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THE BOSNIAN CRISIS OF 1908-1909
　セルビアでは、このニュースは大きな憤りと興奮を引き起こした。新聞の「号外」は、ベルリン条約違反を激しく非難し、オーストリアとの生死を賭けた戦いの準備を要求した。こうして初めて、列強はセルビアを支援するよう、余儀なくされるようになった。36

セルビアの大臣たちは、戦争を不可避と考えた。Skupshtina が急いで召集され、戦争の予算が決定され、動員の準備が進められ、武装した非正規の集団、有名な「コミタジ」が結成され、併合を阻止するために、指導的な市民によって「国家防衛」（Narodna Odbrana）協会が設立された。37

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ゲオルゲ　オルゲヴィッチ王子はロシアに急ぎ、ツァーリに助けを乞い、すぐに親ロシア派急進派の強力な指導者パシッチもそれに続いた。セルビア首相兼外務大臣のミロヴァノヴィッチは、将来が期待されていた南スラブ王国の中心地とみなされていた2つの州を、エーレンタールが主権領有するのを阻止するための支援を確保するため、ヨーロッパの首都を巡回した。

　しかしセルビアの大臣たちは、条約の悪質な違反に声高に抗議する一方で、ボスニア・ヘルツェゴビナの「自治」と彼ら自身の王国の「領土補償」を提案した。38

彼らは、セルビアとモンテネグロの間のサンジャク地方の分割を主張した。これは、これら2つのスラブ諸国を共通の境界で結び、オーストリアの南へのさらなる侵入に対する障壁となるだろう。それは計画中のドナウ川・アドリア海鉄道が通る地域の一部であり、セルビアは海に直接アクセスでき、エーレンタールが計画中のサロニカへの鉄道は直角に遮断される。列強はセルビアのために何をするだろうか？そして特に、スラヴ人の保護者であるロシアは何をするのか？

　イズヴォルスキーは今や非常に当惑していた。彼は、エーレンタールが,ロシア側からの半分の要求についてフランスとイギリスの同意を得る前に、Buchlau協定におけるオーストリア側からのの半分の利益を確保しようとしていることを恐れた。したがって彼は、海峡を自分の手中に収めるまで、セルビア人が騒ぎを起こすことを望まなかった。そこで彼は、セルビア人に、当面は静かにして列強の会議を待つように言った。

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（イズヴォルスキー）
　あなたがたセルビア人は、オーストリア＝ハンガリー帝国をボスニア・ヘルツェゴビナから武力で追い出そうなどとは考えていないはずだ。一方、我々ロシア人は、これらの州を理由にオーストリアと戦争することはできない。…

私はオーストリア＝ハンガリー帝国のこの行動を予見していたし、それほど驚くことではなかった。そのため、私はオーストリア＝ハンガリー帝国がノヴィ・バザールのサンジャク地域に対する権利を放棄することを条件に、この協定を受け入れることにした。その後、ベルリン条約の修正または変更が続いた。それは我々が要求したことだった。この機会に、セルビアもまた、国境の修正に関する希望を表明することができるだろう。…

私はあなたがたの動揺の理由がわからない。実際には、あなたがたは何も失うことなく、何かを得るのだ。それは、我々の支援だ。私はボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人がこれまで通り、自らの復興のために文化活動を続けることを信じており、彼らが目覚めている限り、彼らをナショナリズムから解き放つことは不可能だろう。39

　しかしイズヴォルスキーはすぐに、パリでは、海峡開放計画に対する有効な支持が得られないことに気付いた。ピションは「同情的」ではあったが、イギリスの態度がどうなるかをまず知りたいと述べ、態度を軟化させた。40

海峡を渡ったイズヴォルスキーは、1907 年の協商国からより親密な関係を期待していたにもかかわらず、イギリスが依然として反対していることに非常にがっかりした。エドワード・グレイ卿は、海峡開放の要請は「公正かつ合理的」であり、「原則として」異論はないが、海峡が「すべての人々、すなわちイギリス人を含む完全な平等の条件で」開放される限りは、異論はない、と巧みに彼に伝えた。

しかし、グレイは、海峡をロシアの船舶には開放する一方で、他の列強の船舶に対しては依然として閉鎖したままにするというイズヴォルスキーの計画に断固反対した。ロシアの利益のためだけに、既存の条約をこのように一方的に変更すれば、戦時中は「黒海全体を不可侵の港として利用でき、そこから巡洋艦や通商破壊艦が出港し、交戦国の追跡から自由に退避できるという利点」がロシアに与えられることになったからである。

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軍艦の海峡封鎖に関する既存の条約のいかなる修正も、「戦争が起こった場合に交戦国を対等な立場に置くような相互主義の要素を含むものでなければならない」41

もちろん、これはイズヴォルスキーが意図していたこととはまったく異なる。30 年前のサブロフと同様に、彼はコンスタンチノープルと黒海への扉を内側から施錠し、ロシアだけが、そして他の誰も、好きなときに開けたり閉めたりできないようにしたかった。

彼は、拒否すれば英露協商が崩壊するかもしれないとほのめかして、グレイを脅して自分の提案を受け入れさせようとしたが、無駄だった。

（グレイ→ニコルソン）
「イズヴォルスキー氏はさらに、現在は極めて重要な時期であると述べた。それは、イギリスとロシアの良好な関係を強固にし、強化するか、あるいは完全に混乱させるかのどちらかになるかもしれない。彼自身の立場が危うい。なぜなら、彼はイギリスとの良好な理解という政策に完全に縛られており、あらゆる反対を押し切ってそれを主張していたからだ。」 42

　イズヴォルスキーは、結局は、海峡をロシアの軍艦に開放できるという望みをすっかり失い始めていた。Buchlau取引の半分を確保できなかったとしても、併合問題を調印国会議にかけるよう主張することで、エレンタールを阻止することはまだ可能かもしれない。これに成功しなければ、彼は屈辱的な外交的敗北と個人的威信の深刻な失墜を認めざるを得なくなるだろう。

ロシアの汎スラヴ派は、すでにイズヴォルスキーがエレンタールに出し抜かれたこと、フェルディナンド王子がツァーリの手からの独立を認める代わりに、独力で独立を主張することを許したこと、そして特にボスニアの正教スラヴ人をハプスブルク家のローマ主義的主権のために犠牲にしたことについて、怒りと苦々しい非難を始めていた。

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彼の配下の大使たちの一人でさえ、海峡問題を提起したこと、そしてBuchlau協定の後にロシアに帰らずにヨーロッパをのんびりと回ったことに対する上司の愚行をためらわずに非難した。この事件全体がイズヴォルスキーの失脚の原因になったかもしれない。

（ムラヴィエフ）
　イズヴォルスキー氏は間違いなく非常に聡明で教養が高いが、残念ながら過度の怒りと自尊心に押しつぶされそうになっている。新聞に不利な記事が載ると、彼は一晩眠れなくなる。彼の策略はあまりにも巧妙でずる賢く、そのため木を見て森を見ず、最も単純なものを見てしまうことがよくある。彼の策略はすべて、自分の個人的威信を高めることだけを目的としている。彼の後継者は最終的にチャリコフ氏となるだろう。43

　したがって、イズヴォルスキーは、国内での立場の弱体化とパリとロンドンでの失敗を考慮して、オーストリアのボスニア併合を承認したことは決してないということを、セルビア人に対して言いふらした。それは、パリでヴェスニッチに言ったばかりのことではあったが。

ロンドンにいる間、イズヴォルスキーは「オーストリアに対する憤りを隠さず、彼が併合を承認したとの断言に対して、激しく抗議した」。イズヴォルスキーはセルビアの利益を守り、その補償を確保するためにあらゆることをする、と宣言した。44

パリとロンドンから帰る途中、ベルリンに立ち寄ったイズヴォルスキーは、ミロヴァノヴィッチに対してさらに強い言葉でオーストリアを非難した。「イズヴォルスキーは、ロシアと西側諸国の信頼を完全に失ったオーストリア＝ハンガリーを非難し、この件でのオーストリア＝ハンガリーの行動が、血なまぐさい形で（セルビアから）報復されるという確信と希望を表明した。」

しかしベルリンでイズヴォルスキーは、併合の承認を含む決定が事前に合意されない限りは、ドイツが確実に、同盟国オーストリアが併合を議題にすることを拒絶しようとすることがわかった。

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　こうした（ドイツの）反対に直面して、イズヴォルスキーは今や、ヨーロッパの平和を危険にさらすことなく、会議を主張することでオーストリアを阻止することは、できないだろうと恐れていた。（ドイツが反対しているのに、オーストリアが併合を強行すれば、欧州大戦になる危険がある）。

そのような紛争に対して、イズヴォルスキーはロシアがまったく準備ができていないことを知っていた。そのため、イズヴォルスキーは、セルビア人に当面は戦争を避けるよう告げたが、併合が行われたとしても、それを最終的な解決とみなす必要はないと彼らにほのめかした。

　イズヴォルスキーの政策は、ヨーロッパ外のすべてのロシア問題を解決した後、ロシアをヨーロッパの目的へと導くという目標に向けられていた。セルビアは、南スラブ人の中心としてこの政策の重要な要素であった。

ロシアと西ヨーロッパの意見では、併合が承認されたとしても、ボスニアは今でもさらに、セルビアにとってこれまで以上に確実に保証はされている。

セルビアは、サンジャクとボスニアの方向で国家の課題の実現に向けて第一歩を踏み出さなければならない。今のところ、軍事的にも外交的にも準備が整っていないため、衝突は避けなければならない。セルビアが戦争を起こせば、ロシアはセルビアを見捨てざるを得なくなり、セルビアは敗北するだろう。しかし、これはロシアの国民感情だけでなく、ロシアの利益と将来の計画にとっても非常に大きな打撃となるだろう。45 （Report of Milovanovitch from Berlin, Oct. 25, 1908）

　その後の 4 か月の間に、イズヴォルスキーの当惑は増していった。しかし、彼はセルビア人を励まし続け、併合問題がその修正をするために列強会議に提出されることを期待し、あらゆる手段を講じてこれを達成しようとした。しかし、それは成功しないことが明らかになった。46

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　一方、セルビア、そしてボスニアとクロアチアのスラヴ人の間では、興奮が高まり続けた。ハプスブルク家に対する反抗的なデモが頻繁に行われるようになった。オーストリアは、抑圧的な措置を倍加させ、扇動者や裏切り者の疑いのある者を一斉に逮捕した。悪名高い反逆罪裁判では、オーストリアの役人の中には、ベオグラードのオーストリア大使館で偽造されたとされる文書を使用する者もいたが、オーストリアの歴史家フリードユングは、評判を落とすほどの失敗を犯して、それを本物として受け入れてしまった。47

　ボスニアとセルビアの状況はオーストリアにとって非常に脅威となり、1908 年 12 月、参謀総長のコンラッドは「褐色動員」を行うことを許可された。これは、鉄道の通常の平時輸送を妨げずに、オーストリア軍をセルビア国境に向けて押し上げるという、目立たない措置とされていた。48

これにより、オーストリアとセルビアの間で地域紛争が発生する恐れがあり、これは容易にヨーロッパ全土の戦争に発展する恐れがあった。

しかし、ロシアはこの時点ではいかなる武力紛争も避けたいと考えていた。なぜなら、ロシアはヨーロッパ全土の戦争にまだまったく備えておらず、セルビアに武力支援を与えることもできなかったからである。

フランスはバルカン紛争をめぐってドイツとの戦争に巻き込まれる気はさらさらなかったので、ロシアは同盟国を当てにすることもできなかった。そのためロシアは、セルビア人に対して、当面は服従し、将来は信頼するよう懇願し続けるしかなかった。ロシア下院の有力議員グチコフはサンクトペテルブルクでセルビア大臣にこう語った。

　我々の軍備が完全に整ったときが、オーストリア＝ハンガリーと決着をつけることになる。今戦争を始めてはならない。それは自殺行為となる。目的を隠して準備を整えよ。喜びの日々が来るだろう。49

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　イズヴォルスキー自身は次のように述べたと伝えられている。

　オーストリアの没落の瞬間が来るまでは、セルビアは哀れな存在に甘んじることになるだろう。併合によってその瞬間は近づき、その時が来れば、ロシアはセルビア問題を展開し、解決するだろう。イズヴォルスキーは、ドイツとの衝突は避けられないが、ロシアの政策は純粋にスラヴ主義的でなければならないと考えている。50

　数日後、コスティッチは、ニコライ2世もこれらの見解を持っていたと指摘している。

　ツァーリは、この打撃によりセルビアの空は黒雲で覆われていると述べた。ロシアは戦争の準備ができていないため、状況は恐ろしい。ロシアの敗北はスラヴ国家の破滅となるだろう。ツァーリは、将来ドイツとの衝突は避けられないと感じており、これに備えなければならないと考えていた。51

　セルビア国境の状況がますます脅威となり、列強は活発な文書交換にもかかわらず52 解決に至らなかったため、ドイツはついに、イズヴォルスキーが窮地から抜け出すのを助け、同時にオーストリアを満足させることで、ヨーロッパの平和を維持するための提案を行った。

ドイツの危機解決法（夢遊病者たちｐ146）
　ドイツはバグダッド鉄道とドイツ帝国主義の利益のために、エーレンタールの併合計画を扇動したとよく言われるが、そのような発言は真実ではない。実際のところ、ドイツは同盟国から、検討中の措置についてタイムリーで明確な警告さえ受けておらず、その結果、手遅れになるまで抑止策を講じる機会がなかったのだ。53
53 エーレンタールは、同盟国に対してもfait accompliをもって臨むことを好んだ。8月末、彼はドイツに対し、ボスニア・ヘルツェゴビナを併合する意図はないと2度にわたって保証していた（G.P., XXVI, 20-22）。9月5日、彼はシェーンにイズヴォルスキーと計画している取引についてほのめかした（同上、26ページ以降）。しかし、最初の明確な情報は、9月26日のビューロー宛の手紙（同上、35ページ）であり、それがロミンテンにいたカイザーに届いたのは10月6日になってからだった（同上、53、注）。パリ駐在のオーストリア大使は、10月3日にフランツ・ヨーゼフ皇帝の併合に関する手紙を提出した。こうしてフランス大統領はドイツ皇帝より3日早く正式に知らされ、この事実はカイザーを大いに激怒させた（同上、53、102）

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　9 月 26 日にエーレンタールがビューローにBuchlau協定について手紙を書いたとき、ドイツ当局者らは各地の避暑地に散っていた。ビューローは北海沿岸のノルダーナイにある別荘におり、外務大臣シェーンはバイエルンチロルのベルヒテスガーデンにおり、カイザーは東プロイセンのロミンテンにいた。

エーレンタールの 9 月 26 日の手紙は、まずノルダーナイに、その後、遅れてロミンテンに届いたため、カイザーは併合当日までオーストリアの意図を知らなかった。

カイザーは、長い間知らされていなかったことだけでなく、オーストリアの行動そのものにも非常に憤慨した。彼は、（併合は）トルコに対する不当な攻撃であり、コンスタンティノープルにおけるドイツの影響力に壊滅的な打撃を与え、バグダッド鉄道を脅かし、イギリスで中央同盟国に対する疑念を植え付けるものであると考えた。

「ウィーンは二枚舌の罪で告発されるだろうが、それは不当なことではない。ウィーンは前代未聞のやり方で我々を騙したのだ。」「同盟国としての私の個人的な感情は、非常に深く傷つけられた。」これらは皇帝の傍らのコメントの一部である。

彼はこれがトルコ分割の始まりであり、ヨーロッパ戦争につながるかもしれないと恐れていた。「もしスルタンがやむを得ず戦争を宣言し、コンスタンチノープルで聖戦の緑の旗を掲げるなら、私は彼を責めない。」「オーストリアのこのような政策は、我々をロシアとの危険な対立に追い込むだろう。」

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カイザーは、ドイツが併合に反対の立場を取らなければ、誰もが、併合は彼の承認を得て行われた、と信じてしまうのではないかと恐れていた。54

コンスタンティノープル駐在の大使、マルシャル男爵は、オーストリアとの同盟を失うリスクを冒してでも併合を否認することを支持した。55

　しかし、ビューローは主君とは意見が違った。ドイツはバルカン半島でオーストリアを支援しなければ三国同盟が弱体化すると確信していた彼は、ドイツはオーストリアが取った措置を支持しなければならないと信じていた。ドイツがこの問題で否定的または躊躇する態度を取れば、オーストリアは決してドイツを許さないだろう。

ドイツには、オーストリアが以前に（併合について）相談しなかったことに憤慨する権利があったが、今抗議しても何の役にも立たないだろう。いずれにせよ、ロシアは（併合に）同意したようだった。

カイザーは最終的にビューローの見解を受け入れた。しかしカイザーは、「エーレンタールの恐ろしい愚かさが我々をこのジレンマに陥れ、同盟国がトルコを怒らせたときに、我々が友人であるトルコを支援し保護することができない」ことを残念に思った。

ビューローはそこでウィーンに、「困難や複雑な事態が生じた場合、同盟国は我々を頼りにできる」と伝え、セルビア問題で何をすべきかはオーストリアが判断すべきだと伝えた。56

しかしカイザーの苛立ちは消えなかった。オーストリアに白紙の小切手を渡せば、危険な負債を負うことになり、危険な前例を作ることになると悟った賢明な政治的本能が、あったのかもしれない。

　ボスニア・ヘルツェゴビナの併合を宣言した後、エーレンタールは青年トルコ人党と交渉し、彼らの要求を満たした。セルビア人と同様に、青年トルコ人党も、当初はベルリン条約の条項の無効化に大声で抗議していた。彼らは軍隊を組織し、オーストリアの製品をボイコットしようとした。

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しかし、青年トルコ人党は次第に、ヨーロッパ諸国のどこも実際に軍事支援をしてくれることはないだろうと確信するようになった。

ドイツがオーストリアを強く支持していることを考慮して、青年トルコ党は最終的に、1909 年 2 月 26 日に、併合された諸州に対する名目上の主権を放棄する報酬として、オーストリアからの「王室財産の喪失に対する」250 万ポンドの申し出を受け入れることを決定した。57

　しかし、トルコがエーレンタールのfait accompli を受け入れても、問題は解決しなかった。セルビア人の憤りは増すばかりだった。これまでセルビア人は、協商国が支持するトルコの主張を根拠に、オーストリアに併合を列強会議に付託させ、セルビアが少なくとも各州の「自治権」と自国への「補償」を確保できると期待して、自分たちの気を静めていた。しかし、オーストリアが譲歩を固く拒否したため、この期待も打ち砕かれた。
　
　オーストリアがトルコと和解した後の数週間、列強国は、会議を開くというイズヴォルスキーのセルビア人への約束と、併合の修正を断固拒否するエーレンタールの態度を調和させようと、緊急に電報をやり取りした。ドイツが最終的に、状況を解決する提案をし、事態はようやく改善された。

差し迫っているように思われたオーストリア・セルビア国境での戦闘勃発の可能性を回避し、イズヴォルスキとエールクンタールの間の溝を埋めるために、ドイツは3月14日にロシアに秘密裏に調停を提案した。すなわちドイツは、オーストリアに対し、ベルリン条約第25条の無効化を含むオーストリア・トルコ協定に、交換公文によって、列強が正式承認を与えるよう要請するが、ロシアは、オーストリアの要請があれば、承認を与えることを事前に約束する、という条件付きであった。58

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　この提案には 3 つの利点があった。オーストリアはボスニア・ヘルツェゴビナの地位の変更を列強諸国に承認させ、セルビアからfait accompli を覆す法的根拠と希望を奪った。条約の変更は署名者全員に正式に承認されない限り有効ではないという協商国の要求を満たした。そして最後に、提起された他のバルカン問題を検討するために開催される可能性のある会議への言及を一切省くことで、イズヴォルスキーが何ヶ月も着実に要求してきた会議の考えを直接拒否してロシアに屈辱を与えることを回避した。

この提案により、イズヴォルスキーは自分が迷い込んだ恥ずかしい袋小路から簡単に抜け出すことができた。イズヴォルスキーはこの提案を評価し、受け入れるつもりだった。59

彼は「緊張緩和をもたらすドイツのこの努力の和解の精神を認識した」。 60

しかし、彼は依然として明確な回答を躊躇していた。会議の開催と外交的敗北の回避への希望にすがり続けていたからだ。しかし、ドイツの提案を受け入れようという彼の気持ちは、3月17日のロシア閣僚会議が、ロシアはセルビアを武力で支援する準備が全くできていないと決定したこと、またオーストリアがBuchlau協定に関する文書を公表し、ボスニア問題の起源についてイズヴォルスキーがあちこちに広めていた主張の虚偽を証明するかもしれないというエーレンタールの示唆によって刺激された。

イズヴォルスキーは即座に、ビューローに対して、エーレンタールがそのような公表を思いとどまらせるよう懇願し、ドイツはそれに従って、オーストリアにできるだけ長くこの切り札を手元に置いておく方がよいと示唆した。61
61　イズヴォルスキーは、自身の誤りと虚偽の報告を隠すために、Buchlau取引に関する率直な真実をツァーリに伝えなかったようだ。また、イズヴォルスキーがBuchlau文書をロシアのアーカイブから運び出していたという事実からも、それが明らかである。

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　エーレンタールは、セルビアが、ボスニア併合は自国の権利を侵害していないことを認め、今後は反対と抗議の姿勢を放棄することを約束する正式な宣言を出すという条件つきで、ドイツの調停提案を受け入れる用意があった。

　一方、オーストリア国内では、セルビアとの和平か戦争かという論争が続いていた。オーストリア参謀総長コンラートは、ハプスブルク帝国はセルビアとの「避けられない」戦争のためにこの好機を捉えるべきだと再び主張していた。今「予防戦争」を行えば、「危険な小さな毒蛇」を粉砕し、将来無害にすることができる。ロシアとイタリアは戦う準備が十分にできていないと彼は主張した。ルーマニアは依然として忠誠を誓っており、トルコは満足していた。フランスとイギリスは反対するかもしれないが、介入することはないだろう。セルビアと決着をつけ、「大セルビア」の危険を回避するのにこれほど好都合な時期は、今後二度と訪れそうになかった。なぜなら、将来、ロシアとイタリアが軍隊を再編し、増強するだろうからである。そうなれば、オーストリアは、3正面戦争を覚悟しなければならない。

一方、エーレンタールとフランツ・フェルディナンドは和平に傾いていたが、ビューローは、彼らはいつでもコンラートの主張に屈しかねない、と恐れていた。実際、3月15日、エーレンタールはフランツ・ヨーゼフに、さらなる軍隊の召集とセルビア国境への秘密輸送を承認するよう助言した。62

したがって、状況は危機的であった。オーストリアとセルビアの衝突を防ぐには、ビューローは調停提案を推し進め、イズヴォルスキーから明確な回答を得る必要があると考えた。3月21日、彼はサンクトペテルブルクのドイツ大使にこの趣旨の指示を送った。

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（ビューロー→プルタレス））
　イズヴォルスキー氏に伝えよ。彼が我々の提案の友好的な精神を認め、それを受け入れる意向があることを我々は満足して知り、…そして我々はイエスかノーかの返事を期待している、いかなる回避的、条件付き、または不明瞭な返事も拒否とみなさなければならない、と。

そして我々は後退し、物事が進むのを待つべきだ。我々がイズヴォルスキー氏が受け入れられる方法で状況を解決できるよう最後の誠意ある努力をした後、その後の出来事の責任はイズヴォルスキー氏のみに課されるだろう。63

　これによってイズヴォルスキーは「次の選択肢が迫られている。すなわち、交換文書による併合問題の即時の規制か、セルビア侵攻かのいずれかだ」と理解した。64

彼はツァーリに相談し、翌日、希望通りの正式な肯定の返事を出した。ツァーリはすでにドイツ皇帝に、ドイツの提案によって平和的妥協が可能になったことを心から喜んでいると電報で伝えていた。65

　こうした出来事はしかしすぐに歪曲され、ドイツがロシアを武力で脅し、最後通牒で屈辱を与えたという伝説となった。この伝説はロシアの新聞で利用され、アーサー・ニコルソン卿によってイギリスで広められ、イズヴォルスキーはロシアの批判者の前で面目を保つ手段として利用した。66
66 ドイツの行動の性質をめぐって長く続いた論争については、G.P.、XXVI、693 の注釈、および 777-855 の引用を参照。ビューローは、事実を明らかにし、ドイツの武力による脅威という伝説に対抗するために、文書を公開することを提案した。この提案は、イズヴォルスキーの不在中に大臣代行を務めていたチャリコフには支持されたが、イズヴォルスキーが帰国すると、彼と汎スラヴ報道機関がいかに事実を誤って伝えたかを示す文書を公開することにイズヴォルスキーが反対したため、この提案は放棄された (同書、788-793、796-801、811、814 ページ)。

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しかし、これは最後通牒などではなかった。これは、ロシアとオーストリアの溝を埋め、セルビアとオーストリアの戦争勃発を阻止するためのドイツの試みだったのだ。その間、エドワード・グレイ卿は同様の調停案を提示し、ビューローがロシアに伝えたのとほぼ同じ言葉でオーストリアに「もしこれが失敗したら、（英国は）手を引いて、そしてあとはもはや、成り行きだ」と伝えた。67 　

　ロシアがドイツの提案を受け入れた後、イギリス、フランス、イタリアもすぐにそれに続いた。オーストリアの招待を受けて列強は、それに応じて文書を交換し、ヨーロッパの条約の厳粛な条項（ベルリン条約第25条）を無効にしようとしたエーレンタールの一方的な行動に、遅ればせながら承認を与えた。

　ロシアの屈服の知らせがウィーンに届く前に、あるいはそれにもかかわらず、戦争派が優勢になった。3月29日の閣僚会議は最終的に「黄色の動員」または「動員B」（バルカン半島）を命じることを決定した。これには、当時オーストリア・ハンガリー軍を構成していた全15軍団のうち5軍団の完全動員が含まれていた。したがって、これはセルビアとモンテネグロとの戦争の場合のみの「部分的な動員」であったが、関係する 5 つの軍団にとっては完全なものであった。コンラッドは、これまで何度も主張してきたセルビアとの決着がついに始まろうとしていると確信して、評議会を去った。68

　しかし、セルビアは最終的に、当面は戦争を避け、将来を信頼するというロシアからの警告に従った。セルビアは土壇場で列強の助言に従うことを決定した。 1909年3月31日、セルビアはウィーンで、エーレンタールとウィーン駐在英国大使サー・フェアファックス・カートライトの間で合意された次の内容の正式宣言を行った。

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（セルビア）
　セルビアは、ボスニアでfait accompliが作られたことで自国の権利が損なわれていないことを認識しており、したがって、ベルリン条約第 25 条に関して列強が下す決定に従う。列強の助言を尊重し、セルビアは、昨年秋以来併合に関してとってきた抗議と対決の姿勢を放棄することを約束する。さらに、セルビアはオーストリア＝ハンガリーに対する現在の政策の方向性を修正し、今後はオーストリア＝ハンガリーと良好な隣国関係で共存することを約束する。

　これらの宣言に従い、オーストリア＝ハンガリー帝国の平和的意図を信頼して、セルビアは軍隊の編成、配置、兵員数に関して、1908 年春の状態に戻す。セルビアは義勇兵と非正規軍を武装解除し解散させ、領土内で新たな非正規軍団が結成されるのを防ぐ。69

　数週間以内にセルビア軍とオーストリア軍は動員解除され、併合危機は緩和された。しかし、後でわかるように、ロシアに勇気づけられたセルビア人は、強制された約束を守らず、コンラッドは後に、ドイツは1909 年に、オーストリアがセルビアの危機を唯一永続的に満足のいく方法、つまり武力行使で解決するのを阻止したと繰り返し不満を述べた。

ボスニア危機の影響
　これらの出来事について詳細に取り上げたのは、併合危機の影響がその後も長く続き、1914年の戦争の原因の一つに数えられるためである。

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1909 年、確かに、エーレンタールはオーストリアにとって輝かしい外交的勝利を収めたように見えたが、それはロシアとセルビアにとっては屈辱的なものだった。彼はあらゆる方面から成功を祝福され、伯爵の称号を与えられた。しかし、それはピュロスの勝利の 1 つであり、その瞬間は輝かしく見えても、長い目で見れば成功よりも不幸をもたらす勝利だった。

エーレンタールは確かにボスニアに対するより明確な法的権利を確保し、ハプスブルク君主国が依然として独自の積極的かつ独立した政策を追求し、外交的動きの成功に伴う名声を獲得できることを示した。

しかし、その一方で、彼はヨーロッパにオーストリアの外交手法への不信感を抱かせ、厳粛な条約の不当な違反という不名誉を招いた。この不名誉は、列強諸国が最終的に条約条項の違法な無効化を承認した交換文書によっても、ほぼそのまま残った。

彼はまた、セルビアから屈辱的な宣言を強要し、それが「大セルビア」プロパガンダに終止符を打つことを期待した。しかし、ある国が他の国をこのように屈辱することは、政治家らしくなく、目的の達成に、真に成功することはほとんどない。それどころか、それはたいてい苦い痛みを残し、後で問題を引き起こす可能性が高い。セルビアは実際、オーストリアと良好な隣人関係を維持するという約束を守らなかった。

セルビアは、その国土を、破壊的な扇動が広がる炉にし、ボスニア人やハプスブルク家の他のスラブ人の不忠と反逆を助長した。

エーレンタールはすぐに、オーストリアのボスニア・ヘルツェゴビナに対する支配を強化するという、併合を遂行した主な目的を達成できなかったことに気付くことになる。

エーレンタールは、将来の困難を犠牲にして、一時的な成功を達成した。危機の初めに、彼はドイツ大使に「我々の行動が成功することを望む」と語った。「もし成功しなければ、当然私は終わりだ。しかし、その場合、少なくとも我々は名誉ある敗北を迎えることになるだろう。そうでなければ、我々は一歩一歩惨めに沈み続けていただろう。」71

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　ドイツもまた、同盟国に降りかかった疑惑と憎悪の一部を受けた。しかしながら、この不信と敵意は、予想されていたセルビアからよりも、協商国、特にロシアとイギリスの間でより強く見られた。72
72 Stanojevitch, pp. 36-42は、セルビア人がその後数年間、ドイツに対して特に敵意を抱かなかったことを示している。これは、豚戦争中およびその後、両国間の貿易関係が大幅に拡大したことによるところが大きい。また、ドイツがしばしばセルビアの影響力を利用して、オーストリアの攻撃的なバルカン政策を抑制していたことをセルビアが認識していたことも一因かもしれない。

イズヴォルスキーの激しい憎悪は主にエーレンタールに向けられていたが、ロシア国民の憎悪は、汎スラヴ報道機関に率いられてからは、ドイツに向けられるようになった。see Pourtales' reports, Mar.-Sept. 1909; G.P., XXVI, 777-858.

英国政府の態度は、ロシア駐在英国大使のアーサー・ニコルソン卿の強いロシア親和主義的な態度に影響を受けていた。ニコルソン卿は間もなく英国外務省の常任次官となり、エドワード・グレイ卿に強い親ロシア的影響力を及ぼすことになる。Grey, I, 182, 304 ff.; and G. P., XXVI, 732, note; 738 ff., 866.

ドイツは実際にはエーレンタールの併合措置を明確に予知していたわけではなく、またエーレンタールにそうするように勧めたわけでもないが、列強諸国、そして多くの歴史家は、当時もその後も、実際の事実に関してドイツの主張にほとんど納得していなかった。

危機の間ずっとベルリンがウィーンを固く支持していたことから、ドイツは最初からオーストリアの共犯者であり、オーストリアの行動を全面的に承認していたと、ロシアやイギリスは当然疑った。73
73 「我々は、ウィーンとベルリンの間で合意された、矛盾のない行動に対処しなければならない」と、イズヴォルスキーは1909年3月23日にロンドンとパリのロシア大使に電報で伝え、危機の最終段階を報告した。

オーストリアのfait accompliを是認し、同時に、イズヴォルスキーに対し、彼が考えた以上に敏感なロシア人が支持できないような立場から退らせようと解決策を考えていたドイツの努力は、「武力による脅迫」または「最後通牒」へと歪曲された。

p396
このことは、ドイツがロシアに屈辱を与えて三国協商に亀裂を生じさせ、ロシアにイギリスとの協商を放棄させて東方三国皇帝間の新たな協定を結ばせようとする無慈悲な試みとして表現された。このことは、ドイツの外交手法の無慈悲を示す新たな証拠として記録された。

ドイツにとって不幸なことに、この感情は、皇帝ヴィルヘルムが1910 年にウィーンを訪問した際、「光り輝く鎧をまとって」同盟国を支持すると世界に宣言した、うぬぼれの強い無神経な演説によって裏付けられたようだった。

　この出来事全体が三国同盟の 3 番目のパートナー（イタリア）に及ぼした影響は、中央同盟国にとってまったく不幸なことだった。イタリアは同盟国から事前に十分な相談を受けておらず、危機の解決に重要な役割を果たすこともできなかった。イタリアのプライドは傷つけられ、オーストリアがバルカン半島をさらに掌握することでイタリアの野望は脅かされたようだった。

オーストリア軍が国境を支配し、ポーラの要塞が築かれ、オーストリアの弩級戦艦の建造が計画されているのを見て、イタリア人の心に潜むオーストリアに対する感情的な憎悪が軍事的、海軍的な劣等感によって再燃した。アドリア海におけるヴェネツィアの支配の伝統は、エーレンタールのより攻撃的な政策によって脅かされているように思われた。

これまでイタリアの希望は、status quo の原則である「quicta non movere」によって守られてきたが、オーストリアの行動は、その原則からの驚くべき逸脱のように見えた。

これらの不安に加えて、永続的な領土回復主義の摩擦、1911 年に予定されていたローマ万国博覧会への招待に応じなかった唯一の国がオーストリアであったという事実、そして 1859 年のイタリア統一戦争（イタリアの統一をめざしたサルデーニャ王国と、北イタリアを支配していたオーストリアとの戦争。フランスの援助を受けたサルデーニャが優勢だったが、ナポレオン3世の裏切りにより、ロンバルディアを回復したにとどまった）の 50 年祭で甦った苦い記憶が加わった。

この苦い感情は、元首相フォルティスの情熱的で大きな拍手を浴びた演説で発散された。「イタリアが衝突の可能性があると考えている国は 1 つだけであり、残念ながらそれは同盟国です。政府は、状況の必要に応じて軍隊を調整するために、国民に新たな犠牲を要求しなければなりません。」

p397
イタリアは、三国同盟が自国にとってどれほど価値があるかという疑念を強めた。数ヶ月後、イタリアはロシアとラッコニージの秘密協定（p225；第一次世界大戦が勃発する前の1909年10月、ロシア皇帝ニコライ2世とイタリア国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世によって結ばれた密約。両当事者はバルカン半島の現状維持に合意し、イタリア王国は黒海海峡を支配しようとするロシア帝国の試みを支持し、ロシアはトリポリにおけるイタリアの権益に反対しなかった）に署名する準備が整った。これは、近東におけるオーストリアに対するロシアとイタリアの外交協力を目的としたものであり、イタリアが三国同盟から三国協商へと移行する上での別の節目となった。74

　しかし、ボスニア危機が最も深刻な影響を及ぼしたのはロシアであった。汎スラヴ派の新聞は、ドイツに対する長く激しい戦いを奮起させた。その重荷は、スラヴ人とドイツ人の間の戦争は「避けられない」ものであり、したがってロシアはそれに備え急がなければならないというものであった。

そして実際、ロシアが陸軍と海軍の徹底的な再編と増強に着手したのは、この直後であり、それは1914年になってもまだ進行中であった。イズヴォルスキー個人にとって、ある程度は自ら招いたこの外交的敗北は、生涯で最も苦い経験であった。

このことは、その後のイズヴォルスキーの行動に終始影響を与え、復讐心と失われた個人的威信の回復への欲求で彼を満たした。イズヴォルスキーが感じた苦々しさは、危機に対するドイツの解決策を受け入れざるを得なかったことをパリとロンドンの大使に発表した公式文書にはほとんど伝わっていない。

ロシアの汎スラヴ派からイズヴォルスキーが受けた激しい批判は、1910年9月に外務大臣の職を辞し、その代わりにパリのロシア大使の職に就かざるを得なかった理由の一つであった。75

パリでイズヴォルスキーは、ロシアとフランス、イギリスとの絆をより緊密にするために、たゆまぬ努力と狡猾な策略を傾ける立場に立った。

p398
イズヴォルスキーは今や、彼らの支援と軍備増強によってのみ、再びこのような外交的敗北を回避できる、あるいは必要ならば戦争による決着のリスクを冒すことができると悟った。これらの目的を達成するための彼の努力は、前章で簡単に述べたように、最近出版された文書76に詳細に記されている。

　併合危機後のロシア外交官の間での一般的な感情は、パリ駐在のロシア大使によって特徴的に表現された。

　ヨーロッパ情勢のさらなる展開を予見して、多くの新聞は、ドイツとオーストリアが今や輝かしい勝利を収めたのと全く同様に、（英仏の）西側列強の2大国は、ロシアとともに、今や軍隊の体系的な展開に注意を払わなければならない、という結論に達している。（協商国側が）三国同盟の挑戦を恐れない立場に立ったとき、イタリアは、ドイツとオーストリアに有利に傾いた政治的均衡を回復する要求を自らの側で提起できるように、三国同盟から離脱することになる。

これらすべての状況は、ドイツとオーストリアのバルカン半島へのさらなる進出に共同で対抗するために、フランスとイギリスとさらに緊密に結びつくことがいかに必要であるかを示している。

　このような対立は、いかなる状況下であったとしても、三国同盟との武力衝突につながる必要はない。ドイツの支援を受けたオーストリアが戦闘力を集中させ、ヨーロッパの正当な要求に耳を傾けずにセルビアを脅迫したのと同じように、我々も軍事力が回復した後、フランスとイギリスの同意を得て、好機にオーストリア＝ハンガリーにバルカン半島計画を放棄させ、現在従属しているセルビア人に、行動の自由を回復させるかもしれない。

p399
前回の危機の経験から、平和時に軍事的措置がすでに準備されていれば、外交問題は脅迫と強い圧力の行使によってさらに容易に解決できることが明らかになった。

外交術とは、有利な時期を選び、有利な全般的状況を利用して、自らの力量を認識しながら最後まで持ちこたえることである。こうして、われわれの政策の失敗が現在生み出している不利な印象を間違いなく弱めることができるだろうし、こうして、親類のバルカン諸国をオーストリア＝ドイツの影響から徐々に解放することに成功するだろう。77

　イズヴォルスキーはセルビア人に対し、ユーゴスラビアの野望を達成するためにロシアの支援を期待できる、より幸せな未来に備えるよう密かに奨励し続けた。

彼はボスニア・ヘルツェゴビナの併合を最終的な解決として決して受け入れなかったが、それをセルビアのアルザス＝ロレーヌと見なし、セルビア人にもそう見なすよう奨励した。これらの州の解放のために、セルビアとオーストリアハンガリー両国のセルビア人全員が、秘密裏に準備を続けるべきである。

これが、1909年10月と12月にイタリアとブルガリアとのイズヴォルスキーの秘密交渉を促し、最終的に1912年のバルカン同盟の結成につながった政策であった。これらすべては、バルカン半島の変化の可能性を考慮したもので、最終的には、ツァーリと大臣たちがセルビア人に「不可避」と保証していた、ゲルマン民族へのスラブ民族の勝利につながる可能性があった。78

「大セルビア」の野望の将来の実現に対するロシアからのこれらの心強い保証は、ボスニア危機の終結時に、セルビアがオーストリアに交わした約束を守らなかった理由を部分的に説明する。

p400
セルビアは最初から新しい約束を守るつもりはなく、オーストリアに対する秘密の地下活動の基盤と方法を変えることだけを意図していたことは、3月31日の約束（p393）が厳粛になされたわずか数日後に作成された次の啓発的な文書からわかる。

　1909年4月17日、オーストリアハンガリーにおける大セルビア宣伝の継続に関するセルビア王国政府のウィーン駐在セルビア大臣への指示。

　外交政策がセルビア人の利益を包含し、イギリス、フランス、ロシアの支援を信頼するセルビア王国政府は、セルビアが、バルカン半島とスラブ南部全体における正当な利益の実現に向けて最大限の成功の見込みをもって前進できる瞬間を待つことを固く決意している。それまでは、王国政府はいかなる種類の政治的合意をすることもなく、ウィーンと単に純粋に日常的で綿密に正しい関係を維持することを望んでいる。

こうした理由のために、政府は君主国との通商条約の更新を促進する措置を講じるつもりはない。すなわちこの理由からも、セルビア政府は、ハプスブルク家の王領地の領土における国家活動を新たな基盤の上に確立しなければならない。　

　[指示書は、オーストリア＝ハンガリーのセルビア公使館および領事館の職員に対し、今後はこれまでとは対照的に、セルビアの国家宣伝活動への積極的かつ個人的な関与を一切控え、セルビア外務省のそのような活動の痕跡をすべて消し去らなければならないと警告している。

これにより、これまでオーストリア＝ハンガリーの政治代理人と行われていたすべての通信は確実に停止される。4 月 28 日以降、オーストリア＝ハンガリーのセルビア公使館および領事館には、アグラム反逆罪裁判に関連する 25 万ディナールと、オーストリア＝ハンガリーの報道機関に「影響を与える」ための 4,000 ディナールを除き、これらの目的のための資金は提供されなくなった。軍事情報を入手するための資金は、ウィーンのセルビア公使館ではもはや必要ありません。今後、このために必要な金額はセルビア陸軍省とその代理人の自由に任されるからです。指示書ではさらに、今後「大セルビア」の宣伝活動が実行される秘密の新しい基盤についても説明しています。
　
p401
　セルビア全土を包摂する王国政府の外交政策が、オーストリア＝ハンガリー帝国における直接活動の放棄にもかかわらず、そのまま維持されるよう、王国政府は、スラヴ南部における国家宣伝を汎スラヴ国家宣伝の下に置き、その組織は、今年 7 月 1 日に兄弟国ロシアで明確な形をとることになる。このような支援により、決定的な問題における我々の願望に対するロシア帝国の全権政府による支援が保証される。この組織には相当な資金が提供される。兄弟国チェコ王国に新たな [煽動の] 焦点が投影され、その周囲に汎スラヴ思想の勝利において民族的個性の救済を求める、または求めなければならないすべての人々を結集することができる。

　革命的宣伝が必要と思われる限り、それは今後サンクトペテルブルクと黄金のプラハから行われることになる。我々はまた、将来的には参謀本部の任務となるであろう人脈を通じてこの活動を促進する。79

　セルビアがボスニア・ヘルツェゴビナを武力で奪取するにあたってロシアの支援を確信していたことは、数週間後にサンクトペテルブルクで開催された汎スラブ会議の執行委員会から出された秘密回状からも明らかである。

それはバルカン半島のスラブ組織に宛てられたもので、要約すると次の通りである。ロシアは軍隊の再編成と国内行政の改革を進めている。この二重の統合作業が完了するまで、スラブ民族は忍耐強くロシアを信頼し続けなければならない。

p402
サンクトペテルブルクとモスクワでのスラブ会議に出席したセルビア代表は、ロシア社会のすべての階層が、ロシアがスラブ世界の守護者としての使命を精力的に果たせるよう願望を抱いていることをその場で確信することができた。

セルビアとモンテネグロは、ノヴィ・バザールの占領とボスニア・ヘルツェゴビナへの侵攻によって連合を完成させる準備を整えなければならない。ブルガリアは、聖ステファノ条約で約束された領土を奪取し、コンスタンチノープルの門まで進出する準備を整えなければならない。

青年トルコ政権は長くは続かず、トルコの解体は想像以上に近づいている。今こそ、ロシアが他のスラブ民族と連合してスラブの理想を実現し、オーストリアとドイツがトルコを自分たちの利益のために利用するのを阻止する時である。その間、すべてのスラブ民族は団結して団結し、特に経済力の増強に努めなければならない。彼らは徹底的なボイコットによって自国領土からドイツの商業と産業を締め出さなければならない。バルカン半島のスラヴ人が軍事準備のために必要とする資金については、ロシアが直接提供するか、フランスとイギリスの援助を得て調達する。遅くとも2、3年以内に、ロシアの指導の下でスラヴ世界が大打撃を与えなければならない時が来ることは間違いない。80
80　フランスのバルカン諸国（トルコを除く）への投資は、政府融資と民間銀行投資の両方を含めて、1902年の9億2000万フランから1914年の31億3000万フランに増加し、242％の増加となった。ロシアへの投資は、1902年の69億フランから1914年の113億フランに増加し、63％の増加となった。一方、フランスの対外投資総額は、フランス自身の殖民地を含めても、1902年の2086万フランから1914年の3823万フランに増加し、83％の増加にとどまった。 figures for 1902' from Bulletin de Statistique ct de Legislation Comparce, Oct. 1902; figures for 1914 from H. G. Moulton The French Debt Problem (N. Y., 1925), p. 20. . フランスの対外借款はフランスの外交政策と非常に密接に関係していたため、これらの数字はバルカン半島に対するフランスの政治的関心が急速に高まったことをある程度示している。また、ポアンカレがサゾーノフ自身よりもセルビア寄りであったことや、1914年にセルビアがオーストリアに対抗して協商国の支援を受けられるようにすることに非常に固執していたことを説明するのに役立つ。

p403
　セルビアに対するこうした奨励は、秘密裏にロシア政府側によって、そして多かれ少なかれ汎スラヴ報道機関によって、行われた。こうした報道機関は、セルビアとボスニア在住のセルビア人、そしてクロアチア人との間で激しい民族主義的煽動を刺激するのを手助けした。

さらに、親セルビア派の若者の不安定な精神をかき乱し、オーストリアの役人暗殺を企てた一連の試みは、最終的にサラエボで、オーストリア大公の悲劇的な暗殺に至り、世界大戦へと直接につながった。

オーストリアの大臣たちは、この奨励を多かれ少なかれ認識しており、オーストリアとセルビアの敵対関係の根源はセルビアではなくロシアにあると疑っていた。

　しかし、公式かつ対外的な観点からは、セルビアが1909年3月31日に、今後は二重帝国と適切な友好関係で共存すると宣言した後、オーストリアとセルビアの関係は改善したように見えた。オーストリア軍とセルビア軍は国境の両側で動員解除された。

セルビアの二重帝国に対するプロパガンダによる扇動は公然とは行われなくなったが、セルビア軍将校によって秘密裏に引き継がれ、地下に追いやられたため、危険性が減ったわけではなかった。オーストリアとセルビアの対立は国境の両側では、以前とほぼ同じくらい激しいままだった。

「ナロードナ・オドブラナ」と、後には「黒手組」が、セルビア人の扇動による秘密の破壊活動を続ける一方で、オーストリア当局は傷口を開いたまま、治療をしていた。オーストリア＝ハンガリー帝国で扇動者と疑われる者を一斉に逮捕して、セルビア人の憎悪をかき立てていったのだった。

p404
　1909 年から 1912 年までの 3 年間、つまり併合危機の終結からバルカン同盟の成立まで、バルカン問題をめぐる激しい紛争はなかった (イタリアのトルコに対する1911年のトリポリ戦争の影響を除く)。

この間、オーストリアは新たに併合した諸州での地位強化に忙しかった。オーストリアは、ボスニアのヴァルダル渓谷からサロニカまでの鉄道網の延長計画を放棄し、セルビアとモンテネグロ (およびロシアとイタリア) の希望に譲歩して、ノヴィバザールのサンジャクから軍の駐屯地を撤退させた。

　ドイツでは、ビューローが 1909 年 7 月に、すでに上で述べた理由により首相を辞任し、ボンでのヴィルヘルム 2 世の大学時代の古い友人であるベートマンホルヴェークが後任となった。

　新首相は外交経験がなく、最高の政治手腕も欠いていた。ビューローが機会を逃した失敗を覆い隠し、ドイツの状況を事実以上に楽観的に表現できるような、文学的な才能や巧みな弁論術をまったく持ち合わせていなかった。81

しかし、ベートマンは生まれながらの抜け目なさ、高い名誉心と誠実さ、そしてヨーロッパの平和を維持したいという真摯な願いを持っていた。1910 年 11 月のポツダム訪問の際、ベートマンは新任のロシア外務大臣サゾーノフに対し、オーストリアが拡張主義的な計画を追求するとしても (彼はそうはならないと信じていた)、ドイツは「オーストリアを支持する義務も意欲もない」と保証した。

p405
一方、サゾーノフはトルコの維持を望むと宣言し、ロシアの利益が再びアジアと極東に向けられているという印象を与えようとした。この理解に基づいて、ペルシャとバグダッド鉄道に関して相互に有利な取り決めが合意された。

オーストリアに対するベートマンの控えめな態度は、1879年のオーストリア・ドイツ条約の本来の防衛的性格とビスマルクの伝統に一致しており、併合危機の1年後にウィーン駐在のドイツ大使が書いた見解と一致していた。

（チルシキー→ツェメルマン）
ドイツはバルカン半島の強国ではない。過去1年間、より高位の政策上の理由から、我々は政治的影響力をオーストリアに有利に傾けてきた。私の意見では、可能な限り、この手順の繰り返しはしないようにするのが得策である。将来、我々は自らの自由を保持し、バルカン問題にできるだけ巻き込まれないようにすべきである。そうすれば、求める効果を得るのに最も適した時に政策を自由に選択し、それをできるだけ有益に活用することができるだろう。82

　その後、1914年7月まで、ドイツはオーストリアに対し、同盟国としての義務を果たす用意があることを保証しつつも、特にバルカン戦争中はヨーロッパの平和のために、オーストリアに対して抑制的な影響力行使に終始した。

これは非常に顕著で、ウィーンの当局者、特にオーストリアの参謀総長は、バルカン問題におけるベルリンからの支援の欠如にしばしば苛立ちを覚えた。ドイツとオーストリアの軍参謀長であるモルトケとコンラートの間の理解は概ね良好であったにもかかわらず、両同盟国の間には一般に考えられていたよりも多くの摩擦があった。

p406
ベートマンは時折、オーストリアがバルカン半島における自国の重大な利益に不可欠とみなす政策を（ドイツが）支持するという約束を新たにする必要があると感じた。そうしなければ、バルプラッツ（オーストリア政庁）で不満が爆発し、依然としてドイツ外交政策の要石であった同盟が深刻に弱体化する恐れがあったからだ。

しかし、ウィーン駐在のドイツ大使に対する彼の指示は、オーストリアがセルビアに対して行動を起こしたり、ロシアと敵対したり、その他の無謀な手段をとったりするのを控えるようにという方向のものの方がはるかに多かった。

オーストリアは時々はその助言に従い、時々は従わなかった。しかし、多くの著述家らが述べているように、ドイツが同盟国に対して完全な支配権を行使していたと描写するのは、まったくの誤りである。

ドイツが次第に同盟国オーストリアの運命の完全支配を考えるようになったのは、世界大戦が始まり、オーストリアが軍事的に弱体で失敗を見せてからのことであった。世論は通常それを、ドイツの責任に帰するのだが。83