| The RUSSION ORIGINS of the First World War 8 CHAPTER S I X Russia and the Armenians 1 |
| オスマン帝国のアルメニア人社会は 3 つのグループに大別することができる。1 つ目のグループはイスタンブルの富裕層のうち「アミラ（Amira）」と呼ばれる人々である。アミラ層の人々はオスマン政府に近い立場にあり、オスマン官界に進出する者も多かった。2 つ目のグループは都市部の同職組合である。職業上のつながりから彼らは欧州諸国によく知られた存在であった。また 19 世紀中葉からアミラ層の権力に対抗するようになるのもこの同職組合である。3
つ目のグループは農民層である。この層は主に東部アナトリアに存在しており、貧しい暮らしを送っていた。しかし同時にオスマン帝国内のアルメニア人の大部分を占めていたのがこの農民層であった。1890 年時点でオスマン帝国東部には約
513 万人のアルメニア人が存在し、これは東部人口全体の約 2 割を占めていた。（東部アナトリアのアルメニア人と1896年ヴァン反乱より改変） ブルガリア民族解放運動と1876年四月蜂起（皿） 1875 年ボスニア・ヘルツェゴヴィナ蜂起と欧州列強の東方外交 The RUSSION ORIGINS of the First World War Introduction The RUSSION ORIGINS of the First World War 1 Chapter 1 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 1 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 2 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 2 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 3 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 4 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 5 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 6 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 6 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 7 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 8 The RUSSION ORIGINS of the First World War 1Chapter 9 The RUSSION ORIGINS of the First World War Conclusion 第一次世界大戦年表 |
| ｐ141 （ロシアとトルコの間で）戦争が起こった場合、アルメニア人やアッシリアのキリスト教徒が大きな助けとなるかもしれない。したがって、我々は彼らとの友好関係を追求すべきであるが、彼らが我々の指示なしには何もしないことを絶対に主張しなければならない。もし彼らが我々の支援を受けずに反乱を起こした場合、我々の威信に取り返しのつかない打撃を与えることになるだろう。 -S. D. サゾーノフ、1914 年 8 月 ガリポリ戦役におけるロシアの役割に関する長く忘れられた物語は、歴史の選択的記憶における事例研究を提供する。ロシア革命によって生まれた誤った方向への同情は、多くのフランス人やイギリス人作家によって、ロシアの日和見主義と消極性への非難を打ち消すものとなった。 また、カーデン提督やド・ロベック提督のような英国海軍司令官も、黒海艦隊司令官エバーハルトがボスポラス海峡に現れなかったことにほとんど気づいていなかったようで、ましてや後に思い出したりはしなかった。 ガリポリ上陸作戦に対するロシアの最小限の貢献について彼らが表明したほとんど懸念は、その後の恐ろしい塹壕消耗戦によってほとんどかき消されてしまった。戦いが激化する中、責任を追及する時間はほとんどなかった。それが終わったとき、イギリス人は喜んで自分たちを責めた（より正確に言えば、キッチナーとチャーチルが、スケープゴートの大部分を負った）。 このキャンペーンがロシアの地中海への不凍港アクセスを開放することを目的としていたという一般的な認識を伝えることは別として（そして連合国の失敗が1917年の革命の経済的裏話の一部であることを指摘して）、ガリポリ（の戦役）について歴史家のほとんどはロシアについてはほとんど言及していない。だがそれではなぜ、彼らはそうしているのだろうか？ p142 ダーダネルス作戦におけるロシアの連合国間義務を個人的に策定し、その結果に対して不当な責任を問われたウィンストン・チャーチルが、ロシアについて言及しなかったからといって、他の人たちを責めることもできない。２ 2. 興味深いことに、1915年1月にダーダネルス海峡作戦が計画されていたとき、チャーチルはグレイに手紙を書き、ロシア人の過度の耽溺、特にこれからのガリポリ遠征へのギリシャの参加に対する暗黙の拒否権は「 戦争の長期化で100万人の兵士が犠牲になり」、イギリス人に対して「ロシアの手に将来のすべてを委ねる」ことを強制することを意味するだろう、と不満を述べた。この手紙は結局送られることはなかったが、その内容は明らかに後にチャーチルによって忘れ去られていた。 Cited in Fromkin, Peace to End All Peace, p.128.（邦訳p193） 1915年のアルメニアの悲劇におけるロシアの役割の場合、この物語はガリポリ（の戦役）と時系列的に不気味なほど正確に並行して起こっただけでなく、最も重要な段階でガリポリと直接絡み合っていた。同年のアルメニア人虐殺（あるいは、現在多くの人が呼んでいる「ジェノサイド」）をめぐる今も激しさを増す論争が議会の議論や国際法の領域にまで入り込んでいるため、1915年のアルメニアの悲劇をロシアに言及せずに（あるいはただ単に言及しただけで）語ることは、はるかに深刻な真実の歪曲である。３ 3. Donald Bloxhamは、高く評価された最近の研究『The Great Game of Genocide』の中で、コーカサス国境地帯におけるアルメニア人のパルチザン組織の形成を含め、トルコ東部におけるロシアの計画に注意深く注目している(71-91頁)。 彼はまた、ゼイトゥン出身のアルメニア革命家たちがティフリスのロシア軍司令部に武器を要求したことにも言及している。Donald Bloxhamはこれらすべてを踏まえて、「爆発的な状況を助長したロシアの役割は強調される必要がある」と述べた。 それでもなおロシアは、Donald Bloxhamの物語においてせいぜい二次的な役割を果たしているにすぎず、その物語はほぼ全面的にオスマン帝国の計画性や1915年のアルメニア人虐殺に対する罪悪感といった「大量虐殺」問題に焦点を当てている。 同様に、Taner Akgamの『A Shameful Act』（2006年）も「ロシア軍に仕えるアルメニア人志願兵の問題は非常に重要である」と述べたが、この重要性は「統一主義指導者への影響」、つまりオスマン帝国の政策にのみあると付け加えた。どちらにしても、Bloxham and Akcamにとって、ロシアの外交政策自体は後回しなのである。 S. M. Akopian, inZapadnaia Armeniia v planakh imperialisticheskikh derzhav (1969) and A. O. Arutiunian in Kavkazskii front 1914-1917 gg. (1971),のような多くのソビエトのアルメニア人学者らは、戦時中のアルメニア人強制移送、移動というロシア帝国の文脈を徹底的に調査しているが、こうしたことは西側の言語での「ジェノサイド」との記述には当てはまらず、ソビエトのアルメニア人学者らは、物語におけるロシアの役割を軽視する傾向がある。この規範についての注目すべき例外は、Ronald SunyのArmenia in the Twentieth Century (1983)である。 今日の一般的なアルメニア系のより代表的なものは、Vahakn Dadrianと（いくつかの例外を除いて）Richard Hovannisianの本である。 The History of the Armenian Genocide (orig. 1995; six editions so far, and counting)の中で、Vahakn Dadrianは6ページ分を「アルメニアの惨事」におけるロシアの役割に費やしており、これらはもっぱら第一次世界大戦前の期間を扱っている。 Richard Hovannisianは、最近編集したThe Armenian People from Ancient to Modern Times (2004)に関する巻の主な論文である"The Armenian Question in the Ottoman Empire," で、ロシアのアルメニア政策についてかなり広範な議論を提供しているが、 繰り返しになるが、それは第一次世界大戦前の期間のみである。 Richard Hovannisianが第一次世界大戦におけるロシアのアングルについて知らないわけではない。実際、彼は40年前に "The Allies and Armenia, 1915-18" において、この主題をかなり広範囲に取り上げた。 むしろ、彼はアメリカの学界におけるアルメニア主義の大義の公式スポークスマンのような存在になった後、後の作品の記憶の穴にすべてを滑り込ませてしまったようだ。 それは、たとえば、1956年の不運なハンガリー革命の際の「ブダペストの流血事件」について、ソ連に言及せずに書くのと似ている。 1915 年の（大虐殺の）物語は通常、1894 年から 1896 年のアルメニア人の暴動と大虐殺で始まる※。(c.f.東部アナトリアのアルメニア人と1896年ヴァン反乱 Hamidian massacres) アルメニア人とトルコの歴史家では当然ながら、重要な出来事の解釈について意見が異なるが、この数年間で、それまで比較的調和して暮らしていたアルメニア人とオスマン帝国のイスラム教徒の間の反感の深刻な激化をもたらしたという点では大筋で一致している。 訳注※1895年から1896年にかけて第一次アルメニア人虐殺（Hamidian massacresと言われている事件が東部アナトリアの各都市で起こっている。19 世紀以降オスマン帝国の領土であったバルカン半島に住むキリスト教徒諸民族が独立を目指し反乱を起こす中、オスマン帝国内に住むアルメニア人の中でも自治権獲得を目指す動きが目立つようになった。ロシアによる援助とイギリスを筆頭とする他の欧州諸国の世論に訴えるため、アルメニア人居住率の高い東部アナトリアでもアルメニア人による反乱が起こり、オスマン軍がこれに交戦したことで大きな被害が出た。オスマン帝国のアルメニア人の民族運動に端を発した 1895 年と 1896 年の一連の事件は、アルメニア人民族運動の中心地であったヴァンでの事件を最後に一旦幕を閉じる。（東部アナトリアのアルメニア人と1896年ヴァン反乱より） 過去一世紀にわたるオスマン帝国の権威と威信の全体的な低下から、ダシュナクツトゥン（または「ダシュナク」）やフンチャキ革命党（「フンチャク」）のようなアルメニア革命グループの組織まで、緊張の高まりには多くの原因があった。 19世紀後半にヨーロッパとロシアで社会民主党が広がったことに一部触発され、1900年以降、アルメニアの組織は、反オスマン帝国を展開する、列強の目にも留まった内部マケドニア革命組織（IMRO）のようなバルカン半島の政治テロ組織の成功からも学んだ。（IMROは、フェルディナンド大公暗殺に関与した黒手組のモデルとなった。） アルメニア人グループは、トルコの地方支部が「自由」（ダシュナク）または「自由」を獲得するという名目で、コンスタンティノープルおよび亡命中のヨーロッパ委員会を通じて、表面上の合法性を維持していた。トルコの地方支部がアルメニア人の「自由」（ダシュナク族）や「独立」（フンチャク族）を勝ち取るという名目でオスマン帝国政府に対する公然たる抵抗姿勢を主張していたとしても、その目的は外部勢力による介入を促進することであった。 p143 1890年ごろから一連の暴力事件が発生したが、そのほとんどがオスマン帝国当局者の命を狙ったもので、アルメニアの革命家またはゲリラ集団によって仕組まれたものと思われる。後者は、トルコ東部と南東部のあいまいな国境近くのロシアまたはペルシャの領土から活動していた。 オスマン帝国政府が、危険な反乱運動とみなしたものに対して弾圧的な措置を講じたのは、不自然ではない。こうした弾圧（の対象）には、1891年にスルタン・アブドゥル・ハミド2世によって組織化されたクルド人部族による非正規の警察民兵組織、間もなく悪名を轟かせる「ハミディエ」連隊組織が含まれていた。英国領事の一人がハミディエに呼びかけたように、アルメニア人が攻撃するたびに、これらの「認可された抑圧者」による予想通りの残忍な報復が起こり、古典的なエスカレートスパイラルを助長した4。 1894年、ヴァン湖の西の平原にあるサッスン州でアルメニア人とトルコ軍（ハミディエ連隊の支援）との間の一連の衝突が拡大し、約265人のアルメニア人が殺害されたと伝えられ、オスマン帝国政府が調査委員会を設置したたとき、トルコ東部の州でゆっくりと燃え上がる内戦がヨーロッパ人の注目を集めるようになった。 このような場合にはよくあることだが、自らの行動を調査することで外部からの批判を静めようとする政府の努力は、代わりに前例のない外部の注目をそれらの行動に向けることにつながった。（反トルコである自由党の）ウィリアム・エワート・グラッドストンの有名なパンフレット『The Bulgarian garian Horrors and the Question of the East』（1876年）によって刺激された西側の報道機関に大きな怒りと叫びが生じ、トルコ人に対する儀式的な憤りが再び繰り返されることになった。 西側社会の非難の世論の波に乗って、英国、フランス、ロシアの駐オスマン帝国大使は1895年7月に団結して、トルコ東部の「アルメニア人」6州の政治改革を要求した。ポルテはこれらの州のアルメニア人の「要求された改善と改革を実現」し、「安全を保証」し、「この意図で取られた措置について、権力者が監督することになるので、その説明を定期的に責任を負う」と規定した1878年のベルリン条約第61条を口実に。５ このように、この危機はすでに、1877年のロシアからの侵攻（露土戦争）に先立って、アルメニア人暴動の新たな波によりスルタンが暴力的な対抗措置を開始するに至ったとき、回復主義者の反乱と反オスマン外交的包囲網の不気味な雰囲気を帯びていた。 p144 ヨーロッパの外交介入と同時およびそれに続いて、ビトリス、ヴァン、ゼイトゥン（アレッポの北）、エルズルム、トラブゾン、さらには首都イタール自体でも暴力事件が発生し、1895年9月30日には約60人のアルメニア人抗議者が、殺害された。オスマン帝国の警察官約15名も同行しており、デモ参加者が十分に武装していたことを示唆している。 1896 年 8 月 26 日、武装したアルメニア人革命家がオスマン帝国銀行を掌握し、東部 6 州の改革案が認められなければ銀行を爆破すると脅迫し、拡大する危機は最高潮に達した。彼らはまた、アルメニア人の政治犯の解放も要求した。大事件にもかかわらず、この銀行掌握には誰も驚かなかったようだ。 事前に組織されていたイスラム暴徒は復讐をすぐに実行に移し、市内全域でアルメニア人を暴行、略奪、殺害したと言われている。 伝えられるところによれば、多くのアルメニア人がこれが起こることを予想して首都から避難した。トルコの他の場所でもさらなる報復が行われた。1894 年から 1896 年にかけて、自然発生的および組織的な大虐殺で何人のアルメニア人が亡くなったのか正確には誰にもわからないが、おそらくオスマン帝国の公式推定 13,432 人と現代ヨーロッパの推定 50,000 人から 80,000 人の間と思われる。6 たとえ解釈や死傷者数についてはかなりの論争が残っているとしても、これらの事実はすべて知られている。しかし、国際情勢についての理解には依然として大きな隔たりが存在する。 ほとんどの解説者は、アルメニアの革命グループが銀行強盗のような挑発を仕掛けることで、意図的に外部勢力を自分たちの大義に巻き込むことを目指しており、たとえ誰も有効な方法で介入しなかったとしても、1895年から1896年にかけて外部勢力が実際にアルメニア側についたことを認めている。 しかし、アルメニア人問題に関するフランス語、ドイツ語、特に英語の情報源の特権化により、アルメニア人が主に挑発を仕掛けることでどの勢力に影響を与えようとしていたのかについての理解が歪められている。 同じような歴史の歪曲は、1875年から1878年のバルカン危機でも観察できる。この問題に関する膨大な文献から判断すると、主なアクターは、かの（反トルコの）パンフレットを発行したイギリスの政治家（グラッドストン）、冷笑的な保守党サンドバッグ役（ベンジャミン・ディズレーリ）、そして危機の打開に貢献したさらに冷笑的な政治家（オットー・フォン・ビスマルク）だった。 グラッドストンがブルガリアン・ホラーズや1880年のミドロジアンキャンペーンで、外交政策においてリベラルを道徳化しようとした草案について理解すると、1877年に実際にブルガリア人を「解放」するために侵攻したトルコに侵攻したのはイギリスではなくロシアだったことを思い出す必要があるかもしれない。 7 p145 この意味で、グラッドストンはオスマントルコにおけるロシア帝国の計画への最初で最も偉大な英国の腹話術師であった。彼は、ビスマルクと、ディズレーリとソールズベリー卿の保守党チームとだけによって、ロシアのバルカン半島征服推進を（おそらく意図的ではないが）失敗させた。8 8. （反トルコの）グラッドストンはロシアの侵略についてはやや控えめな態度を取った。 彼は、ブルガリアにおけるオスマン帝国の残虐行為を非難するさまざまな決議案を下院に提出することでディズレーリを困惑させようとしたわけではなかった。 1878年にロシアが実際にコンスタンティノープルを占領していたら（サン・ステファノ条約が有効であったなら）、（反トルコの）グラッドストンがイギリスの宣戦布告を支持しただろうか、それとも反対していただろうか、というのは興味深い問題である。 このような（ロシアがコンスタンティノープルを占領する）ことが起こらないよう脅迫を発することで、ディズレーリはグラッドストンを自身のジレンマの角から救い出し、このようにしてグラッドストンの1880年の権力復帰は可能となったのである。 彼が最後ということではなかった。ソールズベリーと、依然として基本的にロシアに嫌悪的（で親トルコ）だった保守党が1894年から1896年まで政権を握っていたために、ロンドンはアルメニア人（の扱い）への正当性の要求において、より穏健だった（英国はオスマン帝国の味方だった）。しかし、オスマン帝国の英国外交官らは、フランスの外交官らとともに、（オスマン嫌いだった）道徳主義的なグラッドストンの路線にますます後れをとっていた。 これらの領事のほとんどが理解していなかったのは、グラッドストンのパンフレット発行（訳注；『ブルガリアの恐怖と東方問題』。グラッドストンはその中で「人類の中でも反人間の最たる見本がトルコ人だ。我が国の凶悪犯、あるいは南海の食人種でさえも、トルコ人がブルガリアで犯した虐殺を聞いて戦慄しない者はいないだろう。我々が取るべき道は、トルコ人の悪行と手を切り、バルカン半島からトルコ人を追い出すことだ。」と主張した）のように、オスマン帝国からの抑圧を理由にしたアルメニアの自治拡大を求める国民運動が、最終的には英国やフランスよりもはるかにロシアの利益にかなうことになってしまう、ということだった。（訳注；反トルコの自由党的政策が、ロシアを利する） アルメニア革命運動がロシアから武器の大部分を受け取り、何よりもロシアからの武力介入を誘発することを目的としていたというだけではない。「アルメニア改革」運動をヨーロッパの均衡にとって特に危険なものにしたのは、ロシア自身がアルメニア人を自分たちの懐中のものと信じており、彼らを搾取することを明白に狙っていたことであった。 イギリス、フランス、アメリカの観察者のほとんどがトルコでの民族間暴力に心からショックを受け、その改善を望んでいたのに対し、ロシアの観察者らは、これから見るように、侵略の前兆として意図的に民族間の緊張を悪化させようとした。 1877年から1878年のロシア・オスマン戦争と第一次世界大戦のエヴィデンスを考慮すると、ロシア帝国の外交政策に関するこの重要な真実は驚くべきことではない。しかし、同じ政策がこれらの紛争の間の平時にも一貫して踏襲され、連続するアルメニア危機のたびに軍事計画の強度は予測可能かつ明らかになった。 ロシアが初めてボスポラス海峡で水陸両用作戦を実施する可能性について本格的な兵站研究を始めたのは、まさに1895年から1896年のアルメニア蜂起に便乗するためであった。トルコとアルメニアの関係は比較的穏やかな時期を経た後、1908年の青年トルコ革命（さらに190９年4月13日の短命なハミディアン反革命）は、キリキア、特にアダナを中心に再び宗教暴力の勃発を引き起こした。そこでは数千人のアルメニア人がイスラム教徒の暴徒によって殺害された。 p146 再び、手に負えないキリスト教徒少数派によるオスマン国内の混乱をきっかけに、ロシアのコンスタンティノープル占領作戦計画が加速された。これらの計画では、「キリスト教徒の工作員（ヨーロッパのマケドニア人とブルガリア人、アナトリアのギリシャ人とアルメニア人）」がコンスタンティノープルへの鉄道を遮断し、その後、現地のキリスト教徒が「黄金角湾に架かるすべての木の橋を焼き落とし、スタンブールに火を放つ」と明示的に規定されていた。アルメニア人（および他のオスマン帝国のキリスト教徒）をロシア侵攻軍のスパイとして使用するための、より明確な青写真はほとんど描かれていなかった。 1911年から1913年のイタリア戦争とバルカン戦争の間には、オスマン帝国で民族間および宗教間の暴力が再び激化し、予想通りロシアの日和見主義が再び巻き起こった。実際、これらの戦争は、トルコにおける民族と宗教の緊張の爆発の原因というよりも、青年トルコ革命後のオスマン帝国の威信の凋落によってもたらされたのと同じ一般的な現象の一部であることは間違いない。 オーストリア・ハンガリー帝国がトルコの混乱を利用して1908年10月にボスニア・ヘルツェゴビナを併合したことは有名であり、その併合をロシアは（イズヴォルスキーとエーレンタールとの不吉な取引で）、海峡（占領）の主張をするための口実としてさえ利用した。 ブルガリアは同月、まだ名目上オスマン帝国領であったクレタ島がギリシャとの合併を発表する直前に独立を宣言していた。 1911年から1912年にかけてイタリアとバルカン半島のペテン師諸国が襲来した頃には、帝国の寿命も残りわずかであるかに思われた。まだ食べられる部分がある間は、誰もがオスマン帝国の死骸の一部を欲しがった。 オスマン帝国のヨーロッパがギリシャ人、セルビア人、ブルガリア人によって分割されている間、トルコ東部では、オスマン帝国の権威が失われ、部族略奪者とその地域のロシア領事に広範な許可が与えられ、彼らだけが村人や町民を彼らから守る権限を持っているように見えた。 アルメニアの問題は、コーカサスとペルシャ北西部に隣接するトルコの不安定な地域に関するハイレベル外交の大半を占めていたが、おそらく遊牧クルド人部族がこの地域の主導者であった。彼らは、オスマン帝国やペルシアの政府高官であれ、あるいは入植貿易を支配し土地を耕していた※アルメニア人、アッシリア人、シリア人のキリスト教徒の当惑する混合人であれ、定住住民に大混乱をもたらした。 ※クルド人にとって公平を期すために言うと、クルド人の部族のすべてが遊牧民だったわけではなく、遊牧民のすべてが略奪者だったわけでもありません。 この土地に永住する少数のクルド人農民も、定住したキリスト教徒、トルコ人、ペルシア人と同様に遊牧民の襲撃に対して脆弱であった。 それでも、すべてのクルド人が遊牧民ではないことが真実であるとすれば、この地域の事実上すべての遊牧民がクルド人であることも同様に真実である。 p147 実のところ、オスマン帝国とロシア帝国が交差し、ペルシャ帝国と交わった東アナトリア（またはトルコ領アルメニア、当時多くのアルメニア人やヨーロッパ人がやや楽観的にこの地域を呼んでいた）の係争地域全体は9、1914年よりずっと前から戦争の準備が整っていたような状態にあった。 クルド人の部族長のほとんどは非常によく武装しており、彼らが歩き回る地域では事実上主権を持っていた。他のほぼ全員と同じように、彼らは主にロシア製の武器を購入した。キリスト教徒の町民もロシアから武器を購入したが、本当に商売を目的としたクルド人略奪者を追い払うほどの量はめったになかった。偉大なクルド人部族長、例えばシェイク・タギ（主にペルシャ北西部のウルミア州を放浪していた）、シェイク・マフムド（モスル近郊のメソポタミア北部出身）、セリム師（トルコ南東部のビトリスとヴァン周辺地域）などは、オスマン帝国軍やロシア軍と直接対峙しない限りは、 ねぐらで休むような状況だった。直接対峙したような場合、彼らは単に友好的な略奪牧草地に逃げるだけだった。 つまり、この緊迫した危険な時代の東アナトリアの物語は、トルコ人とアルメニア人だけのものではなかったのだ。クルド人の遊牧民は一貫して（アルメニア人のような）キリスト教徒に対して敵対的であったと主張する人もいるかもしれないが、どのグループがどちらの「側」にあったかについてこれ以上一般化することは危険である。 多くのクルド人がハミディエ連隊に加わり、これは彼らと政府との間のある種の団結を意味するが、他のクルド人はオスマン帝国の憲兵や軍隊と頻繁に戦った。トルコがペルシャとの国境を侵犯したのは通常、反抗的なクルド人部族を追跡するためだった。 アルメニアの組織もまた、遊牧民クルド人の略奪者に対する敵意においては概ね一貫していたものの、オスマン帝国政府や、特にロシア皇帝打倒を目的とした革命部門に対して一律に敵対的であったわけではない。 振り返ってみると驚くべきことだが、世界大戦前、ポルテはダシュナク族の活動の関係が（ペルシャ北部で傾向があったように）ロシアに向けられている限り、ダシュナク族に財政的、法的、そして時折武力での支援さえ提供していた。 p148 1912年初頭のある時点で、70人近くの反ロシア活動家が、その大部分がアルメニア人革命家であったが、ペテルブルクへの身柄引き渡しを恐れて、タブリーズのオスマン帝国領事館に立てこもっていた[10]。 時には、オスマン帝国内のアルメニア人武装勢力がトルコ軍と協力して、自国民に不当な扱いをしたクルド人の首長を追跡することさえあったかもしれない11。 この地域の状況を計り知れないほど複雑にしていたのは、影響力を拡大しそうな者なら誰とでも喜んで協力する日和見主義のロシア人であった。古典的な分割統治スタイルで、Chorister's Bridge（ロシア）はクルド人の部族長やキリスト教徒の犠牲者たちと同様に緊密な関係を育んだ。 両グループは、ロシアの主要な敵対者であるオスマン帝国政府としばしば対立していた。そのため、たとえお互いを敵だと思っていたとしても、彼らは望ましい友人となったのである。 クルド人の略奪は無差別であったため、サンクトペテルブルクに一度に二つのことをもたらした。つまり、彼らは反乱鎮圧作戦でオスマン帝国軍と提携し、アルメニア人にロシアの保護を要求する大義を与えた。 このようにして一般的な騒乱を増悪させることによって、クルド遊牧民は理想的な帝国の道具となった。そして、ロシアは彼らを利用することを厭わず、オスマン帝国とペルシャのクルド人に武器、資金、さらには貿易使節団を送った。ロシアの取り組みは非常に真剣だったので、クルド語学校がサンクトペテルブルクに設立された12。 第一次バルカン戦争がオスマン帝国の支配に最終的な終わりを予告するかに思われたとき、ロシア人は行動を開始した。1912年11月28日の指令で、サゾーノフはトルコ東部のロシア領事に対し、包囲されたオスマン帝国に対して、クルド人部族の統一に向けて努力するよう指示した[13]。 ティフリス司令部も手を出して、政府に対するクルド人を扇動するために遊牧民に変装したロシア軍将校４人をトルコ国境を越えて派遣した14。 相互に敵対することの多い部族を統一するという任務は、最終的にはロシアの判断力を超えていることが判明したが、クルド人の個々の部族長の多くは、トルコは終わったと信じており、ロシアの取り組みに積極的に反応した。ペルシャ北部のウルミア州出身のシェイク・タギは、1912 年 12 月に帝政ロシアへの忠誠を誓った。15 メソポタミア北部を放浪していたシェイク・マフムードは、1913 年 2 月に「自分自身とクルド人をロシアの支配下に置いた」16。 名門ベディルハン氏族出身のクルド人で、サンクトペテルブルクでオスマン帝国の外交官を務めていたアブドゥルレザク・ベイは、3月初旬にビトリスのロシア領事に忠誠の誓いを立てた[17]。 p149 負けたくないので、同月、マフムードはさらに踏み込んで、モスルのロシア副領事N・M・キルサノフに対し、クルド人は「トルコ政府に対する武装蜂起を含め、ロシアが求めるあらゆる支援を与える用意がある」と約束した。首長は5万人の兵を戦闘に投入できると約束した。感銘を受けたキルサノフは、ロシアとトルコの戦争中に深刻なクルド人の反乱が起きれば、オスマン帝国軍の2つの軍団全体が拘束される可能性があるとペテルブルクに伝えた[18]。 これらの無条件の忠誠の公言に間違いなく満足しはいたが、ロシアの外交官たちはクルド人に対して注意を払わなければならなかった。オスマン帝国軍との定期的な部族間の小競り合いと5万人の軍隊を召集することは全く別のことだった。なぜなら、オスマン帝国軍を敗走させた後の彼らの最初の標的は、ほぼ確実にアルメニア人やその他のロシアに友好的なキリスト教徒となったからである。 仮にクルド人の高尚な部族が、その族長が自治やオスマン帝国のスルタンに取って代わるという考えを抱くほど強力になったとしても、それがロシアの利益となることはほとんどなかっただろう。理想的なシナリオは、単一の民族や宗教集団が現れて他を支配することがなく、地域の混乱を促進してロシアに介入する口実を与えるというものであった。 サンクトペテルブルクにとって幸運だったのは、揺れるオスマン帝国を打倒するためにロシアの協力を得ることに熱心なトルコ東部の集団は、クルド人だけではなかったということである。アルメニアの革命家たちが、かつては若いトルコ人たちに大きな期待を抱いていたことは事実である。彼らのヨーロッパ支部は1908年以前の数年間、彼らの亡命委員会と緊密に協力しており、両者ともアブドゥル・ハミド2世の政権打倒を計画していた。宗教的平等は、シャリーアに反するにもかかわらず、当初の CUP（統一と進歩委員会）綱領の一部でさえあったが、4 月以降、その違反はほとんど名誉とされてきた。 そしてまた、オスマン帝国のアルメニア人の大部分は、他の自称革命家全員をスパイするのと同じように、ダシュナクとフンチャク（アルメニア革命グループの組織）をスパイする反動的なツァーリ政権に疑念を抱き続けたが、それには正当な理由がある。ベルリンでのダシュナク会議に出席したオフラーナのエージェントがツァーリに報告したように、1914年までにトルコ東部のダシュナク支部とフンチャク支部は武器密輸に主力を捧げるIMROスタイルの民兵組織に発展していた。19 一般に、アルメニアの社会主義者は、ヨーロッパの社会主義者と同様に、どのような傾向の「帝国主義」に対してもイデオロギー的に反対者であった。これは、1913 年 3 月にダシュナクの首長アラム・パシャがロシア副領事オルフェリエフに思い出させたとおりである。20 p150 しかし、トルコ東部のアルメニア人革命家にとって、すべての帝国主義リアリストが同じだったわけではなく、オスマン帝国が今にも崩壊しそうな機が熟していたときもそうではなかった。オルフェリエフがサゾーノフに伝えたように、ポルテがペルシャ北部の反ロシア・ダシュナク反乱軍に提供していた武器は、そのままバルカン半島連合軍の攻撃に動揺しているオスマン帝国政府に対しても同様に使用できるだろう。以前は反政府勢力がペルシャ国境を越えてロシアに武器を密輸していたが、今はすぐに逆密輸している。 こうした理由から、オルフェリエフは、ダシュナクゲリラがトルコ東部に向かう途中でペルシャに侵入したとき、ロシアの国境警備隊が見て見ぬふりをし続けることを勧告した（ポルテに代わって申し立てたテヘランからの公式要請にもかかわらず、反政府勢力の武装解除を求めた）。オルフェリエフは、ギールスとサゾーノフに嬉々として報告した。ヴァン区域全体の「アルメニア人の雰囲気」は、以前は多少曖昧だったが、今では「完全なロシアフィリアの一つだ…ダシュナクは完全に我々の味方だ」22。 ダシュナクはペルシャルートを利用して、膨大な数の武器をオスマン帝国に密輸していた。オルフェリエフの報告によると、1913年4月までにヴァン区域は「武装キャンプ」と化し、「アルメニア商人は皆、店に銃を備蓄している」23。 オスマン帝国の権威の崩壊が進み、「ロシアフィリア」による圧倒により、ダシュナクはロシアに加勢する準備ができているように見えた。 だがまったくそんなことはなかった。少なくとも1913年の春には、ヴァン区域のアルメニア人たちの主な敵は、彼らよりもオスマン帝国政府の打倒に熱心だったクルド人部族民であることが判明した。クルド人の略奪があまりに深刻だったため、サゾーノフ（オルフェリエフとギールスによって指示された）は5月29日、ポルテに対して、彼らから守るために正規軍を派遣するよう正式に要求した。 およそ10日後、オスマン帝国軍が大軍勢でヴァン区域に到着したとき（これは第一次バルカン戦争と第二次バルカン戦争の間のトルコの短い休息期間中にあった）、オルフェリエフ副領事は、アラム・パシャの指揮の下、重武装したアルメニア人ダシュナク兵約500名が、オスマン帝国軍とともに逃亡するクルド人遊牧民を追跡する異様なな光景を目の当たりにした24。 p151 1913年6月初旬に、アナトリア東部の現地で何が起こっていたのかを強調することが重要である。なぜなら、ロシアが第一次世界大戦に長い影を落とした有名なアルメニア改革運動を開始したのはまさにこの時だったからである。（c.f.p159) 1895年と同じように、サンクトペテルブルクはアナトリア東部で急増する民族不安を、作戦の口実（アルメニア人が危険にさらされているという考え）と、もちろんオスマン帝国が最も弱いと感じたときに痛めつける目的の両方として利用した。 アルメニア改革運動の最初の一斉射撃は、1913年6月2日、サゾーノフがポルテにヴァン区域への軍隊派遣を要求してから3日後、クルド人がダシュナク軍とオスマン帝国軍によって敗走する9日前に、ロシア外務次官A・A・ネラトフによって発動された。 この驚くべき成功を収めた共同作戦により、大国による圧迫の必要性が回避されたと思われるかもしれない。ヴァン危機を口実として（しかし実際の出来事から結論を出すことは無視して）ネラトフは、コンスタンティノープルのギールス、パリのイズヴォルスキー、ロンドンのベンケンドルフに対し、「1895年の草案に従って、新たな協商運動を推進する」ことを提案した。 25 この外交キャンペーン自体はよく知られており、第一次世界大戦と 1915 年のアルメニアの悲劇の両方に関するほとんどの書籍で取り上げられているが、この外交キャンペーンがいかにロシアのみに限定されていたかは一般には認識されていない。ある意味、アルメニア改革プロジェクトは世界大戦そのものの外交の予行演習であり、ロシアは同盟国を操作して自らの帝国目標を支持させ、一方でドイツの敵対的な対抗措置を挑発した。 予想通り、サゾーノフがヨーロッパの主要大使すべてに宛てた回覧で不満を述べたように、「セラピア大使館の規約に反して」行動するロシアの「改革」計画の最も強力な反対者として、1913 年 6 月 12 日に、ハンス・フォン・ヴァンゲンハイム駐ポルテ・ドイツ大使が登場した。26 ヴァンゲンハイムはベルリンの上司から、緊張を和らげるためにロシアの草案に協力するよう説得されたが、それでもロシア大使ギールスに対し、ドイツがトルコからの批判から逃れられるように、東「アルメニア」の6州にヨーロッパの査察官を任命するなど、物議を醸すことに同意するよう大宰相サイード・ハリム・パシャに要求した。 1913年10月17日にギールスが訴えたように、「それは、我々だけがこの要求をしなければならないとしたら、トルコの要人の怒りの全てが我々[ロシア人]だけに降りかかることになるので危険なことだった。」27。 p152 1914年2月8日に批准された協定ではヨーロッパの査察官2名が規定されていたが、ドイツの粘り強さにより、最終的にはトルコ側は最も攻撃的な条項をうまく回避することができた。最終版（大国を代表してロシアのみが署名したもの）には、「アルメニア人」または「アルメニア人」の州についてさえ言及されていない28。 それでも、骨抜きになった合意に適切な脅威のほのめかしが伴うことを確実にするために、サゾーノフはサンクトペテルブルクのオスマン帝国大使トゥルハン・パシャに対し、トルコ東部で新たなアルメニア人「虐殺」が起きればロシアが介入するだろうと何度も警告した。.29 （こうした独露の）キャンペーンの両極端な対立は、アナトリア東部における不気味な展開であり、ポルテにとってのアルメニア改革問題全体がロシア帝国主義にとってのトロイの木馬である（騙し隠れて懐に侵入し、相手に損害を与える）ことを裏付けた。 1913 年 6 月のオスマン帝国とダシュナクの攻勢に続く数か月間、ヴァン区域は比較的平静だったが、ロシア軍がアルメニア改革協定に署名するためにポルテに追い打ちをかけた直後の 1914 年 2 月から 3 月までには、近隣のビトリス地方は正真正銘の戦場と化した（ビトリスの戦い）。ビトリスは実際「静か」だったわけではなく、ここ数カ月間の一連の事件は問題の前兆のように思えた。1913 年 5 月に 7 人のアルメニア人がそこで殺害された[30]。 クルド人部族民は 1913 年 10 月にもビトリス郊外に駐屯するトルコ軍を攻撃していた[31]。 全体的なクルド人蜂起は明らかに冬の間ずっと準備されていたため、これは政府の防衛を調査する試験的なものだったのかもしれない。クルド人の計画に関する実用的な情報を集めたオスマン帝国当局は、1914年3月8日に首謀者セリム師を近郊のヒザン地区で逮捕したが、彼はビトルスへ移送中、クルド人200人の軍隊によって数時間以内に釈放された。そのことがむしろ、政府の立場を証明していた。 ビトリスから車で2時間のクミチにあるクルド人の拠点で再結集したセリム師は、「不敬な」CUP（統一と進歩委員会※）政府に対するクルド人全体の反乱を宣言した。その主張はシャリーア法を復活させることだった（新たな牛税に関する苦情もあった）。2日以内に、約300人のクルド部族指導者が彼の旗の下に結集し、8,000人の武装勢力を招集してビトリスに対する攻撃の準備を整えた。ムッラー・セリムはキリスト教徒に危害を加えないと明示的に約束したが、当然のことながら過去の前例からほとんどのアルメニア人は彼の言うことを信じることを拒否した。ビトリスのアルメニア人指導者らが、血に飢え、イスラム法を吐き出すムラーから「憲法を守る」ために政府に武器の提供を求めたのは不当ではなかった[32]。 訳注※統一と進歩委員会は、オスマン帝国の末期に活動した政治組織である。1908年の青年トルコ人革命の主体となり、また第一次世界大戦前後の1913年から1918年までは内閣を組閣、政権を握った。 ロシアに（1913年6月初旬からの）アルメニア改革運動の口実を与えた前年春のヴァンでの出来事と表面的には似ているが、1914年3月のビトリスの戦い※は全く異なる結末を迎えた。政府が武装を拒否したため、地元のキリスト教徒は、3月13日に近くのアルメニア修道院を占領した略奪クルド人に対して反撃することもできず（政府は小規模な分遣隊を派遣したが）、1914年4月2日にビトリス本土に入った大規模なクルド人部隊に対しても反撃することができなかった。 訳注※ビトリスの蜂起は、1914年初頭にオスマン帝国で起きたクルド人の蜂起である。 これはロシア帝国の支援を受けていた。 蜂起は3月上旬に始まり、クルド人戦闘員とオスマン帝国憲兵の間の小競り合いで後者は撤退を余儀なくされた。 その後クルド人はビトリス市を包囲し、4月2日に同市を占領した。 その後、オスマン帝国軍がムシュとヴァンから派遣され、蜂起を鎮圧した。 4月4日の反乱の敗北後、反乱軍指導者の一人、モラ・セリムはロシアへの亡命申請に成功。 無力にも、地元のアルメニア人のほとんどはロシア領事館に避難した。4月5日にセリム師自身と数人の主要な共謀者もそこに避難した（訳注；4月4日の反乱の敗北後セリム師はロシアへの亡命申請に成功した）。政府軍が彼の部族民を逃亡させた後、彼と彼の共謀者たちから逃れるためにそこに立てこもっていたアルメニア人たちはおそらく不愉快な驚きを感じていた。 驚くべきことに、8月に世界大戦が勃発したとき、セリム師はまだロシア領事館に隠れていた。また、トルコが紛争に加わった丸6か月後の11月までに、彼は建物複合体を離れなかった[33]。 オスマン帝国のアルメニア人にとっての教訓は明らかだった。トルコ政府は、アルメニア人に代わってロシアが行った不当な外交介入に対する憤りのためか、あるいは長年くすぶっていた単純な悪意のためか、共通のクルド人の脅威に対してビトリスのアルメニア人たちと協力することをきっぱりと拒否した。 確かに、ロシア自身の行動、つまりセリム師の保護も、完全に安心できるものではなかった。しかし、このエピソードでさえ、オスマン帝国の力が衰退しつつあり、ロシアがキリスト教徒の唯一の信頼できる保護者であることをさらに裏付けるものとなった。 このことは、アナトリア東部に芽生えていたプロテスタントの宣教活動に多数参加しているアメリカ人キリスト教徒さえも信じていた。在トルコアメリカ宣教委員会の書記であるG.C.レイノルズ博士は、ヴァンのオルフェリエフ領事を通じて「ロシア政府と正式に調整し」、「トルコ東部におけるアメリカの権益の総合保護領を引き受ける」ことを決めていた[34]。 8月に世界大戦が勃発すると、東アナトリアにおけるオスマン帝国の支配に終焉の鐘がついに鳴り響いたかに見えた。35 アルメニア革命連盟が 1914 年 8 月にエルズルムで開催された年次大会で、ロシアと戦争になった場合に備えてポルテへの支持を公に誓ったのは事実である[36]。 p154 それでも、世界中のほとんどのアルメニア人の忠誠心はどこにあるのか、ほとんど疑問はなかった。ロシア外交文書館には、8月の戦争勃発後にアルメニア指導者らから送られた、ツァーリに対しての支持の手紙が大量にあるが、その内容はどれも多かれ少なかれ同じことを言っている。「私たちはあなたがたの武器の勝利を心から祈っています」 。武器はイスラム教徒のくびきの下で苦しむキリスト教徒を解放するだろう。」 (この特別な手紙は、イスラム勢力がロシアと戦争をする2か月前の1914年8月29日に、パリの4人のアルメニア人聖職者から投稿されたものである。) もちろん、オスマン帝国のアルメニア人は、ロシアの大義にシンパを感じたのであれば、より慎重になる必要があった。ただし、これは彼らが帝国内に留まる限りで、当てはまった。このため、1914年8月、国境地域に精通したダシュナクゲリラの支援を受けて、オスマン帝国軍の脱走兵を中心とする数千人のアルメニア人がロシアの前線を超え始めた。トルコが参戦する前に、エルズルム守備隊だけでも5万人以上の脱走兵を負傷させた。そのほとんど（全員ではない）がアルメニア人であったが、これは兵士に防寒着が支給されていなかったことも一因だった（その年の初雪が9月に降り、これから来る厳しい冬を予感させた）[38]。 厳密に正確な数はおそらくわからなかったが、ロシア外務省は、トルコが世界大戦に参戦してから最初の12ヵ月間に「約20万人のアルメニア人」がロシアの戦線を越えたと推定しているが、その大部分は1915年春に深刻な暴力と国外追放が始まった後に渡った可能性が高く、トルコ東部のアルメニア人の人道状況をよくわからないものにしている。39 ティフリスの指揮官にとって、それは富者の恥だった。コーカサスのアルメニア人はすでにグルジアの首都に中央募集局を設立し、オスマン帝国のアルメニア人志願兵をロシア軍において徴兵していた。 その主導者は、コーカサス地域の主要なアルメニア語新聞「ムシャク」の編集者ハンパルツム・アラケリャンと、トルコ人との無数の小競り合いを経験し、バルカン戦争中にブルガリア軍としても戦った退役軍人であるアンドラニク・トロス・オザニアン将軍であった。アンドラニクは 1914 年 8 月 2 日にヴァルナとオデッサを経由してティフリスに到着した。40° やがて、非常に多くのアルメニア人が志願兵となり、ロシア人は彼らに装備するのに十分な小火器を見つけることができなくなった。 1914年8月31日、ポルテが交戦宣言をする丸2か月前、コーカサス軍参謀長のユデーニチ中将はスタフカのヤヌシケビッチに対し、オスマン帝国国境沿いで組織されているアルメニアのゲリラ部隊に武器を提供するための追加のライフル銃2万5000挺と弾薬1200万発を要請した。 p156 実際、コーカサス軍参謀長のユデーニチ中将は、トルコが戦争に参加する前にこれらの武器（と戦士への支払いのためのお金）を輸送するよう明示的に要求した。なぜなら、まだ開かれている数少ない密輸ルートは、そうなれば閉鎖される可能性が高かったからである[41]。 そこでロシア軍は、トルコが参戦する前から、ダシュナク、アンドラニク将軍、そしてティフリスのアルメニア指導者の全面的な協力を得て、オスマン帝国のアルメニア人に武器を供与しようと積極的に努めた。ロシア外務省も最高レベルで関与していた。 コーカサス軍参謀長のユデーニチ中将の8月31日の要請は、オスマン帝国の抑圧者に対して武器を取るためにオスマン帝国のキリスト教徒（アッシリアとシリアのキリスト教徒も含む）に武器を与える方法を調査するというChorister's Bridge（ロシア）から受け取った指令書に従って提出された一連の要請のうちの1つにすぎなかった。サゾーノフは 1914 年 8 月 5 日にスコムリノフ将軍にこの考えを一般論として初めて持ちかけた[42]。 いくつかの予備調査の後（そして国境を越えるアルメニア難民の急増に対応して）、3週間後、ロシアの外務大臣サゾーノフは、トルコが戦争に参戦したらすぐに彼らがロシアに加勢できるよう、ティフリス司令部に対しオスマン帝国の「アルメニア人とアッシリアのキリスト教徒」への武装を開始するよう勧告した。 重要なことには、サゾーノフはコーカサス軍参謀長のユデーニチ中将がアルメニア人らに対し「我々の支援を受けずに蜂起を起こした場合、我々の威信に取り返しのつかない打撃を与えることになる」ため、「我々の指示なしには何も引き受けない」よう命じたことを明記した[43]。 （このことについて）サゾーノフの思考プロセスにおけるガリポリとの類似点は驚くべきものである。アルメニア人はペトログラードにとっての不可欠な外交政策目標、すなわち東部アナトリアのオスマン帝国支配の打倒を達成するよう奨励されていた。 ロシアは、最初にチャーチルにダーダネルス海峡、次にガリポリでの作戦支援を約束したのと同じように、この試みにおいてアルメニア人にあらゆる支援を提供するつもりだったのだろう。しかし、ロシアがそうするのは、アルメニア人がロシアの指示に完全に従って行動し、ロシアが戦略的利益を享受できる限りにおいてのみのことであったことだろう。どちらの場合も人的影響を考慮すると、サゾーノフの目的と手段に対する無頓着さはほとんど息をのむほどである。 彼の名誉のために言っておくと、ユデーニチはサゾーノフが道義的責任を怠っていることを見抜いていた。トルコ東部における最近の民族混乱の多くで最前線に立っていたティフリス司令官のコーカサス軍参謀長ユデーニチ中将は、この地域におけるロシア自身の利益とほぼ同じくらいオスマン帝国のアルメニア人の幸福にも懸念を抱いていた。サゾーノフの指示に応えて、ユデーニチは 1914 年 8 月 29 日に長く思慮深い覚書を作成した。 |