第一次世界大戦年表
オーストリア＝ハンガリー二重君主国による「最後通牒」（1914 年 7 月 23 日）再考 ─ F. ヴィースナーの『覚書』にみる開戦決断の背景 ─

CHAPTER 20: （事件の）ロシアとのつながり
c.f.Mc Meekin The RUSSION ORIGINS of the First World War p47

p129
ロシアはオーストリアの将来の指導者に対する陰謀に何らかの形で関与していたのであろうか?　政府関係者では当時、人々がその疑問を持ち、学術界ではそれ以来ずっと学者がその質問をし続けている。

　ロシアの関与はほとんど意味がなかっただろう。フランツ・フェルディナンドは政府内で主導的な親ロシア派であった。したがって、彼を現場から排除することはロシアの利益に反することになるだろう。もちろん、彼の政治的見解は他の場所でも誤解されていたので、おそらくサンクトペテルブルクでも同様だったのであろう。おそらく彼の友情の程度は完全には理解されていなかったであろう。しかし、ヨーロッパ中の君主主義の擁護者として、ツァーリは確かに、厳格な原則に基づいて、そのような殺人には反対しただろう。

＜Nicolai Hartwigの関与＞
Nicolai Hartwigが駐セルビア公使（1909年から1914年）として現場で実施したロシアのバルカン政策は、前述したように、不正作戦の性質を持つものとみなされやすかった。ベオグラードの情報通のフランス公使によると、好戦的な汎スラブ人であり、バルカン半島や中東での長年の勤務と知識を備えたNicolai Hartwigは「自国政府に対する闘争の武器としてセルビア人の大義を利用した」という。「サンクトペテルブルクの保守派と正統派の支持を得て」彼は外務大臣サゾノフと戦い、「彼はロシア外交を過去2年間のバルカン半島状況の進行へと引きずり込み、それを構想し実行することにメリットをもたらした」。

p130
トルコとオーストリアの両国に対してバルカン半島諸国を一時結束させたのはNicolai Hartwigであり、一般に彼がベオグラードの政策を決定したと信じられていた。

しかし彼が黒手組の陰謀を承認した可能性は低い。彼はパシッチ政権をアピスから救い出し、短気派に対するより慎重で非挑発的な派閥を承認したばかりだった。

＜アルタモノフ大佐の関与＞
(C.f.Mc Meekin The RUSSION ORIGINS of the First World War p47)

　ベオグラード駐在のロシア武官ヴィクトル・アルタモノフ大佐がアピスと緊密に協力していたのは事実のようだ。二人は一緒にスパイネットワークを運営していた可能性がある。いくつかの疑惑によると、アルタモノフはかつてアピスに作戦資金を提供していたという。アルタモノフが何らかの形でアピスがボスニアの男子生徒たちを助けていることに気づいたということは考えられないことではない。

アルタモノフはまた、オーストリアが攻撃すれば、ロシアがセルビアを助けに来るだろうという正当な権限がある、とアピスに保証したかもしれないという話もある。しかし、皇帝政府を代表してそのような保証を与える立場にある人物が、そうした保証をしたという証拠はない。

　人気の歴史家ジョージ・マルコム・トムソンは、『The Twelve Days』（1964年）の中で、アルタモノフは「初期の段階から、大公殺害という黒手組の陰謀の当事者だった」と書いている。トムソンは彼の主張をアルベルティーニの研究に基づいているが、研究はそのような不適格な主張を裏付けるものではない。アルタモノフは、アルベルティーニとのインタビューで全てを否定した。アルベルティーニはアルタマノフの話を信じなかったが、それを反証することはできなかった。

　最近公開されたロシア国防省のファイルから見つかった1914年6月12日付けの文書には、1910年にロシアがセルビア軍将校団に400万フランの補助金を支給し、その資金が悪用され、ずっと前から消えていたことが記されている。

この文書はセルビアのロシア軍代理人から出されたもので、資金の一部が黒手組に不正に吸い上げられた可能性があることをほのめかしている。そして、この過去の経験に基づいて、ロシア政府はセルビア将校団にこれ以上は資金を提供することは考えていなかっただろう、との確信が持てることは明らかである。ロシアは黒手組を助けたくはなかっただろうと考えられる。

　サラエボ事件にはロシアとの関わりがあったのか？もしあったとしても、その証拠はいまだ発見されていない。

p131
暗殺の数日前、パシッチ首相は匿名の手紙を受け取った。その著者は、オーストリア政府がボスニア演習中に「あの愚かなフェルディナンド」を殺害するよう手配し、セルビアとの戦争を始める口実としてパシッチ政権のせいにするのではないかと推測した。それは起こったことではなかったが、起こった可能性はあったことだ。

CHAPTER 21: THE TERRORISTS STRIKE
p132

1914年6月28日日曜日、早朝、フランツ・フェルディナンド大公とその配偶者ゾフィーは、ホテルに彼らのために設けられた礼拝堂でミサで祈った。彼らはイリゼの郊外スパを出て、サラエボ行きの電車に乗り、30分足らずの旅であった。町外れの鉄道ターミナルで自動車に乗り換え、残りの道中は自動車に乗った。自動車でのパレードは印象的でした。自動車が一般的に使われるようになったのはつい近年のことであった。

運転手付きの車の行列は午前9時半から10時の間にサラエボに入り、市庁舎に向かった。市長と警察署長が最初の自動車で先導した。大公と公爵夫人は、使用のために借りられたオープンカーのツーリングカーで2台目に続いた。彼らには軍事総督のポティオレク将軍も同行していた。借りた車の所有者であるフランツ・フォン・ハラッハ伯爵は、運転手の隣の前に座っていた。行列の残りの車両（誰の説明を受け入れるかに応じて、2 台から 4 台の他の車両）が続きました。

　雨はようやく止んだ。朝霧も消えた。まばゆいばかりの太陽の光が記念日のカップルに降り注いだ。彼は色とりどりの制服を華麗に着飾っていた。白く輝く彼女。ついに正式な公式祝賀会で並んで、沿道の景色と音、そして歓声を上げる群衆の熱狂と24門の大砲の祝砲の響きを満喫した。

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　後に、歴史家たちは安全対策の欠如に困惑した。兵士たちは沿道に並ぶべきだったが、そうしなかった。約22,000人のハプスブルク軍が付近にいたが、ポティオレク将軍はフランツ・フェルディナンドとその一行を護衛し保護するための儀仗兵は120名のみと詳述した。後に説明されたことによると、将軍はその鉄拳の統治下では秩序がしっかりと確立されており、警備は不要であることを証明したかったという。もしそうなら、ポティオレクが証明したことは彼が意図していたことの逆だった。

　激動のボスニアは国境地帯だったのだ。この国とその近隣諸国は、東と西が出会うアリーナを形成し、ライバルの氏族、国籍、宗教、帝国が衝突していた。遠い過去にルーツを持つ古代集落であるボスニアの首都サラエボは、ミリジャツカ川の両側に沿って広がる建物群で構成されていました。それは橋によって街へと結び付けられていた。冬の間は激流となったミルジャッカ川は、夏の間は勢いが鈍くなり、6月には川底が乾き始めた。 1930 年代後半に訪れた英国人は、ミルジャッカ川の水が赤くなった（血で染まった）と主張したが、それは歴史を読んだ結果生じた目の錯覚だったのかもしれない。車列が町に入る道は、川と平行して走っていたアペル堤防であった。ミリャツカ側は低い堤防で隣接し、反対側は家々に囲まれていた。それは町の唯一の大きな大通りであった。

　イスラム教徒のオスマン帝国による何世紀にもわたる統治は、住民の服装、習慣、行動にその痕跡を残していた。通りの外観、特に川から背を向けて内陸部の狭く曲がりくねった通りに入ったときの様子は、明らかに東洋的であった。ミナレットが点在するサラエボのスカイラインは、まばゆい夏の日差しを受けて輝いており、街が頻繁に移り変わったことを思い出させてくれた。サラエボには 100 のモスクがあり、ほぼ同じ数の教会があった。シナゴーグはそれほど目立たないものの、ユダヤ人の存在を証明していた。多言語を話す、多国籍、宗教的に多様な人々は、お互いに共存するだけでなく、どんな国旗が掲げられても生きることを学んだ。支配と権力は長続きしそうもなく、たまたま、6月28日のサラエボでの出来事の結果、再び変わろうとしていた。

　その朝、プリンツィプは共謀者仲間をアペル堤防沿いの橋が交差する3か所に駐留させた。したがって、岸壁に沿って走行する車列は、ガントレットを走行することになった。プリンツィプの年長の友人であったダニーロ・イリッチは、自分の定位置を持たない調整役として、必要なときに必要な場所に武装メンバーを移動させることになっていた。イリッチがプリンツィプに任務中止の命令に従うよう説得しようとしたが、失敗に終わったことは記憶されるだろう。

p134
　最初の橋で、大公の行列は危険地帯に入った。共謀者3人が岸壁の川側に列を作り、陸側に2人が並んだ。大公の命に対する最初の試みは、川側から行われた。ネデリコ・チェブリノビチは警官に、どれがフランツ・フェルディナンドの車であるかを指摘するよう頼んだ。それから彼は爆弾のキャップを街灯柱に落として爆発させた。彼は大公の車に向かって爆弾を乱暴に投げつけ、オープンカーの折り畳まれたボンネットに衝突し、そこから爆弾が転がり落ち、後続の車の車輪に当たって爆発した。

　伯爵夫人は広範囲に飛んだ起爆装置で首をかすめたのを感じたが、後ろの車の乗員でポティオレック将軍の補佐官エーリッヒ・フォン・メリッツィ大佐は飛んできた破片で手首を負傷した。爆発音は憂慮すべきもので、別の警察官と多数の傍観者が軽傷を負い、行列は様子を伺うために立ち止まった。

犯人のチェブリノビチは現場から逃走した。堤防から飛び降り、浅い川底に逃げようとした。追跡してきた警察に捕らえられた彼は毒薬を飲み込んだが、その薬は古すぎて効かないことが判明した。その唯一の効果は彼を吐かせることだった。

　爆発音と群衆の叫び声を聞いたプリンツィプは現場に急行したが、そこですべてが終わったかに見えた。憲兵たちはチェブリノビチをしっかりと拘留し、警察署へ連行していた。他の共謀者は誰も見つからなかった。

　他の人たちに何が起こったのかは、A.J.P.テイラーによって最も簡潔に語られています。「他の共謀者のうち、一人は群衆に押し込められ、ポケットから爆弾を取り出すことができなかった。 2番目の瞬間、警官が彼の近くに立っているのを見て、いかなる行動も危険すぎると判断した。三人目は大公の妻を気の毒に思い、何もしなかった。 4人目は神経を失い、家から滑り落ちた。」

プリンツィプは一人でさまよって、ラテン橋と呼ばれたアペル堤防の川側にある、指定された場所に戻った。それから彼は通りを渡った。彼がその時どこに立ったのか、どこに座ったのかについては諸説ある。

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　フランツ・フェルディナンドは、車列が博物館に向かう途中で曲がりくねった路地を通るという既存の計画を中止することを決定した。しかし彼は来た道を戻らなかった。レセプションと演説のために市庁舎に立ち寄った後、彼はチェブリノビチの襲撃で軽傷を負ったメリッツィ大佐を見舞いに病院へ車で向かうと主張した。先頭車両の運転手はこのことを知らされていないか、理解していなかった。彼は当初の計画に従い、アペル堤防から脇道にそれて博物館に向かって車を走らせ、大公の運転手もただ後を追った。

「引き返せ！」ポティオレク将軍が叫んだ。運転手は立ち止まった。彼は撤退する最善の方法を考えた。彼の車の後部は車列の残りの車両によってブロックされていた可能性がある。彼は狭い脇道でゆっくりと運転し、おそらく車をバックに入れたり、U ターンを試みたりしなければならなかったであろう。その間、車両は動かずに立っていた。

これらすべてはプリンツィプから約5フィートのところで起こった。彼は見物人たちに囲まれていた。彼は驚いたに違いないが、素早く考えてチャンスを掴んだ。彼はポケットの中の爆弾に手を伸ばしたが、群衆に囲まれすぎて標的に向けて自由に投げようと腕を振ることができないことに気づいた。そこで彼はピストルを取り出し、至近距離から2発発砲し、1発は大公の頸静脈に、もう1発は公爵夫人の腹部に命中した。その距離では、そうさせないことはほとんど不可能であった。

　その後、プリンツィプはリボルバーを自分に向けたが、傍観者が暗殺者の腕に身を投げたことによって発砲を阻止された。何が起こったのかは明らかではなかった。予想外に鳴り響いた2発のショットは、一部の人にとっては、初期の自動車が陥りがちだったバックファイヤーが出たように聞こえた。

群衆と近くの警察が少年のような暗殺者を捕まえようと互いに争う中、混乱が生じた。プリンツィプは自殺カプセルを飲み込んだが、効果がなく嘔吐した。暴徒は彼を殴り始め、リンチするために彼を引きずり出した可能性もある。苦戦しながらも、プリンツィプは武器の柄を使って反撃した。結局、警察は彼を群衆から奪い取った。そこで彼は爆弾を投下した。警察の増援が到着して現場を片付けると、見物人らは大声で警告を発した。

　一方、瀕死の王夫妻を乗せたリムジンは助けを求めて逃走した。「ソフィー、親愛なる！ソフィー、親愛なる！死ぬなよ！子供たちのために生きてください！」フランツ・フェルディナンドが声を上げた。そして、側近たちが心配そうに彼に気持ちを尋ねると、より弱々しく、しかし繰り返し「何でもない」と答えた。致命傷を負った夫婦は、わずか数分の距離にある知事公邸に救急搬送された。彼らは午前10時30分頃に射たれ、ソフィーは午前10時45分ごろに死亡した。フランツ・フェルディナンドは午前11時頃に死亡した。、とても「何でもない」ことなどではなかった。

CHAPTER 22: あくびをするヨーロッパ

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　サラエボでの犯罪がさらに1世紀前に行われていたら、その情報が遠く離れた場所に届くまでに数週間、あるいは何か月もかかっていただろう。したがって、事件の性質上、その結果ははるかに異なっていた可能性がある。

しかし、テクノロジーが状況を変えた。蒸気船、そして何よりも電信の時代には、ニュースは急速に伝わった。世界中の外務省が銃撃事件を一斉に知り、数時間以内に遠く離れたワシントンD.C.のホワイトハウスからも哀悼の声が殺到し始めた。

　殺人事件の詳細については今日に至るまで論争が続いているが、主な概要のいくつかは当時正確に伝わっていた。

サラエボの英国領事は二度の暴行に混乱し、フランツ・フェルディナンドとゾフィーを殺害したのは爆弾攻撃であると報告したが、ウィーンの英国大使は詳細を正確に把握していた。

　ウィーンの街頭では、何が起きたかをタイプ打ちした記事がオーストリア国営電信局によってほぼ即座に配信された。

　噂も急速に広まった。執拗に主張されたのは、フリーメーソンに責任があるというものだった。 10年後、小説家のトーマス・マンは、1914年夏の危機は少なくとも部分的には彼らのせいだと主張し続けた。「国際イルミナティ」、つまり「フリーメーソンの世界ロッジ」が戦争を引き起こす役割を果たしたと彼は書いた。

p138
　ドイツの諜報機関が疑われた。ハンガリー首相が非難された。 25年後、バルカン半島情勢についての記述が古典的であると考えられている英国人ジャーナリスト、レベッカ・ウェストは、すべてを手配したのはオーストリア＝ハンガリー政府自身の誰かであるという信念を依然として繰り返していた。だいたい、セキュリティ対策の不可解な欠如を、他にどのように説明できようか?

＜オーストリア・皇帝＞
　さらに、オーストリア皇帝は犯罪そのものには恐怖を感じていたものの、フランツ・フェルディナンドが（殺害によって皇位相続からの）道からはずれることに不満はなかった。彼は大公に王位を継がせることを望んでいなかったから。

「私にとって、大きな心配事はなくなったよ」と彼は大公の死について娘に語った。彼は側近にこう打ち明けた。「全能の神に逆らって（貴賤結婚したからには）報いなしには済まない。余が不幸にも支えられなかった古い秩序を、より高い力が立て直して下さった。」　ベルヒトルトでさえ、暗殺後の最初の閣議では「確かに、驚きと憤慨があったが、ある程度の気分の和らぎもあった」と日記に記している。(c.f.Mc Meekin JULY1914　Count down to war p29)

＜フランス・大統領＞
サラエボ殺人事件の知らせがもたらされたとき、フランスのポアンカレ大統領はロンシャン競馬場にいた。彼はレースの終わりを見届けるために残った。それから彼はいつも通りの日常生活を送りました。パリには影響はなかった。

Kiel, Germany.
カイザーはヨット「メテオール号」に乗ってレガッタに出場していた。陸上では、海軍内閣長官フォン・ミュラー提督が、サラエボのドイツ総領事からニュースを中継する暗号電文を受信した。ミュラーはすぐに打ち上げフルダ号を動かし、メテオ号を追い抜き、起こったことを叫んだ。

　船上で審議が行われた。ヴィルヘルムは「状況を掌握し、ヨーロッパの平和を維持する」ためにベルリンに戻ることを決意した。

　それは皇帝ヴィルヘルムにとってはひどい打撃だったに違いない。彼は王室の人物が暗殺されれば恐怖を感じただろうが、それに加えてフランツ・フェルディナンドとの特別な関係を強固にするために何年も努力してきた。その目的のために、彼はソフィーの擁護者であり続け、そしてこれからもそうであり続ける兆候をあらゆる形で示していた。

高齢のフランツ・ヨーゼフが亡くなれば――それは数年以内であったはずだ――友人同士であり皇帝であるヴィルヘルムとフランツ・フェルディナンドは、（カイザーの構想と思われたもので）パートナーとして協力してヨーロッパ大陸を率いることができただろう。

今や、その夢は打ち砕かれた。（だが）ドイツにとっては、フランツ・ヨーゼフが世を去った後のハプスブルク帝国は、フランツ・フェルディナンドの指導下では、親密で信頼できる同盟国ではなくなったことだろうと推測された。

p139
　キールからロンドン・タイムズの特派員は編集者に「オーストリア問題に対するドイツの関心は以前よりもさらに高まるだろう」と電報を打った。

ずっと後になって、ウィーンの有力な現代新聞編集者によれば、「フランツ・フェルディナンド大公の死は・・・広範な政界で、さらには最高官界にまで安堵感を与えた。」

元ドイツ首相ビューローは、ハンガリー外交官から、反ハンガリー主義者のフランツ・フェルディナントは内戦でオーストリア・ハンガリー帝国を分裂させた可能性があったため、この暴挙は「神の摂理だった」と言われた、と報告した。

6月29日（月）、イギリス
この暗殺事件は「暴挙」と呼ばれ、朝刊ロンドン・タイムズに掲載された海外報道を独占した。同紙のサラエボ特派員は、ボスニアの首都で起きた悲惨な出来事は「明らかに周到に用意された陰謀の成果だった」と述べた。

　フランツ・フェルディナンドとゾフィーは午前10時15分、襲撃者1人が投下した爆弾から「九死に一生を得た」が、その直後に別の「高校生」がブローニング自動拳銃の発砲を受け、死亡した。襲撃犯の一人がボスニア出身で、もう一人がヘルツェゴビナ出身だったという事実は、陰謀が広範囲に及んでいたことを示している。しかし、暗殺者の人種や信条に関する情報は入手できなかった。両犯罪者は「リンチから逃れるのは困難だった」とタイムズの特派員は報じた。

　ニュースアカウントは背景情報によって補足された。在位66年目でさらなる打撃を受けた84歳のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフについての同情的な記述は、読者に彼の妻、弟、息子の非業の死を思い出させた、と結論づけている。「大陸で最も誇り高き王座に座る打ちのめされた老人ほど悲惨な災難の連続に耐えなければならなかった人はほとんどいないだろう。」

　しかし、皇帝は公の場で打ちひしがれている様子を見せなかった。オーストリア国民もこのニュースに動揺しなかった。「国民の興奮の痕跡はほとんどない」とウィーンの特派員は報告した。

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　サラエボの英国領事によれば、「地元紙はアナーキストの犯罪について報じているが、その行為はセルビア人[原文のまま]の復古主義者によるものであり、ずっと前から計画が練られていた可能性が高い」。

　フランツ・フェルディナンドの簡潔な伝記によると、彼は幼い頃から王位に就くことが期待されていなかったため（当時はいとこのルドルフ（情死したフランツ・ヨーゼフの息子）が後継者であり、おそらく彼の将来の子供たちが継ぐことになっていた）、帝王学を受ける理由がないようだったという。

したがって、彼の家庭教師は、彼の「知的能力は…過大視されるべきではない」という前提で彼の教育に当たった。20代半ばまでに、彼は「優れた騎手で、射撃にも優れ、勤勉な士官であったが、政治的および憲法上の問題についての知識は限られていた」。これらのうちの後者は、ルドルフの死によって王位継承者となった 1889 年になって初めて彼が研究し始めた問題であった。皇帝の息子はルドルフであり、フランツ・フェルディナンドは甥に過ぎなかったのだ。

　シティ・オブ・ロンドンの証券市場は序盤は軟調だったが、ウィーン取引所や他の大陸の証券取引所が堅調であることが明らかになってからは回復した。

　マーク・サイクス卿は保守党の一般議員であり、決して偏狭な考え方ではなかったが、中東を広く旅行しており、党の数少ない中東専門家の一人であったが、下院で、たとえどんなに魅力的なものであっても、海外の発展に焦点を当てる時期ではないと述べ、「我が国の内政がこれほど特にひどい窮状にあるときに、外交問題を自由に議論するのは困難だった」。

6月30日（火）
サイクスの感情にはタイムズ紙のリーダー（社説）も同調し、サラエボで起こったことは「国民の心の中で真っ先に満たされ」、「ヨーロッパ政治を学ぶすべての人の注目を集める」だろうと同意したが、国内の政治を無視してはならない。「私たち自身の問題に対処しなければなりません」。タイムズ紙はおそらく、数週間以内に英国がアイルランドの運命を決定する内戦で解散するかもしれないという脅威やその他多くのことに言及したと思われる。（訳注；当時英国はカラ事件の渦中だった）。

　外務省の常任長官は、駐ロシア大使への通信の中で、影響が限定されることを望むと表明した。「最近サラエボで起きた悲劇が、さらなる複雑化を招かないことを願っています。しかし、オーストリアがこの悲惨な出来事をセルビアの陰謀やたくらみによるものだと考えていることはすでにかなり明白である。「新しい後継者が故大公よりも人気がある可能性がある」ということはすべて良いことになるかもしれない。

p141
＜フランス；カイヨー事件の最中＞
フランスでは、暗殺後初めての閣議で、（ポアンカレ大統領の伝記作家によれば）殺害については「ほとんど言及されなかった」。

駐イタリア英国大使はロンドンに次のように報告した。表向きは当局と報道機関がこの犯罪を大声で非難しているが・・・一般に人々が故大公の排除をほとんど摂理的なものであるとみなしていることは明らかである。」

パリでは何ら注意が払われなかった。（なぜならパリは）完全にスキャンダルに巻き込まれていたから。魅力的なスキャンダルであった。このスキャンダルには、セックス、暴力、国際的な陰謀、愛と情熱、嫉妬と高位での不正行為など、あらゆるものが含まれていた。それは悪名高きカイヨー事件だった。

1911年にフランス首相に就任したジョゼフ・カイヨーは左翼政治家であったが、ドイツにあまりにも融通を利かせすぎたと言われ、1912年に辞任を余儀なくされた。 1913年に彼は再び閣僚となったが、右派から頻繁に攻撃を受けた。彼は確かにドイツとの友好の主導的な擁護者であり、一種の平和主義者でもあった。

　カイヨーはポアンカレ大統領の古い友人だった。彼らの中で独身時代、彼らは快楽を求める仲間だった。二人の違いの一つは、ポアンカレが控えめだったのに対し、カイヨーは目立ちたがり屋だったということだ。二人が愛人と一緒にイタリアで休暇を過ごしたとき、そのコントラストは際立っていました。カイヨーの言葉を借りれば、「私のものは私が見せ、彼は隠していた」のである。

　43歳のときにポアンカレが人前式で結婚したとき、結婚式はあまりにも非公開だったので、そのことを知る人はほとんどいなかった。しかし、カイヨーは結婚すると別の愛人と秘密の恋愛を続け、最終的にその愛人が2番目の妻となった。

　二人の間には個人的な友情があったにもかかわらず、1913年から1914年までには政治的敵対関係となった。 1913 年 3 月 4 日にフランス大統領に選出されたばかりのポアンカレは、フランス軍の兵役期間を 2 年から 3 年に延長する法案を支持した。フランスがドイツの人口リード（7000万人対4000万人）を相殺する唯一の方法のように思われた。カイヨーはこの措置に反対した。この法案は 8 月 7 日に採択された。急進党の議長に選出されたカイヨーは引き続きこの法案を攻撃した。この国の社会主義者を統一したやや平和主義者のジャン・ジョレスも同様だった。

　1914 年のカイヨーに対する政治運動は、フランスで最も影響力のあるジャーナリスト、右派の主要雑誌『フィガロ』の編集者ガストン・カルメットによって先頭に立たれた。カルメットは、カイヨーが1911年に財務大臣だったときに、おそらく個人的に関与していた金融スキャンダルで司法妨害を行ったことを示す特定の文書を公開すると主張した。カルメットはまた、カイヨーがまだ最初の妻と結婚していた頃に書かれた、カイヨーと2番目の妻のラブレターを公開すると脅した。

p142
　1911年のアガディール危機に遡る、カイヨーがドイツに同情的であることを示したとされるドイツからのカイヨー宛の電報が、フランス外務省によって傍受された。カルメットもこれらを出版する予定だったと思われるが、ドイツ政府はその通信の傍受に抗議した。

　カイヨーは今度は旧友のポアンカレ大統領に会いに行き、カルメットが自分の文書を暴露するのを阻止するよう頼み、大統領がそうしない限り、ポアンカレとバチカンとの秘密交渉について知っていることを彼（カイヨー）が暴露するだろうと警告した。これらは傍受されたイタリアの電信によって証明された。もしこれらが知られれば、大統領は世俗主義者の反教権支持者たちと妥協することになるだろう。

　そこでフランス政府は傍受したドイツ電信の存在を公式に否定したが、そのお返しとしてカイヨーは所有するイタリア電信の存在を明らかにすることを差し控えた。今やカイヨーを脅かしているのは、カルメットが提案したラブレターの出版だけだった。

　1914年3月16日、2代目カイヨー夫人はカルメットのオフィスを訪れ、面会を求めて待ち、彼を見ると自動拳銃を6発発砲して彼を殺害した。

　彼女の殺人裁判は7月20日に予定されていたため、7月にはパリの注目が裁判に釘付けになった。左翼と右翼が街頭で争った。（オーストリアの）大公とその配偶者に対しては何ら注意も払われていなかった。

　ポアンカレは、この事件が彼の頭に新たなアイデアをもたらしたと冗談めかして言った。自分の敵を撃ち落とすために自身の妻を送り出したのかもしれない。

＜オーストリア＞
ヨーロッパにサラエボでの殺人事件が痛切に感じられる国があるとすれば、それは大公自身のオーストリアだったろう。人々は路上で泣いていたはずだった。しかし、Z.A.B.ゼーマンは、ウィーンでは「この出来事は何の印象も与えることができなかった。日曜と月曜、ウィーンの群衆は音楽を聴き、ワインを飲みました。。。何事もなかったかのように。」

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　シュテファン・ツヴァイクは、6月28日の午後、ウィーンの公園のベンチに座っていた。彼は突然の静寂によって、読んでいた本から目が覚めた。遠くのバンドの音はもう聞こえなかった。音楽は止まっていた。人々は野外スタンドの周りに集まり、何かのアナウンスを聞いていた。ツヴァイクも彼らに加わった。群衆はサラエボでの暗殺のニュースを聞いていた。彼らはオーストリア人で、将来の指導者の死を聞いていた。しかしツヴァイクは後にこう書いている、「後継者と思われる人物（フェルディナント）は全く好かれていなかったので、彼らの顔には特別なショックや落胆は見られなかった。。。。彼が笑顔を見せたことは一度もなかったし、リラックスした姿を写した写真もなかった。彼には音楽のセンスもユーモアのセンスもなく、妻も同様に無愛想でした。二人とも冷たい空気に包まれていた。人々は、かれらに友達がいないことを知っていた。ブルドッグのような首と冷たく見つめるこの男から何か不幸が訪れるだろうという私のほとんど神秘的な予感は、決して個人的なものではなく、国民全体が共有したものだった。そのため、彼の殺害のニュースは深い同情を呼び起こすことはなかった。」

　実際、ヨーロッパのすべての首都では、ハプスブルク王位継承者の暗殺に対する反応は無関心なほど穏やかだった。

第 23 章: 遺体の処理
（c.f. 【オーストリアで玉の輿】身分ちがいの結婚はみじめで失敗？歴史的悲惨な末路とは｜婚ナビ）
p144
ハプスブルク王室の最高管理者であり、生前のゾフィー迫害者でもあったモンテヌオーヴォ王子が、2体の遺体の手配を担当した。彼は、夜遅くの午後10時に到着するように、それらをウィーンに発送させた。モンテヌオーヴォは、誰にも見られずに二人の遺体を引き離すことができるよう、誰も彼らに会わないことを期待していた。大公はハプスブルク家の王宮礼拝堂に送られる可能性があり、ゾフィーはフランツ・フェルディナンドが妻と自分のために礼拝堂を建てたアルトシュテッテン城に行く手筈だった。

　モンテヌオーヴォの計画は、法定相続人の地位を引き継いだフランツ・フェルディナンドの甥であるカール大公がウィーン駅で遺体に会ったときに狂った。 Albertiniによれば、カール大公には「ウィーン守備隊の将校団全員」が同行していたという。そこで両遺体は追悼式のために王宮礼拝堂へ向かった。

　それでも、大公の棺はより高く、より大きく、帝国で二番目に高い地位にある王子としての「完全な記章」が刻まれていたのに対し、ゾフィーは白い手袋と黒い扇子を持っていた。これは女官としての扱いの証であった。

p145
　夫婦の子供たちは両親の追悼式に出席することを禁じられた。彼らは花を送ったが、送られたのは許可された2つの花束のうちの1つであった。

　外国の王室関係者は、オーストリア側から出席しないよう求められていたため、出席しなかった。式典は7月3日に行われた。その後、礼拝堂は閉鎖された。夜、棺は鉄道駅に戻されたが、妨害を受けた。その後、彼らにはソフィーの兄弟が率いる大規模な貴族の行列が同行した※が、彼らは妨害されることを拒否した。

　アルトシュテッテン城では、大公とその貴婦人の遺体が埋葬地に到着したが、ハプスブルク家の宮廷によって生前と同様に、死しても嫌がらせを受け、屈辱を受けた。それは宮廷の大貴族たちのむさ苦しい行為であった。また、それは近視眼的（行為）でもあり、ガブリロ・プリンチプが犯した犯罪によって（夫妻が）負傷したという事実を世間から忘れさせた。

※訳注；フェルディナンド夫妻は国民から人気がなかったと言われてきたし、彼らの葬式はひっそりとしたものであったが、沿道にはかなりの人々が集まったようだ。生前の状況にかかわらず、死者を敬う心は日本だけではないようだ。しかし、こうした国民の熱情が、間接的には第一次大戦につながったのかもしれない。（少なくともセルビアとの局地戦を希望していたオーストリア当局が、国民を煽動したのかもしれないが　c.f. Royal Musings: Funeral for Archduke Franz Ferdinand and Duchess Sophie. ）。

オーストリア大公フランツフェルディナンドの葬儀の画像

Image of Funeral procession for the murdered Archduke Franz Ferdinand

フランツ・フェルディナントがウィーンに埋葬 |センチュリーアイルランドより

CHAPTER 24: 容疑者の検挙

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プリンツィプは殴られ、出血し、嘔吐し、警察署に連行された。爆弾投げのチェブリノビチはほんの少し前に到着したばかりだった。大陸の法的手続きに従い、地元の役人である審査判事レオ・フェファーがチェブリノビチの犯罪を捜査するために任命された。警察がプリンツィプを連行すると、フェファーの捜査範囲は拡大した。数分以内に2回のそのような試みが行われ、殺人よりも大きな何かが示唆された。それは陰謀を示唆していた。

　フェファー判事は、プリンツィプ被告は当初、「殴打に疲れ果て、言葉を発することもできなかった」と書いている。彼は小柄で、やせ細り、血色が悪く、目鼻立ちがくっきりしていた。あれほど弱々しく見える人物がこれほど重大な行為を犯したとは想像するのが困難であった。」

　その後、取り調べを受けてプリンツィプは発言を取り戻し、共犯者はおらず、自らの意思で行動したと主張した。彼はチェブリノビチに関する知識を一切否定した。彼は自分自身についてこう語った。「人々は私を弱虫だと思った。。。。そして、実際はそうではないのに、私は弱い人間であるふりをしていた。」

　一方、チェブリノビチは、プリンツィプを知っていることは認めたものの、友人が何をしたかについては何も知らないと否定した。もしプリンツィプも大公の命を狙おうとしたとしたら、（チェブリノビチによれば）彼も同様の感情を抱き、何をすべきかについて同じ結論に達したからに違いない。

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ロンドン・タイムズ紙の特派員は6月29日、プリンツィプとチェブリノビチが「検査中に極めて冷笑的な態度をとったと言われ」、他には誰も関与していないと主張し続けたと報じた。

彼らの話、つまり二人の友人が偶然に、互いに独立して、同じ日、同じ場所、ほぼ同時に、同じ著名人を暗殺しようとしたという話は、本質的に不合理だった。彼らがもっともらしい説明ができなかったのは、説明を工夫する努力をしなかったからである。つまり彼らの任務は自殺だった。彼らはシアン化物を飲み込んでしまった。彼らは死んでいるはずだったので、当局にとって彼らを守るようなもっともらしい理由はは必要なかった。

　取り調べが続く中、警察は捜索網を広げた。

チェブリノビチの家族やプリンツィプと同居していたイリッチ一家だけでなく、サラエボだけで200人以上の主要なボスニア・セルビア人が逮捕された。プリンツィプはこのことに罪悪感を感じた。自分のしたことで無実の人々が罰されるのを黙って放置するのは間違っている、と彼は感じた。いずれにせよ（証言は異なるが）チェブリノビチは陰謀の一部の要素をフェファー判事に告白した。プリンツィプは共謀者仲間の名前だけを明らかにしたかった――結局のところ、彼らは自殺作戦に志願したのだ。

　他の多くの人々とともに警察の網に巻き込まれたイリッチは、もし命が助かればすべてを明らかにすると願った。プリンツィプとは異なり、彼は21歳を超えており、死刑の対象となった。彼はオーストリア人に自分の知っていることを話した。

　7月2日までに、すべての共謀者が特定された。 7月3日までに、モンテネグロに逃亡した未成年者を除いて全員が拘留されたが、逮捕されることはなかった。囚人らはセルビアと結びつく可能性のある情報の提供を避けようとした。

彼らは完全に成功したわけではなかった。 7月5日、ポティオレク将軍は文官上司のビリンスキー財務大臣に、共謀者らがセルビア人のタンコシッチ少佐によって武器を供与されたとする電報を送った。タンコシッチ少佐はプリンツィプに射撃術の訓練も授けていたという。

　セルビア駐在のオーストリア武官は、適切に追跡調査を行えば、プリンツィプの陰謀者たちをアピス、ひいてはセルビア政府に結び付けた可能性がある重大な証拠を発見した。彼はこのことを陸軍省の上司に報告したが、上司はそれを転送したり伝達したりせず、単にファイルに保管しただけだった。

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　セルビア（政府）とのつながりを示すこの証拠は示唆的ではあったが、決して決定的なものではなかった。ハプスブルク政府はセルビア（政府）が何らかの形で犯罪に関与していると確信していたが、その証拠はなかった。自分の目で確かめるためにサラエボを訪れたウィーンの当局者は電報で知らせ、「セルビア政府が陰謀について知っていたことを示すものは何もない」と語った。

さらに、ウィーンはプリンツィプを支援した秘密結社を誤解し続けていた。それは本質的に文化的な結社であるナロドナ・オドブラナではなく、オーストリア人はその存在を知らなかったために名前を挙げなかった「黒手組」であった。（c.f. Mc Meekin The RUSSION ORIGINS of the First World War p49脚注27）

　ベオグラードのドイツ公使は6月30日、ベトマン・ホルウェグ首相に、セルビア人は自分たちが殺人の責任を問われるのではないかと心配しており、「非常に落ち込んでいる」が、「セルビアが犯罪に道徳的に共犯していることは・・・否定することはできない。」と報告した。

同氏は、ロシアの大臣が、誰がやったとしてもそれがセルビア人ではないことを望んでいた。「犯人がセルビア人でないことを祈りましょう」（「彼はそれを知っていたに違いない！」と懐疑的なカイザーはコメントした。）

　2日後の報告の中で、彼は首相に対し、7月1日にベオグラードのオーストリア臨時代理大使が自らの発案で、この犯罪に関してどのような調査が行われているかをセルビア外務省に尋ねたと述べた。「何もされていなかったのです！」という返事だった。彼が驚きを表明すると、外務省は内務大臣に連絡した。その後、共謀者の一部が住んでいた地区で捜索と逮捕が行われた。

　同じ日、セルビアの首相兼外相であるパシッチは、「オーストリアとハンガリーのマスコミはサラエボの暴挙に関してセルビアをますます非難している」という趣旨の内容を海外閣僚に回覧した。これを「不条理」と呼び、この行為はセルビア社会のあらゆる層で「最も厳しく非難されている」と主張した。

「暗殺者は両者ともオーストリアの配下にいる」ため、セルビアには犯罪を阻止する権限がなかった。同氏は代表に対し、利用可能なあらゆる手段を活用して「欧州報道機関における反セルビア運動をできるだけ早く終わらせる」よう要請した。

　ドイツの文民指導者、首相、外務大臣、二重君主制大使は、本能的にウィーンに対し自制的に反応するよう警告したが、打ちのめされて激怒したカイザーはそうではなかった。

友人のフランツ・フェルディナンドのように、カイザーはセルビアの問題を軽視していなかった。なぜならカイザーは、証拠を待たずに、罪の痕跡がベオグラードにつながっていると考えていた人々の一人だったからである。「今か、それとも永遠先にか」とカイザーはコメントした。「セルビア人はすぐに処分されなければなりません、それはすぐにでも当然です！」彼の言葉は20世紀を通じて響き渡った。それらは、カイザーの思慮に欠けた反応が世界大戦の勃発につながったものであることを示すために繰り返し引用されてきた。

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　二重君主制の外務大臣フォン・ベルヒトルト伯爵は、古いセルビアの要塞都市ニシュの代理人から次のような話を聞いた。「事実上、驚きや憤りの兆候はまったくありませんでした。支配的な気分は満足感と喜びでさえあり、それはしばしば非常にオープンでした・・・これは特に、職業政治家などの知識人、教育関係者、役人、将校、学生といったいわゆる指導層に当てはまります。」

　7月初めの時点では、喧嘩している当事者のどちらも、事態が外の世界にどう映っているのかを認識していないようだった。セルビア国民の喜びを隠せないベオグラードは、自分たちが無実であることを他の人々に説得するには、さらに何をしなければならないか理解していないようだった。ウィーンは、セルビア政府が、単なる役人としてのならず者ではなく、有罪であることを他者に説得するには、さらに何をしなければならないかを理解していなかった。

　ウィーンのロシア公使ニコライ・シェベコは独自の調査を開始した。彼はM・A・ガガーリン王子をサラエボに派遣した。ガガーリンは、地元のハプスブルク当局者による警備のほぼ完全な欠如に衝撃を受けた。ガガーリンは、彼らがセルビア人を非難することで自分たちの無能さを隠蔽しようとしているのではないかと疑った。

結局のところ、暗殺者らがセルビア人ではなかった、ということだ。 彼らはオーストリア＝ハンガリー帝国のボスニア出身のハプスブルク家臣民であった。ガガーリンには、もしもセルビア人が大公殺害をしようと企てていたら、（オーストリアは）もっとうまく対処できただろうにと思われた。（訳注；純粋なセルビア人が大公の命を狙っていたのであれば、もっと警備は厳しくなっていたことだろう）。

　オーストリアが発見した証拠をオープンにしていれば、ガガーリンの懐疑は払拭されたかもしれない。しかし、公式捜査は引き続き秘密裏に行われた。もしそうでなく、オーストリアが、セルビアは王族殺害を目的としたテロリストの中継地である、とロシアに確信させていたら（訳注；そのためには犯人が純粋のセルビア人である必要があったかもしれないが）、ロシア皇帝はオーストリア＝ハンガリー帝国やドイツとともに、国王殺害に対して同盟を結んだかもしれない。（c.f. 夢遊病者たち p627）。そうであれば、1914年には戦争はなかったであろう。他の年に戦争となったかもしれないが。

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