p406
THE RACCONIGI BARGAIN OF OCTOBER, 1909
　ドイツが全体としてオーストリアを抑制し、バルカン半島の緊張を緩和しようと努める一方で、ロシアはスラブ諸国とドイツ諸国の間の「避けられない」衝突に積極的に備えていた。この衝突は、コンスタンティノープルと海峡に関するロシアの歴史的使命の最終的な実現、そしてついでにオーストリアの犠牲による「大セルビア」というセルビアの野望の実現をもたらすものであった。これを考慮して、イズヴォルスキーは、1909 年 10 月にツァーリがトリノ南部のラッコニージ城にいるヴィットーリオエマヌエーレを訪問するよう手配した。

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彼はオーストリア領土を踏まないように大回りして、併合に対する憤りを示した。この事実は各地の新聞で広く取り上げられた。84

ここでイズヴォルスキーとティトーニが署名したロシアとイタリアの重要な秘密協定は、バルカン半島のstatus quoに対するいつもの敬虔な願いで始まるが、両国が予想したようにこれが不可能であることが判明した場合、バルカン諸国の発展において民族主義の原則を支持することに同意すると述べている。重要な条項は第 4 条と第 5 条である。

第4条. ロシアとイタリアが、現在存在するものを超えて、第三国とヨーロッパ東部に関する協定を締結することを望む場合、それぞれが他方の参加を得てのみ、それを行う。

第5条　イタリアとロシアは、海峡問題におけるロシアの利益と、トリポリとキレナイカにおけるイタリアの利益を慈悲深く扱うことを約束する。85

　これらの条項は、イズヴォルスキーとティトーニの厳粛な公的および私的な保証に反するものであったため、ほとんどの秘密条約の場合よりもさらに厳重に秘密にされた。イズヴォルスキーは、パリとロンドンのロシア大使にその正確な内容をすぐには伝えなかったようだ。86

彼は、3年後のバルカン戦争勃発後までポアンカレにさえ伝えず、そのときでさえ、フランス首相が内閣や最も近い協力者にもそれを明かさないという約束のもと、その文言を声に出して読み上げただけだった。

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ポアンカレは、それでもすぐに同僚たちにその内容を知らせたが、「協定文は渡されていなかったので、彼らには読み上げなかった」。87

　ティトーニも同様に、イタリアの同盟国であるドイツやオーストリアにそのことが伝わらないよう注意した。ティトーニ特有の二枚舌で、ロシアの参加なしにバルカン半島に関する協定を結ばないと約束すると同時に、ティトーニは実際、まさにその問題に関してオーストリアと協定を交渉していた。彼は前年の1908年6月に、オーストリアに「2国とも相手国の承諾なしにバルカン半島に関する協定を第三国と結ばないという協定」を提案して交渉を開始していた。88

ラッコニージ会談の1週間前、ティトーニは、イタリアとオーストリアが「互いの参加なしにロシアと協定を結ばないことに同意する」ことをより明確に付け加えたいと考えていた。89

そして、彼はラッコニージ協定に署名した。にもかかわらず、数日後、イタリアはロシアに内緒で、ラッコニージの約束を完全に無視して、6月以来ティトーニが交渉していた提案を基本的に具体化した協定をオーストリアと締結した。

バルカン半島とアフリカの領土に対するイタリアの野望は、ティトーニとイタリア政府を、ロシアとオーストリアの両国に対する欺瞞へと導いたのだ！

ラッコニージ取引は、1902年にフランスと締結した協定（p147，8）と同じく、イタリア側のモラルのなさを露呈させた。

　イズヴォルスキーとティトーニが協定を極秘に守っていたにもかかわらず、彼らの行為に関する噂と疑惑は広まっていた。イタリアと協商国は、ニコライ2世とヴィットーリオ・エマヌエーレの会談を熱狂的に歓迎した。

p409
英国次官サー・チャールズ・ハーディングは、ロシア臨時代理大使に「深い満足」を表明し、「これはロシア、英国、フランスだけでなく、イタリアにとっても極めて好都合で重要なものであった。… ハーディングは、列強のグループ分けに関してイタリアがとった奇妙な立場に関して、一部のヨーロッパの報道機関の意見に賛同している。特に近東で複雑な事態が生じた場合、イタリアは同盟国に忠実でなくなるか、自国の国益に反する行動を取らざるを得なくなるだろう。これらの言葉は、ここ（ロンドン）の政府関係者にラッコニージでの会合が与えた深い印象を裏付けるものである。彼らは、将来イタリアは三国同盟よりも協商国に近い立場を取るだろうという信念に傾いているようだ。」と述べた。 91

ドイツ、オーストリア、トルコは、（協商国側の）こうした反応に対して、相応の警戒をしたが、両国は、バルカン半島をstatus quoし、バルカン諸国に正常かつ平和的な発展を認めるというイタリアとロシアの願望以外には何も合意されていないという、厳粛だが嘘の保証が与えられた。92 　

　トルコの分割と海峡に関するロシアの野望の充足の可能性を考慮したラッコニージ協定は、イズヴォルスキーのもう 1 つの目的、つまりイタリアを三国同盟側から三国協商側に引き離す、または少なくとも三国同盟の「重荷」としてイタリアを中立化するという目的にも見事に役立った。93

この協定は、それ以降、イズヴォルスキーのバルカン政策において、ティトーニのアフリカへの野望と同様に重要な役割を果たした。この協定は、後に 2 人がパリで大使として共に務め、ポアンカレと緊密に連絡を取り合ったときに、非常に親密な関係になったことでさらに強化された。94 　

p410
＜バルカン同盟＞
　イズヴォルスキーは、ラッコニージ政策と並行して、ロシアの指導と保護のもと、バルカン諸国を強固なブロックに統合することを約束した。

これまで、互いに嫉妬し合うバルカン諸国の協調行動にとって最大の障害となっていたのは、セルビア、ブルガリア、ギリシャがいずれも、トルコの悪政のもとで依然として動揺が続くマケドニアの大部分に対する領有権を主張していたという事実だった。

この障害は、セルビアがマケドニアに対する領有権の一部を放棄してブルガリアを支持し、ハプスブルク帝国に属する領土からの補償を約束されれば克服できるだろう。しかし、高齢の皇帝フランツ・ヨーゼフの死去95、またはハプスブルク支配下の不安定な諸民族の崩壊的影響によって、こうした状況は、最終的に崩壊することになろう。

したがって、1909 年の夏から秋にかけて、イズヴォルスキーはスラブ人の共通の利益のためにセルビアとブルガリアの和解rapprochementをもたらそうと努力したが、バルカン半島の嫉妬と疑念が強すぎて、この最初の努力は成功せず、交渉は行き詰まった。96

　コンスタンティノープルでは、新しく到着したロシア大使のチャリコフが、トルコとバルカン諸国の協商または同盟のために活動しているように見えた。この協商または同盟は、バルカン半島におけるロシアの影響力を大幅に高め、「ドイツ主義の前進」に対する障壁となる可能性があった。97

しかし、チャリコフがトルコと交渉を成功させる見込みはほとんどなかった。トルコは、トルコ領土を切望するブルガリア、セルビア、ギリシャを疑っていた。しかし、ロシアはブルガリアと秘密軍事協定の交渉を開始し、ルーマニアからの攻撃からブルガリアを守ることを約束した 1902 年の秘密条約の範囲を拡大した。

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イズヴォルスキーがブルガリアのフェルディナンド王に提案した新たな提案は、トルコおよびオーストリアとの戦争の場合の特定の不測の事態における相互援助を規定し、1878 年のサンステファノ条約でかつて考えられていた領土の大幅な獲得をブルガリアに確保するために、ロシアが可能な限り最大限の支援を行うことを約束した。提案された軍事条約の第 5 条は、次のように宣言した。

　ロシアの心の奥深くにあるバルカン半島におけるスラブ民族の崇高な理想の実現は、ロシアとドイツおよびオーストリアハンガリーとの闘争が好転した後にのみ可能である（Proposed Russo-Bulgarian Military Convention of Dec, 1909; ）。98

　交渉は、最終的に、提案された軍事条約の調印には至らなかったが、後に成功したバルカンブロックの形成に向けたロシアの努力を示すものであり、この努力は三国協商が三国同盟に打ち勝つのに役立つことが期待された。

　しかし、ロシアがイタリアと結んだラッコニージ協定、およびブルガリアおよびセルビアとの交渉は、バルカン問題を直ちに戦争で解決することを意図していたことを意味するものではなかった。

これらは単に「将来への準備」の一部にすぎず、ロシアが陸軍と海軍の再編成を終え、バルカン半島への野望に対する支援についてフランスとイギリスからより明確な保証を得るまでのロシアの政策であった。

1910 年、ドイツの影響もあって、ロシアとオーストリアの間には表面上は和解がもたらされ、バルカン問題に関するこの 2 大国間の緊張は一時的に緩和された。100
　
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しかし、この合意は一時的なもので、少なくともロシアは、スホムリノフの軍再編が成果をあげ、新しい黒海艦隊が創設されるまでのつなぎとしてのみ意図していた。1910 年 2 月にパリ駐在のロシア大使がイズヴォルスキーに宛てて書いたように。

　この種の協定を一定期間締結すれば、バルカン諸国は、国内の発展だけでなく、あらゆる方法で発展させられる相互関係に関しても、完全な自由を得ることができる。同時に、ロシアは、安全に軍事力を開発し、避けられない事態に備えることができる立場に立つことになるだろう。その間にオスマン帝国のさらなる進化はより明確になり、問題は成熟し、我々は予見される出来事に、そうでない場合よりもずっと備えて対処できるだろう。101 　

　同様に、M. ネクリュードフは、1911 年にソフィアでの任務に就く前にツァーリに迎えられたとき、ニコライ 2 世が彼にこう言ったと伝えている。「わざと間を置いて後ずさりし、鋭い視線で私を見つめながら、（ツァーリは）こう言った。『よく聞きなさい、ネクリュードフ。戦争はできないという事実を一瞬たりとも忘れてはならない。私は戦争を望んでいない。原則として、国民のために平和の恩恵を守るために全力を尽くすつもりだ。しかし、この瞬間、とりわけこの瞬間に、戦争につながる可能性のあるものはすべて避けなければならない。5 年か 6 年、実際は 1917 年まで戦争に直面することは考えられない。... ロシアの最も重要な利益と名誉がかかっている場合、絶対に必要なら 1915 年に挑発を受けるかもしれないが、それより早く挑むことは、いかなる状況でも、いかなる口実でも、決して許されない。』」102

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　ロウズ・ディキンソンは正しくこう述べている。「もしこの発言がツァーリではなくカイザーのものであったなら、我々すべての戦争史家は、これをドイツの有罪の明確な証拠、しかも唯一の有罪として引用していただろう。私はこれをロシアの有罪の証拠として、まして唯一の有罪として引用しているわけではない。私はこれを、すべての大臣とすべての君主の心境を示すもう一つの例証として引用しているのだ。『戦争は来る。我々はそれを望んではいない。しかし、我々は備えていなければならない。そして、戦争が来たら...！』」103

IZVOLSKI'S EFFORT TO OPEN THE STRAITS IN 1911（3度目の正直）
　イズヴォルスキーは、海峡をロシアの軍艦に開放するという野望を実現するために、2 度の無駄で不運な試みを行っていた。1 度目は 1907 年の英露協定の交渉中に、2 度目は 1908 年のBuchlau取引中に行われた。どちらも、エドワードグレイ卿の反対とフランスの支援不足のために失敗した。

しかし、1911 年の秋、イズヴォルスキーは、ヨーロッパの状況は、より成功する試みを招いていると考えた。フランスのフェズへの進軍と、その結果生じたアガディール危機により、協商国間の結びつき、特にフランスとイギリスの結びつきが強まった。フランスとモロッコ協定を守るためにイギリスを戦争寸前まで駆り立てたドイツは、フランス領コンゴの一部と引き換えにモロッコに対するすべての権利を放棄するという、調印間近の和解を受け入れざるを得なかった。

ロシアは、エドワード・グレイ卿やロイド・ジョージのような積極的かつ効果的な外交支援をフランスに与えなかった。それどころか、イズヴォルスキーは「全力を尽くして」フランスを穏健化させ、ドイツの要求の多くに屈するようフランスに促した。104

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サゾーノフの長期闘病中にロシア外務省の責任者を務めたネラトフは、「ロシアの世論は、植民地問題が原因の [独仏] 戦争をほとんど理解しないだろう」と繰り返し警告した。ツァーリも同じ態度を取った。サンクトペテルブルク駐在のフランス大使ジョルジュ・ルイが、北アフリカはロシアにとってのコーカサスと同じくらいフランスにとっての「重大な利益」であると指摘したときでさえ、ニコライ 2 世は「衝突の回避を念頭に置いてください。我々の準備がまだ完了していないことはご存じでしょう」と答えた。105

しかし、フランスの極めて重大な利益に対するこの無関心にもかかわらず、イズヴォルスキーは、フランスとドイツのモロッコ和平案を異議なく受け入れる見返りとして、海峡問題での支援の約束をフランスから引き出せると自惚れていた。

1911 年 9 月、イタリアがモロッコにおけるフランス保護領の設立に刺激され、さまざまな列強から交わされたさまざまな秘密の約束を利用してトリポリを占領しようとしていることをティトーニから聞いたとき、イズヴォルスキーは、ラッコニージ取引の自分の分を現金化する好機が来たと考えた。

　1911 年にロシアが海峡問題を提起したことは、通常、コンスタンチノープル駐在のロシア大使 M. チャリコフの無許可の行動(グーチはこれを「チャリコフの観測球」と呼んでいる106) として説明されてきた。彼はこの問題に関して風向きを探るだけの、探り役だった。
106 History o) Modern Europe, 1S7S-1919, p. 488. グーチはこの事件の発端をサゾノフに求めているが、サゾノフは 1911 年 7 月初旬から 12 月中旬まで健康上の理由で外務省を離れており、パリのイズヴォルスキーとサンクトペテルブルクのネラトフに事件の指揮を任せていた。9 月、彼は業務に復帰するためにダボスにいた。

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ロシア外務省がチャリコフの行動をすぐに否定したという事実は、この見解に色を添えている。しかし、真実は、この事件全体はイズヴォルスキーが引き起こしたもので、チャリコフはスケープゴートにされ、それが失敗したときに呼び戻されたということである。このことは、この興味深い事件に関する入手可能な最近の資料から引き出される結論のようだ。107

　イタリアの意図された行動を知ると、イズヴォルスキーはすぐに1911年9月26日にネラトフに手紙を書き、ラッコニージの秘密協定を想起し、イタリアはドイツと三国同盟にもたらすであろう当惑を喜び、そして「迫りくる出来事から我々自身の利益のために可能な限り最大の利益を引き出す」時が来たことを強く訴えた。

今こそ、イタリアとの戦争でトルコが弱体化している間に、小アジアの鉄道、トルコとペルシャの国境、そしてとりわけ海峡の問題などを青年トルコ人党に解決させる時であった。

　イズヴォルスキーはすぐにパリのティトーニに会い、「トリポリでのイタリアの行動の自由を認めるという我々の約束の条件を思い起こさせ」、そして「イタリアがトリポリでの計画を遂行する今、イタリアは、トルコ海峡に対する我々の権利に関して引き受けた同様の義務を将来も果たすことを忘れない、という保証を我々に与えるべきである」と懇願した。ティトーニは肯定的に答え、イズヴォルスキーに正確な書面による保証を約束した。108

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イズヴォルスキーは、ネラトフに海峡問題の復活を訴える手紙を書いた後、家族のいるバイエルンのテゲルンゼーへ休暇に出かけた。

　ネラトフはすぐにイズヴォルスキーの考えに賛同した。彼はコンスタンティノープルのチャリコフに、トルコ・イタリア戦争、フランス・ドイツ・モロッコ交渉、そして新大宰相の非常に弱い性格という状況を利用して、小アジア鉄道の問題、そしてチャリコフが賢明だと判断すれば、海峡問題（およびその他の特定の問題）について、以下の根拠に基づいて話し合いを始めるよう指示を出した。

（ネラトフ→チャリコフ）
　ロシア帝国政府は、オスマン帝国政府に対し、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡の現在の体制の維持に効果的な支援を与えることを約束し、それを隣接地域にも拡大する。上記の条項の実施を容易にするため、オスマン帝国政府は、ロシア軍艦が海峡を通過することに反対しないことを約束する。ただし、合意がない限り、これらの艦船は海峡の海域に停泊しないという条件付きである。109

　チャリコフはまた、計画はまずトルコの同意を得ること、そして国際条約のこの修正に関して列強に説明する権利を持っていることを知らされた。チャリコフはそこで大宰相サイード・パシャに会い、ネラトフが提案したすべての問題について話し合い、海峡開放とその他の問題の解決に関する提案を含む手紙を彼に手渡した。彼は1週間以内に返事を求めた。

　サイード・パシャはこの提案をまったく気に入らなかった。当然のことながら、彼はそれがコンスタンティノープルをロシア艦隊のなすがままにさせるだろうと理解していた。海峡と「隣接する領土」におけるロシアの支援に言及する条項は不吉な響きを持っていた。

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それは、トルコがイタリアとの勝ち目のない戦争に巻き込まれているときに、トルコをツァーリの従属的な臣下の立場に引きずり下ろす恐れがあった。そのため、大宰相は、不愉快な要求に対処するために、いつものトルコの遅延戦術に頼った。数週間、彼は明確な回答を避け、チャリコフに対して、他の大臣と相談しなければならないために遅れていると告げた。110

　チャリコフは、コンスタンティノープルのフランス大使にも提案を託した。ボンパールは、それが好機だと考えたが、抜け目なくイギリスの同意を得る必要があると示唆し、パリに電報で伝えた。フランス政府は大いに恐れ、すぐにサンクトペテルブルクでチャリコフがボンパールに託した確信の意味を尋ねた。111

　ネラトフとイズヴォルスキーは、海峡に関する国際条約のこの修正に列強の同意を得るという非常に微妙な課題に直面した。イタリアとドイツなら、それは十分容易だった。イタリアは、トルコにトリポリを割譲するよう圧力をかけるためにロシアの外交的支援を必要としていた。ティトーニはすぐにイズヴォルスキーに、イズヴォルスキー自身の口述で書かれた明確な約束を与え、イタリア政府の承認を保証した。112

ドイツも全面的に同意した。ベートマン＝ホルヴェークと外務大臣キダーレンは、イギリスはいずれにせよ反対するだろうと巧妙に計算し、したがってドイツがロシアを不必要に怒らせる余地はないと判断した。ドイツが反対することは、イギリスにとって単に火中の栗を引き出すようなものだった。113

　オーストリアもドイツの影響を受け、同意する用意があったが、ロシア艦隊の攻撃からオーストリアを守るという条件付きであった。114

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＜イズヴォルスキーの英仏に対する挫折＞
しかし、フランスとイギリスの場合、その任務ははるかに微妙なものだった。　

　イズヴォルスキーがテゲルンゼーから任務地に戻ると、ネラトフからの「極秘」の手紙があった。その手紙には、チャリコフがサイード・パシャとボンパールに伝えた通信とフランスの調査について書かれており、今こそフランス政府に書面での同意を約束させるべき時だ、とイズヴォルスキーに示唆していた。彼は、その言葉がどのような言葉で表現されるべきかさえ示唆した。

　フランスは、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡の問題におけるロシアの利益を慈悲深く考慮し、ロシアが同海峡と隣接地域に関して検討している可能性のあるプロジェクトの実現に反対しないことを約束する。115

　そこで10月11日、イズヴォルスキーはフランス外務大臣のド・セルヴスに長々と説得力のある嘆願を行った。

（Izvolski to Neratov）
遅かれ早かれ海峡および隣接地域に関して必要だと考える手段に対するフランス政府の態度を何らかの形で表明することを拒否しない。… ド・セルヴス氏の外交政策に関する知識が非常に乏しいことを考慮して、私は上記の一般的な議論に限定した。このテーマについては後でもう一度取り上げ、具体的な希望を述べるつもりである。116

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　翌日、イズボルスキーは再びセルヴスの無知を嘆いた。「不幸なことに、セルヴス氏はこれらの問題すべてについてほとんど知識がなく、同時にモロッコとコンゴの問題にすっかり夢中になっている」。また、フランスの新聞に賄賂を贈ることの望ましさについても一言付け加えた。

（Izvolski to Neratov）
　「良い新聞」をここに持つように気を配ることは非常に重要です。しかし、この問題に関しては、残念ながら私には主な武器がありません。新聞のために特別資金を提供するよう要請しても、何の成果も得られなかったからです。もちろん、私はできる限りのことをするつもりですが、この問題[海峡問題]はまさに、古い伝統の結果として世論がむしろ私たちに反対する傾向にある問題の一つです。ここで新聞のためにお金を配ることがいかに有利であるかの例は、トリポリ事件に示されています。ティットーニ氏が主要なフランス紙に非常に綿密に、そして非常に寛大に働きかけたことは知っています。結果は明らかです。117

　ジャスティン・ド・セルヴスはバルカン問題について実際にはよく知らなかったと思われているが、彼の「百科事典的な無知」は誇張されている。彼は慎重で誠実で正直な人物であり、フランスの同盟国を危険なバルカンへの冒険に駆り立てたり、イギリス海峡の向こうのフランスの友人を不快にさせたりするような軽率な約束に駆り立てられることを望まなかったのである。

こうして、彼はすぐにダウニング街と連絡を取った。彼はポール・カンボンから、イタリア経由でロンドンに届いたニュース、チャリコフがコンスタンチノープルで公式要請を行ったこと、そしてイギリスが 1908 年と同じ立場を取っていること、つまりイギリスは、海峡がすべての国の軍艦に開かれるなら、海峡を開いておく用意があるが、ロシアだけに開かれて、それゆえ、黒海をロシアの潜在的な海軍要塞に変えてしまうような条件では、受け入れないことを知った。118

p420
アーサー・ニコルソン卿は「そのタイミングが適切だったかどうか疑問に思った」。エドワード・グレイ卿は、190 8年の宣言を確認するにとどまった。ロンドン駐在のロシア大使は、「エドワード卿がいかに協商を高く評価しているか、協商を維持し、その存在を危険にさらす可能性のあるものを避けると固く決意しているかを確信していた」が、すぐに「英国政府に将来の不測の事態に備えて原則的に約束をさせるのは常に困難である」と悲しげに告白しなければならなかった。119

その後の会見では、エドワード・グレイ卿に態度を変えるよう説得するのは不可能であることがさらに明らかになった。

　11 月 4 日、イズヴォルスキーは、ドイツとの長い交渉が終わり、ド・セルヴスが安堵の気持ちでいる間に、そして経験の浅い大臣が海峡問題についてイギリスやその他の場所から助言を得る前に、いよいよ「フランスを文書による約束に固め」ようとした。

（izvolski to Neratov, Oct. 24/Nov. 6, 1911）
　独仏協定の調印に鑑み、海峡と中国北部の問題に関するド・セルヴスとの話し合いの結果を120、直ちに、そしてその正式な承認を待たずに固めることが不可欠だと私には思われた。そこで、11 月 4 日にド・セルヴス氏に手紙を書き、その中で、あなたが私に送った最後の手紙で私に提案した形式とほぼ同じ形式で、これらの問題に関する私たちの希望にフランスが同意する、という私たちの信頼を表明した。... 私は、ド・セルヴス氏からこの手紙の内容の無条件の確認を受け取ることを期待しており、その本文は木曜日の宅配便であなたに送る。

p421
　私は、より正式な交渉よりも迅速な手続きを好んだが、それは主に、ド・セルヴスに、イギリスや他の列強と我々の要求について議論する機会を与えないためであった。122

　イズヴォルスキーは、ド・セルヴスに宛てた手紙の中で、モロッコ和平について「ロシアは全面的に同意するだろう」と賛辞を贈り、なだめるように「ロシアの友人であり同盟国であるフランスが北アフリカにおける立場を新たな確固たる基盤の上に確立しようとしている今、帝国内閣が絶え間なく最も誠実な外交的支援を与えてきたフランス政府は、海峡および中国北部における我々の行動の自由を認め、我々がそこでの我々の利益を守り、我々の立場を強化するためにとる可能性のある措置に同意することを我々に保証する用意がある」と述べている。

ド・セルヴスにとってさえも、イズヴォルスキーのこうした甘い言葉は、偽善的に思われたに違いない。なぜなら、アガディール事件におけるロシアの外交的支援はゼロであり、フランスがドイツとの交渉で得た成功は、主にイギリスの支援とカイヨーの努力によるものだったからである。イズヴォルスキーは事件後に到着し、何も得るべきことをしていないのに、報酬を要求した。その報酬は、フランスをロシアの危険なバルカン半島への進路に巻き込み、イギリスの不興を買う恐れがあった。

　しかし、ド・セルヴスはそう簡単には騙されなかった。彼がロシア大使を疑っていたことは、サンクトペテルブルクで、イズヴォルスキーが手紙を書いたのは自発的なものか、それともネラトフの指示によるものか尋ねたという事実からわかる。123

p422
彼は賢明にもエドワード・グレイ卿に再度相談し、イギリスは、1908年のイズヴォルスキーの提案をはるかに超えるような「海峡と隣接地域の status quo 」について、ロシアに保証を与えるつもりがないことを知った。

グレイはロシアに「遅延回答」を出した。彼は、ド・セルヴスがイズボルスキーに口頭で伝えることを提案した曖昧な回答を「非常に賢明で、彼（グレイ）がロシア大使に伝えたのと同じ礼儀正しさと慎重さの精神で考えられた」ものとして承認した。124

そのため、ド・セルヴスはイズボルスキーにコミットすることは避けた。イズヴォルスキーはネラトフに「フランスを締め付ける」ことに失敗した理由を何度も、ド・セルヴスの「不幸な無知」と、彼が下院での攻撃からモロッコ協定を守ることに没頭していたことのせいにした。125

おそらくド・セルヴスはイズヴォルスキーが考えていたよりも有能だったのだろう。

　フランスにとって幸運だったのは、ド・セルヴスがジョルジュ・ルイに、イズヴォルスキーの1911 年 11月4日の手紙（p420）に対する返答をまとめるという微妙な仕事を任せることができたことだ。ルイはサンクトペテルブルク駐在のフランス大使だったが、このとき一時的にフランス外務省の空席を埋めていたのだった。

　ルイは経験上、この問題についてとそれに対するイズヴォルスキーのずる賢いやり方を熟知していたため、ロシアの「海峡における行動の自由」に関する表現の曖昧さに慎重に異議を唱えた。

イズヴォルスキーは詳細な説明をし、それを変更する用意もあった。長い議論の末、ルイは丁寧だが曖昧な定式を作成し、それが最終的にド・セルヴが1912年1月4日にイズヴォルスキーに渡した回答の基礎となった。

p423
　一般的に、1908 年の出来事を機にフランス政府がボスポラス海峡とダーダネルス海峡の問題でロシア政府が求めることになるかもしれない合意に関する声明を閣下に確認できることを嬉しく思います。フランス政府は、新たな状況により海峡問題の検討が必要になった場合、ロシア政府と意見を交換する用意があります。126

　エドワードグレイ卿とドセルヴスが、丁寧ではあるが遅延した回答によって、不確定な計画を事前に明確に支持するよう釘付けにされることを免れていた一方で、コンスタンチノープルでは、イズヴォルスキーの悔しさを増す出来事が起こっていた。

チャリコフは数週間にわたって大宰相サイードパシャから回答を得ようとしまたが無駄であった。その後、彼はトルコ外務大臣に頼った。

1911 年 11 月 27 日、彼はハシムベイに海峡開通とその他の問題の解決を求めるロシアの要求を記した覚書を公式に提出した。ハシムベイは激怒した。ボスポラス海峡にロシアの軍艦がいれば、コンスタンチノープルがロシアの支配下に置かれ、トルコ帝国に対するロシアの保護領が設立され、さらには帝国の最終的な分裂が始まるのではないか、と恐れた。ロシアはペルシャの独立を破壊し、トルコにも同じ運命を辿らせようとしていた。

　危機と困惑の中、ハシムベイは親しい友人であるドイツ大使に急いで知らせた。「今、大きな打撃が我々を襲った」というのが、マルシャル男爵に対する彼の最初の言葉だった。

その後、彼はチャリコフの要求について語り、ロシアと、ロシアの背後にいると彼が疑っていた (まったくの間違いだったが) 三国協商に対する恐怖と憤りを吐露した。

コンスタンティノープルの城壁の前にロシアの軍艦が迫る危険に加え、北小アジアの鉄道に関するチャリコフの提案は、ロシアに対するトルコの戦略的防衛のための鉄道がロシアとその同盟国フランスの手に渡ることを意味していたのだ！

p424
　駐コンスタンティノープルドイツ大使マルシャル男爵は彼に完全に同情していた。彼もまた、トルコにおけるドイツの影響力を強化し、オスマン帝国を崩壊から救おうとし、バグダッド鉄道を建設するという、彼自身の20年間の努力が一撃で打ち砕かれるのを目にした。

彼は、ロシアの要求を受け入れることは、バルカン諸国によって、三国協商が三国同盟よりはるかに優れているという疑いのない証拠と解釈されるだろうと予見した。

バルカン諸国は、ロシアの側にすぐに並ぶだろう。なぜなら、優位な力は彼らの政治的忠誠を決定する揺るぎない論拠だからである。彼は、ドイツ外務省に、ロシアに抵抗するトルコを支援するよう長々と嘆願した。

イギリスが反対することはほぼ間違いないため、ドイツは海峡開通には反対しないだろう、ドイツはイギリスの策略に乗ってロシアを不必要に怒らせるだけだと告げられると、マルシャル男爵は辞表を提出した。

しかし、その後、ドイツ外務省がイギリスの態度をかなり正確に推測していたことが明らかになり、彼はそれを撤回するよう説得された。127

　その間、チャリコフの交渉に関する噂が漏れ、ハシム・ベイがマルシャル男爵に表明したのと同じくらい、青年トルコ党とトルコの新聞の間で憤慨を引き起こした。

1911 年 12月6日、通常は英国びいきであるジェニ・ガゼット紙が、「ロシアは偉大で栄光あるトルコ帝国をロシアの保護領の下にある州に貶めようとしているが、オスマン帝国はこれを決して容認しないだろう」という趣旨の主要記事を掲載した。

エドワード・グレイ卿が、ロンドンのトルコ大使に「ロシアの行動は現時点では場違いに思える」と語り、署名国すべての同意が必要であると伝えたことを知り、ハシム・ベイはチャリコフの要求に抵抗する勇気がさらに湧いた。128

p425
　イギリス、フランス、トルコの態度の結果、イズヴォルスキーの考えは現時点では実現不可能であることが明らかになり始めた。それに従いて、ダボスでの長い休養を終えてパリに帰ってきたばかりのサゾノフは、ステファヌ・ローザンヌに会見した。

　毎日少しずつあちこちで書かれているような「ダーダネルス問題」は存在しない。外交的な意味での「問題」は、事実上、政府によって策定された要求、および外交的措置（デマルシェ）または交渉を前提としている。しかし、ロシアは何も要求しておらず、いかなる交渉も行っておらず、外交的措置も試みていない。129

　サゾノフの否認にどれほど真実味がなかったかは、前のページを読んだ読者が自分で判断できるだろう。 12 月 15 日、チャリコフはハシムベイに、ロシアの提案が時期尚早に漏れたため、ロシアのせいではないので、交渉を続けることは不可能であると伝えるよう指示された。サゾノフは、在外ロシア大使に電報を送り、チャリコフが指示を超えて私的な会話を公式交渉にまで持ち込んだという印象を与えようとした。

1912 年 3 月、チャリコフは召還され、コンスタンチノープルではギールスが後任となった。こうして、イズヴォルスキーの海峡開通に向けた 3 度目の試みは失敗に終わった。

　イズヴォルスキーは、1912 年 1 月 4 日のドセルヴスの回答を根拠として、将来フランスから自分のお気に入りのプロジェクトへの同意を得られるかもしれないという、希望をまだ捨てきれずに抱いていた。ポアンカレ 130 は、ロシア大使がフランスの態度に「完全に満足」していると信じさせようとしていた。

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　しかし、彼がこの印象を与えているのは、イズヴォルスキーがネラトフに宛てた手紙からわずか 3 文を引用しただけである。手紙の残りの全体の調子からすると、イズヴォルスキーは実際にはひどく失望しており、失敗をうまく処理しようとしており、現時点ではもっと満足のいく回答が得られる見込みがないため、ネラトフにフランスの回答を受け入れるよう助言しているだけである。

実際のところ、イズヴォルスキーは、この大失敗に対して 1908年の大失敗と同じくらいひどく失望していたが、1908 年以降オーストリアに対して行ったように、主として非難されるべきフランスとイギリスに対する不満を声に出して言うことはできなかった。オーストリアは敵対グループに属していたが、フランスとイギリスは三国協商の仲間であったからである。

イズヴォルスキーはその後、海峡を開くには 2 つの方法しかないという結論に達したようである。平和時に海峡を攻撃するか、ヨーロッパ全体で戦争を起こすかのどちらかである。

1912 年から 1914 年にかけて、ロシアの閣僚会議は何度か最初の選択肢を真剣に検討したが、非現実的であるとして放棄した。そこで残ったのは、2 番目の選択肢、つまりヨーロッパ全土での戦争だけだった。

これに備えるために、イズヴォルスキーはその後 2 年間、粘り強く一貫して取り組み、ついに戦争が突然勃発したとき、彼は「C'est ma guerre!」と大喜びで叫んだと言われている。