CHAPTER 1 INTRODUCTION
ギリシャの歴史家トゥキディデスは、スパルタ軍国主義がアテネの民主主義に勝利した時の古代文明についてのあの大惨事の歴史の中で、戦争の遠因または根底にある原因と、直接的な原因とを区別している。

前者は、長い年月をかけて積み上げられた可燃性物質が徐々に蓄積されること、後者は、最後の火花が火災を引き起こすこと、である。この区別は、世界大戦にも同様に当てはまる。この区別をしないと、根本的な原因に対する責任と直接的な原因に対する責任とが必ずしも一致しないため、戦争の責任に関して思考の混乱が生じる。

ある国は長年にわたり、平和にとって危険な全体的な状況を作り出したことに関して大きな責任を負ってきたかもしれないが、最終的な戦争の勃発には比較的ほとんど関係がなかったかもしれないし、あるいはその逆もまた然りである。

　戦争原因の問題は、過去十数年間に 3 つの段階を経たと言えるが、各段階は、問題を判断するために利用できる材料によってある程度決定される。

最初の 2 つの段階では、議論は主に直接の原因の問題、つまり 6 月 28 日のサラエボでのオーストリア大公の暗殺から 8 月 4 日のドイツとイギリスの間の戦争勃発までの急速な一連の出来事に集中した。

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第三段階ではしかし、学者たちは戦争の遠因をより完全かつ正当に調査し始めている。これらの各段階で、疑問に取り組む角度が変化した。

戦争中、著作者たちは当初、少数の個人、主にカイザー、汎ゲルマン主義者、オーストリアとドイツの軍国主義者に対して、この前例のない「犯罪crime」を引き起こしたことに対する「罪guilt」を正そうとした。

その後、1919年に始まった、より完全な文書の出版により、ドイツとその同盟国の単独責任という協商国側のテーゼはもはや支持できないことがわかり、ヴェルサイユ条約の「revision」を要求する著作者たちは、協商国側の指導者— Mイズヴォルスキー、ポアンカレ、サゾノフ、さらにはエドワード・グレイ卿までに「罪」を課すというもう一方の極端な行動をとるようになった。

最終的には、すべての列強に多かれ少なかれ責任があるという認識が高まり、戦争の根本的な原因に注目が集まるようになり、より賢明で歴史的思考を持つ人々は、スケープゴートまたは個人的悪の理論、つまり、個人の「罪」になすりつけて戦争を説明するような安易な解決策を受け入れないようになった。1

彼らは、この戦争は同盟、軍備、軍事力、そして秘密外交に関与した国際的な無政府状態によって引き起こされたという、より真実な説明に戻った。 .2

しかし、結局のところ、その「システム」は個人によって動かされたのであった。つまり、彼らの個人的な行為が戦争を作り上げ、1914年に爆発させた。

将来の議論において、これらの人々がそのような行動をとった政治的、経済的、心理的動機を説明するのは歴史家の仕事となるだろう。歴史家はまた、「戦争の罪」について話すこともやめるだろう。なぜなら、権力者の誰も、欧州戦争を引き起こすために意図的に働いた罪を犯していないからである。（訳注；このことは、後の日本の大東亜戦争においても言えることである）

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しかし、歴史家は依然として、最終的に大惨事の一因となった行為に対して各政治家が負わなければならない「責任」について、議論し続けるだろう[3]。

このため、筆者は常に「戦争罪」よりも「戦争責任」という言葉を好んで使っている。ドイツ語のフレーズ「Kriegsschuldfrage」には、どちらの解釈も可能である。

ここで、議論の基礎となった資料によってある程度決定される、議論が通過してきたさまざまな段階を簡単に見てみよう。

１　The Discussion of "Responsibility," 1914-1919 ....
　戦争中およびベルサイユ講和会議の間、戦争の勃発に対する直接の責任に関する議論は、それが国民的偏見、戦争憎悪、および意図的なプロパガンダ的誤報以上の何かに基づいている限り、主要当局者の公式声明、および1914年7月直後に各政府によって発行された外交文書のコレクションにに基づいていた。

その最初のものは、一般にドイツ白書として知られる「戦争勃発に関する予備回想録および文書」でした。ドイツ首相の言葉を借りれば、「非常に多くの仕事を人に課した出来事の圧力の下で組み立てられた」もので、8月3日に国会議事堂の前に設置された。

その目的は、ドイツがロシアからの侵略に対する自衛戦争を戦っていたことをドイツ国民に証明することであった。それはもっともらしい発言だった。この主張は、議論にきちんと組み込まれていた 27 通の電報と手紙によって裏付けられたが、適切な時系列で示されていなかった。この本の主な宛先であるドイツ国民にとっては、この議論は説得力のあるものだった。

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ドイツ国民は、ロシアから押し付けられた自衛戦争を戦っていると正直に信じて、戦争を経験した。しかし、ドイツ国外では、この白書は最悪の印象を与えた。

27 通の電報のうち、ベルリンとウィーン間の通信は 1 通もなかったことがすぐにわかった。しかし、7 月危機の間、中央同盟国 2 か国間で非常に活発な電報交換が行われたに違いないことは、誰もが知っていた。ドイツはオーストリアに対し、平和維持のための交渉に応じるよう圧力をかけようとしたと主張したが、その主張を証明する文書は白書にはなかった。

人々は当然、ドイツは真実を公表する勇気がなかったと結論づけた。彼らは、ドイツ首相が帝国議会に、戦争に賛成する投票をするよう説得した不自然な議論を信用しなかった。実際、白書はドイツ国外の人々にドイツの無実を納得させるどころか、まったく逆の効果をもたらした。

しかし、私たちが今知っているように、ドイツ白書には多くの真実が含まれていたが、すべての真実が含まれていたわけではない。

含まれる文書が非常に少ない理由の 1 つは、それまでの数週間に交換された大量の電報を数時間以内に印刷することが物理的に不可能だったことである。たとえそれらが国会議事堂に提出されるのに間に合うように出版されたとしても、短時間でその内容を読んで理解することは不可能だったであろう。首相は明らかに選択をしなければならなかったが、最も重要で自分の主張を裏付けるいくつかの手紙と電報を選んだ。彼はまた、白書が編纂された時点ではまだドイツと平和関係にあったイギリスとフランスを怒らせる可能性のある事項を可能な限り省略した。この事実は、後に白書を判断する際に見落とされがちな事実である4。

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ドイツの白書とは対照的に、1914 年 8 月 6 日に議会に提出された英国ブルーブックがあった。これには 159 の文書が含まれていた。5

文書は厳密な時系列順に並べられ、独自のストーリーを語るために残された。ドイツの出版物と比較すると、イギリスの本はかなり完成度が高く、率直で説得力があるように見えた。一見すると、重要な文書はすべて含まれているように見えた。それらは、エドワード・グレイ卿は平和の維持に誠実に努力してきたが、ドイツによるすべての和平提案の拒否とオーストリアのセルビアに対する急激な行動によってその努力が妨げられたという印象を与えた。したがって、ドイツ国外では多くの作家が、ドイツとオーストリアが意図的に戦争を計画し、その責任は両国に単独にあるという結論に到達した。この結論は、その後数か月の間に他の政府によって発表された文書出版物によって強化された。

　8月7日に発行されたロシアのオレンジブックには79の文書が掲載されており、平和に向けたロシアの努力が強調されていた。

（私たちが今知っているように）文書の改ざんと抑圧によって、ロシアの動員に関する真実が隠蔽され、戦争の罪を中央同盟国に負わせた。

10月、ベルギーのグレーブックは79の文書数を掲載し、ベルギーの中立性を無視したドイツの目に余る国際法違反の詳細を明らかにした。

1914 年 11 月 18 日のセルビア青書には、この小さな国がオーストリアの圧制によって苦しめられたことが 52 の文書で詳述されている。直近で明らかになったサラエボ暗殺に対するセルビアの有罪責任については何の示唆もなかった。それどころか、セルビアの無罪と遺憾の意を主張した。同報告書は、オーストリア政府が最初はヨーロッパに穏健を保証し、その後突然受け入れ不可能な最後通牒を出し、最後にはセルビアに宣戦布告して大火を避けられないようにした犯罪的欺瞞を指摘した。

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　最後に、1914 年 12 月 1 日、フランス政府は文書集を編集するのに十分な時間を経て、イエローブックを発行した。これまでに出版されたコレクションとは異なり、大公殺害の数か月前に遡ったとされる電報の一部が含まれていた。

これらはドイツのあらゆる好戦的な傾向と軍事的準備を明らかにしており、ベルギーとフランスでのドイツの残虐行為についての誇張された話を聞いていた読者に、ウィリアム2世が「フランスとの戦争は避けられないと考えるようになった」、そして「フランスとの戦争は避けられないと信じるようになった」、そして「ウィリアム2世はドイツ軍の圧倒的な優位性とその確実な成功を信じた。」と容易に納得させた。

フランスのイエローブックの残りの部分は、英語のブルーブックと同様に、年代順に整理されたかなり完全で率直で説得力のある一連の文書であるように見えた。すなわち、フランスの平和を望む主張とは対照的に、それらはドイツとオーストリアの二枚舌と好戦的意図への疑惑に満ちている。例えば、国境から10キロ後方へのフランス軍の撤退命令によって証明されたように。

結局のところ、フランスのイエローブックがそれほど完全でも公平でもなかったことが明らかになったのは、何年も経ってからであった。なぜなら、いくつかの重要な電報は完全に隠蔽され、その他は変更されていたから6。

　セルビアのブルーブックへの返答として1915年2月3日に出版されたオーストリアのレッドブックには69の文書が含まれていたが、そのうち最も重要なものはすでに毎日の新聞に掲載されており、残りの部分は、オーストリアのセルビアに対する最後通告とすべての和平提案の失敗に関連して、ベルリンとウィーンの間で行われた秘密関係に、ほとんど光を当てていない。

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オーストリアのレッドブックは、多数の重要な文書を徹底的に隠蔽していた。したがって、オーストリアとドイツ以外の人々からは、ドイツの白書そのものと同じくらい信頼性が低く、自己犯罪的なものであると一般に考えられていた。

　国々の生死を賭けた闘争が月ごとに続き、ますます悲惨かつ苦々しいものになるにつれ、戦争への憎しみ、国民的偏見、有害なプロパガンダがあまりにも壊滅的な結果をもたらしたため、ほとんどの人が気に留めたり、現在手元にあるような文書証拠さえも批判的に注意深く研究したりすることができなかった。。

各国の指導的当局者は戦争演説で自らの行為の無実を主張し、その責任を敵に押し付けていた。その結果、戦争の終わりに、ランシングが主宰した「戦争作者の責任に関する委員会」は講和会議に厳粛に次のような報告を行った。

この戦争は中央同盟国とその同盟国であるトルコとブルガリアによって計画され、その結果、戦争を不可避とするための意図的行動が行われた。ドイツは、オーストリア・ハンガリーとの合意のもと、協商国による多くの融和案をすべて打ち破るべく、意図的に取り組んだ。

　この「戦争作者の責任に関する委員会」の審議において、委員の一人であるJ・B・スコットは「残念ながらドイツ人は一人も参加を許されなかった」ことを5年後に遅れて認めた。確かに、ドイツの代表団は、公式には、 German White Book Concerning the Responsibility of the Authors of the Warを提出することを正式に許可されていた7。それは、有名な歴史家ハンス・デルブリック教授、メンデルスゾーン＝バルトルディ教授、モンゲラス伯爵、マックス・ウェーバー博士によって構成されていた。

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1924年にカーネギー国際平和基金によって出版された英語訳でスコットが正しく述べているように、「それは重要性を無視したり軽視したりすることのできない公式文書である」。

German White Book Concerning the Responsibility of the Authors of the Warには、カーネギー国際平和基金によって定式化された告発が正しいことを証明する傾向がある、貴重な新証拠が含まれていた。「戦争作者の責任に関する委員会」は歴史的に間違っており、道徳的にも不当であった。それにもかかわらず、「戦争作者の責任に関する委員会」は事実上これに何の注意も払わず、ドイツはベルサイユ条約第 231 条の勝者の命令を受け入れることを余儀なくされたのである。

2. 1919 年以降の「責任」の議論
(a) 直接的な原因に関する新たな文書
　戦争の直接の原因の問題の第二段階は、カウツキー文書の出版から始まった。これら、および以下で言及する他の新しい文書や回想録は、ドイツがヨーロッパ戦争を計画したり望んでいなかったことを明らかにした。

各国の学者たちは、当初は、愚かにもドイツがオーストリアに、セルビアに対して行動を起こさせるよう奨励した責任はあったものの、ドイツは紛争が「局地化」する可能性があると（結果的には間違っていたことが判明したが）想定していた、ということで徐々に同意するようになった。

しかし、「局地化」が難しくなりり、ロシアが介入する可能性があると思われ始めたとき、ドイツはオーストリアを抑制しようとし、オーストリア・セルビア紛争が世界大戦に発展するのを防ぐために真の努力を払った。この修正された見解の根拠となっている新しい文書や回想録は何であろうか?

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　カウツキー文書８は， 1919 年 12 月に出版され、それ、戦争終結時のドイツ革命の結果であった。

新しいドイツ共和国は、社会党のベテラン指導者カール・カウツキーを外務次官補に任命した。彼は、ドイツ外務省にある、世界大戦の起源を明らかにする可能性のあるすべての文書を編集する権限を与えられていた。

彼と彼の助手たちは、1914 年 7 月危機の際の外交通信を含むアーカイブ内の 18 巻に及ぶ大量の文書を慎重にコピーし、整理し、注釈を付けた。

27 の文書を含む貧弱な 1914 年のドイツ白書とは対照的に、カウツキーの出版物は 1,123 件の文書で構成されており、そのうち 937 件はextensoで提供され、残りは十分に完全な要約で提供された。手紙や電報は厳密な時系列順に並べられていた。編集者は、各発送が送受信された正確な日、時、分に関する便利な相互参照、インデックス、データを追加しただけであった。

この非常に正確で前例のない完全な編集物には、戦争初期に発行された文書出版物には残念ながら欠如していた詳細な情報が含まれており、ドイツの役人が何らかの行動を起こす際にどの程度のことを知っていたのかをかなり正確に判断することが可能になった。これにより、1914 年にドイツを指揮していた人々の動機、誠実さ、能力についての知識と公平性を持って初めて判断できるようになった。

これは、戦争に関する直接の責任に関する学術研究の始まりの基礎を築いた。この報告書は、戦争前の危機的な時期に、ドイツは戦争を回避するために真剣に努をしたが、何年にもわたって積み上げられた可燃物に火をつける一因となった失策や判断ミスがあったことを学者らに示した。

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さらに、ドイツが意図的に世界大戦を計画したという考えが全くの神話であることを示した。

　ウィーンでは、カウツキーがドイツ人に対して行ったことと同じことを、ローデリヒ・グース博士がオーストリア外務省に対して行った。オリジナルのオーストリア赤本 (1919 年発行 3 巻オーストリア赤本) の 69 文書とは対照的に、グース博士の3巻のAustrian Red Book of 1919には 352 文書が含まれていた。それらは、オーストリアはそれを望んではいなかったのだが、ドイツを世界大戦に引きずり込んだ無謀な外交を暴露した。オーストリアは、セルビア側から脅威となった危険を終わらせる決意で、危険を冒すことも厭わなかった。

　モスクワでは、すでにボリシェヴィストが政権獲得を利用して、1917年から1918年の冬に新聞『プラウダ』に、一連の秘密協定やその他の文書を掲載しており、これによって、1881 年から 1917 年の間の、崩壊したツァーリ政権の帝国主義と軍国主義の目的が明らかになった。10

これらに対して、ソビエト政府は、 1922 年に、1910 年から 1914 年までの仏露関係史に関する膨大で貴重な資料コレクションを追加した。これには、パリでの1914年7月24日から8月2日までの間のロシア外務省とロシア大使館の間で交わされた電報の完全な内容が含まれていた。11

フォン・ロンベルク男爵は、この一連の電報を、1914 年のロシアのオレンジブックに掲載されていたパリとサンクトペテルブルク間の電報と併せて出版した。

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前者に赤インク、後者に黒インクを使用することで、彼の『ロシア・オレンジブック改ざん』は、1914年にロシア政府が戦争責任を隠蔽しようとした欺瞞の顕著な証拠となった。12

パリとサンクトペテルブルクの間で実際に交わされた電報の半数は、非常に重要なものも含めて完全に隠蔽されただけでなく、公表された電報でも重要な一節が省略され、場合によっては意図的に捏造された言葉が追加されていた。

これらのロシア側の暴露は、協商国側の無実とドイツの有罪を示す良い証拠として中枢国外で受け入れられていた他の協商文書出版物の完全性と信頼性に対する学者らの信頼を揺るがし始めた。

　帝政ロシアのオレンジブックの不完全性と信頼性の低さは、ボリシェビストの歴史雑誌『レッド・アーカイブ』に、1914年7月にサンクトペテルブルクとベルリンのロシア大使館との間で交わされたすべての通信文書が掲載されたことによって、1922年にさらに証明された。13　

これらに付随したのが、ベルリンのロシア臨時代理公使ブロネフスキーが戦争勃発時にロシアに帰国するとすぐに書いた長い回想録で、その中で彼はベルリンでの最後の日々の出来事を詳細に語っていた。

　1923 年、戸棚の中に隠されていた旧外務省のシリング男爵の日記がボリシェヴィストによって発見され、出版された。14

この日記は、1914 年 7 月 16 日から 8 月 1 日までのロシア外務大臣 M サゾノフの行動と会話について、新しく生き生きとした説明を与えた。シリングは外務省の M. サゾノフの機密補佐官 (内閣官房長官) であり、彼の上司が彼に報告した現場での会話を要約したものであるため、この日記は特に貴重である。しかし、その他のロシアの記録は存在しない。

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シリング男爵はまた、外務省には出入りしたがロシアのオレンジブックからは隠蔽され、これまで知られていなかった重要な電報の本文や要約を日記に貼り付けた。ブリッジ少佐によるこの日記の英語翻訳の序文の中で、ロンドンに住んでいたシリング男爵が、その日記の信憑性と歴史的重要性の高さを確認し、日記がどのように書かれたかについて興味深い詳細を与えている。15

　これらのさまざまなボリシェビスト出版物から、私たちは現在、7月危機に対するロシアの外交通信のかなり完全な記録を入手している。この文書は、1914～10年のロシアのオレンジブックに掲載されていた、誤解を招き部分的に改ざんされた79の文書の代わりに、200以上の電報で構成されている。

　グレリング、ロミュー、ポアンカレ元大統領のような協商国の一部の支持者は、ドイツ、オーストリア、ロシアのアーカイブからのこれらの新たな暴露の誠実さと信頼性に疑惑と疑念を投げかけようとしている17。

というのは、これらの新たな文書により、当初考えられていたよりもドイツの責任ははるかに低く、ロシアとフランスの責任がはるかに大きい、と学者らが信じるようになったからである。

しかし、今述べた文書が何らかの形で架空のものであるか、偽造されたものであることを満足に証明した人は誰もいない。それどころか、新しい素材はすべてモザイクのように組み合わされ、ある部分が別の部分を裏付けるようになっている。

さらに、これらの文書が本物でかなり完全であり、、社会党の編集者がドイツ、オーストリア、ロシアを免罪する努力を一切していない最大の理由の 1 つは、編集者たちが、戦争の罪を自分たち以前の政府に負わせようとしていた、という事実にある。

彼らが、自国のアーカイブにある文書に基づいて、世界大戦の主な責任は自国の旧帝国主義支配者らにあることを証明する傾向にあるパンフレットをどのように書いてきたのかを見るのは興味深いことである[18]。

カウツキーによれば、ドイツは意図的かつ積極的に、躊躇するオーストリアをセルビアに対して行動に駆り立て、ひいては世界大戦に突入させたという。グースによれば、何の疑いも持たないウィリアム皇帝は、ベルヒトルトの無謀な裏切りと頑固さの祭壇に捧げられた犠牲の子羊だったという。 ソビエト・ロシアの公文書館長ポクロフスキーによれば―彼は真実にはるかに近い人物であるが―戦争の原因は、コンスタンティノープルの支配をめざす100年にわたるロシア帝国主義の野心であり、大公や軍国主義者の影響、オーストリアへの復讐を望むイズヴォルスキーの願望、そして、ツァーリ政権が感じたこれらの悪影響への支援は、フランスとイギリスの資本主義政府に期待することを奨励するものだった。

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歴史家はそのような党派的な概念を鵜呑みにするかもしれないが、彼は、これらの編集者の中に、かつての支配者を有罪とするような文書を意識的に隠蔽したり、彼らを無罪にするような内容をでっち上げたりした者はいない、と少なくとも確信しているかもしれない。

　この新たな文書証拠に基づいて、ドイツとその同盟国が単独で責任を負うという1919年の連合軍勝利者の言説を受け入れる真面目な歴史家はもはやいない。彼らは全員、責任が分かち合いされることに同意している。つまりそれらは単に大国のそれぞれの相対的な責任に関して異なっているだけである。実際、一部の著作者らは、ドイツだけでなく、他の国、特にフランスについても19、振り子を反対の極端な方向に押し上げる傾向にある。

さまざまな理由から、彼らはドイツとオーストリアの責任の大部分を免除し、ロシア、セルビア、フランス、さらにはイギリスにまで責任を負わせる傾向にある。その理由の一つは、セルビアとフランスが、ドイツ、オーストリア、ロシアと同じようにアーカイブ資料を完全かつ率直に出版したことがないことである。そしてイギリスは1926年12月1日までそうしなかった。

　しかしついにイギリス政府は、これ以上沈黙を守ることが望ましくないことを認識し、著名な歴史家の要請に屈し、十数年を経てついに、1914年7月危機に関する全外交文書の見事なコレクションを発行した。

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そこには、約500の新しい文書と、1914年の英国青書からは省略されていた多くの重要な文章が含まれていた。これらの表に出ていなかったされた文章は主に、間もなく同盟国となるフランスおよびロシアと英国の関係に関係しており、三国の協商国の緊密な団結を示している。英国外務省のエドワード・グレイ卿、アーサー・ニコルソン卿、エア・クロウ卿の私信と、文書の欄外の「議事録」を追加することで、ロンドンでの出来事の展開を同じ正確さで追跡することができる。ドイツのカウツキー文書によって可能になったように。

(ｂ) MEMOIRS AND RECOLLECTIONS
　これらの外交文書に加えて、1914年に重要な役割を果たした人々による謝罪回想録やパンフレットが大量に出回った。これらの中には、戦争直前の外交危機のみを扱っているものもある。それらのほとんどは、さらに遠い根本的な原因にまで遡っている。

予想通り、流れは負けた側から始まった。 1918年のドイツ崩壊後、1871年のフランス大失態後と同様に、元皇帝の元高官らは戦争の責任を亡き敵国や同僚の高官になすりつけようとした。オーストリアの指導者たちはすぐにドイツの例に倣った。そして最近では、亡命ロシア人、守りに入ったフランス人、無分別なセルビア人、さらにはこれまで寡黙だったイギリス人によって、この流れは増水している。

この自伝的資料の完全な説明は、1927 年に出版され、1928 年に付録が付いた G. P. グーチの『Recent Revelations of European Diplomacy』に記載されている。この時点で、より重要な名前のいくつかが言及されるかもしれない。

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　故ドイツ首相ヘル・フォン・ベートマン＝ホルヴェークによる第二次世界大戦に関する回想は、これまで以上に真剣な注目に値する。しかしそれらは、平和が締結される前に、戦争の恐ろしい緊張の下で、すでに精神と健康を損なった男によって書かれたものである。

新しい記録資料が手元になかったので、ベートマンは戦争初期に主に責任があるのはイギリスであるという誤解に依然として固執していた。ドイツの外務大臣フォン・ヤーゴは、その著書『Causes and Outbreak of the World War,』22で、同等の誠実さの印象を与えていないが、ドイツ外務省の態度に関しては啓発的である。

サンクトペテルブルクのドイツ大使であったプルタレス伯爵は、ロシアの首都での最後の日々と、ロシアを沈黙させ、ひいてはヨーロッパの平和を維持するための政府の指示を実行するための誠実な努力について、非常に率直かつ信頼できる説明をしている。

彼の物語『At the Parting of the Ways』23 は、1914 年 8 月の帰国途中、事実がまだ記憶に新しい間に作成したメモがあり、彼が受け取ったと思われる大使館の電報に基づいているという利点がある。

フォン・シェーン男爵は、1907 年から 1910 年までドイツ国務長官として、1910 年から 1914 年までパリの大使を務め、率直さと視野の広さで知られるMemoirs回想録 24を残した。彼はポアンカレが心からの敬意と賞賛をもって語る数少ないドイツ外交官の一人である。これらの著作者たちはドイツ外務省の政策を擁護し、正当化している。

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　彼らとは対照的なのが、事件後に賢明になった他のドイツ人たちである25。フォン・ティルピッツ提督は、『My Memoirs』と最近の貴重な政治文書の中で、大戦前の数年間にイギリスとの友好的な理解を望んでいたベートマンの楽観主義と、1914年の最後の危機における外交的失敗を厳しく非難している。

リヒノフスキー王子の辛辣なパンフレット『My London Mission,』26は、戦時中、国内での挫折感と批判の炎の中で書かれたものであるが、そのドイツ政府に対する批判はしばしば不当であり、必ずしも十分な情報を得ているわけではない。それは、ドイツ国外では、その価値をはるかに超えて信頼されている。 ex-Kaiser at DoornのMemoirs27は、不遜にも自分以外の全員に責任を負わせようとしており、不正確さと誤解に満ちている。これらは、著者に心理的な光を当てていることを除けば歴史的価値はほとんどなく、戦争の原因についての真実を解明するよりもむしろ曖昧にする傾向がある。フォン・モルトケ将軍の死後出版のRecollections 28 は、主に戦争前の 30 年間をカバーする妻への手紙で構成されている。

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マルヌの戦いと彼の現役指揮官からの解任後に書かれた七月危機に関する短い章は、イギリスの戦争参戦に対する彼の驚愕と、ドイツ軍国主義者が、”不可避である”と信じ、だがベートマンとカイザーはそれを回避することを望んでいたカイザーの戦争への決定の遅れに対する彼の絶望を反映している。、。

　オーストリア人は、非常に正当な理由はあるのだが、自らを無罪にするための努力を比較的ほとんどしてこなかった。誰よりも世界大戦に責任を負ったベルヒトルト伯爵は、いくつかの短くて遅れた無罪を問う記事を除いて長らく沈黙を保ってきたが、今回、彼の回想録が早期出版されることが発表された。

1914 年にルーマニア駐在オーストリア公使であり、戦時中はオーストリア外務大臣であったチェルニン伯爵は、興味深い本『In the World War』を執筆した29。

彼は主に戦時中の外交を扱っていたが、フランツ・フェルディナント大公の性格を見事に描写した。そして、ウィーンのドイツ大使チルシキーが、セルビアに対するオーストリアの行動を奨励するために個人的な影響力を利用したという意見を表明した。

フラクノイ博士30は、オーストリアの対セルビア戦争に対するティサ伯爵の当初の反対について私たちに語ったが、強力なハンガリー首相が 1914 年 7 月中旬に態度を変えた理由については完全には説明していない。

ティサ伯爵自身も生きていたら、恐れることなく真実を語ることができただろうが、彼は戦争の終わりに自宅の玄関先で暗殺され、血まみれの墓の中に横たわっている。彼の唇は永遠に封印され、ハンガリーアカデミーによる彼の論文の最新版には、戦争の直接の原因については事実上何も記載されていない。

セルビアに対するオーストリアの最後通牒の本文を起草したムズリン男爵は、彼の外交生活の経験とオーストリア外務省での活動を網羅した本を出版した[31]。

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彼には、世界大戦を引き起こした出来事における彼の役割を扱った章を除いて、どこでも説得力があった。ここで彼は自分自身の責任の分担を最小限に抑えており、彼の物語はおそらく記憶違いにより、当時の記録としばしば矛盾している。

　ビリンスキー伯爵は、1912 年から 1914 年までオーストリア・ハンガリー共同財務大臣としてボスニア・ヘルツェゴビナの民政を直接担当したが、ポーランドのRecollections and Documents 32 の中で、トラブルが絶えなかった地域の困難な状況を改善するための努力について多くのことを語っている。

しかし、大公のボスニアへの旅の準備、サラエボでの警察の警戒の欠如、セルビアからの「警告」とされていたこと、そして最後通牒の準備について、彼は誰もが期待していたよりも詳しく語らなかった。そのことで彼は厳しく批判され、後年は沈黙のベールをかぶることを好んだ。

彼はGalician Poleで生まれ、戦争中はポーランドに参加し、しばしば旧祖国への裏切り者とみなされている。振り返ってみると、この戦争に対する主な責任を彼が負っていた。

彼の前任の共同財務大臣であったブリアン伯爵のAustria in Dissolutionは、より寛大な口調で、より読みやすい形式である。33

ブリアン伯爵は、戦時中にオーストリアの外務大臣にもなったが、戦争の責任を他人の肩に転嫁しようとはしていないが、多民族国家であるオーストリア＝ハンガリー帝国が置かれた絶望的な状況については見事に説明している。

　1914年当時、重要な回想録を残したチェルニン伯爵のほかに、海外にいた唯一のオーストリア外交代表は、アテネのシラッシー男爵とベオグラードのギースル男爵であった。

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フランスとイギリスの共感を持ち、視野が広く知的なマジャル人であるシラッシーは、東京、サンクトペテルブルク、コンスタンティノープルなどの従属外交官職でその視野をさらに広げ、彼のFall of the Danubian Monarchy では、ベルヒトルト伯爵をオーストリア外務大臣に任命したのは大失敗だった、それは外務省の下級役人や参謀本部の軍国主義者たちに、セルビアとの「避けられない」戦争の口実として大公暗殺を利用する機会を与えてしまった、という印象を与えている。

1914 年にベオグラードでオーストリア公使を務め、以前はCettinjeにいたギースル男爵は、トルコ語とスラブ語に精通していた。彼のMemoirs回想録は、戦前のバルカン諸国の状況に興味深い光を当てており、オーストリアとセルビアの間の最終的な外交断絶に関するいくつかの詳細を追加している。34a

　オーストリア・ハンガリーのすべての回想録の中で歴史家にとって最も価値のあるものは、オーストリア参謀長コンラート・フォン・ヘッツェンドルフ男爵の膨大な著作である[35]。

それはあらゆる種類の重要文書の未消化の塊の大部分を構成しており、明らかに彼が公式ファイルから抜粋し、彼自身の解説付きで時系列順に出版されたものからの写しである。そこには、日々の日記から抜粋したような対話形式の会話も収録されている。

彼は、1906 年から 1914 年にかけて、（世界大戦にしないための）数多くの有用な機会があったと考え、オーストリアにイタリアまたはセルビアと戦争をさせるために繰り返しけしかけたことを、驚くべき率直さで語っている。1914年7月、無能で躊躇していたベルヒトルトをセルビアに対する戦争の積極的な擁護者へと駆り立てたのは、おそらく他の誰よりも彼だった。

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コンラッドは、軍国主義者の精神の最良の、つまりは最悪の例である。彼は戦争は「不可避」と信じ、常に「予防的」戦争を遂行することを熱望し、外交危機の際には性急な動員を支持することに全力を注いだ。コンラッドの見解は2人の将軍から厳しく批判されている[36]。

　もう一人のオーストリア人作家として、公式の立場にはいなかったが、ウィーンで至近距離で観察した文民および軍の役人に対する辛辣な批判で言及に値する人物として、元ウィーン社会主義日刊紙Die Zeitの編集者ハインリヒ・カナーがいる37。

　ロシアの自伝的資料は、ほぼすべてが外交用ペンよりも剣を振るうことに慣れていた手から生み出されたものである。サゾノフの回想録は、事件から 10 年以上経ち、手元にメモも文書もなく、亡命中に書かれたもので、査読者によって、全く信頼できないとの指摘を受けている。 37a

ローゼン男爵を除いて、ロシアの海外外交代表のうち、戦争の直接の原因についての記録を残している者はほとんどいない[38]。

しかし、多くのロシア軍将校は重要な思い出を残している。 1914年にロシア軍参謀本部動員部長だったドブロロルスキー将軍は、非常に率直で信頼できるパンフレットの中で39、戦争は「不可避」であり、秘密裏に軍事準備を開始し、できるだけ早期に「総動員」を行うよう促すような結論に、どう飛びついたかを明らかにした[39]。

p22
ドブロロルスキーの説明から、オーストリアに対する「部分動員」は、サゾノフがオーストリアに、セルビアに対する要求を引き下がらせることを狙った脅しによる単なる外交上の「はったり」であったことも明らかである。しかしロシア軍当局はそのような「部分動員」に対する技術的な準備を何ら行っていなかったので、それに絶対的に反対し、「全面動員」を執拗に促した。

このようにドブロロルスキーは、ロシア動員の最終命令に関する真実の事実を立証するのに役立ち、1914年にロシア陸軍大臣だったスコムリノフ将軍やその他の人々が、1914年の有名なスコムリノフ裁判で自由に語った虚偽を正している。

1924 年にドイツ語で出版されたスコムリノフのRecollections, 40 には、ツァーリへの忠誠心に満ちていたが、1914 年 7 月の致命的な出来事における自分の役割については、彼の心の中で非常に曇っていた人物が明らかにされている。

しかしながら、彼の著書には、ポリヴァノフ将軍のDiaries 41およびダニーロフ将軍のRussia in the World Warの第一部 42 と同様、ドイツとオーストリアとの「不可避の」戦争を形作ったロシア軍の再編と増強のための多大な努力が権威をもって、かなり満足のいく形で記述されている。

おそらく、1914 年 7 月に実際に行われたロシアの軍事準備に関する正確な情報の最も信頼でき正確な情報源は、ロシア軍参謀本部によって送られたロシア軍電報である。これらのうち 100 通以上は後に戦争中にドイツ軍に捕獲され、1919 年にロバート・ヘニガーの『Russia's Preparation for the World Waｒ』で出版された43。

p23
5 年後、電報はより完全な形で編集され、ギュンター・フランツによるより適切な解説が付いた「Russia's Entry into the World War」が編集された44。この優れた本は主に秘密軍事措置に関する技術的研究であるが、1914 年の仏露による真実の抑圧と 1917 年のスコムリノフ裁判での虚偽の主張の結果として長い間流れてきた伝説や誤った主張を一掃するのに役立つ。

　フランスのapologiasの中で最も重要なものは、1921 年にソルボンヌ大学で行われた 6 回の講演を含むポアンカレ元大統領の『Origins of the War,』45 である。これは、熟練した弁護士によるフランスの訴訟に関する陳述であり、彼自身の政策の個人的な弁護である。

ポアンカレは主にオーストリアとドイツに注目を集中させ、フランスとロシアの活動の多くを隠すことによって、ベルサイユ条約に具体化されているドイツの戦争罪についての公式の協商国側のテーゼにもっともらしい支持を与えている。

4年後、『 Foreign Affairs』誌（ニューヨーク州、1925年10月）に掲載された「戦争の責任」に関する注目すべき記事の中で、彼は確かに、まったく無罪であることが証明されているドイツの罪に関する伝説のいくつかを放棄している。

しかし、歴史のより真実な見方に対するこうした譲歩にもかかわらず、彼のその後の論文は、ソルボンヌ大学での講義とほぼ同じ批判にさらされている。彼のもっともらしい議論が、説得を必要としない人々以外の人々を説得したかどうかは疑わしい。 [46]

それよりもはるかに価値があるのは、これまでに発行された彼の回想録の最初の 4 巻での彼の外交および国内政策の厳正な弁護である [47]

これらは、1912 年の初めから 1914 年 8 月 3 日までの彼の活動をほぼ毎日詳細に説明している。

p24
したがって、彼らは戦争の根本的な原因と直接的な原因の両方に光を当てている。 M. ポアンカレは、弁護士のような活力と、自分の行為すべての知恵と正義に対する完全な自信を持って執筆している。彼はフランスの権力と尊厳、平和への愛、そしてロシアとイギリスへの忠誠を擁護する無数の演説から長文を引用している。彼はフランスのアーカイブから多くの未公開資料を使用しており、そのため彼の本は歴史家にとって非常に価値のあるものとなっている。しかし、彼は批判者たちを混乱させようとして、皮肉を込めて、そして圧倒的な詳細を述べて、しばしば横をを向く。そのため、彼の作品は穏やかな歴史回顧ではなく、辛辣な論争になっていることがよくある。

　M. ポアンカレを最も厳しく批判したのは、ペヴェ、ジュデ、ファーブル＝リュス、コンヴェルセット、モルハルト、ヴィクトル・マルグリット、ラザール、そして多くのマイナーな人々といった同胞たちであった。彼らは、サンクトペテルブルクのジョルジュ・ルイやウィーンのクロジエのような用心深い大使を解任し、デルカッセのような排外主義者やパレオローグやデュメーヌのような傀儡に道を譲った罪で同氏を告発した。それは、フランスのためにアルザスロレーヌを回復し、ロシアのためにコンスタンティノープルと海峡を確保する戦争を引き起こすためにイズヴォルスキーともっと自由に協力できるようにするためであった。

彼らの批判に対する彼の返答の多くは適切なものだ。彼は、イズヴォルスキーが彼に帰したとされる非難的な発言の一部をなんとか説明した。しかし、他の多くの場合、彼は本題から些細な事柄に注意をそらして、読者の目にゴミを投げ込むという行為に逃げ込んでいるように見える。

　戦争責任に関する一般的な問題に関して、ポアンカレは首相および大統領として、前任者の平和政策から決して逸脱していないことを証明しようとしている。彼は、仏露同盟の性質と解釈に関して、彼とジョルジュ・ルイが完全に一致していたことを示そうとしている。入手可能な文書をすべて読んだ人にとって、彼の議論は必ずしも説得力があるとは限らない。

p25
彼が首相兼外務大臣だった1912年に、（露仏）同盟が強化され、バルカン半島におけるロシアの野望に対するフランスの支援を拡大するという方向に明確な変化があった。

しかし、これは彼の批評家の多くが主張しているように、フランスがアルザス・ロレーヌを回復するための戦争を引き起こすことが目的ではなかった。それは三国協商におけるより大きな団結を確立するためであった。そうすることで彼は、三国協商がその意志を三国同盟に押し付けることができるように、列強をますます二つの武装勢力と敵対する陣営に分割するつもりだあった。あるいは、外交危機が生じた場合、三国協商は安全に三国同盟に挑み、外交上の敗北を受け入れるよりも、優勢な軍隊との戦争の危険を喜んで冒すことができよう。これはまさに 1914 年に起こったことであった。

彼はヨーロッパ戦争は「不可避」と信じていた。協商を強化し、ロシアと約束する際に、彼は実際、戦争を不可避にしようとした。ここに彼の（戦争）責任がある。

　1913年にデルカッセがサンクトペテルブルクのフランス大使館を数週間占拠した後、彼は、ポアンカレ大統領の学生時代の友人で最も熱心な信奉者の一人であるモーリス・パレオローグに引き渡された。『An Ambassador's Memoirs,』の冒頭ページで48、 M. パレオローグは、ポアンカレ大統領のツァーリ訪問に伴う祝賀行事と排外主義的な熱狂、そして戦争前夜のロシアの状況を生き生きと描写している。
フランス大使によって述べられた事実は、彼の魅力的に書かれた本が実際に毎日書かれた日記に基づいている場合に期待されるような正確さと明確さを常に備えているわけではないが、それでも、それは歴史家にとって非常に価値がある。それは、ポアンカレ大統領の出席と演説によってロシア支配層にインスピレーションを与えた高揚した戦争精神を忠実に再現している。

p26
たとえば、7月22日の祝賀晩餐会で、モンテネグロの2人の王女（そのうちの1人はニコライ大公の妻）が、パレオローグに「父が、どのようにして一か月以内に戦争が起こるだろうかと言った」ことを、うれしそうに語った様子が劇的に描写されている。この作品は、オーストリアの滅亡、フランスによるアルザス・ロレーヌの再征服、そしてドイツの敗北と破壊の見通しに対する彼女らの恍惚を描いている。

3日後、オーストリアがセルビアの返答を不満足として拒否したことが知られる前に、パレオローグはフランスへ帰国するイズヴォルスキーを急がせて駅へ行った様子を語った。つまり「それはすでに動員を示唆しており、私たちは意見を交換し、同じ結論に達しました。Cette fois, c'est la guerre」。 [49]

彼がロシアの戦争精神に同情し、フランスが同盟国ロシアを支援して断固として立つと繰り返し保証することでそれを奨励したという印象は、1914 年のBritish Blue Book からは隠蔽された文章によって裏付けられているが、現在は英国の文書の新版に掲載されている。

　パレオローグの鮮やかさに比べて単調なのは、彼の同僚であるウィーンのフランス大使 M. デュメインが提示した彩のない描写である。50 大使の地位にある人物としては、M. デュメインは驚くほど情報と影響力に欠けていたようだ。

ロンドンのポール・カンボン、ベルリンのジュール・カンボン、そしてローマのバレレという最も有能なフランス大使のトリオについては、残念ながら完全な回想録がない。しかし、進取的なフランス人ジャーナリスト、M. レイモン・ルクーリーは、彼らやその他の人々の記憶が比較的新しいうちに彼らにインタビューするといううまい考えを思いつき、これらのインタビューを優れた一冊に記録した[51]。

p27
　セルビア政府は、オーストリア大公の暗殺にいかなる形であれ直接の責任があることを常に否定してきた。しかし、セルビア民族主義者たちが夢見ていた統一国家の創設をもたらした彼の暗殺と戦争の勃発から10周年を祝ったことは、（オーストリア大公の暗殺にいかなる形であれ直接の責任はないという）セルビアの公式姿勢に疑問を投げかけるようないくつかの興味深い回想を呼び起こした。

1914 年のパシッチ内閣で教育大臣だったLjuba Jovanovitchは、おそらく自分の言葉の重要性をまったく理解していなかったが、1924 年にうっかり秘密を漏らしてしまった。

『Blood of Slavdom』52 でLjuba Jovanovitchは生き生きと、しかし単純な方法で、パシッチ内閣の一部がサラエボの陰謀を一ヶ月近く前から知っていた様子を説明している。 しかし、こうした罪な知見にもかかわらず、彼は共謀者を逮捕したり、差し迫った危険についてオーストリア当局に警告したりするための有効な措置を講じなかった。

主要なセルビア高官のこの驚くべき自白は、一般に「黒手組」として知られるセルビアの秘密軍事組織、特にドラグーチン・ディミトリイェヴィッチ大佐によって行われたサラエボの陰謀の一部に関する他のセルビア人の暴露と否定を引き起こした。

この無謀で、寛大で、偶像化された、子供っぽい英雄は、20世紀というよりは16世紀の精神に属しているように見えるが、セルビア参謀本部の諜報部門の責任者であった。さらに、セルビア人の「黒手組」の創設者であり支配的な人物として、彼はセルビアで最も影響力のある軍人であった。

これらのセルビア人の暴露は、オーストリアとセルビアの紛争に新たな光を当て、もし事実であれば、セルビアの責任分担の負担を大幅に増大させることになった。 これらのセルビア人の暴露は、1914年にオーストリア当局が疑っていたが証明できなかったことを裏付ける傾向にある。正当化するわけではないが、ハプスブルク君主国の存続に対するセルビアの脅威とみなされるものに精力的に対処するというオーストリアの決意を説明するのには役立つ。 53

p28
　アスキスの言うところの「内閣で進む、情報の伝達には細心の注意を払うような」英国の伝統を特徴的に考慮し、英国当局者らは長い間、自分たちが果たした役割を明らかにすることに比較的消極的だった。

しかし、ハルデン卿の『Before the War』（1920年）は、1912年にドイツとの理解を深めようとした彼の努力の失敗と、大陸で戦うためのイギリス軍の準備における彼の活動を威厳と権威をもって描写した。

Lord Loreburaは、『 How the War Came 』（1920年）の中で、エドワード・グレイ卿がフランスと密約を結び、ヨーロッパ戦争でフランスとロシアを支援するようイギリスに事実上約束させたとして、戦争に対する重大な責任を告発した。これらのコミットメントはフランスとロシアの攻撃的な野心を奨励したが、イギリスの憲法慣例に反してイギリス内閣には長い間秘密にされてきたと彼は考えている。

アスキスの『Genesis of the War』（1924 年）では、戦争の本当の起源についてはほとんど語られていない。元首相は1924年になっても、10年経っても戦争の原因については1914年と同じように何も知らないかのように書いて満足していた。彼にとっては依然としてドイツが単独で責任を負っていたのだった。

彼は真実を明らかにしようとする政治家としてではなく、問題を起こす政治家として書いている。しかし、特定の章では、彼は帝国防衛委員会によって行われた戦争への素晴らしい準備について、啓発的な説明を行っている。彼は、エドワード・グレイ卿が1911年5月に英連邦内の自治領首相に対して密室で述べた重要な声明を引用している。すなわち「この国の外交政策を本当に決定しているのは、シーパワーの問題である。」この格言は、この時期の第一海軍卿ウィンストン・チャーチル氏による『The World Crisis, 1911‐1914 (1923 年)』で十分に確認されている。

p29
チャーチルは、海軍軍備の制限に関するイギリスの提案をドイツが拒否したという愚かな行為を受けて、イギリス海軍の強化と増強に関して多くの貴重な新情報を私たちに与えてくれた。

　駐ロシア英国大使サー・ジョージ・ブキャナンの回想録は、British Blue Bookから学べること以上に、戦争の直接の原因についての我々の知識にほとんど役に立たない。

しかし、1 つの例外がある。彼が、これは「危機的な時期に私とその省 (英国外務省) の間で交わされたすべての通信を記録したものである」54と言うのであれば、彼は重大な虚偽表示の罪を犯していることになる。すなわち、新しいBritish Documentsには、いくつかの電報や手紙から省略された重要な一節を除いて、1914年に印刷されなかったこうした通信が多数含まれている。

バーティ卿の日記は、主に戦争勃発後の出来事に関するものであるが、新聞やイズヴォルスキーによって扇動されるまでのフランス国民の平和的な態度に関するいくつかの重要な文章が含まれている。

イズヴォルスキーのことについて彼は7月27日の日記に、「彼は今日か明日ここに戻る予定だが、彼は平和的要素を持ってはいない」と書いている。そして7月28日の日記には、「イズヴォルスキーはグランビルに、戦争は避けられないと語った。……彼はここで戦意を煽り、かなりの損害を与えるだろう。」、そしてその後、11月10日の日記には、「イズヴォルスキーは何という愚か者だ！...戦争当初、彼は自分が戦争の創造者である：C'est ma guerre！（と言った）」とある。55

この状態は、現在印刷されているいくつかの文章によって確認されている。新しいBritish Documentsで初めて、バーティがフランス人に対し、「英国の世論は、ロシアを支援する戦争を容認しないだろう。ロシアがスラブ人の保護者として、オーストリアとセルビアの困難をめぐってオーストリアに喧嘩を売ったとしたら。」と語ったことが分かっている。

p30
また彼は当初、「ロシアがどのような行為を行っていたとしても、同国の、すべてのスラブ諸国の保護者であるという不条理かつ時代遅れの態度」を非難した。 5６

　最近のすべての回想録の中で最も価値があるのは、グレイ子爵の Twenty-five Years, 1892-1916 (1925 年) である。スタイルの魅力と苦味のなさ、意図の透明な正直さと口調の高貴さ、そして彼の回想的考察の甘美な合理性によって、グレイの謝罪は独特である。

事件から10年以上経ってから執筆しているにもかかわらず、彼は驚くほど鮮明な記憶を持っているようだ。さらに、彼は友人のスペンダー氏に外務省の記録を調べてもらい、自分の記憶に騙されないようにと心配したすべての点について心をリフレッシュさせた。したがって、彼の本はある意味、アーカイブに基づいた歴史である。

彼の物語の明確な流れは、引用や脚注によって妨げられることはないが、ヨーロッパの平和を維持しようとするエドワード・グレイ卿の絶対的な誠実さと、回想録における彼の意図の疑いのない誠実さは認めるとしても、彼のイギリス外交政策における行動については依然として深刻な批判が残されており、これについては後の章で立ち戻ることになる。

この時点では、彼の大きな欠点は、英国憲法指導者らの大きな美徳とみなされてきたもの、つまり将来のための理論的な完璧さではなく、現在のための実際的な妥協を好むことであった、ということだけが指摘されるかもしれない。

彼は先のことを見据えて論理的な政策を練り上げ、その結果起こり得るすべてのことを研究していなかった。英国人が憲法の発展に対処することに常に満足してきたのと同様に、彼は外交問題に満足しており、発生した状況に対応し、その時点で最も実際的かつ常識的なニーズに従って対処した。

、英国は決して「勢力均衡」政策を追求しなかったとし、グレイは以下のように主張する。「私は、英国の外交政策に関するほとんどの調査と同様に、この件についても、本当の理由は先見の明や大きな構想や大きな計画の中に見つかるものではないと思います。

もしすべての秘密が知られれば、英国の外務大臣たちは、将来のための綿密な計算もせずに、この国の当面の利益と思われるものに導かれてきたことがおそらく判明するでしょう。」57（ Grey, I, 6）

p31
solvitur ambulando（「議論で解決しない難問は、多くの場合、実践や時間が解決する」）の最大の特徴は、彼がフランスとの秘密の了解にますます巻き込まれるようになり、1914年には、フランスと道徳的に束縛されるまでになってしまったことだ。

彼は常にフランス人に対して、自分の手は自由にしておくべきであり、ヨーロッパの戦争でイギリスがフランスを支援するかどうかを決定するのは常に議会である、と慎重に述べていたが、彼は徐々に献身的になり、二度認めているように、もし内閣と議会を説得して対ドイツ戦争に参加するよう説得できなければ、辞任せざるを得ないと感じるようになっていたのだろう[58]。（Grey, I, 303, 316）

　回想の中で、グレイ子爵は、戦争の原因としての疑惑の有害な影響について多くのことを当然のことながら述べているが、彼自身のドイツに対する根深い疑惑もいくつかの文章で明らかにしている。 「当時（1914年）、ドイツの軍事力が年を選んで、戦争を引き起こしたように見えましたし、今でも私にはそれが真実のように思えます。」 [59]（Grey, I, 90.）

彼は、ドイツ軍国主義者たちが戦争をする年だけでなく月も選んだと信じていたようで、（普仏戦争が）1870年に7月を選んだのと同じように1914年も7月を選び、第一次モロッコ危機でフランスが譲歩し、アガディール事件後にイギリスが非常に強硬な態度をとらなかったら、1905年と1911年の7月を選ぶ用意もできていた[60]。
60　「（アガディールの）危機が戦争につながっていたら、1870年にドイツの軍事指導者たちがその目的のために好んで使用し、1905年にフランスへの脅威として選ばれたと我々が知っているまさにその時期に、それは起こっていただろう。そしてそれは1914年に軍当局によって戦争について決定されたと我々は信じている。」Grey, I, 231　.ドイツ軍国主義者が1914年の戦争に固執していたというグレイの疑惑を示す他の文章については、 I, 313-314; II, 23-31, 56, 144, 278.

p32
ドイツの行動は多くの疑惑の根拠を与えたが、後で見るように、エドワード・グレイ卿のこの独自の疑惑は完全に間違っていた。しかし、彼がその思惑を表に出していなかったという事実は、ヨーロッパ全体の大火を防ぐためのドイツの最後の瞬間の努力の失敗の一因となったため、戦争の直接の原因の1つとみなされるに違いない。

確かに、グレイ子爵は、1914年に戦争を計画したり願望したりしていたドイツ政府当局を寛大にかつ間違いなく無罪とはしたが、それは、軍国主義者の前ではベートマンとヤーゴは無力だったと彼が考えていたからである。

　要するに、現在、戦争の直接の原因を探ろうとしている歴史家が自由に使える、量と質において前例のない豊富な記録資料と回想録資料は、存在している。歴史上、これほど多くの大国によってアーカイブがこれほど迅速かつ自由に公開されたことはかつてなかった。これほど多くの政治家が自分たちが果たした役割をこれほど長々と語ろうとしたことはかつてなかった。この点で、世界大戦はあらゆる前例を上回り、あらゆる予想を上回った。

かつての戦争の場合、その原因についての満足のいく説明が書かれるまでに、少なくとも一世代か二世代が経過していたのだった。

今日は、戦争勃発からわずか 14 年後であるが、6月28日のサラエボ大公殺害から8月4日のイギリスとドイツの間の開戦までの出来事の経過をかなり正確に述べるための資料が現在手元にあると言っても過言ではない。これが私の第 2 巻の主題である。

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