第一次世界大戦年表
オーストリア＝ハンガリー二重君主国による「最後通牒」（1914 年 7 月 23 日）再考 ─ F. ヴィースナーの『覚書』にみる開戦決断の背景 ─

PART EIGHT
THE MYSTERY SOLVED
p256
CHAPTER 44: ASSEMBLING IN THE LIBRARY

1914年に勃発した戦闘の状況を調査した結果、ある意味で殺人ミステリーのような発見が得られた。そこには、誰がやったのかという単純な疑問がある。引き金を引いた少年の背後に誰かがいたとしたら誰がいたのかということである。また、誰がそれを行ったのかという複雑な問題もある。もし誰かがいたとすれば、既存のヨーロッパの秩序を破壊するような方法で、結果として生じた状況を意図的に操作したのは誰なのかということである。

　第一次世界大戦後に生まれた世代、特にイギリスで非常に人気となった古風な探偵小説は、生き残った登場人物全員が 1 つの部屋に集まることで終わることがよくあった。そこでは、船のラウンジ、ホテルの宴会場、カントリーハウスの図書室で、アガサ・クリスティのエルキュール・ポアロかそれに似た私立探偵が実際に何が起こったのかを説明し、誰がやったのかという究極の質問に答えたことだろう。

　私たち自身の探求において、私たちが集まって要約する部屋は必然的に図書館でとなるだろう。 7月危機に関与した人々はもう誰も生きていないのだ。彼らは私たちの質問に直接答えることができなくなってしまった。

第二次世界大戦の初期に亡くなったイタリアの歴史家ルイージ・アルベルティーニは、おそらく1914年の出来事について、目撃者や容疑者から供述を聞き出すという探偵のような方法で捜査を行うことができた最後の研究者だった。彼らに質問し、彼らの説明を比較し、矛盾や不一致を追求している。彼の本は警察的な手続きに関する最後のものである。

　1960 年代に始まり、考古学者が野外で発掘するようにアーカイブを掘り起こしたフリッツフィッシャーの先駆的な研究の出版により、新しい時代が始まった。彼の例に倣い、発見がもたらされた。記憶は失われていたが、ファイルは見つかった。現在、毎年、10年ごとに情報開示が行われ、新たな洞察が得られ、隠れていた文書が回収されて白日の下にさらされている。もはや、参加者が私たちに語りかけるのではなく、文献が語りかけるのである。

　第一次世界大戦の起源については何千冊も書かれているが、そのうちフィッシャー以降の時代の 50 ～ 100 の資料を総合すると、その主要な詳細においては、1914 年のあの独創的な夏に何が起こり、その影響で私たちが今も生きていることについての真実の説明が得られる。

CHAPTER 45: WHAT DID NOT HAPPEN
p259
フィッシャー以後の時代、学者たちは第一次世界大戦の起源についてかつて信じられていた意見の多くを修正した。しかし、学問は広く一般の人々の意識に効果的に浸透していない。 1914 年 7 月の出来事について人々が言い続けていること、考えていることの多くは、現在、学者によって疑問視されたり、議論されたりしている。

　最新の説得力のある研究によれば、通りにいた人が当時そう信じていたようなこととして、なおかつ後にイギリス人や他の人たちが書いたようなこととして、1914 年 6 月の）ヨーロッパ世界が、大国間の敵対行為の勃発が予期せぬ形で起こったような一種のエデンの園であったというようなわけではなかった。

それどころか、政治エリートや軍事エリートが認識していたように、ヨーロッパは前例のない軍拡競争に陥っていた。すなわち（ヨーロッパの） 内部の諸列強は、暴力的な社会的、産業的、政治的紛争の犠牲者であった。 そして参謀たちは戦争が起こるかどうかではなく、いつどこで起こるかについて絶えず語っていた。

　新たな問題点さえも、驚くべきことではなく、事前に見分けることができた。欧州各国の首相らは、不安定なバルカン半島ではすぐに二回目戦争が引き起こされ、オスマン帝国が欧州から完全に消滅する可能性があると予想していた。ドイツの指導者たちは、ハプスブルク帝国も同様に崩壊するのではないかと懸念していた（そしてロシアの指導者の一部はそれを望んでいた）。

オーストリア＝ハンガリー帝国はスラブの潮流を抑えられないのではないかと懸念していた。ドイツは軍事計画を加速させるために持続不可能な税率で税金を徴収していた。まるですぐに戦争を始めてすぐに休戦するかのように見えた。誰にも分からなかったのは、戦争がいつ起こるか、つまり何年先か、さらに言えば何十年先かということだった。

p260
　1914 年の夏に武器をとったヨーロッパは、穏やかで平和な場所ではなかった。ヨーロッパは千もの敵意によって引き裂かれ、著しく好戦的であった。(訳注；一般的な見方では、第一次大戦直前の欧州は、非常に平和に見え、とても世界大戦が起こるような雰囲気ではなかった、とされているが・・・）

少なくとも私の見解では、戦争への行進が1914年6月28日にサラエボで始まったということも事実ではなかった。

ベルヒトルトとオーストリア外務省が、オーストリア＝ハンガリー帝国はセルビアを破壊しなければならないと確信させたのは、第二次バルカン戦争（1913年）とその余波だった。ウィーンがサラエボ事件の2週間前にセルビアを潰すための覚書（マチェコ覚書）計画の草案を書き始めていたことは、忘れられないだろう。(c.f.p269)

　ドイツに関して言えば、1905年以降のロシアの軍事力、鉄道力、産業力の増強により、将軍たちはロシアとその同盟国であるフランスに対して予防戦争を開始したいという切実な願望を呼び起こした。

だからこそ、彼らは 1905 年を残念そうに振り返った。その年、ロシアもフランスも一時的に無力であり、容易に敗北する可能性があったのだ。したがって、ドイツの動きの根源は、軍指導者たちが初めて予防戦争を主張し始めた1904年から1914年の10年間に遡ることができる。この動き自体は、1914 年 7 月の最終週に突然起こった。そのとき、彼らはチャンスを掴み、長い間夢見てきた予防戦争を引き起こすことを選択したのである。（訳注；ドイツ性悪説）

6月28日の殺人事件の余波を受けて、ウィーンはそれらがセルビア国によって考案され、組織された陰謀の産物であると信じた。それはまったく真実ではなかったことが判明した。セルビア国はある程度の責任を負ったが、すべてではなかった。

　すでに見てきたように、この殺人は一人の人物、ボスニア人、したがってセルビア人ではなくオーストリア人によって犯されたのだった（訳注；c.f.ｐ１52　ガブリロ・プリンツィプは1894年にボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人農家の息子として生まれた）。彼はおそらく（確実ではないが）他の人たちの支援を受けながらも、自らの意志で行動した。（ただし）彼の行為は、セルビア軍の反体制派将校らの支援によって可能になったものであることが現在確認できている。

　1914年6月28日日曜日の早朝、サラエボでオーストリア大公フランツ・フェルディナンドを殺害した銃弾が、男子学生テロリスト、ガブリロ・プリンツィプが使用していた武器から発せられたものであることに疑問の余地はない。

　プリンツィプは捕らえられてから数日間は違うと主張していたが、完全に単独で行動していたわけではない。彼が最後まで主張したように、フランツ・フェルディナンド殺害のアイデアを発案したのは彼かもしれないが、彼はチームを率いていた。他の人たちは彼と同じように、国家主義者や非主流派のイデオロギーに動機付けられた若いアマチュアであった。彼のバンドの別のメンバーも暗殺を試みたが失敗した。結局プリンチプは単独で行動した。第三弾はなかった。草の茂った丘はなかった（訳注；ケネディを暗殺したオズワルドは大統領の後ろ側からライフルを撃ったが、前方にある grassy knoll と呼ばれる草むらに別の犯人が潜んでいて発砲したという説がある。つまりプリンツィプは完全に単独犯であった、ということ）。

p261
　この暗殺計画は、セルビアの秘密結社「黒手組」による不可欠な支援がなければ成功しなかった。武器の提供、射撃訓練、国境や税関を越えてプリンツィプと同僚をセルビアからボスニアへ密入国させるための「地下鉄」の利用など。一方、黒手組はセルビア政府の下級役人やセルビア民族主義文化団体Narodna Odbranaの資金源への支援を呼び掛けた。

　黒手組の現役トップであったアピスとその副官たちは、セルビア政府に潜んでいた高位の陸軍将校であった。それは首相に対抗する、共謀する軍事政治派閥であった（訳注；アピスはパシッチ首相の政敵だった）。したがって、アピスは彼らがしたことに対して責任を負わなかった。

　ロシアがブラック・ハンドとサラエボの陰謀者に資金援助を提供したという噂は当時、そしてその後数十年間にわたって広まったが、これらは根拠がないようである。汎スラブ信仰を持つ下級武官たちは、アピスのプリンツィプへの援助を知っていて同情を表明したかもしれないが、彼らはこの問題に関して政府を代表していない個人だった。バルカン半島のロシアの汎スラブ人であるHartwig駐セルビア公使は、黒手組に対抗してパシッチ首相を支持したが、確かにそうすることで、ロシアによるテロチームへの援助の可能性は排除されただろう（訳注；ロシアはセルビア”政府”を支持していた）。

　プリンツィプがフランツ・フェルディナンドを殺害したのは、さまざまな誤解された理由からだった。大公はハプスブルク家の中で最も親スラブ派の人物であったが、若者たちは大公が反スラブ派であると信じていた。プリンツィプは、フランツ・フェルディナンドが視察していた毎年恒例の軍事演習が、セルビアへの奇襲攻撃を開始する侵略軍の正体を隠しているのではないかと懸念していた（事実はそうではなかった）。プリンツィプは、（フランツ・ヨーゼフの）後継者が穏健派で、その魅力的な政策により、バルカン半島のスラブ人全員がオーストリアの支配下に置かれてしまう可能性があると聞いていた。

　他のテロリストと同様に、プリンツィプも政府指導者を殺害すれば支配階級の士気を低下させられると信じていたに違いない。彼は大公の到着予定について尋ねる前に、別のハプスブルク家の役人を暗殺することを望んでいた。

p262
　プリンツィプの行動を促したアピスは、フランツ・フェルディナンドが支持する政策についてプリンツィプ以上の情報を持っていないようだったが、アピスの動機の問題はもっと複雑である。

A・J・P・テイラーが指摘しているように、プリンツィプと彼の学生時代の友人たちは、彼らが黒手組のエージェントたちに名を連ねていた当時、殺人者集団として信頼を得ることはほとんどできなかったはずだ。彼らは軍事訓練や経験がなく、兵器についての知識も持たない青年でありアマチュアだった。ヨーロッパで最も厳重に警備されていたはずの政治的存在のひとりだった人のボディーガードをどうやって突破するつもりだったのだろうか？実際、プリンツィプの陰謀を成功に導いたのは、おそらく予想もできなかった一連のへまと偶然だけだったのである。

　テイラーが示唆したように、アピスが十代の無能な若者たちの小集団の計画を進めることにしたのは、”彼らが計画を失敗させるだろうと考えた”からではないだろうか?

もしそうなら、オーストリアに行動を起こす口実を与えることもなく、この暗殺の試みは、特に来たる8月14日の選挙において、アピスの政敵であるセルビア首相に深刻な当惑を与えたかもしれない。

これまで世界は常にサラエボ殺人事件を国際問題の一エピソードとして考えてきたが、当時はむしろセルビア国内政治における策動として意図されていた可能性がある。

6月28日の暴挙から7月28日のセルビアに対する宣戦布告までのオーストリア＝ハンガリーの行動は、罪を犯した者を罰したいという願望に触発されたものであると広く信じられていた。批評家らは、ウィーンが判断を急ぐのは早すぎ、不十分な証拠に基づいてセルビアを非難したと主張した。

　実際、今私たちが知っているように、オーストリア・ハンガリー帝国は、セルビアが殺人の罪があるかどうかなど気にしてはいなかった。むしろ、宮廷の人々は暗殺をほとんど歓迎さえしていた。オーストリア＝ハンガリー政府は、大公とその妃の死に怒りも悲しみもなく、むしろ、大衆的人気のなかった夫妻があまりにも都合よく現場から排除されたことに安堵していた――—とにかくやろうとしていたことを実現させるための言い訳として、6月28日の出来事を利用した。

さらに都合の良いことには、この暗殺は、オーストリアのセルビア攻撃計画の成功に不可欠であったドイツの支援を確保する機会を提供した。 6月28日の時点で欠けていたのはドイツの承認だけだった。

p263
　皇帝ヴィルヘルムは、通常であればオーストリアの（セルビアへの）侵略を支持することを拒否したことだろう。彼は以前にもそのような支援を拒否していた。しかし、彼は――事実上一人で――友の殺害に心から憤慨した、あるいは少なくともそうであるように見えた。明らかに彼は心を奪われた。ホメロスの神像であるアキレスのように、彼は考えを変え、親友に復讐するために戦争を選択したのである（『イリアス』の主人公アキレウスの怒りは何を意味するのか参照）。

その後歴史家の間では、サラエボでの暗殺は、（オーストリアが）セルビアと戦争をするための口実であったとすることが通例となった。それらは口実ではあったが、”単なる”口実ではなかった。この殺人自体が重要なのであった。なぜなら、大公を排除し、カイザーの考えを変えることによって、ハプスブルク政府は、セルビアを潰そうとする動きを止め続けたであろう二人の反対を無力化したからである。

セルビアとの戦争に向けての次の重要な出来事は7月5日から6日にかけて起こった。この時、カイザーウィルヘルムとドイツ政府は、オーストリア＝ハンガリーに白紙小切手を切った。

当然のことながら、歴史家たちはこれを非難した。すなわち、政府にはその決定に責任があるのに、白紙小切手は一方の意思決定者（カイザー）には責任のない権限を与え、もう一方の意思決定者（政府）には権限のない責任を与えることになったからである。

　しかし、ドイツには白紙小切手を発行した愚かさを後悔する理由もなかった。実際には、小切手は決して使用されなかったのだ。乱暴に言ってしまえば、オーストリアは同盟国のために無謀に（戦争という）決断を下す代わりに、ドイツからの命令を受け続けたのだ。

ベートマン独首相は、ベルヒトルト・オーストリア外相とその政府が従うことを約束した侵略戦略（fait accompli）を考案した。そしてそれに続く「局地化」外交キャンペーンを開始したのはウィーンではなくベルリンだった。

　確かに、7月下旬にカイザーが命令したときにオーストリアが戦争を中止しなかったのは事実だが、7月28日にオーストリアがセルビアに宣戦布告をしたのは、ドイツの外務大臣がそうするように言ったからである（c.f. p210,219）。

白紙小切手は支払いのために提示されることはなかったが、その発行が見当違いであることがわかったと言うのは間違いである。フランツ・ヨーゼフ、ベルヒトルト、コンラッドがセルビアとの戦争につながる道を歩み始めたのは、ひとえにそれ（白紙小切手）が提供する安全のおかげであった。

p264
　白紙小切手を渡すことを決定したのはカイザーだった。彼の軍と文民の指導者たちはこの決定を承認し、それに対する彼の責任を共有した。 1914年から1918年にかけての戦争で連合軍が向けたあらゆる憎悪に対して（「カイザーを吊るせ！」は、英国で人気のチャントであったが）、戦争勃発の主な責任者たちの中では、カイザーが唯一敬意を払われたのである。

　カイザーは、大声で威圧的でバランスを欠いた君主であったにもかかわらず、祖国とヨーロッパを戦争に導きたくなかった。それどころか、彼は彼の国の政府内での平和の主要な力であった。ヴィルヘルムとフランツ・フェルディナンドはヨーロッパで最も不作法な公人であったが、彼らは短気な人々を抑制し、最終的には常に平和を選択した人物だった。

フランツ・フェルディナンドが永久に、ヴィルヘルムが一時的に意思決定プロセスから外されて初めて、戦争推進派はチャンスの窓が開いていることに気づいた。白紙小切手の問題においてさえも、カイザーは自分が列強間で戦争を始めているとは信じていなかった。彼はオーストリアにセルビアとの戦争を奨励しているが、他の大国は戦争をしないだろうと信じていた。彼はそれを確信しているようだった。

歴史家たちがサラエボ事件から世界大戦までの 37 日間に付けた名前、つまり「7 月危機」は、誤解を招く傾向がある。それは日に日に緊張が高まっていったことを示唆しているが、前述したように、事実はそのように展開したわけではない。

　7月5日から6日にかけて行われた白紙小切手の会議とその決定は秘密事項であり、その後ドイツとオーストリア政府はセルビアを崩壊させるための準備が全く進んでいないように装うことに成功した。そのためヨーロッパは、そうした企みには気づいておらず、警戒もしていなかった。危険が増大するかどうかもわからなかった。

　オーストリアのセルビアに対する最後通牒のコピーは7月23日か24日に届けられ、危機が爆発し始めたのはその時だった。ロシアとイギリスにとっては（コピーの手渡しは）7月24日だった。フランスの場合、ポアンカレとヴィヴィアーニがロシアから帰国したのは、ほぼその一週間後だった。

7月23日にオーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに対して出した最後通牒はヨーロッパに衝撃を与えた。こんなものを受け入れたら、どんな国だってその後独立を維持できないはずだ、という意見が当時広く広まっていた。

p265
　しかし、残酷な20世紀の経験の後、歴史家は冷淡になった。彼らはもはやオーストリアの要求が法外であったとは考えていない。（訳注；たとえば、夢遊病者たちp683参照。そこでは、「オーストリアの（最後）通牒は、例えばNATOがセルビア＝ユーゴスラヴィアに提示した最後通牒よりもずいぶん穏当なものである」とある）

だが私たちはやはり、時の経過には異を唱える。（オーストリアは）セルビアに最後通牒を突きつけるべきではなかった。 しかし、私たちはセルビアにも大きな責任があると考えている。

　セルビアはテロ集団を匿い、おそらくはテロ集団を養っていた。そこはハプスブルク家の後継者となるべき人物を殺害した暗殺部隊の拠点および訓練場だった。さらに、セルビア国民は明らかに暗殺を喜んでいた（訳注；なにせセルビア人は、1903年に自らの国王が暗殺された時でさえ、喜んでいたのだ。c.f. 夢遊病者たち p39）。

　セルビアに侵攻し、テロリストの兵站支援を解体し、オーストリアへの攻撃を支援した組織を解散させ、有罪者を裁判にかけようとしたオーストリアの（厳しい）決定には、21世紀の（新しい）響きがある。 2001年、米国政府はNATO同盟国の援助を得て、新千年紀の初めにアフガニスタンでも（タリバンに対して）同様の行動をとった。

　各国政府が、自国の領土を軍隊が他国を攻撃する基地として使用することを阻止しなければならないのは国際法の基本だ（訳注；ベトナム戦争で在日米軍基地使わせた日米安保条約は例外？）。しかし、政府が自国の領域内で法律を執行することに無力な場合、つまり自国の領土が他国に害を及ぼすために使用されるのを防ぐことができない場合、その政府はこの点で主権の権利を失い、被害を受けた外国は自国の軍隊を送り込むことができる。軍隊は犯罪者を処罰し、さらなる攻撃を阻止する。 1916年のビジャによる米国領土襲撃の後、ジョン・パーシング将軍率いるアメリカ軍がパンチョ・ビジャの一団をメキシコに追跡するよう命じられたのは、その権利の行使であった。

当時、セルビアはその返答でオーストリアの条件のほぼすべてに同意したと考えられていた。だが歴史家はもはやそれを信じていない。

　8月14日、激動する民族主義国の有権者を前に、パシッチ首相は自分がほとんど譲歩していないことを彼らに納得させる必要があり、一方でウィーンへの返答では要求されたほぼすべての譲歩に同意する姿勢を示さなければならなかった。（二律背反の態度が要求された）。したがって、この文書は曖昧なものとして起草された。

　一部の歴史家らは、ロシアがパシッチに全面降伏を回避するよう促したと非難している（訳注；たとえば、夢遊病者たちp691、Mc Meekin JULY1914　Count down to war p184参照）。だが現在の見解では、ロシアはそのような助言は与えておらず、むしろセルビアにオーストリアと和平を結ぶよう奨励したとされている。

p266
　理解すべき点は、パシッチが最後通告に対して何を書いたかは問題ではなかったということだ。オーストリアは、それが何であれ、セルビアの返答を受け入れないと事前に決めていた。実際、この最後通牒は、セルビアが受け入れることを事実上不可能にすることを目的として起草されたものであった。

オーストリアは7月5日から6日までと同様に、ゆっくりとしかしまっすぐに前進を続けた。 7月23日にセルビアに最後通牒を言い渡し、7月25日にセルビアの返答を拒否し、7月28日にセルビアに宣戦布告した。その後、敵との交戦に備えるための措置を講じた。

　1914 年のヨーロッパ世界の政治構造、特に厳格すぎるとされる同盟システムが紛争を拡大させ、大国を巻き込んだのではないかと長い間広く信じられてきた。だが振り返ってみると、それは真実ではなかったようだ。イタリアは三国同盟でドイツとオーストリアと結ばれていたが、1914年には中立を維持し、その後連合国に加わった。(訳注；イタリアは1914年8月1日、局外中立を宣言したが、1915年4月2６日、連合国に立ち対独参戦を行う秘密条約（ロンドン条約）が、イギリス・イタリア間で締結された）。

一方、イギリスはフランスおよびロシアと同盟条約を結んでいなかったが、それでも彼らと団結した。したがって各条約は、どの国がどちらの側で戦うことを決めることを決めたのではない。

同盟・協定が各国を戦争に巻き込んだわけではない。 むしろ、同盟システムは（ベートマンの秘書クルト・リーツラーが述べたように）冒険主義を抑制し、平和に導くものであった。というのは、各国は、そのうちの一国だけが重大な利益を持っている問題に関して、同盟国が危険を冒すことを思いとどまらせる傾向があったからである。フランスは通常、バルカン半島ではロシアを戒め、一方ロシアはモロッコではフランスに警告した。パートナーはお互いの喧嘩をしたくなかったので、お互いを引き締めたのだ。

　条約は通常、防衛的なものであり、一方の国が、他方の国が攻撃された場合にのみ援助を約束する。それが1909年に決定的に変わった。1879年の独墺同盟の文言を無視して、モルトケは政府の支援を受けて、戦争が始まった場合でさえ、ドイツはオーストリアに味方する義務があると主張した（c.f. p74）。

　1914年にヨーロッパ秩序の転覆をもたらしたのは、同盟国を支援するこうしたドイツの気質が、正しいか間違っているかに関係なくあったからだろうか？そうだったかもしれないが、実際にはそうではなかった。ドイツはオーストリアの攻撃性を盲目的に支援したわけではない。オーストリアを攻撃的に導き、より速く、より速く行動するよう命令した。オーストリアの同盟がドイツを戦争に引き込んだわけではない。 ~~オーストリアを戦争、つまりロシアとその世界的同盟国に対する戦争に駆り立てたのはドイツの同盟であった。~~

p267
では、戦争を引き起こしたのは何か？それとも誰か？

　7月31日午後、ドイツが交戦開始の準備をしていたとき、ベートマン首相は閣僚への演説の中で、次のように締めくくった。「ロシアを含むすべての政府と大多数の国家はそれ自体平和的だが、状況は手に負えなくなっていた。」

　”状況は手に負えなくなった！” そこに一番説得力のある説明があった。それは公正かつ公平に聞こえ、これにより、政治家たちの責任が免除され、彼らの多くは実際に非難を免れた。そして何よりも、何が戦争の原因になったのか、そしてその文脈での「原因」が何を意味するのかという、さもなければ不可解な疑問に対してもっともらしい答えを提供してくれた。しかし、歴史家のマーク・トラクテンバーグらが強く主張しているように、意思決定者たちは自らの行動がもたらす結果を”理解していた”ため、そううまくはいかないことだろう。

　フランス、ロシア、セルビアが状況を完全にコントロールできていなかったのは事実だ。彼らは皆、平和を維持したいと考えていたが、それは彼らにとって選択可能な選択肢ではなかった。しかし、1914 年の夏に彼らに戦争が強制されたのは、動員の予期せぬ結果や鉄道時刻表の緊急性、同盟システムの要件のためではない。彼らが攻撃されたからである。彼らはドイツとオーストリアから攻撃を受けた。

　戦争を引き起こしたのはロシアの動員の決定だったと言われることが多い。それは他の状況ではそうだったかもしれない。だが1914 年夏の状況では、それは真実ではなかった。ドイツ政府は、ロシアが動員される前に戦争をすることを決定していた。したがって、ドイツの決定がロシアの決定によって引き起こされた可能性はない。そして、ドイツの指導者（の一部）はロシアの動員を恐れるどころか、それを望んで待っていたのだ。そのために、彼らは言い訳が可能となり、自国民の不可欠な支援を得ることができたのである。

　ロシアの外務大臣サゾノフは、もしロシアが動員をすればドイツがロシアを非難して宣戦布告するであろうことは知っていた。そして彼は、ロシアが動員しなくてもドイツは全く同じことをするだろう、つまり、ドイツはロシアを非難し、宣戦布告をすることだろう、と確信するまでは動員を選択しなかった。したがってサンクトペテルブルクでは、動員の問題は軍事的措置としてのメリットのみに基づいて検討されなければならなかった。

p268
もし証拠が示すように、オーストリア＝ハンガリー政府が意図的にセルビアに対して戦争を強制し、いわれのない攻撃を開始することで戦争を始めたとしたら、そしてもし証拠が示すように、ドイツ政府が意図的にロシア、フランス、ベルギーに戦争を強制し、いわれのない攻撃を開始することで戦争を始めたとしたら、オーストリアとドイツは戦争罪で有罪判決を受けるべきだったということであろうか?　否、1914 年の世界ではそうではなかった。

　この文脈における罪悪感は戦後の概念であり、戦前の概念ではないのだ。 1914 年の第一次世界大戦まで、戦争は通常の国際活動であった（訳注；当時の戦争は、今日の交通事故並みの扱いだった）。たとえば、セオドア・ルーズベルトは、先に引用した文章の中で、戦争は健康的で望ましいものであるかのようにさえ考えていた。（むろん）私たちはもはやそのようには感じないが、1914 年の人々を彼ら自身の基準ではなく私たちの基準で判断するのは不公平であろう。

　さらに、モルトケと彼の同僚、そしてベルヒトルトと彼の同僚は、自身では、避けられた戦争、すなわち彼らが関与しなければ起こらなかったであろう戦争を始めることは考えもしていなかった。彼らが見たところでは、彼らは1914年の戦争を誘発しただけであり、いずれにしても後年には起きたはずなのであった。彼らが責任を負っていたのは紛争の”タイミングだけであり”、紛争そのものではなかったのだ。
　
　最後になるが、ドイツとオーストリア＝ハンガリーの小さな統治層だけが、それぞれの戦争を引き起こした責任を負っていたのであり、彼らが導いていた人民たちは戦争とは何の関係もなかった。（訳注；民無謬論のこの見方はかなり左に偏っていると言えよう）。

ドイツのシュリーフェン計画の厳格な要件は、時を刻む時計のように容赦なく、ドイツを、ひいてはヨーロッパを戦争に追い込んだ、とかつて言われていた。それが多くの文献のテーマであった。「計画」という言葉の適切な意味において、シュリーフェン計画は存在しなかったことが今でははっきりしている(c.f.p34)。シュリーフェンがメモの中で想像していたものは、単なるシナリオにすぎなかった。ドイツはシュリーフェンのメモではなく、モルトケの作戦展開計画に従って戦争を開始したのである。

p269
CHAPTER 46: THE KEY TO WHAT HAPPENED

1914 年の遠い昔の夏には多くのことが起こった。この夏は、さまざまな意味で今も私たちの中にある。問題は、何が世界大戦を引き起こしたのかということなのである。

　物語には常に不可解な側面がある。ある意味、それはただ期待されただけであった。膨大な量の重要な証拠が破棄された。なぜならそれらは、我々の疑問に十分な回答を与えてくれたから。

しかし、我々に近いポストフィッシャー世代の偉大な学者によって、過去の多くがリカバリーされ、今では私たちが正しく理解しているという合理的な確信のもとに、空白が埋められてきている。

　私たちは、オーストリアとセルビアの間の紛争がどのようにして勃発したのかを知っている。オーストリアは、ベオグラードでのクーデターがバルカン半島王国の方向性を変え、セルビアをオーストリアの衛星国からロシアの同盟国に変えた1903年以来、セルビアを恨んでいた。 1913年に終結したバルカン戦争で、オーストリアが（戦争の結果強くなり過ぎた）セルビアに対して致命的な恐怖を抱いたことは知られている。

記録によれば、1914年6月中旬、ハプスブルク外務省は長官の命令を受けて、セルビアの脅威の排除を求める覚書（マチェコ覚書）を作成中だった。この計画にはドイツの支援が必要で、そこに問題があった。というのは、1914年6月中旬にドイツ皇帝がオーストリアを全面的に支援するよう求められたとき、彼はそうすることを拒否したのである。

p270
　覚書が起草されたのと同じように、フランツ・フェルディナンドとゾフィーの完全に偶然の暗殺は、カイザーの考えを変えるきっかけとなる感情的に強力な議論を提供した。それはまったくの偶然だったが、その結果、ヴィルヘルムとその役人たちは、わずか数週間前にはカイザーが許可を拒否していた白紙小切手を、7月5日から6日にウィーンに差し出した。

　当時、白紙小切手は、今振り返ってみるとそれほど運命的な約束ではなかったようである。ドイツが講じたのは、オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに対して行動を起こしている間、他の欧州列強が干渉しないようにすることだけだった。

カイザーとその多くの役人は、（オーストリアを援助する）公約を行うことに何のリスクも感じなかった。彼らは、オーストリア＝ハンガリー帝国が迅速に行動すれば、他の国々は何もしないだろうと絶対的に確信しており、それには十分な理由があった。他のドイツ当局者、特にファルケンハイン陸軍大臣は、オーストリア＝ハンガリー帝国が行動を起こさないゆえに、ドイツは何も求められることはないだろうと信じていた。

　7月5日と6日の会談を終えて、他の主要人物は、それぞれに休暇に入った。（c.f.McMeekin The RUSSION ORIGINS of the First World War　p43）　カイザー・ヴィルヘルムは、オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアを排除するまでに1週間から3週間かかると見積もっていた。

3週間後、休暇から戻ったドイツ軍指導者らは、最悪の疑惑がはっきりしたことに気づいた。彼らが不在の間、オーストリアはセルビアにとどめを刺していなかったのである。ハプスブルクの軍の指導者コンラッド（参謀総長）は再度の延長をしたが、自軍は数週間は行軍の準備が整わないだろうと見積もった。彼はその日付を8月12日に設定した。（c.f.p300 )

　7月の最終週にドイツの将軍たちが相互に非公式協議を開始するために戻ったのもこのような状況だった。

これが、20世紀初頭におけるオーストリアとセルビアの死闘の物語である。それがどのように始まり、どのようにして運命の結末に至ったのか。決闘はどう終わったのか？

重要なのは、この質問がほとんど聞かれないということである。（フェルディナンド夫妻殺害後１か月が経過した） 1914年7月の最後の週、ヨーロッパはオーストリア・セルビア戦争への関心を失ってしまったようだ。 （フェルディナンド夫妻殺害は）もう役割をはたしてしまったのだ。（これから進むべき）道は準備された。その後、（この問題は）雲隠れした（c.f.p300 )。

7月の最終週にベルリンで繰り広げられたこのドラマの主役はドイツ軍の指導者たちだった。ファルケンハインはカイザーに対し、事態はもはや皇帝の手から離れていると告げており、カイザーは少なくとも部分的にはそれを受け入れたようだ。しかし、別の時には、彼はあたかも自分が責任者であり続けているかのように振る舞い、話していた。軍事クーデターは発生していなかったが、カイザーと首相は週後半になって、将軍らの意見に従うことを決めた。

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　7月末に変わったのは、軍が積極的に介入してきたことだった。白紙小切手は皇帝の方針だったが、彼の将校らはそれに異議を唱えなかった。そして、オーストリアがその目標をどのように達成すべきかについてのアドバイスは、民間人である首相によって策定された。ベートマン首相の計画は、オーストリアがセルビアを迅速に粉砕する侵攻（fait accompli）を開始し、他のヨーロッパ諸国が干渉したり反対したりする前にそれを達成するというものだった。それは権力者らがそれが起こり始めていることに気づく前に行われるべきだった。オーストリアのパフォーマンスを監視するのがベートマンの役割だった。だがオーストリアはパフォーマーにならなかった。今や、軍の最高指導者たちは独自の計画を提案していた。

　モルトケは、ロシアとの戦争は避けられないと常々信じていた。それはドイツ人とスラブ人の運命の出会いであり、時（の理）はロシア側にあった。だからドイツは予防戦争をできるだけ早く開始すべきだと信じていた。これは、7月危機における当時の彼のドクトリンであり、彼の同僚将校一般、そして大参謀全体のそれでもあったようだ。

　しかし、”状況は好ましいものでなければならなかった”。モルトケも同僚も同様によくこのことを言っていた。

必要な状況は何か？

　1911 年のモロッコ危機、つまりアガディール事件において、ドイツはハプスブルク家が単純にはドイツの権益を支持しないことを学んだ。しかし、彼らはドイツが彼ら自身の権益を守るために彼らを支援することを期待するだろう。その意味では一方的な同盟だった。

　プロイセンがドイツ人世界の遺残地域からオーストリアを排除するという目的を達成した（普墺戦争）のは、わずか数十年前のことだった。今や、ベルリンとウィーンは、互いの必要性によって結ばれたライバルであり、その関係の複雑な曖昧さの中に、展開中の出来事の説明が隠されている。

　ハプスブルクとの同盟はドイツの大戦略にとって不可欠であった。 モルトケは戦争の到来を予見しており、ドイツがフランスに没頭している間、最初の数週間はロシアに対する防衛を支援するためにオーストリア＝ハンガリー軍を必要とした。

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　したがって、モルトケが戦争に有利な状況を求めた主な要件は、二重君主制に関わるものであった。紛争はドイツ側ではなくオーストリア側として始めなければならなかった。そうでなければオーストリアはプレイしないだろう。 最初はオーストリアが仕掛けなければならなかった。

その争いは、ロシアを刺激するものでなければならなかった。 当初、ドイツはオーストリアの保護者としてのみ紛争に参加する予定だった。その結果、ロシアはドイツを攻撃する必要がある、あるいは少なくともロシアが攻撃したようにドイツ国民に見せる必要があった。

●同時に起こっていた２つの戦争
　7月末にベルリンにいたドイツ軍の将軍なら誰でも、全く幸運にも星々が正しい位置にあり、今後、星座がこれほど左様に有利になることはまずないことを理解できていた。モルトケはそう言った一人だった。

　そのため、7月最終週にベルリンの将軍たちは戦争を扇動していたがそれは、――①セルビアを狙ったオーストリアの戦争ではなく、②ロシアを狙ったドイツの戦争だったのだ。

　1914年の戦争の起源に関するあらゆる種類の質問に答えようとして、何十年にもわたって歴史家を当惑させてきたように見えるのは、その夏には1つではなく2つの戦争（①オーストリア・セルビア戦争　②ドイツ・ロシア戦争）が提案されていたということである。

　さらに、この二つの戦争は互いに完全に矛盾していたわけではなかった。モルトケとコンラッドがお互いに完全に率直に話せなかったことに含みがあった。ひとたび敵対行為が始まれば、コンラッドがセルビアを粉砕するために利用可能な（ドイツの）全軍隊を必要とする一方、モルトケはコンラッドの全軍隊がロシアを撃退することを望んでいたことは明らかだった。

　（そして）それぞれが、時が来れば、相手が戦争を放棄することを望んでいた。 コンラッドは、オーストリアがセルビアを破壊している間、ドイツが実際にはロシアとは戦わずに、その戦いを先送り（ドイツがオーストリアを助ける）することを望んでいた。モルトケは、ドイツが自身の目標を達成するまで、オーストリアが自身の目標を先送りする（セルビアを攻撃しない）よう主張した。

　ドイツの立場は、7月31日の動員によってはっきりと明らかになった。その日、ヴィルヘルムはフランツ・ヨーゼフに電報を送り、メッセージを送った。そのメッセージは当然のことながら、歴史家のフリッツ・フェルナーの目に留まった。

ヴィルヘルムはフランツ・ヨーゼフに次のように語った。「この厳しい戦いにおいて、オーストリアが主力部隊をロシアに対して指揮し、セルビアに対する同時攻撃によって攻撃を分裂させないことが最も重要である・・・私たちが肩を並べて取り組んでいるこの巨大な闘争において、セルビアはたいした役割を果たしていない。」

それはハプスブルク家の指導者たちが聞きたかったことではなかったので、後に判明するように、コンラッドはしぶしぶ、そしてゆっくりとしか従わなかった。ウィルヘルムからのメッセージは、「"私たちの戦争に専念せよ、なぜならそれは重要な戦争であるから。”あなたがたの”戦争は、、私たちが些細な事柄に注意を向けられる状態になるまで延ばしなさい。なぜなら、それは重要ではない戦争だから。」というものだった。

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2 つの戦争の違いを強調すれば、7 月危機に関して常に問われてきた疑問の多くに答えることができる。。そのうちの1つは、最初からさまざまな装いで登場し、フランツ・フェルディナンドとゾフィーという2人の人物に対して降りかかった、ほとんどの人が何も知らなかった何かのせいで、地球上の人々が戦い、死んでいった理由を説明している。

　その答えは、それが世界の裏側の人々までもが戦って死んでいった理由ではないということである。

オーストリアとセルビアの間の局地戦争はフランツ・フェルディナンドとゾフィーに関係はあったが、第一次世界大戦は関係なかった。つまり、世界大戦は実際には同一の紛争ではなく、ヨーロッパの大国間の覇権をめぐる争いによって引き起こされたのだ。

（欧州で）一番になりたいという願望は、戦争を始める嘆かわしい理由だったかもしれないが、それが列強（の参戦）の動機となっていたことは驚くべきことでもなく、不可解なことでもなかった。ドイツはロシアに追い抜かれないように意図的にヨーロッパ戦争を始めた。

　二つの戦争の起源にはある種の類似点があった。オーストリア・セルビア戦争は、セルビアに対するオーストリアの陰謀が2週間前に計画されていたが、おそらく、サラエボでの殺人事件によって引き金が引かれた。

同様に、ドイツ政府は世界戦争を始める口実に（サラエボ事件を）利用したが、その口実は、ロシアがオーストリア・セルビア戦争に介入する可能性であった。こうして口実には口実が積み重なり、後世の人々の目には塵が投げ込まれた。 2 つの戦争は絡み合っていたが、繰り返しになるが、それらは異なっており、区別すべきものなのである。そして最終的にドイツは、ドイツのいいようにして、オーストリアに自国のための戦争を放棄させた。

　1914年7月、ドイツの将軍たちは数週間の休暇を利用して計画を熟考していた。彼らは（休暇中）出来事から完全に孤立していたわけではなかった。彼らは常に情報を得る手配をしていた。彼らは戦争を求めてベルリンに戻った。それはセルビアとの戦争のためではなかった。それはセルビア危機が彼らに口実を与えた対ロシア戦争のためだった。

　ドイツの将軍が7月23日から27日にベルリンに戻ったとき、ロシアはまだ何もしていなかったことが注目されるべきである。ロシアは介入も干渉もしなかった。彼らは（7月26日に）最小限の事前動員のみを行った。（訳注；このあたりは、McMeekinとはずいぶん見解が異なり、興味深い）

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　つまり、ベルリンの熱を最高点まで上昇させていたのは、その後ではなく1914年に（ドイツ）政府が仏露同盟を攻撃する可能性があるという見通しだったのだ。ドイツの将軍たちはロシアが動員される（7月31日）”前に”開戦を決定していたので、先に指摘したように、戦争を始めたのは（よく言われるように）ロシアの動員ではなかった。言えることは、モルトケが頭を悩ませ、気が変わったかのように見えた問題は、絶対に必要なリエージュを即座に占領するか、それともロシアが動員を命じて（ドイツ）政府に宣戦布告の口実を与えるのを待つかということであった（両極端な想定）。

　ひとたびロシアが動員命令を出せば、地元の比較的小規模なセルビア戦争は無視され、大国の世界戦争が始まる可能性があった。

歴史家は、地元のセルビア戦争がどういうわけか制御不能になり、世界戦争にエスカレートしたと書くだろう。 ”しかし、（そもそも最初から２つの戦争であったので）一方が他方に向かったのではない。それどころか、他方（ロシア・ドイツ戦争）を始めるために一方（オーストリア・セルビア戦争）を脇に置いておかねばならなかった。”

戦争は1つではなく2つ。それが鍵なのである。

マイケル・ハワード卿は、いつもの明晰さで、第一次世界大戦以来、第一次世界大戦の研究者たちを困惑させてきたことを説明した。ドイツの決定には論理性がなかったのだ。軍事計画には本質的な論理性はないというクラウゼヴィッツの意見に同意し、マイケル卿は次のように書いている。

「”セルビアを巡ってロシアと紛争をしているオーストリアを支援するために”、紛争の当事国ではなかったフランスを攻撃し、そのためにベルギーに侵入したドイツ参謀本部の決定には、確かに論理性がなかった。」

　イタリック体の単語を削除すると、謎は解消する。なぜなら、現在私たちは、ドイツが、オーストリアではなく、自身の利害において、ロシアに対して戦争を引き起こしたことを知っているからである。そしてそうとわかれば、ドイツ軍参謀本部の決定には論理性があったことが理解される。

ドイツ指導者たちが7月に策動したのはオーストリアを支援するためではなく、それはまさに逆だった。つまりそれは、ドイツ自身のために、オーストリアからの支援を明確にさせることだったのだ。ドイツの将軍たちは、まずオーストリアを戦争に巻き込み、それから敵を変えるというトリックを実行しなければならなかった。

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　戦争はかなりの程度、矛盾したものだった。しかし、そこには１つではなく２つの戦争があったことをもし理解すれば、そうした矛盾も理解されよう。

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