The RUSSION ORIGINS of the First World War Introduction
The RUSSION ORIGINS of the First World War 1　Chapter 1
The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 1
The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 2
The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 2
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The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 9
The RUSSION ORIGINS of the First World War Conclusion

p59
＜ロシアの動員２＞
　クリヴォシェインが語った「ロシアの死活的利益」は本当にセルビアだったのだろうか？確かに、ロシアの戦略的信頼性を高めるためには、セルビアの独立に対するあらゆる侵害が「ロシアを無関心にしておくわけにはいかない」という皇帝の口頭警告を、少なくともオーストリアに対して動員するという”脅し”をもって裏付けるのは理にかなっていた。

.Turnerが主張したように、もしウィーンがセルビアに宣戦布告した場合、ヨーロッパの紛争開始を完全にウィーンに負わせることになるので、これは政治的にだけでなく、純粋に軍事的な観点からも最善の策だったであろう。ロシアの動員の遅れは、オーストリア軍をバルカン半島に全面的に投入させ、オーストリアはガリツィアを自由に占領できたことだろう。

しかし、動員に対する”表立った”脅威は、1914年7月24日の大臣評議会で決定されたものではなく、むしろロシアの陸軍と海軍の”秘密の”大規模動員だったのである。

結局のところ、サゾーノフとクリヴォシェインが単にセルビアの独立を守りたかっただけなのであれば、なぜ彼らは13の陸軍軍団全体（約110万人の兵力）だけでなく、バルト海と黒海の艦隊も動員したのだろうか？オーストリア＝ハンガリー（さらに言えばセルビア）とのどこかの地点で水域がつながっていただろうか？なぜ彼らは、不気味な響きの「戦争準備期間」が開始された4つの軍区、つまり最近の作戦計画がコンスタンティノープルに対する水陸両用作戦に焦点を当てたA格付けされた地区の中に、カザン、キエフ、モスクワと並んでオデッサを含めたのだろうか?61

　一方、これらすべては、大臣評議会とツァーリが表向きに決議したものにすぎない（まだ公にはされていない。差し迫った軍事動員さえも7月28日まで発表されていない）。サゾーノフは内密に、ヤヌシュケビッチにこれ以上のことをするように言ったに違いない。

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1914年7月25日夜に開催されたロシア参謀本部会議の記録から、オーストリア軍がセルビア国境を越えると4地区の「総動員」が自動的に行われることになっていたことがわかっている。（Mc Meekin JULY1914　Count down to war p247）

一方、モスクワだけでなく、オーストリアとハンガリーの国境から千マイル近く離れた（セルビアからはさらに遠い）都市サンクトペテルブルクも戒厳令下に置かれた。ロシア全土で訓練は中止され、部隊は宿舎に呼び戻された。ロシアの陸軍士官学校に入学した士官候補生はすぐに士官に昇進し、これにより軍の指揮系統の穴を新しい少尉で埋めるだけでなく、「これまで教育活動に精通していた多くの成熟した士官を現場での現役勤務に解放した」62。

ヤヌシュケビッチは、これらすべての任務は「精力的に」実行されるべきであると強調し、必要に応じて動員将校が「『戦争準備期間』規定に定められた境界を越えるために手袋を着用することを許可される」と決定的に規定した。63

その糸口をもとに、ドブロロルスキー将軍は、すでにワルシャワにいたジリンスキーに電報を送り、地区内の全軍隊を宿舎に呼び戻すよう指示していた。7月25日から26日の夜の午前１時には、ワルシャワ地区（つまりロシア領ポーランド）に戒厳令が敷かれた。その夜遅く、午前3時26分にヤヌシュケビッチはワルシャワに電報を送り、明日（1914年7月26日）は「ヨーロッパロシアの全タイヤ地域における『戦争準備期間』の始まり」となり、主要な6つの軍管区地域（ワルシャワ、ビルナ (ビリニュス、つまりバルト海地域)、カザン、キエフ、モスクワ、オデッサ）すべてをカバーすると伝えた。 64

これが実際に意味することは、「ワルシャワ、ビルナ、サンクトペテルブルク地区のすべての要塞が戦争状態に置かれ」、辺境警備隊が強化され、辺境の駐屯地には完全に人員が配置され、検閲と安全対策が強化されたということだった。港では機雷が敷設され、軍の荷物列車のために馬と荷車が組み立てられ、予備役兵の受け入れのために倉庫が準備され、差し迫った動員を促進するためにあらゆる手段が講じられた。」65

7月26日に発足した戦争準備期間はさらに、ヴィスワ川以西のロシア領ポーランドを含む「敵の行動の脅威にさらされている地域における予備役の最も若い3階級の招集」を許可した[66。

ロシアの「意図された部分動員」の網をさらに拡大し、1914年7月27日、ヤヌシュケビッチはティフリス司令部に、オムスク、イルクーツク、トルキスタン、スタン、コーカサス軍管区にも戦争準備期間が発効すると電報を送った[67]。

p61
ノーマン・ストーンは、オーストリアの情報源を引用して、ロシアはオムスクとティフリスでさらに早くから動員を開始していた可能性がある、として、次のように結論づけている。すなわち、「ロシアがかなり早くから動員を開始していたことを示唆する確かな証拠もある。つまり、比較的早い時期に、レンベルク戦役の段階で、オーストリア＝ハンガリー軍の部隊はシベリアとコーカサス地方の部隊から捕虜を捕らえたが、ロシアの重大な輸送上の問題を考慮すると、7月末にのみ動員されたとしても西側にまで到達することはほとんど不可能だったのである。」68

オーストリアの有力な歴史家であるRauchensteinerは、東部戦線に関してこれよりさらに踏み込んで、1914年8月のオーストリア領ガリツィアに対するロシアの動員の予想外の速さは、「ロシア人は7月の初めに向けて動員を開始し、組織的に戦争の準備をしていた」ことを示唆していると主張した。

　この種の初期の秘密動員は、ロシア軍参謀のメンバーと皇帝ニコライ二世による戦争準備期間の理解と完全に一致していた。「それは有利になるだろう」と、秘密軍事委員会は1912年11月21日に、スホムリーノフに報告していた。それは、彼が初めてオーストリアのみに部分動員の命令を作成する直前のことであった。オーストリアのみへの動員であったのは、「戦争はまだ避けられるという希望を敵にまだ持たせておくために、敵愾心を生じさせることなく集中（動員）を完了するためであった。これに対する我が国の措置は、敵の恐怖をできるだけ眠らせるために、巧妙な外交交渉によって隠蔽されなければならない。」70（訳注；夢遊病者たちｐ721、Mc Meekin JULY1914　Count down to war p192)

1913 年 3 月 2 日に皇帝ニコライ 2 世によって署名された公式の「戦争準備期間に関する規則」の文言は、ほぼ同じであった。ロシアの将軍によって規定され、主権者によって承認された戦争準備期間とは、「"開戦に先立つ外交上の複雑な期間"を意味し、その過程で、すべての評議会は、陸軍、艦隊、要塞の動員における安全と成功、そして脅威にさらされた辺境への陸軍の進軍に備えて必要な準備措置をとらなければならない。」　

これらの措置には、重要なことに、辺境師団への予備役の招集が含まれていた（実際には1914年7月26日に行われた）。予備兵力はツァーリの命令ではなく、単に陸軍大臣スホムリーノフの指示によって動員された。

p62
敵の制服と予想される傾向について指示を受けることになる。馬には靴を履き直さなければなりません。これ以上の一時帰休は認められず、一時帰休中または別の場所で休職中の将兵は直ちに所属部隊に復帰することになる。スパイ容疑者は逮捕されることになっている。馬、牛、穀物の輸出を阻止する措置が講じられる予定である。現金と貴重な有価証券は辺境近くの銀行から内陸部まで持ち出される。海軍艦艇は港に戻り、食料と完全な戦争装備を受け取ります。71

　1914年7月25日に始まったロシアのいわゆる戦争準備期間を詳しく調べれば見るほど、それは動員だったように見えてくる。パレオローグにとって、その夜の日記に記録されているように、これは確かに次のようなものであった（ただし、これらの観察結果をパリには報告しなかったようである）。「今晩（7月25日）7時に、私はワルシャワ駅に行って、大急ぎで任地（パリ）に戻るイスヴォルスキーに別れを告げた。ホーム上は大変な賑わいでした。電車は警官と兵士で満員だった。これはまるで動員のように見えました。私たちはすぐに感想を交換し、同じ結論に達した。すなわち、”もはや戦争なのだ”。・・・サンクトペテルブルクとモスクワの都市と政府が包囲状態にあると宣言された。」72

　オーストリア人やドイツ人にとっても、ロシアの戦争準備期間はこのように見えたのだった。1914 年 7 月 26 日の午後 3 時 25 分という早い時点で、ドイツの武官 D. エッゲリング少佐は、キエフとオデッサに動員が命じられたことをベルリンに伝えた[73]。

キエフ、モスクワ、オデッサのハプスブルク領事は、1914 年 7 月 27 日にロシアの動員措置に関する報告書を提出した。74

その日ずっと、ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスは自身の領事から憂慮すべき報告を受けていた。予備役がまだ召集されているかどうかは定かではなかったが（少なくとも辺境師団では実際に召集されていたが）、ロシア砲兵師団の全軍がキエフから西へ行軍し、別の騎兵師団がドゥブノへ向けて出発するのが目撃されていた。

リガからは、ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスは、ドゥナ（ドヴィナ）川に機雷敷設がなされ、すべての車両が軍のために徴用されたことを知った。その日に派遣されたモスクワのドイツ領事からの手紙（ただし、受け取ったのはかなり後だった）には、電信局がドイツ人によるベルリンへの暗号化メッセージの送信をもはや許可していないと報告されていた[75]。

特に懸念材料として、ワルシャワのドイツ領事は7月27日午後3時45分に電報で「全部隊が演習STOPから呼び戻された。騎兵部隊も含む多くの歩兵がブレスト駅経由でルブリンとコーヴェルSTOPに向けて派遣された。一晩中、数百台の軍用車両がブレスト・リトフスクの大通りを行き交いった。昨日、城塞内の砲兵庫が空高く吹き飛ばされた」と打電した。76

p63
脅威の印象を締めくくるのに、ドイツ軍のツァーリ副官フォン・チェリウス将軍は、前夜（7月26日）ツァールスコエ・セローから次のように報告していた。

午後の観閲中に、今夜の演習は中止され、軍隊は[基地に]戻らなければならない、と発表された。サンクトペテルブルク知事のアドラーベルク将軍は（演習を）打ち切り、”「動員」に参加するために出かければならない”と述べた（c.f. Mc Meekin JULY1914　Count down to war p193）。宮廷馬術士官（オーバーシュタールマイスター）のグルンヴァルト男爵は、ドイツに非常に同情的な人物で、夕食時に私の隣に座ってこう言いました、「状況は非常に深刻です。私は今日初めに決定されたことを話すことはできませんが、あなたはすぐに自分の意志でそれを知ることになりますが、まもなくそうすることになるでしょう」それでも、見通しは深刻だと考えるかもしれません。」　グルンワルドは、「幸せな時にまた会えることを願っています」という別れの気持ちを込めてチェリウスに別れを告げ、不気味な発言を締めくくった（c.f. Mc Meekin JULY1914　Count down to war p20３）[77]。

　もちろん、たとえ上記の証拠に基づいて、ロシアが 1914 年 7 月 25 日に秘密裏に軍隊の動員を開始したことを証明できたとしても、これは必ずしもツァーリ政府が戦争を決意したことを証明するものではない。それ（動員時間）が非常にスローであったため、ロシアの総動員は、シュリーフェン・プラン（モルトケによって修正されたもの）の厳しい時間要求が求められたドイツの動員のように、外国の地での即時の敵対行動を伴うことはなかった。[78]
78. ×ロシアの動員は戦争を意味するものではなかったという主張は、もちろん、戦争責任を問うあらゆる論拠にとって極めて重要である。

しかし、この問題は、文献によく出てくるほど、決してクリアカットなことではない。Hamilton and Herwig 編 the Origins of World War Iの「ロシア」に関する記事の中で、David Alan Richは、この問題について、p223に長い脚注を付けている。

ロシアの動員は戦争を意味しなかったというサゾーノフの主張を検証するために、David Alan Richはサゾーノフ自身のドイツ大使への抗議とダニロフの戦後覚書Russland im Weltkriege (1925)とLieven's book on Russia and the Origins of the First World War. を引用した。

David Alan Richは、要するに、ロシアの情報源のみを引用しており、最初の 2人（サゾーノフとダニロフ）は私利私欲的なもので、3番目のLievenは戦争勃発におけるロシアの責任を冤罪とする議論を行っている歴史家であり、彼自身も主にロシアの情報源を使用している。

確かに我々は、ベルリンに対するロシアの動員が「戦争を意味していた」かどうかについて、少なくともドイツからの見方を考慮すべきである。

しかし、まさにこの相対的スローゆえに、早期の極秘の動員命令がロシアにとって非常に重要であったのだ。Bruce Menningが発見したように、1914年4月24日にキエフで行われた戦前最後のロシア参謀本部の戦争演習では、ロシアはM＋16までにヨーロッパの前線に「兵力の半分しか集結できないであろう」と結論づけられていた。それまでに、オーストリアの動員は完了していることだろう。（ドイツの動員はM ＋13までに予想されていた）。ロシア軍の「完全な集結」はM ＋26までになってやっと行われることだろう。ダニロフの計算によれば、ロシアはオーストリアやドイツよりも兵力で20％の優位性があり、銃器ではさらにそれ以上の優位性があることは事実であるが、しかし、ロシアの動員が「ドイツより少なくとも 13 日遅れ、オーストリア・ハンガリーより 10 日遅れていたとしたら、この優位性はほとんど問題にはならないだろう。79

p64
1914 年 7 月 25 日に（あるいはStoneとRauchensteinerが示唆しているように（c.f.p61)それより前に）動員を開始したことにより、ロシアの将軍たちは敵の速度の優位性を相殺するために切実に必要としていた貴重な時間を獲得した。

　一方、ドイツ軍も同様にこの優位性を維持しようと必死だった。Herwigがシュリーフェン計画の必須事項を要約すると、「すべては速度が前提であった…鉄道の動員と展開がわずか 72 時間遅れるだけで、大惨事が起きる可能性がある。」80。

このため、ロシアが早期に秘密裏に動員を行っていたという証拠は、モルトケとドイツの将軍たちを恐怖に陥れるに違いなかった。そして、ある歴史家の推定によると、ドイツ外務省は7月26日から30日までの間にロシアの動員措置に関する28件の個別の報告書を受け取り、「そのうちの16件以上は対ドイツのロシア国境に関連していた」という。海軍本部と参謀本部はこれ以上のものを受け取っていた81。

したがって、7月26日夜、ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレス大使とドイツ武官エッゲリング少佐の両者がサゾーノフに「動員指令に従ってロシア軍数個軍団が西国境に派遣された」との報告を突きつけたとき、サゾーノフはひとりには「保証をし」もうひとり一人には「そのような動員命令は発令されていなかった」という「名誉の言葉」を与えたが、ドイツ人には彼が嘘をついていると信じる理由があった[82]。

確かに、サゾーノフは民間人であったため、動員の詳細についてはおそらく知らなかった可能性がある。しかし、ロシアのスホムリーノフ陸軍大臣も7月26日にエゲリングを呼び出し、明らかに真顔で「馬は徴発されておらず、予備兵も召集されていない」と（ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレス大使とドイツ武官エッゲリング少佐の両者）を安心させた[83]。

確かに、ロシアの総動員命令はまだ公布されていなかったかもしれない。しかし、ある種の動員が明らかに進行中だった。これらの欺瞞的な否定は、ロシアがドイツのスピードの優位性を打ち破るのに必要な時間を狙った意図的な策略だったのか、それともロシアの指導者たちは、ヨーロッパ戦争を回避するために、ドイツの疑惑を和らげることに心から関心を持っていたのか？

　おそらく、この質問に対する本当の答えを知っていたのはサゾーノフ自身だけだろう。

p65
ベートマン・ホルウェグやドイツ側の皇帝、そして皇帝ニコライ２世自身と同様に、ロシアの外務大臣（サゾーノフ）も、平和末期の緊迫した日々に冷酷な餌食となっていた。

ザパリとペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスは、7月25日から28日にかけてサゾーノフから発せられた相反するシグナルを報告したが、この期間は、振り返ってみると1939年から1940年の「偽りの戦争」に似ているように見える（訳注；動員はしていたが、まだ戦闘には至っていなかったから）。

両大使は、7月にサンクトペテルブルクを襲った労働争議（その波はフランス大統領首脳サミット中にピークに達した）に関する広範な報告を引き合いに出し、戦争が勃発した場合には、ロシアの士気は保たれるだろうか、との疑念を記録していた。

この点に関するペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスの報告は、「ドイツの戦争犯罪」項目に入っており、その考えは、（労働葬儀の頻発のために）ロシアは戦うことはないだろうとドイツが考えていたために、ベルリンがオーストリアに対し、セルビアに対抗するよう促した（訳注；ドイツは、ロシアが平和志向であるのにもかかわらず、オーストリアに対して戦争をそそのかした）、というものである84。
84. 例えば、モスクワにおけるロシアの労働不安と士気をテーマにした、1914 年 7 月 26 日のサンクトペテルブルク発のペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレス、特に 1914 年 7 月 25 日の記事を参照。そこで彼は、その日の朝、国王評議会がこの問題について議論したという噂を報告している。詳細については、両方とも PAAA、R 19869 に記載されています。

二次文献には、労働争議によるロシア側の（戦争への）決意を疑うドイツ側の主題が豊富に含まれている。このことは、Bernard Paresの Fall of the Russian onarchyに拠ったRobert Massieの Nicholas and Alexandraなどのような、戦争についてのロシアに関する最も一般的な歴史で、多かれ少なかれ、受け入れられている。

わずかに異なった驚くべき意見を提供して、フリッツ・フィッシャーは主張した。「世界大戦を開始するというドイツの計画は、ロシアの「予期せぬ後退」によって土壇場でひっくり返されそうになったのだ」[85]。
85. In Fischer, Weltmacht oder Niedergang, cited (and refuted) by Turner, in Origins of the First World War, p. 95-

　これらの議論は、ドイツの戦争責任に関する他の議論と同様、矛盾に満ちている。もしドイツが、ロシアがバルカン紛争に参加しないことを考え、望んでいたのだとすれば（ロシアが平和志向だったとすれば）、世界大戦を計画した（とされる）ベルリンの有罪は、どうなのか？

ベートマン・ホルウェグとモルトケが、ロシアがセルビアをめぐって本当に戦うとは考えていなかったとしたら、なぜ彼らは、7月26日にベルリンに殺到し始めたロシアの秘密動員に関する報道についてそれほど警戒したのだろうか？なぜドイツはこれらの動員措置に対し、確実にサゾーノフに憤りを募らせながら抗議したのだろうか？

そして、もしロシアの外務大臣サゾーノフが（ロシアの秘密裏に進行中の動員に関する真実を隠そうとするのではなく）ベルリンにハッタリをかけて、ロシアの士気は実際より強いと信じ込ませたかったのであれば、なぜこれらの報道をこれほど激しく否定したのだろうか？

　ペテルブルク駐在ドイツ大使ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレス自身も、ロシアが実際に何を企んでいるのか全く確信が持てなかった。ロシアの意図に関する彼の報道は、警戒と安心感の間で揺れ動いていたが、それは彼がベルリンを誤解させようとしたからではなく、矛盾した情報を理解しようとしていたからである。

例えば7月27日の夜、明らかに穏やかで融和的なサゾーノフを迎えた謁見は、ロシアは（動員・戦争決意を）考え直しているのではないかと、ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスに示唆した。サンクトペテルブルクの街路には戦争に対する国民の熱狂の兆しはなかった、とペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスは報告した。

（だが）翌日、彼は①動員が進行中で速度を上げていること、②予備役が招集されていること、③東プロイセン国境近くのクールラント（ラトビア）で騎兵部隊が馬を集めているのが見られたことをベルリンに報告した。注目に値するのは、2 番目以降の憂慮すべきメッセージが直ちに電報で送信されたことである。 1 つ目は、安心させる口調で、密使でゆっくりと発送された手紙であった。86

p66
ベルリンは、ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスからの誤った楽観的な報告に煽られるどころか、サンクトペテルブルクの大使から、全体的には良いニュースよりもはるかに悪いニュースを聞いていた。

　1914 年 7 月の終わりの頃にベルリンとペテルブルグの間で溝が広がっていたことの最も可能性の高い説明は、最も単純なものでもある。〇ロシアは戦争に備えるため、7月25日に戦争準備期間を開始した。ドイツは、ロシアが実際に戦争の準備をしているという報道をキャッチし（そのようなことは世界に発表していなかったが）、ロシアが密かに戦争の準備をしていると考えたため、数日にわたって強く抗議した。ロシア軍動員部門の責任者であるドブロロルスキー自身、7月24日から25日の「部分動員」決定後の期間をこう回想している。「戦争はすでに決定事項であり、ドイツとロシア政府の間の大量の電報（夢遊病者たち p778）は単なる歴史劇の舞台装置にすぎなかった。」87

（部分動員は無理だとわかっていた）ドブロロルスキーが、自国の意図に疑念を持っていたことは間違いない。結局のところ、彼は 1914 年にロシア軍を動員した責任者だったのだし（c.f.p55）。しかし、7月26日の時点で、複数の情報源から入手した証拠に基づいて、ドイツが、ロシアが戦争の準備をしていると信じる理由があったことは事実である。

＜フィッシャー”学派”への反論＞
　これは非常に重要なことである。修正されたフィッシャー理論の支持者が主張する重要な議論では、7月30日のロシアの総動員決定とその翌日の公表のタイミングは、結局のところはどうでもよかったということになっている。なぜなら、モルトケと将軍たちは、ロシアより先にドイツ軍の動員をすでに決定していた（7月29日に決定していた）のだったから、というわけだ。

フィッシャー自身は、7月31日のロシアの宣言（ドイツからの動員中止要請を受け、ロシア側は「動員は対オーストリアに限定」と回答）はとてつもない幸運であり、ベートマン・ホルウェグがドイツ社会民主党をだまして、ロシアが最初に手を出したと信じ込ませた、と主張したが、実際にはベートマン・ホルウェグは、7月30日の夜9時までには、モルトケの説得で動員を開始していたのである。「サゾーノフはこの切り札を自分の手に入れた」とフィッシャーは結論づけた[88 Fischer, Germany's Aims in the First World War, pp. 85-86]。（本当はロシアは7月30日に総動員をかけていたが、31日には限定動員と宣言していた。さらにロシアは28日から動員を開始しており、それはドイツの動員よりも1日早い）。

イマヌエル・Geiss（訳注；フィッシャーの弟子。Ｉ・Geissによれば、大戦勃発に関するドイツ責任論は1990年代初頭には９割を占めていた。その後、それは７割から８割まで減少したという）はフィッシャーの議論にさらに厚みを加え、ウィーンの対セルビア宣戦布告に応じた7月28日のサゾーノフのオーストリアに対する部分的動員の発表に続き、重要な決定（動員）は早ければ7月29日にベルリンでなされていたと主張した。

p67
ベートマン・ホルウェグが7月30日までモルトケに動員のゴーサインを出さなかったというフィッシャーの指摘は正しかったが、Geissは、ベートマン・ホルウェグ首相自身が29日のペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスへの急派で動員をすると脅迫し、そしてこの日、ロシアの戦争準備期間に似た「戦争の差し迫った危険状況」（Kriegsgefahrzustand）が7月31日に開始されることにも合意した,と指摘している。 Herwegは最近、Geissの主要な主張を支持した[89]。
89. Herwigは、旧東ドイツのアーカイブで、7 月 27 日のファルケンハインの日記を発見した。そこには、たとえベートマン・ホルウェグがまだ戦争には達していない時期の「危機管理」を試みていたにもかかわらず、ドイツ軍の事前動員準備の一部（軍隊を兵舎に閉じ込め、大量の穀物を購入した）がその日（27日）から始まったことが示唆されていた。

こうしたアーカイブの発見は興味深いものではあるが、実際には多くのことを教えてくれるわけではない。Herwigは、ドイツ皇帝、モルトケ、ベートマンの承認も必要とされたロシアの戦争準備期間に似た「戦争の差し迫った危険状況 Kriegsgefahrzustand」が、 Geissの言う通り、7 月 29 日に決定され、7 月 31 日に発動されたことは認めている。Herwig, "Germany," in Origins of World Warl, ed. Hamilton and Herwig, wig, PP. 178-179.

Geissは、7月29日から8月1日にかけて皇帝とツァーリの間で交わされた有名な「ウィリー・ニッキー」電報（「現在発効している軍事措置は5日前に決定された」とのニコライからヴィルヘルムへの手紙（c.f.夢遊病者たちｐ762））は「ドイツの観点からすれば、ロシアを侵略者として烙印を押すための外交策動の一部であり、ドイツの総動員への道を円滑にするためのプロパガンダ策動の一部である。」と論じている。90

　これまでのことは、その経過の限りにおいてはすべて真実である。しかし目的が、ドイツがロシアを徹底的に破ったことを証明することであるのならば、それは真実にはほど遠い。

数十年にわたる研究が、モルトケとベートマン・ホルヴェーク（皇帝までには至っていなかったとしても）によるベルリンでの動員の決定が7月29日に行われたということだけを証明しているとしても、ベルリンでの動員の決定の日付（29日）は、サゾーノフ、ヤヌシケヴィッチ、大臣評議会による、ロシアのバルチック艦隊と黒海艦隊の動員とともにオーストリア＝ハンガリーに隣接する地区(さらに秘密裏に、ドイツをターゲットとしたワルシャワとバルト海地方も含む)での（ロシアの）秘密裏の動員開始の決定からさらに”丸5日後”ということになる。（ロシアは事実上、7月25日から、ドイツよりも先走って動員を始めていた）。

平和主義者のフィッシャー、Geiss、Herwegによれば、ドイツが最初に対抗措置を講じたのがむしろ4日間の（サゾーノフのますます信じられない否定にもかかわらず、はるかに広範な秘密動員がすでに進行中であったという）報告を受けた後であったということは、7月28日にサゾーノフがオーストリアに対する部分的な軍事動員を公に宣言したことに対するリアクションではなかった（訳注；ドイツやオーストリアに対するロシアのやむを得ないリアクションだと彼らは言う）。91
91. Herwigは、フィッシャーやGeissよりもロシア情勢に注意を払っていたにもかかわらず、まったく同じ間違いを犯した。「7月28日、オーストリア＝ハンガリーはセルビアに対する軍事作戦を開始し、そこからロシアは部分的な動員に向けて動いた」と彼は書いている。 Herwig, "Germany," in Origins of World War I, ed. Hamilton and Herwig, p. 179.

権威ある歴史家にとっては、これはお笑いだ。つまり、1914年7月24日にサゾーノフ、ヤヌシュケビッチ、大臣会議が「部分動員に向けて進む」という決定を下したことを考慮すると、これではロシアはまるまる 3 日間、もっと正確に言えば 4 日間も休んだ、ということになってしまうから。

＜ロシアの動員３-英仏との関係＞
謎の鍵はポーランドにあった。そこではロシアの軍事準備があまりにも露骨で、協商の支持者さえもそれに気づいていた。ベルリン駐在のセルビア武官はこう回想した。

7月28日、私はセルビア人士官数名とともに[ベルリンから]ワルシャワに到着した。ドイツ国境に関して言えば、軍事的措置の兆候は微塵も見られなかった。しかし、[ロシア領ポーランドの]国境を越えた直後、私たちは動員措置が大規模に行われていることに気づきました(いくつかの駅での貨車の組み立て、鉄道駅の軍事占領、いくつかの都市での軍隊の集結、軍隊の輸送、動員シグナルの伝達）。7月28日に私たちがブレスト・リトフスクに到着したとき、すでに包囲状態が布告されていた92。

p68
7月29日、ワルシャワのドイツ領事はベートマン・ホルウェグに対し、「ロシアはすでに戦争の完全な準備状態にある…ドイツに向けた部隊はニーメン川沿いのロムザとコブノの間に集結しており、一方オーストリアに向けた部隊は、ルブリンリンとコーベル[現在のウクライナ]で集結している」と報告した。「プロイセン国境への]ワルシャワ-カリシュ線とワルシャワ-ウィーン線路は歩兵と工兵で埋め尽くされ、路床の下に地雷を敷設している。」93

　多くのフランス指導者らも、ロシアの秘密諜報員動員で何が起こっているかを知っていたが、英国を騙すサゾーノフの策略に同調した。

そうしたこと（サゾーノフの策略）には反対する一部の歴史家の主張に反して94、パレオログは1914年7月25日の夕方までに、ツァールスコエ・セローでの大臣評議会がその日の朝、オーストリアに対して13軍団を動員することを「原則的に」決定したことだけでなく、この動員はオーストリア＝ハンガリー帝国がセルビアに宣戦布告するまでは公表されない、とパリに報告した。
94. 第一次世界大戦勃発のフランス外交面の指導的権威であるJohn F. V. Keigerは、次のように書いている。「パレオログは、その日（7月25日）遅くに、サゾーノフが彼に通知していた部分動員を呼びかける大臣理事会の原則決定をパリに電報で知らせなかったことについて、確かに批判される可能性がある。」Keiger, France and the Origins of the First World War, p. 155.　実際には、パレオログはこれ以上の報告をしている。

John F. V. Keigerは、7月危機におけるフランスの役割について、article on "France" in Decisions for War, ed. Wilson (1995), and in his biography of Raymond Poincare (1997)において、さらに詳しく書いている。

開戦におけるフランスの役割についてのJohn F. V. Keigerの見解は変わっていないが、実際には、彼は時が経つにつれてパレオログに対する批判は薄れていった（ポアンカレに対しては決して批判的ではなかった。）

1995年の記事では、John F. V. Keigerは7月23日から29日までの期間全体を飛ばしているが、彼の考えはどうやらこの期間フランス大統領は海上にいたため、重要なことは何も起こらなかったというものだった。John F. V. Keigerの基本的な見解は、彼が『レイモン・ポアンカレ』(p. 163) で書いているように、フランスは 7 月危機の間「大国の中で最も消極的だった」というものである。

　Stefan Schmidtは、John F. V. Keigerに関連するコンセンサスビューに対する長い批評をドイツ語で出版した：Frankreichs Aussenpolitik in derJulikrise 1914: Ein Beitrag zur Geschichte schichte des Ausbruchs des Ersten Weltkrieges (2009)。

Stefan Schmidtはロシアよりもフランスの情報源をよく研究しているが、1914年のフランスの戦略的思考を鋭く分析した結果、ペテルブルク首脳会談中およびその後のロシアを励ましたフランスの責任についての結論に至っており、これは私自身と非常に近い見解である。

フランス大使パレオログは7月25日の報告書に「一方、今日から秘密裏に（ロシア軍の）準備が始まる」と付け加えた。これは、これまで戦争勃発に関するほぼすべての歴史家が気づかなかった驚くべき告白である。フランスの武官ラギーシュ将軍は同日、ロシアのスホムリーノフ陸軍大臣と将来の総司令官ニコライ大公との連絡役としてクラスノエ・セローに配置され、ロシアの秘密動員が進む中、フランスは完全に監視の対象となった。95
95. 私の知る限り、L.C.F.Turner はこの文書に言及した唯一の歴史家である（ただし、奇妙なことに彼は直接引用せず、代わりに直接続くラギーシュの報告書を引用している）。Turner, Origins of the First World War, p. 96.

ベルリン駐在のフランス大使ジュール・カンボンが7月25日から26日の夜、パリに「ロシアで発せられた動員命令には必ずドイツでも動員命令が続くだろう（パレオログのように、ロシアがすでにこれらの命令を出していたことを彼自身も知らずにとも）」と報告していたことを考慮すると、パリで点と点を結びつけることができる人なら誰でも、ロシアが戦争についてすでに解決済みであることを知っていたと結論付けることができる96。

　ラギーシュは、7月26日午後2時までにこのことを自分で理解していたが、これは彼が次のことを報告したフランス陸軍省の全員もその夜までには理解していたことを意味する（ラギーシュの暗号化された電報は午後4時にパリで受信された）。ラギーシュには「秘密の軍事的措置」がすでにワルシャワ、ビルナ、サンクトペテルブルク、つまり東プロイセンに相対する北部戦線全体で進行中であると告げられていた。

p69
モスクワとサンクトペテルブルクを「包囲状態」（戒厳令）に置く布告には、明らかに「新聞各紙が言及を禁じられていた主題のリスト」が添付されており、そのどれもが現在進行中の対ドイツの動員措置に関係していた。ラギーシュ氏は、交戦開始を調整するロシアの計画を要約し、「（スホムリーノフ）陸軍大臣は、ドイツからロシアへの攻撃開始をさせたい、という意向を繰り返し確約してきた」と説明した。ベルリンからの我々の情報によれば、「彼らが実際にこの取り組みを計画していることが示唆されている。」

　当時フランスは、ドイツを侵略者として見せかけてドイツとの戦争を開始するというロシアの計画に積極的に協力していた。イギリス軍の場合、サゾーノフの任務はさらに困難だった。ベートマン・ホルウェグが、社会民主党が帝国議会で戦争に反対しないように、ロシアが最初に動員を始めたように見せかけることに熱心だったように、サゾーノフは、ロンドンの戦争への参加を確実にするために、ドイツやオーストリアからの事前の挑発を受けることなく、ロシアが最初に動員したのだという取られるあらゆる糸口を、イギリスから隠さなければならなかった。驚くべきことに、サゾーノフはそれをイギリス人に言うことなく成功したようである。

ジョージ・ブキャナン卿が一番直近で真実を嗅ぎつけたのは7月26日の通信で、ロンドンに対し「サンクトペテルブルク政府とモスクワ政府は『異常な保護活動状態』に置かれている」と通告した。この曖昧に聞こえる措置は「表向きはストライキを考慮して」とられたとブキャナンはグレイに説明した（これはサゾーノフが彼に言ったに違いない嘘なのだ）(Mc Meekin JULY1914　Count down to war p238)。英国大使は若干の疑念を抱きながら、「ここでのストライキは事実上終わっていた」ため、この措置は「動員を意図したもの」だったのではないかと推測した98。

その日の午後早く、グレイはドイツのリヒノフスキー大使から、ベルリンが「ロシアは動員を意味する『予備役クラス』を招集している」という情報を受け取った、と聞かされた。グレイはリヒノフスキーの訴えを即座に却下し、「我々は総動員に関する情報も、実際に即時の動員に関する情報も持っていない」と述べた。グレイはさらに、奇妙な確信を持って、ロシアの「110万人を動員するための”勅令は”発令されていない」とリヒノフスキーに保証した。これは明らかに確かではないだけでなく、グレイのコメントの特異性は、結局は、イギリスが何かを聞いていた可能性があることを示唆している。いずれにせよ、グレイは明らかにそれ以上の調査には関心を示さなかった。99。

p70
　たとえグレイが真実を知ることに興味を持っていたとしても、駐ロシア大使（ブキャナン）はその任務を遂行できなかった。彼は7月28日、「歩兵部隊が辺境に向けてワルシャワを出発」という報告書を取り上げたと、曖昧さを明らかにしながらも報告をしたが、どの部隊やどの辺境かについては説明しなかった[100]。

英国の無知の輪を締めくくったサゾーノフは、1914年7月28日、オデッサ、キエフ、モスクワ、カザンの各地区の「部分動員」という全く不誠実な発表を行うことを選択した（この措置は、オーストリアのセルビアに対する宣戦布告に対する報復として発令されたとされる）。サゾーノフはこのことを、駐ロシア大使ブキャナンや駐英大使のベンケンドルフを通じてではなく、ベルリンのロシア代理公使を通じてロンドンに伝えた。ロシアの代理公使は大急ぎとはいえない態度でそのメッセージをロンドンに転送した。（ブキャナン自身は後に回想し、その日は、「ドイツによる挑戦とみなされる可能性のあるいかなる軍事的措置も控えること」とサゾーノフに厳しく促したことを思い出した。さらに、そのような措置が既に丸三日間も行われていたことには全く気づいていなかった。）101

ベンケンドルフが最終的にサゾーノフの「部分動員」の発表を伝えたのは7月29日の午後遅くになってからであり、そのときも彼はそれを、外相サー・エドワード・グレイではなく、アーサー・ニコルソン卿に伝えた。このような非常に重要なメッセージが誰に届けられたのかを考える必要があろう。102

ツァールスコエ・セローの王室評議会で実際の決定が下されてから4日半後、大臣評議会での決議が最初に決議されてから丸5日以上経過した1914年7月29日の日暮れまでに、イギリス側に次のことが知らされた。ロシアはすでにオーストリアのみに対して4つの軍管区の動員を開始していた――実際には、その動員はずっと前から指定された境界をはるかに超えて拡大しており、7月28日までにヨーロッパのロシア全土に加え、シベリアとコーカサス、バルト海と黒海、そして特にポーランドを網羅していた。

＜サゾーノフの最後通牒の利用-英国の参戦＞
　それは見事なパフォーマンスであった。ブキャナンとグレイの無関心のせいで、イギリス内閣と議会（そしておそらくもっと重要なのはイギリス国民）が、ロシアがすでに動員を始めているとは全く知らなかったことをサゾーノフは確信し、彼がセルビアの自制を呼びかけたことで、ロシアの意図が平和的であることをロンドンに納得させるのには必要十分であった。彼はセルビア政府に対し、最後通牒の条件のうち1つ（最後の条件、「オーストリア・ハンガリーのエージェントまたは当局」がサラエボ犯罪に関するセルビア独自の捜査に参加することを許可する条件）を除くすべてを受け入れることを確信した。（c.f.夢遊病者たちｐ695、Mc Meekin JULY1914　Count down to war　�p183）

典型的な手品であるが、7月24日から28日にかけてバルカン半島で起きた最後通牒のドラマにイギリス外交官たちはすっかり執着してしまったので、当時ロシアで何が起こっていたのか、誰もまったく注意を払わなかった。

p71
グレイは、7月26日のドイツ大使リヒノフスキーとの謁見で、彼がイギリス、フランス、ドイツ、イタリアの首脳間の会談の開催を提案し、ドイツ辺境に対するロシアの積極的な動員に不満を述べていたことを明らかにした。 103

　グレイの立場を理解するのは簡単である。第一次バルカン戦争は確かにロンドンでの国際会議によって終結した。それにもかかわらず、グレイは当時と現在の状況の立場の大きな違いに注目していなかった（そして、1913年5月30日に調印された自慢のロンドン条約が、わずか2週間後の第二次バルカン戦争の勃発を防げなかったということも）。1913年当時の問題は、バルカン戦争を長引かせて大国を引き込まないようにバルカン諸国とトルコを合意させることであったが、1914年7月には大国自身が事態を主導していた。

オーストリアがセルビア侵攻の準備をしている一方で、ドイツとオーストリア両国に対するロシアの軍事動員の巨大な歯車が、シベリアからコーカサス、黒海からバルト海に至るユーラシア大陸の広がりを越えて動き始めている間、英国の外交官たちは、セルビア紛争を平和的に調停するためのキメラな国際会議を追求したが、この会議には最も直接の利害関係を持っている二大国であるオーストリアとロシアは招待すらされなかった[104]。（Mc Meekin JULY1914　Count down to war p205）(訳注；そもそも”四か国”にロシアがはいっていないことが、そもそも第一次大戦のあらゆるターゲットが本来ドイツではなく、ロシアだったことをすでに示唆している）

強調すべき重要性は、ロシアの平和的意図についてグレイを騙すことにサゾーノフが成功したことである。セルビアへの最後通牒は、協商国に対する迅速な対応で勝利させるためのオーストリア・ドイツのプランを中心としてベルリンとウィーンで構想された。サゾーノフは最後通牒を早くから嗅ぎつけていたため、代わりにロンドンをロシアの軍事準備からそらすための煙幕として利用し、英国を戦争から遠ざけようとしたベートマン・ホルウェグの努力の砦を台無しにした。

ロンドンの参戦は、シュリーフェン・プランの重荷を理由にベルギーの中立を侵害するというドイツ人の愚かな決定によって8月に最終的に決定されたが、サゾーノフが外交上の下調べをしていなければ、これ（ロンドンの参戦）さえも政治的には不可能だったかもしれない。

ｐ72
ブキャナン自身が7月28日にパレオログに語ったように、「私はサゾーノフに対し、ドイツが挑発的と呼ぶ可能性のあるいかなる軍事措置にも同意しないよう懇願してきたところだ。ドイツ政府はすべての責任とすべての主導権を負わなければならない。”イギリスの世論は、ドイツが間違いなく侵略者である場合にのみ、戦争に介入するという考えを受け入れるだろう”。その旨をサゾーノフと話し合ってください。」　パレオログは、思わせぶりに「それは私がいつも[サゾーノフ]に言っていることだ」と答えた。105

ブキャナンは、1914 年 7 月 28 日の 3 日前からサゾーノフとパレオログによってすでに実施されていた「挑発的な軍事措置」について意図的に誤った情報を与えられていたとは考えていなかったようだ[106]。
106　パレオローグが初めてロシアの事前動員についてパリに知らせた7月25日にはポアンカレは海に出ていたので、もちろん彼が本当に知らなかった可能性もある。しかし、大統領もその秘密に関与していた（あるいはパリに戻ってから秘密に関与させられた）のではないかと疑う人もいる。いずれにせよ、ポアンカレには、たとえ知っていたとしても、回想録の中でロシアの初期動員に関する知識を明らかにする動機がなかったことは明らかである。

　もちろん、ブキャナンがフランスとロシアの欺瞞を見破るほど賢明であったとしても、イギリスは関係なく戦争に参戦していた可能性もある。

ベルギーを経由してフランスに侵攻するという自殺行為的な戦略的愚かさに対して責任を負ったのはモルトケとドイツの将軍たちだけだった。それでもなお、我々は、ロシアの対ドイツ秘密裏の早期動員によって、そしてそれに気づかなかったロンドンの失敗によってその厳格なスケジュールが脅かされていなければ、彼らは決して危険なシュリーフェン計画を実行に移すことはなかったかもしれないという可能性を考慮しなければならない。英国の外交官らが、バルカン半島におけるオーストリアとドイツの弱い者いじめを一言も批判しなかったにもかかわらずに、だ。

もしグレイかブキャナンが、ポーランドにおけるロシアの脅威的な動きについてサゾーノフに抗議していたら、ベートマン・ホルウェグはロンドンとペテルブルグの間にくさびを打ち込む努力で時間を稼ぐために、シュリーフェン計画の実行を延期するよう将軍たちを説得したかもしれない。神経質で常にためらいがちな皇帝ヴィルヘルム 2 世なら喜んで黙認しただろう。

その後、イギリスの懐疑論者（明らかにロシアよりもフランスの行動にはるかに注意を払っていた）をなだめるために、フランス軍がドイツ国境で行ったのと同じように、ロシア軍もポーランドのような敏感な地域で先遣部隊の撤退を余儀なくされたかもしれない。そうではなく、、英国の指導者たちが示した明らかな親ロシア偏愛が、ドイツで認識された、三国協商による包囲環（以前は包囲が誇張されていたが、今では否定できない事実となっていた）を完成させた。ロシアが有利なスタートを切り、フランスも全面的に協力し、イギリスも盲目的に同調する中、ドイツ側が（シュリーフェンプランを実行を）待つ理由は考えられなかった。

　サゾーノフの欺瞞劇は、1914年7月にロシア人が実際に何をしようとしていたのかについての発想を与えてくれる。ベルリンとウィーンは当初、列強が反応する前にセルビアで局所的な既成事実を作り上げることを望んでいたが、サゾーノフ自身の戦略はより野心的だった。彼は可能な限り最も有利な連合を編成しなければならないヨーロッパ戦争を構想していた。ウィンストン・チャーチルが『World Crisis』で書いたように、「味方を戦場に連れ出す作戦は、大きな戦いに勝つ作戦と同じくらい役に立ちます。」107

ｐ73
ロンドンを戦争に巻き込むよう操作することで、ロシア外務大臣（サゾーノフ）は、仏露連合に英国の６個師団からなる遠征陸軍を加え、それだけでなく、さらに重要なことには、世界最強の海軍を加え、中央同盟国の経済の生殺与奪を握る可能性のある封鎖を可能にした。（訳注；実際ドイツは経済封鎖され、後に”カブラの冬”と言われた飢餓状態となった。悪名高きドイツによる無差別潜水艦作戦は、そのためのドイツのよる精一杯の対抗措置だったのである。その一環で、客船ルシタニア号沈没事件が起こり、乗客1959人中、脱出できなかった子供100人を含む1198人が死亡した。この中に128名のアメリカ人が含まれていたことからアメリカ国内でドイツに対する世論が悪化し、その後、アメリカは中立から参戦に転じることになった。しかし、ドイツ大使館はアメリカ国民に「船に乗るな」と事前に警告しており、また最近行われた海底調査では、沈没した船内に国際法に違反する違法な武器や火薬が積まれていたことも判明している）

また、ロンドンは世界有数の金融センターであったため、たとえドイツ軍が主に印刷機に頼らなければならなかったとしても（インフレの懸念）、協商国は戦争資金を調達するのに苦労することはなかった。1914年7月の最も重要な外交問題、つまりイギリスが参戦するか中立でいるかについては、サゾーノフはベルリンとウィーンの両者を出し抜いた。それも、圧倒的な差異があった。

　サゾーノフの見事な外交の結果は、ロシアの理想的な戦争ゲームシナリオの一つとなった。7月28日の夜、サゾーノフが「部分動員」という偽の発表を行ってからわずか数時間後、ヤヌシュケビッチはロシア全軍管区の司令官に「7月30日が我々の総動員の初日と宣言されるだろう」と電報を送った。この宣言の後に規制電報が送られることになる。108

こうしてロシア最高司令部が、ドイツが”事前動員”を開始する3日以上前の7月28日までに決定した”総動員”は、「連合戦争」（「バリエーション4」c.f.p102）であり、それには英仏両国も参加が保証されるするものであった。ヤヌシケヴィッチが1914年7月29日にティフリスに明らかに電報を送ったように、「トルコは”最初は”参加しない」ということだった109。

不可避である英国の封鎖によってドイツ経済が世界から遮断されれば、8月の英国参戦直後、ノボエ・ヴレミャ紙は「ドイツ帝国は数カ月以上は戦争を行うことができないだろう」と予測した[110]。

その時までに、ロシアはオーストリアのガリツィアを占領することでポーランドの側面を確保し、一方フランスは、ドイツの戦力を十分に拘束し、ロシアのガリツィアでの、そして可能であれば、海峡とトルコ東部（そこでは、ロシアのコーカサス軍が今や攻撃の準備を整え、完全に動員されていた）での利得をドイツが受け入れることとの交換条件で、手薄に防御されている東プロイセンを十分に奪うことができるだろうと考えられていた。

ｐ74
　それは素晴らしい計画だったが、かろうじて実現したものである。ドイツを上回る動員を図るロシアの計画は、カイザーと有名な電報（訳注；夢遊病者たちｐ762）を交換した際のツァーリの土壇場での留保により、危うく無にされそうになった。並外れた知性ではないにせよ、名誉ある人物であるニコライ 2 世が戦争の惨禍を止めようとした誠実さを疑う理由はない。それでも、その哀れな独裁者は頭が真っ白だった。 7月29日から30日の夜、午前1時20分に「ニッキー」が「ウィリー」に「現在発効している軍事措置は5日前に決定されていた」と打電した時、彼はゲームを手放した[111]。

（電報を読んで）「つまり、それはほぼ一週間早くから、我々の頭越しにいたことになる」と皇帝ヴィルヘルム 2 世は結論付けた、「ツァーリが……私の陰で密かに動員してきた……ということは、私も動員しなければならないということだ！ 112（訳注；夢遊病者たちｐ781。さらに夢遊病者たちｐ763によれば、30日の朝、カイザーからツァーリに、打電がなされ、結局ツァーリは総動員を選択肢した）。

　（フィッシャーのような）歴史家らが長年主張してきたような事実の誤った解釈とは程遠く、カイザーの推理は、すべての点でではないにしても、本質的に正しかった[113]。（訳注；ロシアが先に動員したからドイツもそうせざるを得なかった）
113. 例えば Albertiniは、「ヴィルヘルムは、動員が5日前に始まったという結論に誤って飛びついた」と述べている。ロシアがまだ総動員を発表していなかったというのは最も文字通りの意味では真実だが、カイザーは精神面で正しかった。7月25日に開始された事前動員の規模（明らかに4日どころか5日も早かった）という点でも、ニコライが彼にこのことを告げた時点ですでにロシアの総動員が命令されていたというより具体的な意味でも。

実際、総動員に関するロシアの最終的かつ不可逆的な決定は、その日の夕方（7月29日）、午後7時から午後9時までロシア外務省でヤヌシュケビッチ、スコムリノフ、サゾーノフが出席した会議で下された。ツァーリは午後9時過ぎに電話でこの決定を知らされ、すぐに承認を与えた。

その1時間後にツァーリが（再び）考えを変え（訳注；夢遊病者たちｐ7６1。これによれば、29日午後9時20分にカイザーから自重を促す電報、いわゆるウィリー・ニッキー電報が届いた）、「部分的」動員に戻すことを主張したのは事実であり、その結果、7月30日まで一連の混乱を招く命令と反対命令が生み出された。

しかし、総動員に関する重要な決定は、ロシア政策の真の推進者であるサゾーノフ、スホムリーノフ、ヤヌシュケビッチによってすでに7月29日に（それ以前ではないにしても、30日の総動員を想定したヤヌシュケビッチの7月28日の電報で）下されていた。114

　1914年7月29日から3０日の夜、真夜中から午前2時の間、ためらっていたニコライがカイザーに自分の電報でうっかり真実を告白していたとき、ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスはサゾーノフに対し、ロシアの秘密動員に対する最後の抗議をするよう呼びかけた（訳注；泥棒に泥棒するな、と言ったようなものか）。

著しく冷笑的な態度を取ったロシア外相（サゾーノフ）は、ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレス氏に、「[ロシアの]動員命令撤回はもはや不可能だった」という白紙の話をする直前に、オーストリアとセルビアの紛争を調停するための4カ国協議を求めるグレイの訴えに突然興味を持ち、時間のかかる外交の新たなラウンドを提案した。115

なるほど、翌日の、ためらう皇帝に対するモルトケの、ドイツの動員スケジュールは「変更できない」という返答を不気味に思い出させるが、サゾーノフ自身の主張はさらに重要である。なぜなら、彼はモルトケとは異なり、動員スケジュールについて理論的には無知な民間人だったからである。

ｐ75
ロシアの初期の動員について、（サゾーノフが）ペテルブルク駐在ドイツ大使プルタレスに真実を口走る（ツァーリがカイザーに同じことをしたわずか数時間後）ことによって、ロシアの外務大臣（サゾーノフ）は、ロシアが戦争を意図しているのではないか、そしてドイツ軍を打ち負かすことを望んでいるのではないか、というベルリンの最後の疑念を取り除いたのである。

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