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国際社会主義という人道的で国際的な考えの名の下に、戦争の最大の利益を放棄するのは不合理で犯罪的です。

－ミリュコフ　1917年3月

私の日々が終わるまで、私は、神の摂理の御心に従って、成功と名誉と栄光を伴って成し遂げたように、私の側に立ってくださった皆さんの記憶を心と魂の奥深くに神聖に保ち続けます。私たちはアレクサンダー大王の歴史的道筋において、大ロシアの名の下にあらかじめ定められた大国の使命を遂行しました。

-騎兵将軍 N.N. バラトフ、1918 年 6 月

西側同盟国にとって、1916 年はそれほど幸せな年ではなかった。何百万人もの若い英国人とフランス人が、ヴェルダン（2月から12月）とソンム（7月から11月）という史上最も大規模で無駄の多い2つの塹壕作戦で一年の大半を泥沼にはまった。

これらの恐ろしい消耗戦の最初がドイツ軍の攻撃によって引き起こされ、二番目がフランスとイギリスの攻撃によって引き起こされたということは、どちらも同様に無益で人命を破壊するものであったということほど厄介な問題ではなかった。

将来の世代は、泥だらけで有刺鉄線が敷き詰められた荒れ地に過ぎなかった場所から数平方ヤードを獲得するために、次々と人たちの群れが凶悪な機関銃の射撃に対抗するよう命令を受けて進軍する様子に驚嘆するだろう。

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さらに事態を悪化させたのは、英国の封鎖がついに中央同盟国の食料輸入を圧迫し始めたにもかかわらず（1916年から1917年のドイツの恐ろしい「カブの冬」）、ドイツの潜水艦魚雷による連合軍の船舶への損害がイギリスとフランスの民間人の士気を蝕んでいたことだ。

このような絶望的な状況になると、必然的にスケープゴートが探し出され、処罰されることにななった。ドイツ軍参謀本部ではエーリヒ・フォン・ファルケンハインが辞任し、ヒンデンブルクに（実際にはエーリヒ・ルーデンドルフに）道を譲らざるを得なくなったが、連合国側では文民政治家が大半の責を担った。

1916年12月には、虚言癖のある自由党のハーバート・アスキスが、向こう見ずなユニオニストのロイド・ジョージに道を譲ったが、一方フランスは一連の内閣改造を経て、原則と厳格さをもって戦争を進める急進派の「虎」ジョルジュ・クレマンソーに落ち着いた。

　1916 年の最悪の恐怖を免れた好戦的な勢力が 1 つあるとすれば、それは間違いなくロシアであった。西側諸国が血なまぐさい攻勢で年間を通じて防御可能な領土の一部をほとんど獲得できなかった場所で、ロシア軍は、3月にナロッチ湖で最初の惨事に見舞われた後[3]、ガリツィアでのブルシーロフの数多くの（戦術的ではあるが）ブレイクスルーから、コーカサス軍がすべてを前に押し寄せるトルコ北東部まで、東部で勝利を重ねた。

確かに、1916 年 8 月のルーマニアの参戦はうまくいかなかった。ブカレストやプロエスティの油田を含むワラキアの肥沃な平原は、12月までに中央同盟国勢力の手に落ちた。しかし、このことはロシアの将軍たちによって予見されており、彼らはルーマニア人を軽蔑の目で見ており、彼らを戦争に駆り立てないようフランス人を説得しようとしていたのだった。

　ポーランド立憲王国もまた、1916年6-9月のブルシーロフのガリツィアでのあらゆる英雄的行為（c.f.p87訳注、ブルシーロフ攻勢　）にもかかわらず、ロシアにとっては失われたままであった。

しかし、1915 年のポーランドの喪失（訳注；1915年5月、ドイツ軍は東部戦線で攻勢に出て、ロシア軍を、ガリツィアだけでなく、ロシア領ポーランドからも追い払った。ここにロシア領ポーランドが中央同盟国側の手中に帰した）は、それが引き起こした最初のパニックにもかかわらず、ロシアにとっての全くの災害ではなかった。もしロシアにとって災害であったならば、サゾーノフとツァーリは、その秋にドイツ外交官が派遣した和平工作員に対して、もっと積極的に反応しただろう。ドイツの考えは、ある種のポーランド分割を理由に個別の和平を結ぶというものであったのだから。4

政治的な意味合いでは、1914年8月のニコライ大公のマニフェスト（c.f.p88)によって切り出されたポーランド問題は頭の痛い問題でしかなく、ヴィッテや保守的な「親ゲルマン的な」反対派に、サゾーノフと政府を威圧するための支援を与えた。

ペトログラードでは、オーストリア＝ハンガリー帝国に労力を費やしてポーランド立憲王国を拡大するという綱領に対して、他のいかなる戦争目的よりも深刻な反対があった。対照的に、トルコの併合計画はすべての政治家が同意したものであった。

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1915年8月にドイツ軍がワルシャワを占領する前でさえ、サゾーノフの発言はかなり冷めていた。サゾーノフを同盟者とみなしていたポーランド民族主義者らを失望させながら、サゾーノフは、東ガリツィアは将来のポーランド王国には決して含まれない、と強調した5。

　熱狂的に親ポーランド派であるフランス人に対して、サゾーノフはサイクス＝ピコ協定を巡る交渉の最後の難局でも毅然とした姿勢を保った。（一方、イギリスはポーランド問題に対して「完全な無関心」の姿勢を維持し続け、パレオログを驚かせた。）

1916年4月になっても、その頃にはポーランド立憲王国は本質的にロシア問題ではなくドイツ問題になっていたが、サゾーノフは協商国のプロパガンダの大義を助けるためにポーランド問題を「国際化」する気はなかった。パレオローグがブリアンに不満を漏らしたように。

（1914年8月とは異なり）ポーランド人のほとんどが（1914年8月とは異なり）中央同盟国の臣民となった今、ポーランド人に再度（マニフェスト）宣言をしても失うものはほとんどなくなっていたが、サゾーノフは依然として「ツァーリとポーランド臣民との関係は内政[のみ]の主題を構成している」と明確に主張した。

1915 年 8 月 1 日にゴレミキンがポーランドに関する下院で見通しの明るい演説を行ったにもかかわらず、このとき閣僚評議会議長は初めて自治 (autonomy、avtonomiya) という用語を使用したが（1914年8月の当初の宣言ではsamoupravlenie、つまり自治（self-government）だけが示唆されていたのとは対照的に（c.f.p87）、サゾーノフはパレオログに対し、ポーランドの「自治autonomy」に関する新たな宣言は発出されない、と明言した。それはむろん、ツァーによるのではなく、トルコ分割を巡る見返りの一環としてでもなかった。

パレオログの見解では、サゾーノフの立場とドイツ愛国者の立場を区別するものはほとんどなく、1914年にサゾーノフがポーランドの大義を受け入れたのは一時的なものであった。「ロマノフ家の王笏は基本的な公理であり、国家の教義である。独立したポーランドの復活は、おそらく暴力によってのみ実現され得る。」6

　ポーランドがペトログラードとベルリンのどちらによって統治されるかは、ロシアの戦争目的にとっては、戦後ポーランドが独立しないという「基本的な公理」よりも重要であるように思われた。

ボリス・ノルデ男爵がサゾーノフに代わって1916年4月にポーランド自治計画を作成したのは事実であり、その計画のもとでは、「ポーランドは独自の閣僚評議会と上院と下院からなるセイムを持つこととなった」。そして、ペトログラードからの監視は、ツァーリの個人副王のみが行うことになった。

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しかしサゾーノフは、親ドイツ派からの激しい反対を恐れて、これらの計画を「冷蔵倉庫」に保管し、パレオローグはおろかツァーリにも話さなかった。

1916年6月のブルシーロフ攻勢によって東部戦線でロシアの威信が回復した後になって初めて、サゾーノフはスタフカで皇帝ニコライ2世の参謀長として今ではロシア軍の実質的な指揮官となっているミハイル・アレクセーエフに慎重にこの問題を切り出した。

アレクセーエフは、前線の士気を高める可能性のあるあらゆる行動に熱心で、サゾーノフとアレクセーエフの話を聞いた後のツァーリと同様に、前向きに反応した。

しかし、ニコライ2世自身でさえ、ペトログラードの政治家との事前の合意なしにポーランドの自治宣言を承認することを恐れていた。結局、ツァーリはアレクサンドラ皇太后からの圧力を受けて、（その承認を）撤回したが、アレクサンドラ皇太后は（ラスプーチンの助言を受けて）1916年7月23日にサゾーノフを解任して、評判の高い「親ドイツ」のボリス・ウラジーミロヴィチ・スチュルメルに道を譲るよう説得した。7

　ロシアの同盟国が激怒したことには、ロシアは戦時中、ツァーリの署名が入ったポーランド自治宣言を全く発行しなかった――もちろん、ポーランド自治宣言を強奪するためにスチュルメル（任期1916年7月7日 – 1916年11月10日）がサゾーノフから外務省を明示的に引き継いだ後ではなく。

注目すべきことに、ポーランドの大部分が1915年秋までにすでにドイツの軍事政権下にあったという事実を考えるとーつまり、ツァーリとロシア外務省は、望み通りにどんな幻の約束でもできただろうが、実現する可能性は低かったのだがーベルリンとウィーンは実際、ポーランド人に対する理想主義的な約束においてペトログラードを上回り、1916年11月5日にポーランドの「独立」を約束する「二人の皇帝の宣言」を発布した。(この独立は、1914 年 8 月にニコライ大公のsamoupravlenie が約束したものと同じくらい曖昧なものであった。その考えは、「独立した」ポーランドがドイツの関税同盟の一部となり、軍隊はドイツの指揮下に置かれるというものであった)８

このプロパガンダの打撃に直面して、スチュルメルは、評判の高い親ドイツとポーランドへの敵意にもかかわらず、長い間遅れていたポーランドの自治に関するロシアの発表を、1916年11月1～14日の下院でようやく行おうとしたが、土壇場で卒倒してしまい、そのまま議場から出て行ってしまった。（失望した仏駐露大使パレオログと英駐露大使ブキャナンが続いた）。スチュルメルの辞任は、単に気後れだったのかもしれないが、これは汎スラブ主義者や自由主義帝国主義者の疑惑を和らげるにはほとんど役立たなかった。

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ミリュコフが有名な「それは愚かさか、それとも反逆か？」という下院での演説を献上したのは、スチュルメルの卑劣な議場からの退出に反応したものだった。スチュルメルを非難したのは、その後者（反逆）で（実際にはかなり誇張されている）、その親ドイツに対してであった9。

　ミリュコフの扇動的なレトリックはさておき、サゾーノフやスチュルメルのようなロシア指導者たちが、かつては爆発的だったポーランド問題について緊急性を欠いて取り組んだのは、1916年までにヨーロッパにおけるロシアの防衛線がほぼ安定し、ポーランドの大部分が明らかにオーストリア・ドイツ圏内にあったという事実によるところが大きかった。

ワルシャワの喪失、そしてその後ではブカレストの喪失は残念だったが、戦略的な観点から言えば、これらの「平原」都市はほとんど防御不可能であった。（一方、プロエスティの油田は、ドイツに不当な利益を与えないよう、英国技術者のチームによって大部分が放火されていた。）

東部戦線は非常に静かだったので、1917年にはいかなる種類の戦闘もほとんど起こらなかったが、ロシア自身が新たなガリツィア攻撃で平和を破るまで、両軍ともその陣地はそれなりに安全であった。

ルーマニアにおけるドイツ・ブルガリア軍の進撃は、当時のモルドバ国境にあるシレト川で泥沼にはまり、そこではロシア軍（そして包囲を逃れることができたルーマニア人）が橋頭堡をしっかりと制圧していた。ロシアは依然として東部ガリツィアの大部分を保持していた。この「ロシアの原初の土地」の支配は、ロシアのヨーロッパにおける主要な戦略目標であった。

さらに北では、ポーランドの突出部は、この問題に対するあらゆる外交的な響きと激怒にもかかわらず、スホムリノフが常々推奨していたとおり、事実上、擁護できないものとしてスタフカによって戦術的に見捨てられた。

アレクセーエフがオーストリア軍とドイツ軍に対する攻勢に戻ることを選択したのか、あるいはトルコとペルシャを制圧するコーカサス軍をより強化するために単に東ヨーロッパで戦線を維持することを選択したのかにかかわらず、ロシアの見通しは明るいように見えた。

西部戦線でも東部戦線でも同様に、協商国は「人員と銃において少なくとも60パーセントの優位性」を享受したが、アナトリアではロシアの優位性はほぼ2対1であった。1917 年 2 月のペトログラードでの連合国間会議で、「ロシアの将軍たちが戦いに満ちていた」のも不思議ではない。10

　後方戦線でも、ロシア勢は最悪の嵐を乗り切ったように見えた。1915 年の悪名高い（そしてかなり誇張された）「砲弾不足」時代は、武器と弾薬の国内生産の増加と、西側諸国からの金の資金による輸入の増加によって、見事に克服された。

ロシアは、1916 年時点でオーストリア＝ハンガリー帝国の 4 倍の砲弾を生産し、依然として自国の生産量のほとんどを西部戦線に送っていたドイツとほぼ同量であった。

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革命の起源についての使い古された神話とは異なり、ロシア経済は 1916 年から 1917 年にかけて繁栄し、雇用者数と工場の利益は両方とも劇的に増加していた。外国資本が国内に流入し、戦争生産ブームから巨額の利益が得られたため、株式の強気な市場さえ存在した。

確かに、1915 年に連合軍がガリポリでの突破に失敗したこともあり、北部の都市ではパンと燃料が不足し、1916 年から 1917 年の冬はペトログラードでは厳しかったが、その後ロシア人は、寒さに慣れてしまった。

物質的および軍事的状況から判断すると、1917年のロシアの戦時中の士気は、包囲されたトルコ、飢餓に陥ったドイツ、あるいは指揮、兵站、民族忠誠の絶え間ない危機に見舞われたオーストリア・ハンガリーよりもはるかに良かったはずである。次から次へと聞きに揺れていた、かなり安定した民主主義国家である英国やフランスよりもさらに良かったはずである。

　戦略上の理由から、ロシアが戦い続けるには十分な理由があった。サイクス・ピコ・サゾノフ協定の全詳細は秘密のままであったが、物事の基本的な骨子ではなかった。

「親ドイツ」のボリス・ウラジーミロヴィチ・スチュルメルの後継者で閣僚評議会議長でもあったA・F・トレポフは、1916年12月2日の下院での就任演説で、いつものやじの群衆（アレクサンダー・ケレンスキー率いる暴徒）に直面して、イギリス・フランスがロシアにコンスタンティノープルと海峡について約束した件を初めて公に明らかにした11。

トレポフの絶望的な暴露が示唆するように、「ツァルグラード（コンスタンティノープル）」は依然としてロシア国民の共感を呼んでいた。パレオログによれば、この頃ペトログラードの路上でよく聞かれた物言いは、「コンスタンティノープルを手に入れられないなら、この戦争に何の意味があるのか？」というものだった[12]。

　トルコとの戦争は、それが非常に順調に進んでいたため、少なからず人気があった。ニコライ大公は、1914年から1915年にかけて、ロシア軍の先鋒となってドイツに勝利することはできなかったかもしれないが、ティフリスでは彼の名は勝利の代名詞となっていた（たとえ1916年のアナトリア戦役の真の首謀者がユーデニチであったとしても）。

1916年から1917年のコーカサスの冬は厳しいものであったが、春の雪解けの後、ロシア軍はティフリスやエルズルムからの陸路だけでなく、トラブゾン経由の海路でも補給が十分に行われ、シヴァスとアンカラへの西進を再開するのに理想的な位置にあった。ロシア人はまた、バトゥムからトラブゾンまで黒海沿岸に平行する新しい鉄道路線を建設し、かつてはトルコの港町だった後者を重要なロシアの前線基地に変えた。

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黒海艦隊の新しい司令官、A. V. コルチャック提督は、秋から冬にかけて、トラブゾンやバトゥムからセヴァストポリ、オデッサ、ルーマニアに至る黒海の沿岸全域で輸送船（河川はしけを含む）と補給船の組み立てに忙しかった。（その大規模な、そして現在はほとんどが活動していないドナウ川艦隊と共に）。

1916 年 11 月 3 0日、ロシアの黒海艦隊はついに、最初に完成した弩級戦艦「皇后エカチェリーナ 2 世」を進水させた。その名は不気味なことに、18 世紀のロシアの栄光の時代に初めてコンスタンティノープル征服の構想を持ち出した偉大な皇后にちなんで命名された。

4週間後の1916年12月24日、皇帝ニコライ2世は、オスマン帝国の首都を標的とする特別な「黒海師団」を編成する命令を出し、その最初の連隊を「ツァルグラドスキー」と名付けた（これは明らかにコルチャクのアイデアであった）。13

　1914～1915年とは異なり、水陸両用攻撃の予兆は好意的だった。1916 年 11 月には、ロシアが待望していた黒海弩級戦艦の進水だけでなく、敵艦隊にとっての最初の大きな挫折も見られた。ドイツの潜水艦 3 隻が、ブルガリアのヴァルナ近くの海岸線沖でロシアの機雷を踏み潰したのだ。

はるかに重要なことには、弩級戦艦ゲーベンと巡洋艦ブレスラウは、1914 年 8 月にイギリスの地中海の遮蔽物を突破して以来（訳注；地中海戦隊に配備されていたドイツ帝国海軍の弩級戦艦ゲーベンと巡洋艦ブレスラウがイギリス海軍の追跡を受け、中立国であったオスマン帝国のコンスタンティノープルに入港した）、ロシアの黒海艦隊を悩ませてきたが、重大な長期修理のため停止していた。修理があまりにも問題であったため、、大砲のほとんどが剥ぎ取られ、ボスポラス海峡とガリポリの海岸砲台に再び取り付けられていたほどだった[14]。

トルコ軍の士気が非常に低かったために、オスマン帝国第2軍も第3軍も、1916年夏の悲惨な戦略的状況の中でもなんとかやってのけたのと同じようには、1917年には一度も攻撃作戦を実施しなかった。

一方、前年のクートでの惨事から立ち直ったイギリス軍は、チグリス川を襲撃し、オスマン帝国第6軍が3日前に都市から撤退した後の1917年3月11日に、バグダッドを占領した。

「ヨーロッパの病人」は瀕死の状態で一世紀を過ごした後に倒れ、ロシアの「千年の夢」、つまりコルチャクの「ツァルグラドスキー」連隊が率いるツァルグラード（コンスタンティノープル）への凱旋行進の実現を可能にした。

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　一方、ペルシャ国境を越えて、ロシア遠征軍は突破の準備を整えていた。騎兵将軍バラトフはバグダッド陥落の少なくともある程度の功績を主張できたことだろう。

将軍フレデリック・スタンレー・モード指揮下のイギリス軍が2月22日にクトル・アマラ（クート）を奪還した後、バラトフはハマダン、ビジャル・センネ（現在のサナンダジュ）、ダウラタバードを経由してメソポタミアへの三方面からの攻撃を再開した。

1917年3月までに、メソポタミア作戦は敗北に転じた。1916年4月にフォン・デア・ゴルツ・パシャが死去した後、オスマン帝国第6軍の残存部隊を指揮していたハリル・「クット」・パシャワ（の勢力）は兵力約3万人に減り、ユーフラテス川沿いのラマディエとペルシャ国境近くのロシア戦線の間の「約300キロメートルの前線に展開」した[15]。

トルコの司令部は今や、ペルシャからのロシアの進軍路の途中にあるモスルにあった。後にバラトフがそのときの高揚感を思い起こした。「親愛なる勇敢なクバンとテレクのコサック、私の血縁である第一コーカサス・コサック師団の騎手と砲手、そして新たな戦いの仲間である勇敢な若い騎馬ジョージア人と彼らに加わった勇敢なシベリア人たちよ、バグダッドから後退する敵を追いかけたときの彼らのエネルギー、労力、そして流した血によって、彼らの輝かしい父と祖父の子孫であることが証明されたのです。」

1918年6月に指揮官を辞任した際、バラトフはさらに大言壮語を強めながら、「アレクサンダー大王の歴史的道におけるロシア」を率いた際に「側に立って」くれたスラブ国の勇敢な英雄たちに深く感謝した[16]。

悲しいかな、バラトフはロシアのメソポタミア征服者としてモスルに進軍することはできなかった。当時のトルコ人にとっては非常に不可解な理由で、あたかもロシア人がオスマン帝国のメソポタミア征服について単に考えを変えたかのように、その容赦ない進撃は1917年4月に突然止まった。イギリスの将軍フレデリック・スタンレー・モードも、バラトフが自らの攻撃を止めて増援を待っていたこともあり、夏の間中、バグダッドに籠もることを決めた。17

　さらに不可解なことに、長らく期待されていたシヴァスとアンカラに対するロシアの攻撃は、1917年には決して実現しなかった。コーカサス戦線は、1916年におそらく世界大戦全体で最も波乱万丈な戦域となった後、1917年には非常に静かになり、今日に至るまでその戦線についてはほとんど何も知られていない。

この比較的あいまいな戦線を扱った数少ない本でさえも、1917 年全体の軍事的展開には、せいぜい 1 ～ 2 ページしか費やさない。トルコ戦争に関する西側の第一人者の歴史家は、興味深いことにこの年を次のように総括している。「1917 年中、トルコ第 2 軍と第 3 軍は、2 年以上続いた継続的かつ残忍な戦闘から待望の休息を享受した。」18

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　いったいロシアに何が起こったのか？アレクセーエフ*、バラトフ、ユデニッチ、ニコライ大公、そして皇帝ニコライ2世は、トルコ征服について突然良心の呵責を感じたのだろうか?19

ガリポリでの連合軍の大失敗に落胆したロシアは、コンスタンティノープルと海峡の占領を諦めたのだろうか？そのころロシアは、これまでトルコを犠牲にして得た利益に満足しており、サイクス・ピコ・サゾノフ協定から自らの取り分を主張できなかったフランスを宙ぶらりんにしたままにするために、中央同名国との個別の和平を模索していたのだろうか。戦域に軍隊はいなかったのか？それとも、1917 年春の戦略的一時停止は単なる陽動だったのか?

　1914年から1917年までのロシアの外交行動を考慮すると、これらすべてのシナリオは奇妙に見えるが、真実はさらに奇妙だった。

実際同じ基礎の政府を代表し、同じ将軍と外交専門家によって策定されたロシアの戦争目標は、ペトログラードであらゆる地獄が勃発し、軍の士気がゆっくりと崩壊し始めたにもかかわらず、1917年春時点でも変更されなかった。

これらの目的は、コンスタンティノープルと海峡の支配という一言に要約されるかもしれない。それはロシア外交政策の公理であり、世界史的な二月革命でさえもそれを覆すことはできなかったほど、ロシア外交政策の公理なのである。

1917年4月6日に、ニコライ・バジリがスタフカから新臨時政府の外相ミリュコフに報告したように、黒海艦隊によるボスポラス海峡上陸に向けた準備は、情熱的なコルチャク提督率いるフォルス艦隊が、1916年8月1日から進めていた。

スタフカにいたアレクセーエフは当初、ヨーロッパ戦線から軍隊を迂回させることに全力を尽くしていたが、バジリがミリュコフに約束したように、5月までに全軍2個師団が、オデッサとセヴァストポリから出航する準備が整う予定だった。ただし理想的には、好天条件が得られる確率を確実にするため、作戦は1917年6月14日から8月14日までの盛夏に行われることになっていたのだが。

ゲーベン号とブレスラウ号はまだ修理のため停泊中だった。つまり、真新しい弩級皇后エカチェリーナ 2 世号が率いるロシア黒海艦隊は、深刻な激しい抵抗にはほとんど遭遇せず、何の損害も受けずにボスポラス海峡の防衛を砲撃することができたことだろう。

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オスマン帝国軍の展開に関するロシアの諜報機関は、トルコ軍がアナトリア、メソポタミア、パレスチナでますます絶望的な立場を強化しようとして、ヨーロッパのトラキアとコンスタンティノープルから軍隊が奪われつつあることを正確に示唆した。

現在すでに脆弱なボスポラス海峡の防衛力-オスマン帝国軍の2個師団だけが首都を守っていた-は、「2か月後」、つまり1917年6月には、天候がよければロシアが待望のツァルグラードへの水陸両用降下を開始することになるが、さらに弱くなったことだろう。20

バジリの最新の海峡覚書は無駄なコミュニケーションではなかった。ツァルグラード（コンスタンティノープル）攻勢は、1917年春のペトログラードにおける戦略的最優先事項であり、「旧体制」と臨時政府の両方の最高レベルで承認された。サゾーノフとスチュルメルは、もうその職にはいなかったが、それぞれ舞台裏で自分の役割を果たしていた21。

ミリュコフは 3 月下旬、バジリと海峡作戦について話し合うためにスタフカを個人的に訪問していた 22。

戦争生産を調整するために1915年に設立された軍産委員会の委員長（進歩ブロック創設者の一人であり、1917年3月から4月にかけてロシアの国防大臣を務めた）アレクサンダー・グチコフが参加していた。グチコフは産業界の人脈を利用して作戦用の石炭と民間船舶を調達していた23。

最高司令官アレクセーエフとアレクセーエフの参謀長アントン・デニキンも同様だった[24]。

そしてもちろん、「ツァルグラドスキー」前衛連隊の創設者であるコルチャック提督は、海軍司令官として、可能な限り、熱心に行動した - 彼はエバーハートではなかったのだ。

　これらの人々の多くはある程度の意図を持って、1917年3月15日のニコライ2世の退位に関与していた。グチコフはペトログラードの臨時委員会の代理として、ロシアを救うべく、主権者の退陣（ニコライ2世の退位）を要求するためにモギリョフ（1915年以降のスタフカの所在地）に赴いていた。-とはいえ、アレクセーエフ将軍は、彼は知らなかったが、すでにグチコフの助けなしで退位するよう、ツァーリを説得していた[25]。

当時ツァーリの外交副官だったバジリは、ニコライ2世の退位声明文を個人的に作成し、ツァーリの閲覧が許可される前に承認を求めてアレクセーエフに提出した[26]。

これらの共謀者たちと並んで、アレクサンダー・ケレンスキーの腹心であった V・N・クレンボフスキー将軍も海峡作戦の計画に協力した。彼自身の任務はドナウ川艦隊からルーマニア艦船を徴発することであった[27]。

コルチャク提督に率いられて戦闘に参加したこれらの誇り高きロシアの愛国者たちは、二月革命の混乱を通じて彼らが見たように国益を守り、今度はロシアがツァルグラー（コンスタンティノープル）を占領するという歴史的使命を遂行するのを支援することになる。

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　今にして思えば、このことについては「ローマが燃えている間、ネロが傍観している」ような雰囲気があり、あたかもサゾーノフ、アレクセーエフ、グチコフ、コルチャク、ミリュコフ、バジリらは、自分たちがさらなる征服計画を立てていたにもかかわらず、自分たちの周囲で国が崩壊しつつあることに気づいていないかのようだった。

ミリュコフがスタフカでバジリと会談した直後に激怒したのは有名だが、それはまさに、1917年4月4日の記者会見で発表されたコンスタンティノープルと海峡併合政策の遵守が、ペトログラード・ソビエト(Ispolkom)によって公に否定されたためであった。

グチコフとミリュコフの海峡政策は、ボリシェヴィキが主導した1917 年 5 月 3 日の街頭暴動に先立って開かれた緊急中央委員会で、臨時政府を「徹頭徹尾帝国主義者」と非難したレーニンの演説から判断すると、最初の（失敗した）ボリシェヴィキ・クーデターを引き起こす役割さえ果たした。 28

レーニンは、本人が思っていた以上に正しかった。コンスタンティノープルと海峡の制圧は、1917年4月から5月にかけてロシア政府と外務大臣が公に認めていた目標であるだけでなく、スタフカ軍と黒海軍の差し迫った作戦上の優先事項でもあった。

　歴史的な政治的大変動の時期に、ツァルグラード（コンスタンティノープル）を征服するという奇想天外な夢を頑なに放棄しようとしなかった彼らを厳しく批判したくなるが、私たちはこの種の時代錯誤的な判断には細心の注意を払うべきである。

注意深い歴史的研究により、1916年から1917年の冬に流行した反ツァーリズムのレトリックのほとんど、特に皇后と彼女の最愛のラスプーチンをターゲットにしたレトリックは、「反帝国主義」的平和主義の湧き上がりを表すどころか、不純な君主制が憎むべきドイツ人と共謀していたことであったことが証明されている[29]。

これは、スティルメルを反逆罪で非難するミリュコフの有名な演説のテーマだった。すなわち、いわゆる「保守派」の罪はその帝国主義にではなく、彼らが戦争を十分精力的に遂行しなかったことにあったのだ。

ケレンスキーでさえ、ロシアを支配していた「雇われ殺人者」として内閣を攻撃する同じ下院会議でのよりヒステリックな演説で、これらの「保守派」を帝国主義的強欲ではなく「反逆者」、つまり「同胞殺しで卑怯者」だと非難していた[30]。

トレポフがコンスタンティノープルと海峡に関する美辞麗句を提供したとき、同じテーマがトレポフのヤジたちを活気づけた。

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1917年夏の海峡の新たな動きは、実際、当初は、2月革命の最悪の混乱のさなかの2月25～26日（3月10～11日）の秘密会議で、まさにサゾーノフ、スチュルメル、バジリによって構想されたものであった。それはまさに「ロシアの世論を静める」手段としてであり、バジリは、1912 年 11 月にサゾーノフ自身が軍司令官たちに行った、コンスタンティノープルの征服は「我々の内なる生活に癒しをもたらすだろう」という勧告と驚くほど似た言葉でそれを述べた[31]。

愛国的な民衆のムードの変化を読み間違えたとして、ミリュコフを責めるのは無理があるだろう（ミリュコフはそうしたムード形成するために、個人的に多大な努力を払った）。ミリュコフは友人に語った。「国際社会主義という人道的、人道的で国際的な考えの名の下に、戦争の最大の利益を放棄するのは不条理で犯罪的だ」[32]。

1917年夏の海峡の新たな動きは、実際、当初は、2月革命の最悪の混乱のさなかの2月25～26日（3月10～11日）の秘密会議で、まさにサゾーノフ、スチュルメル、バジリによって構想されたものであった。それはまさに「ロシアの世論を静める」手段としてであり、バジリは、1912 年 11 月にサゾーノフ自身が軍司令官たちに行った、コンスタンティノープルの征服は「我々の内なる生活に癒しをもたらすだろう」という勧告と驚くほど似た言葉でそれを述べた[31]。

愛国的な民衆のムードの変化を読み間違えたとして、ミリュコフを責めるのは無理があるだろう（ミリュコフはそうしたムード形成するために、個人的に多大な努力を払った）。ミリュコフは友人に語った。「国際社会主義という人道的、人道的で国際的な考えの名の下に、戦争の最大の利益を放棄するのは不条理で犯罪的だ」[32]。

1916 年 11 月に群衆がみな親ドイツ派の裏切り、卑劣さ、弱さに対して反対していたとするならば、すなわち、コンスタンティノープルこそがこの戦争に勝つ価値がある唯一の戦利品だ、と誰もがずっと言っていた時に、なぜ暴徒たちは（少なくとも革命政治家によって導かれて）突然、ロシアの最も本質的な利益のために戦うロシアに反対したのか？

　スタフカの観点から見ると、1917 年春、戦争は依然として間違いなく順調に進んでいた。「ブルジョア」自由主義愛国者のグチコフ・ミリュコフの支持者らと、Ispolkomのますます苛烈な革命家たちとの間のどのような断絶も、ペトログラードと最前線との断絶で小さく見積もられた。

ペルシャでは、1917年3月1/14の悪名高い「命令第1号」は、軍における将校統制のほとんどの要素を廃止し、「兵士ソビエト」の選挙を義務付けるもので、バラトフは、あたかも外部から送られてきたものであるかのように受け取った。

ペルシャで命令第1号が守られなかったわけではない。他の戦線と同様に、兵士たちはすぐに「補給の問題だけでなく」、バラトフが婉曲的に「最も一般的な性格の問題」と呼んだものについて話し合う「終わりのない会議」を開き始めた。

この場合、他の多くと同様、命令第1号によって命じられた政治的駆け引きがロシア遠征軍の注意をそらし、バラトフが3月下旬にモスル攻勢を中止し、オスマン帝国第6軍は別の日に戦うことができたために、2月革命は中央同盟国の利益に倍増させた。

それでも、この戦略的一時停止は重要であったが、バラトフ遠征軍の士気が崩壊しなかったことは強調されるべきであり、バラトフ遠征軍は1917年を通じてオスマン帝国のメソポタミアでの陣地を維持し続け、1918年初めには、メソポタミア北東部のカラ・テペで小規模な攻撃を開始さえもした。（ただし、この振舞は予想通り、1917年10月に英国がバラトフに要求したもの、すなわちモスルへの正面攻撃にははるかに及ばなかったが）。33

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1918年6月にボリシェヴィキが最終的にバラトフを撤退させた後、バラトフが忠実なコサックに捧げた哀歌の中で、彼は何事かとさまよいながら、失われた不死の歌を聞いていた。

1917年のロシア革命がなければ、彼の名前は今日、ペルシャとメソポタミア北部の伝説的な征服者として、「アラビアの」ローレンス大佐の名前のように語り継がれていたかもしれない（何世紀にもわたる挫折を経て、ロシアの黒海から地中海への不凍港アクセスを開いたアレクセーエフ、コルチャク、あるいはユーデニチがコンスタンティノープルの征服者として不滅の名を残したように）。彼は、ペルシャ湾まで南下するというロシアの歴史的使命を遂行した男であった。[34]

　アナトリアのロシア占領軍が命令第1号をどのように受け取ったかについて同様にリリカルな直接の報告はないが、入手可能な証拠は、その影響がペルシャと同じくらい最小限であったことを示唆している。ニコライ大公はティフリスの指揮から追放されたが、彼のポストは事実上の支配者だったユーデニチ将軍によってかなりスムーズに引き継がれた。

1917年3月に命令第1号が発令された後、ユーデニチ自身が次のように報告した。「法と秩序を強化し、戦争を勝利に導くという傾向という意味で、[兵士]委員会のメンバーは概して好意的である。」

同年4月にティフリスで開催された、イスポルコムに相当するソビエト軍人会議では、コーカサス人である上級将軍が議長に選出され、コーカサスには事実上反逆感情がなかったことを示唆していた。結局のところ、この戦争の舞台において、ロシアは前年（1916年）に圧倒的な勝利を重ねており、もしコーカサス軍が再び主導権を握れば、さらに多くの利益を得る準備ができていたのだ*35。

ある著名な歴史家は『ロシア帝国軍の終焉』の中で、以下のように記述している。「ほとんどの軍隊では、解散に至った大規模な作戦は1つか2つだけで、ルーマニア戦線とコーカサス人戦線では解散はまったくなかった。」36

　1917年3月に、セヴァストポリの黒海艦隊で一種の反乱が起きた。重要なのは、部下に射殺された海軍士官のほぼ全員がドイツ名だったことで、つまり彼らは、下級船員には当てはまらない、戦争努力に対する「裏切り者」であると推定されたのである。

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1917年4月初めまでに、コルチャック提督は黒海艦隊に対する「強固な支配」を再確立した。それは1918年以降、ロシア内戦において白軍に救助と援助を提供することになった。（特に1919年のノヴォロシスクからのデニキン義勇軍の撤退、そして192o年のセヴァストポリからのヴランゲリの部隊の撤退）。

1916年から1917年にかけてコンスタンティノープルを征服する計画の立案者であり、主導的な提唱者であり、将来白軍の「最高司令官」となるコルチャックが、将来のコンスタンティノープル司令官ユデニチと同様に、セヴァストポリの水兵たちの忠誠を確保することができたことは、「ツァルグラード」の夢が二月革命後もなお、トルコ戦線のロシアの水兵や兵士の心に共鳴していたことを示唆している。

　対照的に、1917年6月29日に開始された悲惨なガリツィア攻勢によって明らかになったように、ヨーロッパ戦線では士気が崩壊しつつあった。

いわゆる「ケレンスキー攻勢」は通常、戦争が終結したその時として、ロシア革命を背景に議論される。アレクサンドル・ケレンスキー陸海軍相は、西側連合国に対して新政権の誠実さを示そうとしたが、軍を一歩進めすぎて世論のコントロールを失った。

しかし、この物語は、ロシアの戦争目的の鉄壁の一貫性についても同様に多くのことを私たちに伝えている。

結局のところ、社会主義者が多数を占める政府の実質的な指導者であるIspolkomのメンバーであるケレンスキーは、オーストリアのガリツィア州の首都レンベルク（リヴォフ）を標的とした攻撃を実行して何をしていたのであろうか？これは、ボリシェヴィキがソビエトにおいて激しく威嚇していた無知な「帝国主義」の一種にすぎなかったのだろうか？

その扇動的な反ロマノフのレトリックと革命的理想主義にも関わらず、ペトログラードの多くの人々と同様に、ケレンスキーは旧体制の無分別な外交政策の教義の奴隷であり続けたと、（我々は）結論付けずにはいられなかった。

　1914年8月のタンネンベルクではないにしても、1917年6月―7月のガリツィアで、ついにロシアは西側連合国のために「剣に倒れる」こととなった。

ケレンスキーのジレンマには同情せずにはいられないが、彼は連合国間条約の義務と、輸入軍需物資がムルマンスクに流れ込んでいるという道徳的・物質的要因によって、西部戦線の恐ろしい圧力を和らげるために何かをしなければならなかったのだ。（フランス軍は、1917年5月のいわゆるシュマン・デ・ダムの「反乱」によって動揺しており、兵士たちはドイツの要塞化された塹壕線に対して自爆攻撃をする命令を拒否し始めた）。

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ケレンスキーは、ロシア軍下士官たちに、なぜドイツ軍との普遍的戦いを続けるべきなのかを全力で説明し、前線で非常に「心を揺さぶる愛国的な演説」を行い、ある目撃者はケレンスキーを「すべてを焼き尽くす火の束を投げ出す火山」にたとえた。 38

しかし、7月6日に不可避的なドイツの増援が到着するとすぐに、世界中のあらゆる雄弁でも兵力を強化するには十分ではなく、ロシア軍は即座に「真っ逆さまの逃走」に陥った。

1917年7月にガリシア戦線でドイツ軍から逃げるロシア兵の有名な写真がある。それは、この悲惨な年のロシア軍の士気の崩壊を他のどの写真よりもよく捉えている。

それでも、ガリツィアの崩壊にもかかわらず、ロシア軍が圧倒的な敵を相手に苦戦していたトルコとペルシャでは、軍の士気は比較的高いままであった。

ペルシアやトルコはドイツとは異なるレベルの敵であったと反論する人もいるかもしれない。あたかも（ペルシアやトルコと戦った）バラトフとユーデニチが19世紀風の植民地戦争を戦っているかのようであった一方、不憫なケレンスキーは、20世紀の紛争の恐ろしい戦いを強いられ、帝政ロシアはそのための準備がひどく不十分であったことが明らかになった。

しかし誰かがケレンスキーに、トルコやペルシャではなくガリシアでの攻撃を強制したわけではない。この意味でのケレンスキーの間違いは、ロシアが西側同盟国に対して誠意を尽くし続けていることを示すために攻撃を行うという選択をしたというよりも、むしろ攻撃のための間違った舞台を選択したことにあった。

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率直に言ってしまえば、ケレンスキーは、地政学の熾烈な世界に不慣れで、(驚き・恐怖などで)目を大きく見開いた理想主義者として、救済してほしいというフランスとイギリスの嘆願を丸呑みしたのだ。

もしサゾノフ、スコムリノフ、ヤヌシケビッチがそのまま物事を進めていたら、彼らは、1914年から1915年にかけてそうしていたように、これらの要求を軽くかわしたかもしれない。その後スタフカは、より無益な攻撃でロシア人の命を無駄にしないことで、東ヨーロッパの戦線で揺らぐ士気を危うく保ったかもしれない。一方、将軍たちは代わりに、1917年夏に計画されていたコンスタンティノープルに対する水陸両用作戦に集中したかもしれない。

　ミリュコフやグチコフのような強硬な「ブルジョワ」政治家が5月までに姿を消し、ボリシェヴィキがこれ以上戦争を進めることに反対の立場を明確にしたことで、ケレンスキーはガリツィア攻勢の失敗に対する全責任を負わなければならなくなった。

前線での有名な演説から判断すると、ケレンスキーは、彼の素朴な判断で、ガリツィアでオーストリア・ドイツ軍に対する陽動攻撃を行うことが、ロシア民主主義や連合国などの大義に役立つと本気で想像していた。

ケレンスキーは、不道徳で冷笑的な旧世界現実主義者が長い間支配してきた外交政策にも正義の立場があると信じていた。

この理想主義が働いているのは、アルメニア問題に関する1917年5月28日の苦悩に満ちた政策覚書で見ることができる。その覚書では、ミリュコフ後の外務省は、4月9日のIspolkomの「併合なき平和」宣言という西洋流の人権レトリックを用いて、ロシア帝国主義のサークルを直撃しようとしていた。

古い習慣がすっかり消え去ったことを示して、この文書は、暫定政府の名において、ヴァン、ビトリス、エルズルムの旧オスマン帝国の州は「永遠にアルメニア」であると主張する前に、「戦争権によって占領されたアジアのトルコの地方」に言及している。

しかし、紛らわしいことに、この文書は、これら 3 つの州がロシアによって管理され、アルメニア人、クルド人、トルコ人の難民の送還を支援し、荒廃した地域の再建に費用を支払うことを依然として示唆していた（ただし、明示的には述べていない）。39

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　こうした感情は賞賛に値はするが、政治家としての資質にはならない。1916年にサゾーノフとニコライ大公が決定したように、これらのトルコ東部の州はいかなるグループも有利な地位を得ることなくロシアによって管理されるか、それとも「アルメニア」、つまり自治権を持つかのどちらかである。2つのシナリオは相互に排他的だった。

ケレンスキーのガリツィア攻勢も同様に根本的な間違いであったが、それは失敗したからというよりも、むしろ彼があれほど演説したにもかかわらず、それがどのような戦略的目的にかなうのかを明確にしなかったからである。

スホムリノフは、ヨーロッパロシアの防衛線を強化するために、1914年にオーストリア領ガリシアへの侵攻を命令していた。ブルシーロフは、1916年にオーストリア・ハンガリー帝国を崩壊させるために同じ領土に侵攻した。どちらも成功はしなかったが、少なくとも自分たちが何をしようとしているのかはわかっていた。ケレンスキーはそうではなかった。

　対照的に、ボリシェヴィキは自分たちの立場を根本的に知っていた。「我々はダーダネルス海峡は要らない！」という、彼らの人気のある反戦スローガンの 1 つは、政府を挑発することを目的とした単なる美辞麗句ではなかった。

ボリシェヴィキは、「ツァルグラード」と海峡に関するロシアの主張を否認することを拒否したミリュコフを打ち砕こうとしたとき、自分たちが何をしているのかを正確に知っていた。

ロシア革命のこの重要な瞬間に、ボリシェヴィキは狂った政治的知識人の如く、世界戦争についての本質的な真実を暴露した。

ミリュコフ、グチコフ、そして将軍や提督たちは、ツァーリ、あるいは戦争から立ち上がったロシア政府がコンスタンティノープルを統治できるように、ロシアのムジークを殺してほしいと考えていた。

ミリュコフ、グチコフ、そして将軍や提督たちは、ツァーリ-あるいは戦争からどのうなロシア政府が誕生したかに関わらず-がコンスタンティノープルを統治できるよう、ロシアの農民らが死ぬことを望んでいた。

ボリシェヴィキはそうしなかった。

ケレンスキーは、不運なガリツィア攻撃で、祖国、民主主義、名誉、連合国などへの愛のために戦う（というような具体的なことよりも）もっとあいまいな理由があるとほのめかすことで、この基本的な問題を曖昧にしようとしていた。（だが）ガリツィアの士気の低下から判断すると、ロシアの兵士、少なくともドイツ軍と対峙する兵士たちはそれを受け入れなかった。

　もちろん、ボリシェヴィキ自身は決して平和主義者ではなかった。彼らはロシアの下士官が戦って死ぬことを望まなかったわけではない。彼らは彼らにさまざまな目的のために戦って死ぬことを望んでいた。ツァーリ秩序を破壊する、資産階級の接収など。

ボリシェヴィキ（あるいは、少なくともこの問題に明白だったレーニン）は、ロシアが中央同盟国に対して降伏し、他国の領土に対する「帝国主義」の主張を放棄することを望んでいたという意味では、事実上、次のように言えるだろう。ボリシェヴィキは、1914年から1917年の戦争犠牲者が無駄に死ぬことを望んでいた。

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したがって、コルチャク提督は言うまでもなく、バラトフ、最高司令官アレクセーエフの参謀長アントン・デニキン、ユーデニチのような将軍の苦い気持ちを理解することができる。彼らは、ボリシェヴィキが帝国軍を解体し、世界大戦をロシアの敵に対して降伏させようとしたとき、愛する戦友たちが苦労して勝ち取った勝利と、ツァルグラード襲撃計画に費やされたすべての準備が水泡に帰すのを目の当たりにした。（したがって）デニキン、ユデニチ、コルチャクがロシア内戦でボリシェヴィキの支配に対するコーカサス人の抵抗運動の先頭に立ったのも不思議ではない。4o

　彼らの政策によってもたらされたあらゆる虚無的な破壊にもかかわらず、ボリシェヴィキが1914年の戦争についての根本的な真実を把握していたことは否定できない。

厳格なマルクス・レーニン主義の「帝国主義戦争」理論は、普遍的に適用できるものではなかったかもしれないし、そしてその理論は、ロシアの西側同盟国らの動機を正確に捉えてはいなかったかもしれない。そうした同盟国らは、サイクス・ピコに関する陰謀論にもかかわらず、パレスチナとシリアを征服するために、1914年に実際には戦争をしなかった。

すべての証拠は、その年、フランスの政治家たちが普仏戦争の復讐とアルザス・ロレーヌの占領に執着していた一方、イギリスがベルギーの中立とロンドンの世界的地位に対するドイツの脅威に不安を感じていたことを示唆している。

しかしロシア自身の場合、その非難は的を射たものだった。帝政ドイツでは、マルクス主義社会民主党（SPD）は1917年、ペトログラードのIspolkomからミリュコフとグチコフを分けた「帝国主義」の戦争目的という同じ問題をめぐって、文字通り分裂した。

1918年3月のブレスト・リトフスク条約で明らかになったように、ドイツは実際、東ヨーロッパの旧ロシア領土の広大な地域を併合する計画を立てていた。さらに、ベルギー、ルクセンブルク、ロンウィ・ブライ鉄鉱石を囲むフランスの工業盆地の大半を併合することを計画していた。そして、これらの戦争目的のほとんどは、1914 年の「9 月計画」にまで遡る（c.f.p77)。

同様に、ボリシェヴィキが疑っていたように、アレクセーエフ、グチコフ、ミリュコフは実際に1917年4月にコンスタンティノープルを征服する計画を立てていた。ちょうどサゾーノフと彼の同僚が、1895年以来ロシアの各政府が行ってきたこと、そしてより根本的な根本的な意味でロマノフ王朝の始まり以来行ってきたことと同じことをしていたのだ。

ここで、ロシアの戦争の終わりに、私たちはついにその端緒を理解しよう。

公の場でのレトリックはさておき、セルビアと「スラブの名誉」はそれ（ロシアの戦争）とは何の関係もなかった。ロシアが 1914 年に戦争を始めたのは、これらの幻影の問題をめぐってではなかったし、1917 年の世界史的な政治的激動においてそれらが少しも役割を果たしたわけでもない。ロシアにとって、同盟国のためではないにしても、1914 年の戦争は常に主にオスマン帝国の遺産、つまりコンスタンティノープルと海峡に関するものであった。

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この偉大な戦略的な褒美を求めて、ロシアの野望に対して、増大するドイツの脅威を無力化するためにイギリスとフランスの力を結集することは極めて好都合であると思われたまさにその瞬間に、サゾーノフとスタフカの将軍たちはヨーロッパを当代最大の大惨事に陥らせたのであった。

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