうかという問題も解決できなかった。 1914年8月1日にドイツ軍指導者らがロシアに宣戦布告して始まった紛争は、1994年8月31日に最後のロシア兵士がドイツの地を去るまで終わらなかった（ドイツ駐留ソ連軍参照）。

ほぼ一世紀にわたり、モルトケ計画が決着した決定的な戦いであった1914年9月のマルヌの戦いについて、学者の間等で議論が激化してきた。ドイツ側にとって問題は、それがモルトケなのか、それとも若き特使なのかということであった。リヒャルト・ヘンチュはマルヌ川後方への撤退と再集結を命令した。そして撤退命令が正しい決断だったのか、それとも勝利の口から敗北が得られてしまったのか。当時、皇帝によって33人のドイツの将軍が解雇された。その直後、モルトケも職を失った。ヴィルヘルムは容赦がなかった。

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　モルトケが、20世紀の長い戦争（冷戦につながった1939年戦争、それにつながった1914年の戦争）の悲惨さ、そしてその中で死ぬことになったであろう何千万人もの人々やその多大な影響を予見できなかったことは明らかである。しかし、彼は誰が戦争を始めたのかを十分に知っていた。

　1915年6月、モルトケは重要性が低いと考えていた職に異動させられ、友人のコルマール・フォン・デア・ゴルツ将軍（男爵）にこのことを訴えた。「この戦争で無活動を宣告されるのは恐ろしいことだ」と彼は友人に書いた、「私が準備し始めたこの戦争だったのだ」。この控えめで、例外的ではなく、むしろごく普通のキャリア軍人が第一次世界大戦を開始し、それによってその恐怖と驚異のすべてを伴う 20 世紀の到来をもたらしたということは、驚くべきことである。

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