Preferences,Constraints,&Choices.

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"Halt-in-Belgrade"提案 7月24日のオーストリアの最後通牒を聞いたロシア指導者らは、これは戦争を誘発する目的であると結論づけた。翌25日、ツァーリは、セルビアに対するオーストリアの動きを阻止するため、またそれが失敗した場合にはセルビア防衛への軍事介入を促進するための準備軍事行動（動員の一歩手前）を承認した[79]。 ｐ175 グレイ外相は同日、英国による調停の可能性を模索し始め、7月26日にはフランス、ドイツ、イタリアに対し、ロンドンでの会議に大使を派遣するよう招待した。 オーストリアはそれを拒否した。ドイツも同様であり、戦争を局地化する手段として即時軍事的行動を要求し続けた。 　7月27日から28日までにカイザーは、イギリスの介入を恐れ始め、同時に、セルビアの融和的な返答の後「戦争の原因はすべて消えた」と信じていた。彼はヤーゴに対し、大国の調停が成功するまで、ウィーンに対して、ベオグラードの「一時的軍事占領」を受け入れるよう要請するよう指示した[80]。 80. German Documents, pp. 273-274. 翌日、グレイも同様の提案をした。 グレイは、ロシアがセルビアに対する軍事作戦を停止する一方、オーストリアは「オーストリアが完全に満足するまで占領地を保持する……[しかし]それ以上は進まない」よう要求した。 British Documents, No. 286, p. 182. この"Halt-in-Belgrade"提案は、オーストリアが外交的に重要な勝利を収め、ロシアの評判を損なうことなく軍事力と威信を実証できるようにすることで、拡大する危機を管理し、危機をバルカン半島に局地化することを目的としていた。 　ベートマンのオーストリアに対する自制の圧力（グレイ調停の受け入れ）は、英国の意図に対する彼の認識の変化によって誘発され、カイザーのHalt-in-Belgrade提案がオーストリアに届けられてから1日も経たないうち（29日）に行われた。 ベルヒトルトの正式な反応は遅れ、それを意図的に回避されていたが、すぐにハインリヒ・チルシキードイツ大使に対し、方針を変えるには遅すぎる、と伝えた。 戦略的にベルヒトルトは、ベオグラードの一時占領では、セルビアと南スラブ人の脅威を排除するというオーストリアの当初の目的を達成するには十分ではないと考えていた。ベルヒトルトは、ベオグラードの一時占領はセルビアに対する影響力とはなるが、その要求を和らげるべく、ウィーンに対する外交的圧迫が生まれることになるのではないか、と懸念した。 さらに、たとえロシアがオーストリアによるベオグラード占領を容認するつもりだとしても、それは「単なる見掛け倒し」だったことだろう。なぜなら、セルビア軍は無傷のままでロシアを救世主とみなすだろうし、セルビアはオーストリアにとってはるかに不利な条件下で２、３年以内に別の危機を引き起こすだろうからである。81 81. オーストリアとドイツの交渉も、同盟国イタリアとの歩調を合わせるためにどれだけ譲歩すべきかについての意見の相違により、複雑になった。Schmitt, Coming of the War, Vol. 2, pp. 217-222; Fischer, War Aims, p. 73; Albertini, Origins, Vol. 2, pp. 656-57. ウィーンはベオグラード占領のための緊急計画を持っていなかったために制約されたとも主張されている。Holsti, Crisis, Escalation, War, pp. 157, 216. See sources cited in note 68 above. 　ベルヒトルトはまた、先の宣戦布告後に方向を転換することで生じる評判や国内政治的コストについても、懸念していた。（そもそもは）セルビアに対して迅速に行動するようドイツからかなりの圧力を受けていた後、オーストリア＝ハンガリーの指導者たちは最後通告を発し、宣戦布告し、動員を開始するという政治的に難しい決断を下していた（わけであるから）。 ｐ176 これらのアクションは、一度実行されると、変更したり方向転換したりするのが非常に困難であったのだ。こうしたことはオーストリアの信頼を損ない、構築するのが非常に困難であった国内の政治的利益の連合を、弱体化させ、心理的献身を破壊したことだろう。82 82. Lebow, Between Peace and War, p. 136では、「ついに心理的なルビコンを越えたオーストリアの指導者たちは、明らかに精神的に大きな解放感を感じており、自発的に引き返そうとはしそうになかった」と主張している。 　こうしたエピソードは、危機管理を強化するための行動のタイミングの重要性を示している。 もしドイツが28日の（オーストリアのセルビアへの）宣戦布告前にオーストリアに対してこの圧力（グレイ調停の受け入れ）を開始していたならば、ウィーンが抵抗することははるかに困難になっていたことだろう。7月23日に最後通牒が言い渡される前にドイツの圧力（グレイ調停の受け入れ）がかかっていれば、オーストリアはそのまま黙認する可能性が高かっただろうし、グレイによる（中立化が困難であるという）早期の警告が、（グレイ調停を受け入れよ、という）ドイツのウィーンへの警告（の受け入れ）を引き起こすのに十分だったと信じる十分な理由がある。 アルベルティーニは次のように結論づけている。「グレイが7月23日より前に（中立化が困難であるということを）発言していれば、あるいは29日に彼が発言したように、23日以降であっても、遅くとも27日午後までに（中立化が困難であるということを）発言していれば、ドイツがオーストリアのセルビアへの宣戦布告を阻止した可能性は非常に高く、欧州戦争は少なくとも当面は回避されただろう。」83（Mc Meekin JULY1914　Count down to war p279） 　しかし、7 月 30 日の時点でも、確かに機動の余地は薄かったものの（though the margin for maneuver was admittedly thin）、戦争は回避できた可能性が考えられる。ベルヒトルトはベートマンの提案に対する返答を遅らせ続け、ベートマンは同盟国であるオーストリアに対する圧力を強めずに、和平への願いを持ち続けていたのだから[84]。 84. Lebow は、ベートマンの運命論の増大と、心理的ストレスによって引き起こされた選択肢の狭まりと制御の喪失に対する認識を強調している。Between Peace and War, pp. 136-147. これは重要なことだった。なぜなら、オーストリアからの（ドイツへの）支持を撤回させるとの明白な脅しを含んだ、より強固なドイツからの圧力が、おそらくウィーンにHalt-in-Belgrade計画を受け入れさせ、少なくとも当面は、より大規模な軍事行動を避けるのに十分となったであろうからである。 宣戦布告後の方向転換にはコストがかかるとはいえ、ロシアとセルビアと戦うことになるという見通しはさらに望ましくなかった。 さらに、ハンガリーのティサ首相は、極めて不本意ながら下した決定（宣戦布告、動員発令）を撤回する口実として、ドイツの圧力を利用した可能性があり、彼の背信的行為は、戦争遂行の成功に必要な国内の団結を損なうことになった。したがって、デイヴィッド・カイザーは、「ウィーン政府は、Halt-in-Belgrade計画の何らかの変形を受け入れるという統一された圧力に耐えることはできなかったであろう」と主張している[85]。 85　Kaiser, "Germany and the First World War," p. 471. Albertini (Origins, Vol. 2, pp. 659, 669- 673は「ベルヒトルトは[7月31日の総動員について]疑念とためらいに襲われたので、 Halt-in-Belgradeと調停を支持するベルリンからさらに強い圧力を受けていたら、実際に命令を執行しただろうかどうかは、未解決の問題のままである。」と結論づけている。 ｐ177 　しかし、ドイツ軍のウィーンに対する圧力は中程度の強度に過ぎず、さまざまなシグナルを伴い、早期に引っ込められた。カイザーの提案は宣戦布告前の7月28日早朝に提出する準備ができていたが、ベートマンはウィーンのチルシキー大使への送信を12時間遅らせ、影響を減らすために内容を大幅に歪曲した[86]。 86. カイザーはオーストリアには「約束が履行されるという保証」が必要だとだけ主張したが、首相はチルシキー・駐墺ドイツ大使に宛てた電報（第174号）の中で、一時占領の目的は「セルビア政府に要求を完全に履行させること」であると強調した。ベートマンは戦争はもはや必要ではないという（カイザーの）文言を削除していた。 また彼はチルシキー・駐墺ドイツ大使に対し、「我々がオーストリアを引き留めたいという印象を与えないよう細心の注意を払って……[我々は]オーストリアの望む目的を実現する方法を見つけなければならない……同時に世界戦争を引き起こすことなく、 そして、最終的に後者が避けられないのであれば、それを遂行しなければならない条件を改善することだ。」 と述べた。German Documents, pp. 288-289; Fischer, Germany's Aims, p. 72. チルシキーはさらに遅らせ、実際、オーストリアの好戦性を助長した可能性がある[87]。 87. チルシキー・駐墺ドイツ大使もベルリンへのオーストリアの宣戦布告の通知を遅らせた。 アルベルティーニは、チルシキー・駐墺ドイツ大使とベルヒトルトはベルリンを欺き、自制を求めるドイツの圧力をかわすために「協力していた」と結論づけている。Origins, Vol. 2, pp. 653-661. ベートマンが7月29日に方針を転換し、グレイの Halt-in-Belgrade 提案を受け入れるようウィーンに圧力をかけ始めた後も、ベルリンからのあいまいなシグナルは続いた。 ベートマンがベルヒトルトにHalt-in-Belgrade提案を検討するよう促したのと同時に、モルトケ・ドイツ参謀総長はオーストリアの参謀総長であるコンラッドに動員を進めるよう促し、これ以上遅れれば悲惨な結果になると警告していた。このためコンラッドは「実際にベルリンを統治しているのはベートマンかモルトケか？」と不満を漏らした[88]。 　ベルリンからの圧力は、和平提案を受け入れなかった場合に起こり得る深刻な結果をオーストリア指導者に印象付けるには弱すぎ、持続することはできなかった。 ベートマンは（再度）立場を逆転し、ロシアが動員を開始しようとしていること、ベルギーが戦争の準備を始めていること、オーストリアがセルビアに対して兵力を集中していることなどの新たな報道があった後、7月30日夜にHalt-in-Belgrade 提案に対するドイツの支持を、事実上撤回した[89]。 89. ベルギーの（戦争）準備がドイツのフランス侵攻を阻止し、その結果シュリーフェン計画に基づく戦争遂行全体を混乱させる可能性があった。Ulrich Trumpener, "War Premeditated? German Intelligence Operations in July 1914," Central European History, Vol. 9, No. 1 (March　1976), p. 77. オーストリア軍がセルビアに集中すると、ロシアに対する攻撃にはガリツィアの兵力が不十分になった。Albertini, Origins, Vol. 2, p. 500; Turner, "Schlieffen Plan," p. 215. p178 これらの報告は、モルトケの立場の突然の変化、軍部の不安、政治的意思決定の過程における軍の影響力の増大90、予防戦争への傾きの増大、そして「差し迫った戦争状態」の宣言に対する強い圧力につながった。91 90. 軍は 7 月 30 日まではベートマンに大きな圧力をかけなかった。See note 48, above 91　7月30日午後9時、ベートマンはウィーンに電報200号を送り、オーストリアがHalt-in-Belgrade計画を受け入れるよう要請した。 しかし、この要請には成功に必要な強制的な圧力が伴っておらず、いずれにせよ、2時間後には最初の電報を中止する別の電報（204号）が（ベートマンからオーストリアへ）送られた。Albertini (Origins, Vol. 3, pp. 21-24)はこれを軍の影響力が増大している証拠だと解釈しているが、 Trachtenberg ("Meaning of Mobilization," p. 139)は反対で、軍の圧力というよりも、ベートマンら文官自身の意思である、としている。 その結果は甚大なものだった。アルベルティーニは次のように結論づけている。「30日にベートマンがモルトケに押し切られることなく、オーストリアは英独の調停案で満足すべきだとベルヒトルトとともに主張し、その後サゾーノフの返答を待っていれば、世界平和は救われたかもしれない。」92 　ロシアの動員は、ドイツの政策の転換と危機の拡大において特に重要であった。93　（だが）注意深く検討すると、ロシアの動員計画の構造は、ロシアにとっての自国の重大な利益を脅かすことなく、事態の加速するペースを緩める機会を提供したことが明らかになっている。それにもかかわらず、この時点で戦争の可能性はすでにかなり高くなっていたのである。 93. これにより、政治的および軍事的意思決定者は、大陸戦争は避けられず、事態の制御を失ったと信じるようになった。 これらの認識は自己実現的な性格を獲得し始めた。 意思決定者は事態を成り行きに任せる姿勢が強まり、戦争を阻止する努力は、避けられない戦争への準備に取って代わられた。Joll, First World War, pp. 21, 107, 203; Lebow, Between Peace and War, pp. 134-139, 254-256. ロシアの動員 ロシア指導者らは、他国からの外交圧力とつなげて動員することで、オーストリアによるセルビアに対する全面的な軍事攻撃を阻止し、セルビアがしなければならない譲歩を制限し、戦争の際にロシアのセルビア防衛能力を向上させることを期待していた。 .94 94. ロシア指導者らはまた、動員が国内不安の拡散に役立つかもしれないことを期待していた。Fay, Origins, Vol. 2, p. 305; Hans Rogger, "Russia in 1914," Laqueur and Mosse, 1914, pp. 229-253. p179 しかし、ロシアはこれらの目標を達成するために動員する必要はなかった。 そうするように脅すだけで十分であった。 オーストリアの侵攻は8月12日まで開始できなかったため、セルビアに対するオーストリアの動員はセルビアにとって差し迫った軍事的脅威にはならなかった。また、ロシアの脅威にもならなかった。 ロシア（の動員）が遅れれば遅れるほど、セルビアに対するオーストリアの動員はさらに進み、オーストリアが東方からのロシアの攻撃に対して防衛を成功させることがより困難になり、それが最終的にオーストリアの運命を決定することになった。 L.C.F ターナーは、「オーストリア軍の大部分が対セルビア作戦に巻き込まれるまで（ロシアの）動員を遅らせることは、ロシアにとって非常に有利だった」と結論づけている95。 したがって、ロシアはバルカン半島におけるロシアの利益を損なうことなく、部分的な動員をさらに数日遅らせることができたはずである。 このような遅延は、おそらくモルトケとドイツの将軍が感じた警戒を遅らせ、ドイツの動員や準備軍事行動の必要性を排除し、したがってベートマンが、ウィーンに Halt-in-Belgrade提案を受け入れるよう圧力をかけ続けるためのより多くの時間を、与えたであろう。 ロシアの動員決定は短慮だった、とL.C.F.ターナーは書いている。なぜなら、「サゾノフとロシアの将軍たちは、オーストリアのジレンマによって彼らに与えられた計り知れない外交的、軍事的利点（動員を延ばした方がよかったこと）を理解できなかった。」からだ。96 96. Turner, Origins, p. 93; Turner, "Russian Mobilisation," pp. 258, 266; Kennedy, War Plans,p. 15. サゾノフの当初の計画では、部分動員を開始する前に、オーストリアがセルビアに侵攻するまで待つことであった。Albertini, Origins, Vol. 2, p. 538. しかし、オーストリアに対する動員が必要であるというロシア人の信念は、深刻な結果をもたらした。技術的な軍事上の理由から、オーストリアに対して部分的な動員を開始し、その後ドイツに対する動員を待つのは費用がかかったからである。部分的な動員は鉄道輸送を混乱させ、ドイツに対する組織的な総動員を何か月も遅らせることになった。ロシアは、敵対的で戦争を起こしやすいドイツに危険にさらされ、フランスを直ちに援助することができなくなっただろう97。 97. アルベルティーニは、ロシアの選択は「総動員か、まったく動員しないかのどちらか」しかなかったと結論づけている。Albertini, Origins, Vol. 2, p. 543. ロシアのダニーロフ将軍は10年後、軍は選択肢があれば、部分動員よりも動員なしの方を選んだかもしれないと書いた。 Turner, Origins, p. 92; Schilling, How the War Began, p. 117 しかし、ロシア指導者らは、スピードが重要であり、数日遅れればフランスがますます不安定な立場に置かれ、戦争は避けられなくなると認識しており98、そのためできるだけ早く行動を起こさなければならないと認識していた。 98. Trachtenberg, "Meaning of Mobilization," pp. 125-126.　この考えは、ドイツが対ロシア予防戦争を開始する機会を狙っているのではないか、というロシアの懸念によって強化された。Van Evera, "Cult of the Offensive," pp. 86-89 p180 こうしてツァーリは、ベルリンを脅かすことなくウィーンに対して毅然とした態度で臨むことができる軍事的選択肢が欠けていると確信し、またロシア軍とサゾーノフからの圧力の増大に悩まされ、オーストリア＝ハンガリーのみに対する部分的な動員ではなく、7月31日に総動員を命令することを決定した。99 これは悲劇的であった。なぜなら、ロシアの動員は戦争につながる決定的な行為であり[100]、ロシアの指導者たちはオーストリアの動員と戦争計画における技術的な硬直性から得られる外交上の利点と戦略の時間を認識できなかったためである[101]。 101. ロシアの政治指導者たちが動員の意味と結果を理解していなかったことが、危機初期の意思決定に影響を与えたが、その重要性を評価するのは難しい。 危機のかなり後半まで、ロシアのサゾノフ外務大臣は、部分動員は利用可能かつ制御可能な強制手段であると認識していたが、それがオーストリアによる総動員を誘発し、オーストリア・ドイツ同盟を発動し、ドイツによる総動員を引き起こし、したがって戦争につながるだろうとまでは、認識していなかった。 また、サゾノフは、ロシアの部分的な動員がその後の全体的な動員に重大な支障をきたすことになるとは認識していなかった。 彼の無知は、ヤヌシケヴィチが参謀長に就任してまだ5か月しか経っておらず、動員の詳細を知らなかったため、部分動員の影響についてサゾノフに警告できなかったという事実によってある程度は説明される。 ドイツがロシアに対して（動員の）リスクについて警告しなかったことにより、状況はさらに悪化した。 実際、7月27日、ヤーゴは英国と当時の駐ベルリン大使に対し、「ロシアが南部でのみ動員するなら、ドイツは動員しないだろう」と確約していたのだ。アルベルティーニは、もしサゾノフがこのことを理解していれば、彼は別の行動をとったであろうことは「疑いの余地がない」と結論づけている。彼は7月24日からの動員を強要したり、7月29日に動員を宣言したりするのではなく、動員を遅らせようとしただろうし、おそらくツァーリもそれに従っただろう。 Albertini, Origins, Vol. 2, pp. 294, 480-482 (quotation), 624; Vol. 3, p. 43; Turner, "The Russian Mobilisation," p. 260; Van Evera, "Cult of the Offensive," p. 76. そうすれば、ドイツ国内での出来事の勢いは鈍化し、政治指導者らがHalt-in-Belgrade計画を通じて危機に対する外交的解決策を見つけるための追加の時間が得られただろう。 ただし、これが大きな違いを生んだかどうかには疑問の余地がある。ロシアによる早期の部分動員がなかったならば、ドイツにオーストリアを抑制するよう促す警告をグレイが発したかどうかは不明だからだ。See Trachtenberg, "Meaning of Mobilization," for a critique of this line of argument 文献ではほとんど言及されていないが、ロシアにとって追加の機会は、次に説明するドイツの動員計画によってもたらされた。 ドイツの動員 ドイツの政治指導者と軍事指導者は、外交的および国内政治的理由から、ロシアが侵略者であると認識されることが不可欠であると強く信じていたため、最初に動員をかけない強い動機を持っていた。したがって、何らかの形でロシアに動員をさせることは、あらゆる実際的な目的において、ドイツを動員するための必要条件であった。 ｐ181 ロシアの総動員はドイツの動員の十分条件であったが、ロシアの部分動員は（ドイツの動員の）十分条件だったのだろうか？ アルベルティーニらが、ロシアによる部分動員は「総動員と同じくらい確実に戦争につながったであろう」と指摘したことは正しいかもしれないが102、因果関係は即時的かつ直接的ではなく、遅延的かつ間接的であった。ロシアの部分的な動員は、最終的にはドイツの動員につながったことだろうが、それは、ロシアのドイツに対する直接的な脅威のためではなく、ロシアのオーストリアに対する（間接的な）脅威のためであった。 実際、オーストリアに対するロシアの部分動員措置が進むにつれ、その後のロシアの総動員は遅れたであろうから、ドイツに対するロシアの脅威はいくらか軽減されたであろう103。 103. ロシアが早期に（オーストリアに対して）部分動員を行っていれば、オーストリアはセルビアに対する時期尚早の部分動員は避けることができただろう。（ロシアに対抗しなければならなくなるから、オーストリアは武力行使を控えることになる） もしロシアの指導者たちがドイツのこうした外交的・国内政治的制約を知っていて、ロシアの動員計画の硬直性がドイツに動員を遅らせるインセンティブを与えていたことを認識していれば、ロシアはオーストリアやドイツに対する強制的な圧力を弱めることなく、運命の動員を回避できただろう。（総動員であったならば、直接ドイツへの脅威となっていたのだろうが、部分動員であれば、間接的なドイツへの脅威なので、あるいはドイツは動員をしなかったかもしれない）。 　この議論は、ロシアの総動員以前には、ドイツの軍事指導者と政治指導者が、ロシアの軍事行動に慎重に反応していたという証拠によって裏付けられている。モルトケがフォン・ファルケンハイン陸軍大臣の7月29日のKriegsgefahrzustand宣言、つまり「戦争の危険の脅迫」の提案を支持することを拒否したことから分かるように、ドイツはロシアの事前動員措置に同類の反応はしなかったのである[104]。 その夜遅く、ベートマンは、ドイツはロシアとオーストリア・ハンガリーの間で戦争状態になるまで待たなければならないという理由で、ドイツの即時動員命令を拒否した[105]。「そうしなければ、国内でも英国でも世論の支持が得られないからです。」106 p182 ドイツ軍は、ロシアの軍事準備の激しさに関する新たな情報を受け取った後、7月30日正午になってやっとドイツ軍はKriegsgefahrzustandへの圧力を強め始めたが、ベートマンはこの要求を拒否した[107]。 翌日の正午にロシアが総動員されたというニュースを聞いて初めて、ベートマンはドイツの動員に同意した。108 108. この時点で、ベルリンはサンクトペテルブルクに12時間以内の期限の最後通牒を送り、すべての軍事準備を中止するよう要求した。 ロシアがこの要求を拒否した後、8月1日にドイツは宣戦布告を行った。Albertini, Origins, Vol. 2, pp. 494-503 and Vol. 3, pp. 6-18; Fischer, Germany's Aims, pp. 85-86. しかし、一旦双方が動員をすると、シュリーフェン・プランの要求により、ドイツには先制攻撃をする強い動機があった。フランス侵攻を進める前に、重要な要塞と鉄道路線のあるリエージュを占領する必要があったため、シュリーフェン計画では、動員の不可欠な部分としてドイツ軍が国境を越えてベルギーに進軍することが求められた。動員におけるわずかなリードでも大きな軍事的利益があり、わずかな遅れが壊滅的になる可能性があるという認識は、できるだけ早く行動するというさらなる軍事的インセンティブを生み出した109。 したがって、ロシアが一旦総動員に移行すると、同盟システムの構造と既存の動員計画により、ドイツの戦争決定が即座に続くことになった。戦争を回避するための政治的要件よりも、戦争に備えるという軍事的要件が優先され、大陸戦争は避けられなくなった。シュリーフェン計画にはベルギーを経由する移動が含まれていたため、その後に世界大戦が起こるのはほぼ確実であった。110 シュリーフェン・プランでは、ドイツが関与する戦争は必然的に二正面戦となり、懸案となっている特定の問題やそれが起こった政治的状況とは関係なく、イギリスが介入せざるを得なくなることは避けられなかった。 ドイツにとってのこの最悪の結果は、部分的には、過去10年間の軍事計画が政治的目的から分離されていたことに起因している。それはおそらく戦争に役立つように設計されたものであり、戦争に勝つことだけに不釣り合いな重点が置かれていることから、そもそも戦争を抑止することには反対となったのであった。111 111. 7 月危機の最終段階における政治的意思決定における技術的な軍事計画と軍事的影響力はロシアでも明らかであるが、フランスと英国ではそれほど顕著ではない。 Lieven, Ruissia and the First World llar, pp. 63, 122. Steiner, Britain and the First World War, p. 220; John V.Keiger, France aned the Originis of the First World War (New York: St. Martin's, 1983), chap. 7; Kennedy, War Plans, p. 7. p183 シュリーフェン計画は軍人のみによって構築され、軍人は文民指導者と最小限の協議のみを行い、政治的考慮ではなく技術的な軍事的考慮に基づいて作成されていた。112 例えば、ベルギー全土の掃討では、ベルギーの中立侵害がイングランドに及ぼす政治的影響は考慮されていなかった。113 113. 1912年にベルギーの中立侵害の計画を再評価するよう求めるヤーゴの要求はモルトケによって拒否され、1913年まで、政治的リスクがより少ない代替作戦計画の実現可能性に関する調査さえ行われなかった。Snyder, Ideology of the Offensive, p. 121; Ritter, Sword aind the Scepter, Vol. 2, p シュリーフェンプランの狭い軍事的方向性と、変化する政治状況に応じて政治指導者が修正することを困難にする硬直性は、動員の性質と既存の計画がどのように彼らの強圧的な外交戦略をを制約するかについての政治指導者の知識の限界によってさらに悪化した。114 114. Albertini (Originis, Vol. 2, p. 479) は、「彼らは、動員が実際に何なのか、動員が国にどんな要求を出し、それがどんな結果をもたらし、それがヨーロッパの平和をどのような危険にさらすのかについて全く知らなかった」と主張している。See also Levy, "Organizational Routines," pp. 209- 210. 明らかに危険な強圧的な外交戦略の手段となると彼らが考えた動員計画は、実際には、戦争が避けられないとみなされた場合にのみ実行される戦略として構築されたものであった。ベートマンは、イギリスを無力化（≒中立化）しようとする彼の試みがシュリーフェン・プランの要求によって打ち負かされることを知っていたら、別の行動をとったことだろう[115]。 115. Albertini, Origins, Vol. 3, p. 249.　ベートマンはリエージュ占領計画を知っていたが、ベルギーへの侵攻は動員3日目に開始しなければならないことを7月31日まで知らなかった。(Turner, Origins, p. 213). ヤーゴ、ティルピッツ、そしてカイザーはシュリーフェン計画についてはさらに知識が乏しかった。 これらおよび関連する点により、多くのアナリストは、ヨーロッパ列強の動員計画自体が世界大戦の主な原因の 1 つであると結論づけている。116 p184 しかし、それは決して重要でないわけではないが、この要因の因果関係の重要性は誇張されるべきではない。 これらの動員計画は、7月危機におけるいくつかの重要な局面における各国の戦略的選択に対する制約の全体的な構造の一部であったが、これらの軍事動員と戦争計画はずっと以前から策定されていたことを心に留めておかなければならない。 これらは、外交的連携、戦争の攻撃的な性質についての戦略的信念、政治的および軍事的指導者間の官僚的妥協、および大国のそれぞれの利益と国際政治の基本的な力学に関する政治的および文化的思い込みの産物であった117。 動員計画とそれを取り巻く混乱は明らかに7月危機の激化スパイラルの一因となったが、計画そのものが戦争の主な原因であるという推論は誤りであろう。 ＜結論＞ 私は、7月危機における各国の政治指導者は世界戦争よりも平和的解決を望んだと主張してきた。 ヨーロッパ列強の主要な意思決定者の誰も望んでいなかった、予想していなかった、あるいは意図的に追求しなかった世界大戦の勃発の主な説明は、国家当局者によって定義された相容れない利益、手に負えない戦略的ジレンマを生み出した国際権力と同盟の構造、これらの戦略的制約によって生み出された動員と戦争の特定の計画、敵対者の起こり得る行動と自らの行動の結果に関する意思決定者の重要な仮定、および行動の自由に対する国内の政治的制約にあった。 したがって、第一次世界大戦の原因は主に、危機の発生前に存在した根底にある経済、軍事、外交、政治、社会の力に見出される。これらの力は、政治家の政策の好みと、政治家が非常に難しい決定を下さなければならない戦略的および政治的制約を形成した。したがって、暗殺の時点で戦争の可能性はすでにかなり高かったのである。 p185 　しかし、戦争が起こる可能性があったと言っても、それが避けられなかったとは言えない。 7月の危機のいくつかの重要な時点で、政治指導者たちは戦争の可能性を高めるような行動をとり、重大な利益を深刻に脅かさずに危機管理のための追加の時間を稼げた可能性のある他の政策を講じることに失敗した。 イギリスが大陸紛争で中立を保つか、少なくともフランスが壊滅寸前になるまで介入しないというドイツの想定がなければ戦争は起こらなかったであろうが、当時入手可能な情報を考慮すると、その想定は完全に不合理ではなかった。 英国の同盟国も、実際グレイ自身も英国が何をするか確信が持てなかった。グレイからの事前の明確な警告があればよかったかもしれないが、彼は戦略的ジレンマと厳しい国内制約に直面していた。 オーストリアによる早期の懲罰攻撃（限定的な軍事作戦）があれば大規模な戦争は避けられたかもしれないが、二重君主制の国内構造に関連した政治的圧力と、即時行動を妨げる煩雑な動員計画によって延期された。最後通牒とその後の深刻な国際危機により、最低限の軍事的選択肢が懲罰的攻撃（限定的な軍事作戦）からより大規模な侵略へと変化し、その結果ロシア介入の可能性が高まった。 Halt-in-Belgrade計画は和平への唯一残された希望であったが、これにはベルリンからウィーンに対する強力かつおそらくは非常に強制的な圧力が必要であった。しかし、グレイの行動がドイツの期待に変化をもたらすまでは、そのような圧力がかかることはあり得なかった。 Halt-in-Belgrade計画は、ウィーンの時期尚早かつ政治的動機に基づいた宣戦布告によって損なわれ、その後方針を転換した場合、オーストリア指導者に対する評判と国内のコストが増大した。すなわち、ベルリンからウィーンへの圧力が不十分だったことによって。そして時期尚早だったロシアの動員によって。 7月29日のロシアの部分動員は、拡大する危機に対する極めて重要な行動となった。これは、ロシア指導者らが戦争は不可避であると恐れたため、また彼らが、最初には動員せずにというドイツの外交的および国内的動機や、セルビアに対するオーストリアの動員に対する即時反応を控えるというロシア軍のインセンティブを認識できなかったため、起こった。118 p186 　これらの誤算や判断の失敗の一部は回避できたかもしれないし、国内および官僚的な圧力の一部はうまく対処できたかもしれないが、これらの誤算や機会損失の因果関係を評価することは非常に困難である。 1914 年のヨーロッパは高度に相互依存した混沌としたシステムであり、小さな変化が巨大で予測不可能な影響を与える可能性があり、反事実的な命題をある程度の自信を持って検証することは不可能である。 しかし、これらの誤算と見落としの因果関係は、すでに導入されていたインセンティブと制約の構造に比べれば軽度であった、というのが私の判断である。誤算の一部は、これらのインセンティブと制約、そしてそれらを形成するのに役立った根底にある戦略的前提の産物であった。 政治指導者が7月危機に対処できるチャンスの窓は狭く、常に変化しており、大国それぞれが自国の政治力学に応じて異なる速度と異なる時期であった。これにより、主要な意思決定者の知的、外交的、政治的スキルに多大な要求が課せられた。 1914 年 7 月初めに他の人物が権力の座に就いていたら、7 月危機は違った形で終わっていた可能性は確かにある　119。 しかし、危機管理で最も成功した事例であっても、多くの誤解があり、場合によっては幸運も伴うのが特徴である。したがって、特に中央の意思決定者に対する戦略的および政治的制約がこれほどに厳しい場合には、戦争と誤解や機会損失との因果関係を推測したり、より適切な危機管理がより平和的な結果をもたらしたであろうという反事実的命題を検証したりすることには問題がある。120 さらに、たとえオーストリアがHalt-in-Belgradeの提案に同意したとしても、またそれによって平和的解決の交渉に十分な時間を稼いだとしても、 ますます強大化するロシアとの将来の戦争でドイツが勝利する能力についてのドイツの継続的な懸念と、オーストリア＝ハンガリー帝国、ロシア帝国、ドイツ帝国における国内の政治的不安定が続く可能性を考慮すれば、そうした和解が、特に今後数か月または数年以内に必然的に発生するであろう次の危機を乗り切るのに十分に安定していただろうかどうかは決して確実ではない。