p240
19 ‘I Will Not Be Responsible for a Monstrous Slaughter!（Tsar)’
WEDNESDAY, 29 JULY

p260
＜フランス＞
7月29日水曜日の真夜中直後、イギリスの第1艦隊はポートランド港を出港し、まず南に向かい、その後「海峡中部コース」に沿ってドーバー海峡に向かった。第一海軍卿チャーチルは、戦隊に対し「夜間は灯りを付けずに海峡を通過し、北に向かう途中で浅瀬の外を通過するように」と指示していた。チャーチル自身が艦隊が港からゆっくりと出航する光景を想像していた。「何十もの巨大な鋼鉄の城が、心配そうに頭を下げた巨人のように、霧がかかった輝く海を横切って進んでいた。私たちは再び彼らの姿を想像するかもしれません。暗闇が訪れると、18マイルの軍艦が狭い海峡を真っ暗闇の中、猛スピードで走り、重要な事柄を守るために北の海域に彼らとともに入っていきました。」 1

　イギリス海峡の反対側では、ストックホルムとクリスティアーナ (オスロ) での寄港により一時的に中断されただけで、5 日以上の海上航海を経て、午前 8 時に戦艦フランス号が帰港した。もともとロシア行きに消極的だったヴィヴィアーニ首相も大喜びだった。「ついに！」と彼は言った、「屋根の下、家、造船所、マスト、徐々に浮かび上がってくるスカイライン、ダンケルク！」２

p261
　船が港に停泊した後、ヴィヴィアーニとポアンカレ大統領は小型汽船に移されて港に入港したが、そこで、群衆が「フランス万歳！」「ポアンカレ万歳！」と叫ぶのに驚いた。愛国心の強いポアンカレは、国民のムードの激しさに驚いた。「印象に残ったのは、ここにいる多くの人々が戦争が差し迫っていると考えているようだということだった」と彼は後に回想した。

パリまでの3時間の列車の旅のどの駅にも、そしてその間の多くの地点に群衆が現れた。「住民が道の両側に集まり、同じような公の挨拶、同じ歓声、同じ平和の誓い、同じ勇気と諦めの約束をやめることなく叫び続けているのが見えた」と彼は観察した。３

　戦争が起こった場合、フランス政府が何をするかを決定したかどうかに関係なく、フランス国民は準備ができているように見えた。ポアンカレとヴィヴィアーニは、海上での無線通信が不安定だったため、予定より少し遅れた。フランスが常に主張しているように、ドイツ海軍本部がドイツのバルト海沿岸にある間にフランスの信号を意図的に妨害したかどうかについては、いくつかの議論が残っている*4。

信号強度が弱く、交通量の多い海路を介して同様の周波数で送信される無線メッセージ間の干渉が、フランスでの受信困難の原因となっている可能性がある。それでも、パリとサンクトペテルブルクからのメッセージがすべて届いたわけではないことは明らかである。

7月28日火曜日の夕方、パレオローグ大使はサゾノフ外務大臣に対し、フランス首脳に連絡が取れないと告げ、当然のことながら上司と連絡が取れないため「彼らは私に何の指示も送れない」と述べた。

したがってパレオローグがサゾノフに語ったように、その日のロシアの動員措置の加速に対する彼の支持（「同盟国としての義務を果たすためのフランスの完全な準備」）が本当に「政府の指示に基づいて」与えられたのかどうかについては疑問がある5。

今日に至るまで、パレオローグが大統領や首相の命令に従って行動していたのか、それともそれらを超えて行動していたのかは定かではない。

p262
　ほぼ確実に、ポアンカレとヴィヴィアーニは、フランスに戻った時点では、サンクトペテルブルクの大使パレオローグほどの知識はなかった。それでも、彼らは戦後の回想録で明らかにされている以上のことは知っていた。

ヴィヴィアーニが28日火曜日に、フランス号の船上からQuai d’Orsayの局長代理ビアンヴヌ・マルタンに宛てた最新の通信では、セルビアの返答に基づいてオーストリアとロシアが直接交渉するより緊急性の高い直近の提案ではなく、グレイ英国外務大臣の3日前の4か国会議に関する提案が取り上げられていた。 6

これは、ヴィヴィアーニが、調停の取り組みに遅れていたことを示唆している。ポアンカレとヴィヴィアーニはおそらく、28日火曜日の夜に、オーストリアがセルビアに対して宣戦布告したこと（ダンケルクに停泊した後に知ることになるが）や、火曜日の夜にサンクトペテルブルクで動員ウカセが策定されたことをまだ聞いていなかったであろう。彼らはロシアの戦争準備期間の発足について知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない。それを論じたパレオローグとラギーシュの電報は直接パリに送られたが、これらのメッセージがフランスに届いたという証拠はない。

　それでも、ロシアの戦争準備について何も知らなかったという後の彼らの主張とは対照的に、ヴィヴィアーニが7月26日日曜日に、以下のことをビアンヴェヌ・マルタンから知らされたことは確認できる。「もしもオーストリアが戦争準備をしていたならば、ロシアはウィーンに対して13軍団を「部分的に」動員するつもりである」。そして「ロシア世論はセルビアを潰させないという決意を確固たるものとしている」[7]

この電報に応じて、ヴィヴィアーニは7月27日月曜日、パレオローグに対し、フランスは「（ロシア）帝国政府の行動に・・・全力で従う準備ができている」とサゾノフに伝えるよう指示した。（ただし、ヴィヴィアーニは重要なことに、Quai d’Orsayの原案に「準備ができている」と「心を込めて」の間に「一般平和の利益のために」という条項を挿入していた） .8

ヴィヴィアーニもポアンカレも最新の動向をすべて把握していなかった。しかし彼らは、フランスの決意と支援について何の疑いもなくロシアを後にした。

p263
　パリ行きの列車の中で、ポアンカレとヴィヴィアーニは、彼らのために「膨大な電報の山」を集めたフランス国務次官アベル・フェリーからさらにブリーフィングを受けた。彼らはとりわけ、フランス領のアルジェリアとモロッコが動員されていることを知った。10万人の「精鋭部隊」が海岸に集結し、フランス本土への輸送の準備を整えていた。フランスや他のヨーロッパの民間人は安全を確保するためにアフリカ内陸部に避難していた。ポアンカレもこのニュースには驚いた。それでも、フェリーはすべてを知っていたわけではなかった。彼は大統領に対し、ロシアが現在までに4日間続いている広範囲にわたる戦争準備期間についても、ジョフル、メッシミー、パレオローグがロシア側にさらに進めるよう促したことも伝えなかった。.9

　ポアンカレは長く無知のままではいることはなかっただろう。メッシミーは大統領の列車が首都に到着するとすぐに彼に会った。「ムッシュ・ル・プレジデント」陸軍大臣は挨拶としてこう言った。「あなたはパリにいくつもりだろう。それは素晴らしいことだ。」　

確かにその通りであった。数カ月に渡ってフランス国民を分裂させたカイヨー裁判が結審したのは、つい先日のことだった。それは一種の悪魔祓いだった。フランスの内なる悪魔は、ドイツ人に対する国家主義者の熱狂に溶け込んだかのようだった。「駅から出てきたとき」ポアンカレは回想した。

p264
私は、私の存在の奥底まで感動する圧倒的なデモンストレーションに迎えられました。多くの人が目に涙をためていて、私も涙をこらえることができませんでした。何千もの喉から「フランス万歳、共和国万歳！」という叫び声が繰り返し上がった。万歳、大統領！。。。駅からエリゼ通りまで、歓声が鳴り止みませんでした。。。。ここに統一フランスがあった。政治的な争いは忘れ去られた。。。。 [カイヨー]事件が今ではどれほど遠くにあるように思われるでしょう! 今ではどのような異なる事柄が世間の注目を集めているのでしょうか!　10

　ポアンカレは、カイヨーの妻によって殺害された国家主義出版社の側でこの事件に関与しており、1913年の大統領選挙キャンペーンにイズヴォルスキー大使を通じて送られたロシアの補助金が暴露されるのではないかという正当な懸念を抱いていた彼にとって、ほとばしる愛国心は、個人の正当化のある種の問題であると考えていた。.

　歓声が静まり、仕事に向かう時間となった。 29日の朝の午前11時15分、駐フランス・ロシア大使イズヴォルスキーはヴィヴィアーニとポアンカレに報告するためにオルセー通りに到着した。彼は、28日火曜日の夜に送られたサゾノフからの対セルビア宣戦布告に対するロシアの部分的動員を告げる電報を彼らに示し（夢遊病者たち p749）、駐英ロシア大使ベンケンドルフ宛てのもっと曖昧な電報を伝えた。その中でサゾノフは、オーストリアの対セルビア宣戦布告についてしか語っていなかった（それに対するロシアの反応は書かれていなかった）。そしてサゾノフは、駐英ロシア大使ベンケンドルフがグレイに対し、「調停を視野に入れた行動を早急に講じ、オーストリアがセルビアに対する軍事措置をただちに停止するよう」たずねることを求めた。イズヴォルスキーは、ロシア動員措置の加速に関するメッシミーとジョフルとの最近の会談について、大統領やあるいは少なくとも首相とは接点がなかった[11]。

　（オーストリアの対セルビア宣戦布告に対するロシアの部分的動員を告げた）イズヴォルスキーの報告は典型的な「燻製のニシン」（おとり）だった。 1913年に再確認された仏露軍事協定の条項によれば、どちらの国も相手国に事前に通知することなく動員することはできなかった。 もしロシアがフランスとのこの問題をクリアすることなく（あるいは事前のドイツの動員なしに、フランスとロシアの両方の動員を引き起こすことになる）一般動員を命令したとしたら、それは同盟の基本条件の一つに違反することになったのだ。12

（だから）これは、（ロシアが自国の軍事措置を加速しているにもかかわらず）オーストリアに対してセルビアへの軍事措置を停止させるというサゾノフの過大な要求ではなく、イズヴォルスキーとフランス政府との間の最優先課題となるべきことなのであった。

29日水曜日までに、ロシアの戦争準備は、ロシアがどのような呼び方を選んだにせよ、すでに総動員に似てきていた。その日、ワルシャワのドイツ領事が提出した報告書から、その範囲と意図を知ることができる。

p265
ロシアはすでに完全に戦争の準備状態にある。。。。ドイツに向けた部隊はニーメン川沿いのロムザとコブノの間に集結し、オーストリアに向けた部隊はルブリンとコヴェリ（ウクライナ）に集結している。。。。 [プロイセン国境への]ワルシャワ-カリシュ線とワルシャワ-ウィーン線路は歩兵と工兵で埋め尽くされ、路床の下に地雷を敷設している。.13

　こうしたことはつゆ知らず―そしてイズヴォルスキーはヴィヴィアーニを啓蒙するために何もしなかった―ヴィヴィアーニは駐英フランス大使ポール・カンボンに電報を送り、イギリスがオーストリアに「軍事措置を停止」させるよう求めるサゾノフの要求を支持すべきであると伝えることに同意した[14]。

この要求は表面的には合理的だったが、外交上の優先事項の観点からはほとんど意味がなかった。特に、これまでのオーストリアの軍事措置が、ロシアではなくセルビアをターゲットにしていたため、フランス、ましてやイギリスがウィーンに直接影響を与えることができることなどほとんどなかったのだ。

しかし、フランスは、オーストリアとドイツの国境においてすでに脅威の色合いを帯びていたロシアの軍事的措置を承認することに関心を持っていた。それは（1913年に再確認された仏露軍事協定の条項のための）法的義務であったからでもある。

ヴィヴィアーニが焦点を当てるべきだったのは、25日土曜日の夜から実施されていたロシア自身の軍事措置が戦略的同盟に与える影響だったが、彼はオーストリアへの対応を急いでいたのだ。自分の味方のこととなると、彼は4日近く遅れをとってしまった。

p266
＜ドイツ＞
ドイツはそれほど良い状態ではなかった。。 7月28日火曜日までに、ベートマン首相はホーエンフィノウからの帰還後の出来事を多かれ少なかれ把握していたが、偶然か意図的かにかかわらず、主権者とmilitary service chiefsを伝えるという点で非常に不十分な仕事しかできなかった。

カイザーは29日水曜日には、ベートマンがセルビア側の返答条件をめぐるあらゆる交渉を排除することで、ウィーンでのカイザーからの調停提案を事実上骨抜きにしたことをまだ知らなかった。

危機が戦争に発展した場合に備えてドイツ軍の動員を担当するモルトケ参謀長は、首相への政策声明を作成し始めた28日火曜日の夕方になって初めて状況の深刻さに目覚めた。

29日水曜日の朝、ベートマンに渡されたモルトケの覚書は、読んでいて憂鬱な気分にさせた。オーストリアがロシアに対して動員せずにセルビアに軍隊を送り込むのは自殺行為だ、と彼は主張した。さもなければ（オーストリア領ガリツィアの一部はがら空きになって）、ツァーリ軍は戦わずに（ロシアが虎視眈々と狙っている）オーストリア領ガリツィアを占領できるだろう。

モルトケは覚書で以下のように書いている。

「オーストリアが全軍を動員したその瞬間に、オーストリアとロシアとの衝突は避けられないだろう。さて、それはドイツにとっての「casus foederis（同盟体制の発動事由）」です。ドイツが（同盟国の）義務を果たさずに、同盟国がロシアの優位な力に屈することを許容つもりがない限りは、ドイツも動員しなければならない。これは残りのロシア軍管区の動員につながるだろう。。。。これにより仏露協定が発効し、ヨーロッパの文明国家は互いに引き裂かれることになる。。。。。これが物事が展開し、そしてそうなるに違いないあり方である。ほぼほぼと言っていいほど、最後の瞬間に奇跡が起きて、今後数10年にわたってヨーロッパのほぼ全土の文明を滅ぼすことになる戦争を阻止しない限りは。.15 （c.f.Fromkin, David. Europe's Last Summer p224）

p267
　モルトケの覚書は常習的な悲観主義を帯びていたものの、29日水曜日の状況をかなり正確に表していた。オーストリアはまだ全軍を動員しておらず、ロシアも全軍を動員していなかったが、どちらも「部分的」動員策はかなり進んでおり、ロシアの場合、これには明らかにドイツと国境を接するポーランドの地域も含まれていた。

フランスも動員しなかったが、モルトケが指摘したように、ドイツ軍情報機関の報告によれば、フランスはすでに辺境でいくつかの事前動員措置を開始していた。（モルトケではなく）プロイセン陸軍大臣エーリヒ・フォン・ファルケンハインの命令を受けて、ドイツ軍は28日火曜日、独自のいくつかの予防措置を講じ、予定されていた演習を中止し、穀物を購入し、鉄道警備を強化して軍隊を駐屯地に留まらせた。

これは動員準備とはとても言えず、ましてや動員ではなかった。したがって、列強が戦争準備を加速させない限り、戦争を回避できる可能性はまだわずかに残っていたが、モルトケが示唆したように、それには外交上の奇跡が必要となっただろう。動員スケジュールの微妙な変化にこれ以上の混乱が生じれば、致命的となる可能性があった。

　（モルトケの）覚書を読んだ後、ベートマンはモルトケとファルケンハインをヴィルヘルム通りに呼び出した。この29日水曜日午前の会見の記録はないが、困難があったようだ。 28日火曜日に予防措置を命令したファルケンハインは、ドイツの場合はさらに深刻であるが、ロシアの戦争準備期間に似た段階であるKriegsgefahrzustand、つまり「差し迫った戦争の危険」を宣言することで、事態を次のレベルに進めたいと考えていた。ただしドイツの場合はさらに問題があり、命令に反することでもない限り、わずか2日後には自動的に総動員が行われることになっていた。

ベートマンは、カイザーの「ベオグラード停止‘Halt in Belgrade’」計画がまだ機能するかもしれないことを期待して、（Kriegsgefahrzustandの宣言を）拒否した。彼はモルトケの支持を受けてはいたが、ファルケンハインはモルトケが「鉄道の重要な要所に軍事的保護を与える以上のことはしないだろう」と不満を漏らした。’16

p268
　それでも、モルトケはベートマンの逡巡について独自の懸念を抱いていた。ドイツの最新の動員計画は、1906年に遡り、前任の参謀総長であるアルフレッド・フォン・シュリーフェン伯爵の計画から大幅に修正されたもので、ドイツ軍が6～7週間以内に西部戦線で大勝利を収めることを要求されていた†*。ベルリンに対する予想されるロシアの攻撃をかわすためにモルトケに彼らを駆り立てるのに十分な時間を与えるためである。フランスとロシアが日を追うごとに動員（または事前動員）を行っており、モルトケのスケジュールは脅かされていた。したがって、フランスとロシアの意図を直ちに明らかにすることが不可欠であると彼はベートマンに語った]。.17

　首相も（モルトケの強硬な意見に）同意した。水曜日の午後0時50分、ベートマンはパリ（シェ―ン）とサンクトペテルブルクの大使（プルタレス）に電報を送った。

駐フランス大使シェーン男爵は、ベートマンから、フランスの予備動員準備に応じて、ドイツはKriegsgefahr（「Kriegsgefahrzustand」ではなく）を宣言しなければならないことをフランス政府に通知するよう指示されたが、シェーン男爵は、それは動員には至らない、と主張しようとした。

さらに不気味なことに、プルタレスは「ロシアの動員措置がさらに進展すれば我々も動員せざるを得なくなり、そうなるとヨーロッパ戦争はほとんど防ぐことができないということをサゾノフに非常に真剣に印象づけてほしい」と、（ベートマンから）頼まれていた。’19

p269
　ベートマンはまたもや（p230）想像し得る限り最も逆効果な政策に失敗してしまった。 28日火曜日にウィーンで真剣に調停を行うというカイザーの指示に従わなかったため、オーストリアとロシアを崖から引き戻す、おそらく最後の現実的なチャンスを失った。

ベートマンはまた、Kriegsgefahrzustandを宣言を拒否する（代わりにKriegsgefahrを宣言）ことでペテルブルクでの彼の職務に正当性を与えることができず、それがサゾノフとフランス人を恐怖に陥れた可能性がある。

ベートマン首相は静かに戦争の準備をする代わりに、報復的な動員措置を講じられるような二つの不器用な脅しを発した。――そして、ベートマンはロシアに対する脅しの中で、ドイツの動員は「欧州戦争」につながると明言した。そうすることで、彼は、28日火曜日の夜には全力を注いでいた‘Halt in Belgrade’構想を損なうことになった。

フランスとロシアは、特にロンドンで穏やかに話していたにもかかわらず、戦争への勢いを強め続けた。ドイツ首脳は好戦的な意図を大声で宣言していたが、戦闘の準備はほとんどしていなかった。

　一方、オーストリアはドイツにわざわざ知らせることなく、別の fait accompli既成事実を提示していた。 29日水曜日の午後、プルタレスが、ベートマンのベールに包まれた脅迫を脅迫に聞こえないようにサゾノフに発する方法を思案している間に、オーストリア軍はベオグラードへの砲撃を開始した。

この攻撃はほとんどが象徴的なもので、実際の被害はほとんどなかった。それはすぐに弱まり、その後地上攻撃の兆候は見られなかった。それでも、オーストリアがセルビアとの調停に応じるかもしれない、あるいはドイツが調停を強要するだろうという期待は裏切られた。

p270
29日水曜日の夕方までに、ベートマンの矛盾した政策はサンクトペテルブルクで悪しき実を結んだ。

　午前11時頃、プルタレスはサゾノフに対し、ベルリンがカイザーの「ニッキー」電報で約束した通り、オーストリアの抑制（to rein)に取り組んでいることで、彼を安心させるよう呼びかけた。とはいえ（ベートマンからのより明確な指示がなかったので）彼は、ドイツが同盟国（オーストリア）をどのように抑制していたのかを正確に説明することはできなかった。

プルタレス大使はまた、ロシア側がオーストリアに対して「時期尚早な動員」を行って事態を困難にしないように要請した（どうやらサゾノフは、2８日火曜日に発令されたオーストリアに対する（ロシアの）「部分動員」についてまだプルタレスに知らせていなかったらしい）。

サゾノフは、オーストリアは自国の動員措置を中止すべきである、と答えた。彼はプルタレスに、（オーストリアは）少なくとも8個軍団が動員されていると語った（これは真実だったが、コンラッド参謀総長の主張により、8個軍団すべてが、ロシアに対してではなく、セルビアに対して動員されていたことも事実だった）。

その後、サゾノフは顧問らを呼んで、ドイツ側が誠実なのか、それとも単に遅らせた戦術を使っていたのかについて話し合った。回答は、サゾノフがオーストリアによるベオグラード砲撃のことを知った29日午後5時ごろに提示された[20]。

29日午後6時、プルタレスはベートマンのベールに包まれた警告を携えて戻ってきたが、それは、その朝の（ベートマンの）発言とは全く真逆の内容だった（ただしプルタレス大使はサゾノフに対し、「それは脅迫ではなく、友好的な意見だ」と勢いよく主張した）。.21

　ロシア外相サゾノフへの影響は衝撃的だった。オーストリアがセルビアの首都への砲撃を開始したと聞いた直後に、ロシアが軍事準備を続ければ、ドイツは動員を「余儀なくされる」と言われると、ロシア外相サゾノフは「『オーストリアの非妥協の本当の原因については、私はもはや何の疑いも持っていない』と鋭く答えた。これを聞いて、プルタレス伯爵は席から飛び上がり、『サゾノフ大臣、この有害な主張に対して全力で抗議します。』と激しく叫んだ。」

サゾノフは「ドイツには自分の言ったことの誤りを証明する機会がまだあると素っ気なく答えた」とシリングは記録しており、その後二人は「冷静に」別れた[22　Schilling, 48– 49　origin　ｐ553.]。

プルタレスとサゾノフの間で緊張が高まる一週間の中で、これは彼らにとってこれまでで最も悲惨な出会いとなった。

＜ツァーリへのウィリー・ニッキー電報の影響＞
　サンクトペテルブルクでのその後の数時間は事件でいっぱいだった。午後8時少し前、ツァーリはサゾノフに電話をかけて、読み終えたばかりだった前夜のカイザーからの電報（Kaiser to Tsar, July 29, 1:15 am）を伝えた。次にサゾノフは、ベートマンの警告と、その結果として出てきたばかりのドイツ大使プルタレスとの不愉快な対立について主権者に伝えた。23

ツァーリは矛盾しているように見えて当惑し、29日午後8時20分にウィリーに緊急電報を送り、説明を求めた。

p271
（NIcky→Willy　PM8:20発信　8:42着信)あなたの友好的な電報に感謝します。一方、今日あなたの大使プルタレスが私の大臣サゾノフに提示した公式メッセージは、非常に異なる口調で伝えられました。 相違点を説明してください！ オーストリア・セルビア問題をハーグ会議に委ねるのは正しいだろう。自分の知恵と友情を信じてください。あなたの愛するニッキーより。24
Tsar Nicholas and Kaiser Wilhelm telegram
How Nicky and Willy Could Have Prevented World War I
War Comes Dressed in the Spirit of Friendship
World War I, The "Willy-Nicky" Telegrams

シリングの日記によると、まるで自分自身の指示の「発散」においてドイツ人を上回ろうとしているかのように、ツァーリは、この平和嘆願を作成する直前に、ツァーリは「我々の動員の問題について陸軍大臣および参謀総長と直ちに話し合う許可をS・D・サゾノフに与えた」。

サゾノフはすぐにスホムリノフとヤヌシケビッチをChorister’s Bridge（ロシア政庁）に呼び出した。 3人は同省のヤヌシケビッチのオフィスで会合し、支援スタッフは緊急の命令を遂行するために隣の部屋で待機していた。

その日の初めにツァーリは部分動員命令と全体動員命令の両方に署名した(origin p545　それは、ツァーリの意志がまだ定かではないことを意味していた)が、どちらもまだ発動されていなかった。ヤヌシケヴィッチは両方の命令を一日中ポケットに入れて持ち歩いていたが、ツァーリの躊躇はさておき、総動員は避けられないと個人的に確信していた。

実際、ヤヌシケヴィッチは、英国とフランス両国の参加が保証されている「連合国との戦争」の「variant 4」に基づいて、ロシアのコーカサス軍を動員するようティフリス司令部に電報まで送っていた。「トルコは当初は参加しない。」ことになっていた。25

　サゾノフとスホムリノフは同じように物事を見ていた。 3人は『あらゆる点から状況を検討』したが、議論は長くは続かなかった。午後9時過ぎ、サゾノフは、ニコライ2世がカイザーに同盟国オーストリアをハーグでの国際仲裁に付託するよう要請してから1時間も経たないうちにニコライ2世に電話をし、オーストリア・ハンガリー帝国とドイツの両国に対する総動員を命令する許可を主権者に求めた（ヤヌシュケヴィッチが指定したvariant 4）（p256）。

p272
ツァーリはすぐに同意した（節操のないやっちゃ！）。シリングによれば、彼の決定はすぐにChorister’s Bridgeの全員に伝えられ、「熱狂的に受け取られた」26。

陸軍動員部門長のドブロロルスキー将軍は、運命の命令を出すためにサンクトペテルブルクの中央電信局に向かった。ドブロロルスキーの回想によれば、交換手たちは「私の前で、サンクトペテルブルクと帝国の主要中心部を結ぶすべての電線で同時に電報を送るために、数台のタイプライターで電報をクリックし始めた」という。。。 . 動員電報の送信には特別な指示が存在した。送信中は他のいかなる種類の電文も送信できません。」27

　しかし、動員命令が入力されている間にも、ペテルゴフでは劇的な場面が起こっていた。午後9時40分、ツァーリからの最初の電報（Tsar to Kaiser, July 29, 1:00 A.M.）に返信して、（カイザーがPM6時30分に打電した）2回目の「ウィリー・ニッキー」電報が（3時間おくれて）ペテルゴフに配信されてきた。（1回目はKaiser to Tsar, July 29, 1:15 am　それはオーストリア・セルビア問題をハーグ会議に委ねることが記されていた、ＰＭ8時20分発の2度目のツァーリ発電報への返信ではなかった。カイザーが午後6時30分にポツダムからこの電報を打ったとき（Kaiser to Tsar, July 29, 6:30 P.M.）、彼はまだこの電報（Tsar to Kaiser, July 29, 8:20 P.M.）を受け取っていなかった）。

当然のことながら、ツァーリはウィリーが、（ツァーリが）前夜に送った電報ではなく、ほんの1時間前に送った電報に返信しているのだと思った。カイザーは（Kaiser to Tsar, July 29, 6:30 P.Mの電報で）ニコライ2世に「私もあなたの願いを共有します。平和が維持されるべきだ」と伝えた。

p273
カイザーは、オーストリアがセルビアに対して敵対行為を開始したことを「卑劣な戦争」と表現したツァーリの説明（Tsar to Kaiser, July 29, 1:00 am）には異議を唱えたが、「ロシア政府とウィーンとの間の直接の理解a direct understanding between your government and Vienna（Kaiser to Tsar, July 29, 6:30 P.M）」の必要性には同意し、友情を理由にツァーリの訴えを「容易に受け入れた」。彼は仲介者として行動するとのことだった（ハーグについての言及はなかったが、そのことがツァーリに、彼からカイザーへの（PM8時20分発の）二度目のメッセージがまだ受け取られていないことを知らせるはずだった）。

しかし、カイザーは、ロシアが軍事準備を続ければ、仲介者としての彼の役割は「危険にさらされ」、それが容易に「我々双方が避けたい災難を引き起こす」可能性があると述べた（Kaiser to Tsar, July 29, 6:30 P.M）。 28

　ロシアの君主は感動した（そして混乱もした。1時間前に送られた緊急電報にカイザーが数分以内に返答したと本気で思っていたのだ）。ツァーリは宮廷大臣を呼び、「極度の動揺の中で」側近に対し、「平和を守るためにあらゆる手段を講じなければならない。私はこの恐ろしい虐殺の責任は負わないぞ」」と語った。

それからツァーリはChorister’s Bridgeに電話し、スホムリノフを電話に出すよう、頼んだ。

スホムリノフは神経質な君主がロシアの総動員活動を台無しにしてしまうのではないかと恐れ、彼を思いとどまらせようとした。「動員は、馬車のように、意のままに逮捕して再び動き出すことができる機械的なプロセスではない」と陸軍大臣は主張した。続いてツァーリはヤヌシケヴィッチを尋ねると、彼も同じ意見を述べた。皇帝ニコライ 2 世は、力の限りを尽くして、軍に対する主権的統制を主張し、総動員令の取り消しを要求した。29

　電信局に戻ったドブロロルスキーは、帝国全土に総動員命令のタイプされたコピーが送信されるのをまだ待っていたが、電話に呼び出された。ヤヌシケヴィッチは電話に出て、ツァーリの気が変わったので、命令を中止するよう伝えた。最後の可能な瞬間、7 月 29 日水曜日の午後 10 時頃、欧州戦争は回避されたのだった。30

当面は、であったが。（夢遊病者たち　p763）

＜カイザー、呼ぶ＞
ベルリンでは、ベスマンの神経は張り裂けそうになっていた。水曜日の午後、彼はモルトケ参謀総長、ファルケンハイン陸軍大臣、ティルピッツ海軍長官とともにポツダムに呼び出された（訳注；Fischer, Fritz Germany’s Aims in the First World War p76 によれば、彼らは時間差でカイザーから呼び出されている）。誰もが、首相が責任を負っているという一つのことに同意したようだった。カイザーは「ベートマンの無能さについて遠慮なく表明した」とティルピッツは回想している。外交的解決には時間がなくなりつつあった。もしそのような解決策が不可能であれば、ドイツ陸軍と海軍は戦争の準備をする時間がなくなっていたことになる。

p274
それでも、首相の政策がこれまでのところどれほど無能であったとしても、軍首脳らは（ファルケンハインを除く）「ベオグラード停止 ‘Halt in Belgrade’ 」構想が続く限り、Kriegsgefahrzustandを宣言するには時期尚早であることに同意した。

英国をヨーロッパの戦争から遠ざけたい一心で、首相は「英国を中立に保つために、英国との合意のためにドイツ艦隊を犠牲にするべきだと提案した。」ティルピッツは驚かなかったが、恐怖を感じた - ベートマンは過去に、英国を協商から切り離すためにドイツ海軍全体を英国海軍本部に引き渡すという考えを主張したことがあったのだ。31

p275
ティルピッツを安心させたのは、愛する外洋海軍を犠牲にしたくない皇帝が拒否したことだった。ベートマンは再び失敗した。 10分で夕食をむしゃむしゃ食べた後、彼は深刻なファンク状態で新宮殿を去り、目撃者にはまるで「完全に倒れた」ように見えた。’32

　午後7時から8時の間にヴィルヘルム通りに到着した首相は、新たな一連の衝撃にさらされた。プルタレスからの電報は午後３時頃に解読され、ロシアの部分的動員を報告していた。ほんの数分後、ペテルブルク駐在武官チェリウスから電報が届き、オーストリアがセルビアに宣戦布告して以来、「ツァーリの側近の間では全面戦争はほぼ避けられないとみなされていた」と述べていた。’33

午後4時頃、ドイツ軍参謀本部はヴィルヘルム通りにロシアの軍事準備に関する威圧的な長文の報告書を渡し、その内容としては「多個連隊に至るまでの全軍の国境付近への兵力の集中、予備役の召還と鉄道車両の準備」を挙げた。 34

これには、ベルギーが3つの階級の予備兵を召集し、辺境の防衛を強化し、要塞を武装し、フランス軍またはドイツ軍が侵攻してきた場合に備えて橋の破壊を準備したという不穏なニュースが伴った。.35

一方、リヒノフスキーからの 2 通の電報は、曖昧ではあるが、英国の意図を不穏な描写で示した。最初の記事では、イギリスの外交官たちは、イタリアがオーストリアやドイツと一緒に戦うことは決してないと確信していると報告した。.36（ Lichnowsky to Jagow, 29 July 1914 (2:10 PM, arrived Berlin 4:34 PM), no. 355 in DD, vol. 2. ）

2番目では、リヒノフスキーは「ここには確固たる信念がある・・・セルビア問題の議論に入るオーストリア側の準備が整わなければ、世界大戦は避けられないであろう。」という印象を伝えた。37 （Lichnowsky to Jagow, 29 July 1914 (2:08 PM, arrived Berlin 5:07 PM), no. 357 in DD, vol. 2.）

　この新たな悪い知らせは、ベートマンにさらなるプレッシャーを与えた。ロシアにおける「部分的な動員」でさえ、ドイツの動員スケジュールに重大な影響を及ぼしたため、首相はヤゴフ外相とともに軍首脳らを招集し、ヴィルヘルム通りでの緊急会議を開かなければならなかった。戦争の可能性がかつてないほど高まっており、英国の中立性の問題が最重要課題となっていた。

p276
ベートマンは、紛争を開始する責任をロシアに負わせることが不可欠だと主張した。サゾノフは、プルタレスと対峙したとき、ロシアの動員は「戦争を意味するものではない」と主張していたから。

ロシア人サゾノフの主張の真実が何であれ、ファルケンハインを例に挙げると、彼はサゾノフの主張は「真っ赤な嘘」だと考えていたが、ベートマンは英国人の意見を参考にして、サゾノフの主張を検証したいと考えていた。

ベートマンは、「もしロシアがオーストリアを攻撃して全面戦争を引き起こし、この大惨事（Kladderadatsch）全体の罪をオーストリアに負わせたら、イギリスはロシアの側につくことはできないだろう」と主張した。首相は、戦争を始めたのはドイツではなくロシアであることをロンドンに明確にするため、まだKriegsgefahrzustandを宣言しないようにと促した。モルトケとファルケンハインはしぶしぶ待つことに同意した。38

　ベートマンはイギリスの中立という希望に大きな賭けをしていた。長年にわたりイギリスとの友好関係を外交政策の基礎にしてきたベートマンは、イギリスの世論に偏見を与えないよう軍首脳らに戦争の準備を控えるよう伝えたばかりで、全力を尽くす用意ができていた。

リヒノフスキーの午後の至急報の憂慮すべき口調にもかかわらず、現地では楽観視できる根拠がいくつかあった。

ポツダムでは、首相はその数日前に、ジョージ5世が皇帝の弟であるハインリヒ王子に対して、「我々はこのような事態を避けるために全力を尽くし、中立を保つ」という心強い宣言をしたことを知っていた。

王子は水曜日の午後にポツダムに到着した。彼は皇帝に対し、この声明は「真剣になされた」ものであり、戦争開始時にはイングランドはほぼ確実に中立であり、今後の態度はフランスの運命次第であると断言した[39]。

それは主権者の受け売りの感情にすぎなかったが、ベートマンがドイツ艦隊とイギリスの中立を交換することを、カイザーが許可することを拒否したため、イギリス王の誓いが宰相のすべてだった。

p277
＜ベートマン・ホルウェグと駐独・英国大使エドワード・ゴシェン卿との29日深夜の会話＞
　このか細い希望の葦にしがみついて、ベートマンは危険なlimbに乗り出した。 29日水曜日の夜10時半、首相は英国大使のエドワード・ゴシェン卿を呼んだ。

ベートマンは、軍司令官たちの前で主権者から懲罰を受け、その後、気が滅入るほどの悪い知らせを受け、疲れ果てた一日を過ごした後、完全に健全な精神ではなかったかもしれない。そのせいで彼は再びファルケンハインとモルトケの不承認の視線に直面せざるを得なくなった。

それでも、ベートマンの会話の冒頭は賢明だった。首相はゴシェンに対し、「平和を維持する努力を続けている」ものの、もし「ロシアによるオーストリア攻撃」のためにドイツが動員を余儀なくされれば、「非常に遺憾ながら、ヨーロッパの大火災が避けられなくなるかもしれない」と語った。

この場合、ベートマンは「英国が中立を保つことを望んでいた。」　そこで発言を終えていれば、ゴシェンにはほとんど反対の余地がなかったであろう。

結局のところ、もしcasus foederis がオーストリアに対するロシアからの攻撃だったとしたら、英国は中立を維持しない（つまりドイツに宣戦布告する）ことをどう正当化できたのであろうか？（その場合には、英国は中立を維持したことだろう）。

これは確かに、ベートマンがたった今ファルケンハインとモルトケに提案した論理、つまり戦争開始の責任をロシアに押し付けるために、ドイツはロシアの動員に対抗するような動員は控えるという論理が正しいということになるだろう。

　しかし、ベートマンはそこで止まらなかった。真の全面的中立の誓約を勝ち取るためには、イギリスに何か具体的なものを提供する必要があると考え、（カイザーの反対に遭って）望んでいたドイツ艦隊を英国に与えることはできなかったが、首相は内部情報を漏らし始めた。イギリスの中立と引き換えに、彼はゴシェンに対し、「戦争に勝利した場合、ドイツはフランスを犠牲にして領土を獲得しないことを目指す」と約束した。

p278
この誓約自体は無害であったが、その定式化そのものがベートマンをしてドイツの意図に関する幅広い疑問を抱かせることとなった。

フランスではないとしたら、その植民地はどうなるのか？ゴッシェンは尋ねた。首相は愚かなことに、植民地には適用されないことを認めた。

オランダは？ベートマンは「ドイツは、ドイツの敵対国がオランダを尊重する限り、オランダの中立性と誠実性を尊重することを英国政府に保証する用意がある。」と言った。

ここでゴシェンは本題に至った。ドイツは、1839年の国家創設（主にイギリスの援助下）以来、あらゆる列強によって保証されてきたベルギーの中立を尊重するだろうか？「ベルギーに関しては」とベートマンは思わず口走ったが、「フランスの行動によってドイツがどのような作戦を強いられるかは分からないが、ベルギーがドイツに敵対しない限り、ベルギーの統一性（主権ではなく）は、戦争終結後も保たれるだろうということは言える」。40　

　ここに外交上初の失敗があった。夜間のストレスで、ベートマンは大盤振る舞いをしてしまった。

ドイツの平和的意図についてロンドンを安心させるのではなく、中立を目指す彼の無謀な努力は、戦争願望シグナルを送ってしまった。ベートマンは自ら危険な尋問を開始し、ドイツがフランスの植民地に対して（フランス自身に対してではないにしても）帝国主義的な野心を持っていることを暗黙のうちに認めたことになったのだ。

何よりも悪いことには、オランダとベルギーに関する質問への答えの中で、ドイツの戦争計画の最も敏感な秘密を知らず知らずのうちに裏切ってしまったことだった。それはつまりベルギーの通過行軍についてである。

彼はオランダの中立性を尊重すると約束したが、なぜそれ以外の、ベルギーの中立性は尊重しないと約束したのだろうか？実際、英国外務省上級書記官エア・クロウ卿はゴシェン氏の報告に注目し、「ドイツはベルギーの中立を侵害する意図を事実上認めている」と述べた。

クロウが辛辣に述べたように、これらの「驚くべき提案」について必要な唯一のコメントは、そうした提案は、それを作った政治家に対する不信感の反映である。」ということだった。41

p279
アスキス首相はこの提案を知ったとき、ベートマンに同情しそうになり、「ドイツ外交には非常に粗野でほとんど子供っぽいところがある」と指摘した[42]。

　ベートマンを弁護すると、彼は間違いを犯した直後に自分の間違いに気づいたようだ。ゴシェンとの謁見が終わってからわずか数分後、首相はリヒノフスキーから３通目の電報を手渡され、そこには、英国の中立という彼の希望がいかに絶望的であったかが示されていた（Fischer, Fritz Germany’s Aims in the First World War p78）。

＜リヒノスキーからの衝撃的電報；英国→ドイツ　29日深夜＞
調停で数日にわたる混乱したフェイントを経て、グレイ外相はついに勇気を振り絞ってドイツに本当の警告を発したのだった。

グレイは、ドイツを含む４カ国会議がオーストリアとセルビアの間の仲介を行うことを期待しつつも、それが実現しなかった場合の英国の政策がどうなるかについて初めて示唆した。もしセルビアをめぐるオーストリアとロシアの武力衝突がフランスとドイツを欧州戦争に引き込んだ場合、グレイは29日水曜日の夕方6時ごろリヒノフスキーに、「英国政府は迅速な決断を迫られるだろう。この場合、脇に立って待っているだけではだめだ。」と語った。 43 （Lichnowsky to Jagow, 29 July 1914 (6:39 PM, arrived Berlin 9:12 PM), no. 368 in DD, vol. 2.）

したがって、ジョージ王の漠然とした安心感は空虚だった。結局イギリスは中立を維持できなったことだろう。

　リヒノフスキーの最新の電報はベートマンに壊滅的な打撃を与えた。しかしそれは、彼が政策の根拠にしてきた希望的観測を放棄せざるを得なくなったという点で、有益でもあった。

ただし、グレイは（ベートマンの）この思い込みを阻止するために7月29日以前にはほとんど何もしていなかったことは言っておかねばなるまい。 ジョージ・ブキャナン卿は、早くも7月24日金曜日の時点で、外務大臣グレイに対し、ベルリンとウィーンで「戦争が本格化すれば、イギリスが中立を保つのは困難になるだろう」と明確に声明を出すよう促していたのだから。44

もしグレイが週末に、あるいは7月27日月曜日までにそうしていれば、ベートマンはイギリスの中立について何の幻想も抱かなかったであろう。 （Preferences, Constraints, and Choices in July 1914　p176）

そしてベートマンはオーストリアのベルヒトルト外相に対し、28日火曜日にセルビアに宣戦布告することに警告を発するか、あるいは少なくともカイザーのより本物の「ベオグラード停止 ‘Halt in Belgrade’ 」案を編集せずに伝え、その下でオーストリアはセルビアの返答に基づいて交渉することになったかもしれない。

p280
もしグレイが29日水曜の朝遅くでも（ベートマンがゴシェンとの運命の午後10時半の出会いをする前に間に合うように）ベールに包まれた脅迫を発していれば、首相は、中立を目指す彼の崇高なまでに愚かな努力で皆を当惑させることはなかったであろう。

そうではなく、グレイはチャーチルが（明らかにグレイの知らないところで）対ドイツ戦争の準備を進めていたときや、英国の不承認を尻目にロシアが広範な戦争準備を開始したときでさえ、一貫して偽りの無関心の姿勢を維持していた。グレイはイギリスの意図についてドイツを蚊帳の外へおくことで、ベートマンの幻想を煽り、オーストリアの無謀な行動を促すことになった。

　もちろん、エドワード・グレイ卿は、彼自身のつらいジレンマに直面していた。 チャーチルの大胆な準備機動は、艦隊を動かすことが first lord of the Admiralty としての彼の特権であり、必ずしも政策を意味するものではないという彼の根拠に基づいて、チャーチルが内閣としてそれを実行しなかったからのみ可能なのであった。

国王陛下の外務大臣として、グレイのあらゆる発言は本質的には政策の宣言であり、それが彼が発言に細心の注意を払った理由である。

内閣は深く分裂しており、アスキス、グレイ、チャーチルといったフランスびいきのリベラル帝国主義者の薄い層が外交政策を運営していた一方で、内政担当官の大半は外国とのあらゆる絡み、特にフランスとロシアとの絡みに疑念を抱いていた「小英国主義者（自由党）」だった。

水曜日の初めに開催された閣議では、グレイとアスキスが「明らかに非介入主義者の多数派に直面している」ことを知っていたため、グレイはドイツに対してあえて強く発言しなかった（origin　ｐ417）。45

チャーチル自身は、彼自身の無許可の策動にもかかわらず、グレイがドイツに真の最後通告（≒絶対的な中立宣言）を発していれば、自由党内閣は「解散」していただろうと信じていた。46

p281
逆に、フランスを窮地に陥れるような（小英国主義者的な）明確な中立宣言は、（チャーチルをはじめとする保守党の）リベラル帝国介入主義者の大規模な辞任を促したであろう。

したがって、内閣のメルトダウンを恐れて、最終的に勇気を振り絞ってリヒノフスキーに遅ればせながらの警告を発するまでは（そのときも閣僚の反対を刺激しないように十分に弱めていたが）、特定の政策を行わないというのがグレイの方針だった。エドワード・グレイ卿は事実上、英国人自身の政策上のジレンマの角にベートマンを突き刺したのだ。

　急成長する三国協商による外交的、そして今や軍事的包囲に直面して、ベートマンはついに、もう数日（数週間ではないにしても）早くやるべきだったことを実行した。すなわち、ウィーンのベルヒトルトに電報を送り、ウィーンの内閣が、留保も条件もなしに、セルビアとの四大国の調停を受け入れるよう「緊急かつ断固として」要求した。

もしドイツとオーストリアがグレイが当初提示した「名誉ある条件」に基づいて交渉しなかったら、ドイツとオーストリアは「英国がドイツとオーストリアに敵対し、イタリアとルーマニアはどう見てもドイツとオーストリアに味方しないという大火災に直面することになり、ドイツとオーストリア対４大国になります。※」（Bethmann to Tschirschky, passing on Lichnowsky’s 6:39 PM telegram with commentary, 30 July 1914 (2:55 AM), no. 395 in DD, vol. 2.）　（※ベートマンがイギリス、フランス、ロシア (およびセルビア) に続く 4 番目の「大国」としてイタリアまたはルーマニアを意味したのかは不明である。しかし、基本的な点は十分に明らかだった。中央同盟国は数と武器で圧倒されるだろうということだ。）

30日木曜日の午前 2 時 55 分、ベートマンは以上の歴史的な電報をウィーンに送信した。Fischer, Fritz Germany’s Aims in the First World War p78、80　47

5分後、彼は駐墺ドイツ大使チルシキーに別電報を送り、オーストリアがロシアとの直接交渉を再開するよう要求したが、その際に、ドイツは「われわれには同盟国としての義務を果たす用意があるが、われわれの助言を無視して軽薄にウィーンがわれわれを世界の大火に引き込むことを許すことは拒否しなければならない。イタリアの問題でも、ウィーンは我々のアドバイスを無視しているようだ。すぐにベルヒトルト伯爵に非常に強調して真剣に話してください。」と強調した。48

p282
こうしてベートマンは1914年7月29日から30日の夜、ついに3週間前に愚かにもオーストリアに差し出した白紙小切手を取り消した。(ドイツはオーストリアと一心同体だったが、今後はグレイ提案に乗るよう、オーストリアに圧力をかけることとなった。もっとも、その後のロシアの動員報告を聞いて、ベートマンは再度オーストリアと一心同体となるのだが）

　それは遅すぎた。真夜中、サゾノフはプルタレス駐露ドイツ大使を呼び、Chorister’s Bridgeでの緊急謁見を求めた。ロシア外相サゾノフにとってはやっかいな瞬間だった。

ほんの3時間前（29日ＰＭ10時）、サゾノフ、スホムリノフ、ヤヌシケビッチはツァーリに総動員を命じるよう説得していたが、恐ろしいことにツァーリはその後考えを変えた（ｐ273）。明らかに、サゾノフはこのことについてプルタレスに何も知らせることができなかった。

しかし、サゾノフはドイツ軍の警戒を解くために何かを与える必要があっただろう。サゾノフはゲーム感覚で、ドイツ軍がウィーンでどのように調停を行うかについてあらゆる種類のアイデアを提供したが、ロシア自身の軍事準備についての議論に引き込まれることは拒否した。

プルタレスは、「ロシアが動員に向けて運命の一歩を踏み出した今」、ドイツが同盟国オーストリアに圧力をかけるのは「不可能ではないにしても、困難」であると反対した。サゾノフは話題をセルビアに戻したが、プルタレスは話題を「ヨーロッパ全体の大火の危険性」に戻しただけだった。

セルビアに関してはどうにもならないことを悟ったサゾノフは、28日水曜日に受け取ったドイツ首相とカイザー両者からの電報の「矛盾」についてプルタレスに突きつけた。前者は戦争の脅威であり、後者はウィーンでの調停を約束したものであった。

プルタレスは答えを用意していた。たとえすべての列強が動員をしたとしても、平和のために努力するのは依然としてカイザーの特権である、と彼は主張した（土壇場での君主権の利用）。

ベートマンの電報に含まれていたのは、ドイツの同盟義務についての「友好的な警告」だけだった。ロシアがオーストリアに対して動員した場合、ドイツは同盟国に代わってロシアに対して動員することは条約上義務付けられている。これを再び聞いて、サゾノフは激怒した。

30日木曜日午前1時30分直前、ロシア外務大臣はプルタレスに対し、「（ロシアの）動員命令を覆すことはもはや不可能」であり、「責任はオーストリアの動員にある」と単刀直入に語った。.’49

　驚くべき偶然に、ペテルゴフ宮殿で、ツァーリはほぼ同じ時期に、ほぼ同じことを告白していた。午後9時40分に配信されたカイザーからの電報（実際には、ＡＭ1時のツァーリからの電報への返事）は、ツァーリを非常に動揺させ、彼は総動員を中止とした。ニコライ二世は、この電報を、ドイツの意図の明確化を求める彼の緊急の午後8時30分の嘆願（あなたの大使が私の大臣に今日提示した公式メッセージは、非常に異なるトーンで伝えられました。この乖離を説明してください! ）に応じて打電されたと信じていたのだった。

午前 1 時 20 分に返信を作成したときも、ツァーリはまだ動揺していた。ロシアの意図についてカイザーを安心させようと、ニッキーは今度はウィリーに――夜の精神的緊張で明らかに自分の立場を忘れていた――「現在発効している軍事措置措置は5日前に決定されていた‘the military measures measures which have now come into force were decided five days ago.」と語った。’50 （Tsar Nicholas and Kaiser Wilhelm telegram）

ベートマンが29日水曜日の夜の早い時間に、ロシアが何日も要求してきたとおりにオーストリア軍を統制(rein)することを決意したときでさえ、またツァーリの良心が彼に総動員を中止せざるを得なかったときでさえ、ロシアの外務大臣サゾノフと口の緩い君主は、ロシアがオーストリアとドイツに対して秘密裏に戦争準備を進めていたこと、そしてこれらの準備がすでに25日土曜日から進行していたことを白状していたのだ。

　ベートマンは、カイザーがこれを聞いたときには、自分がそれを聞こえるところにいないことを祈るばかりだった。

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