p163

これらの重要な点のいくつかで行われる選択は、主要な意思決定者の好み、およびさまざまなアクションの確率とそれらのアクションの結果に関する期待に直接従うものです。

これは、オーストリアがドイツの支持に自信を持っていたことを考慮して、交渉によるセルビアの譲歩を受け入れるのではなく、セルビアを攻撃するというオーストリアの決定にも確かに当てはまった。英国の中立を前提としてオーストリアを支持するというドイツの決定に対して。セルビアがオーストリアの要求をすべて無条件で受け入れることを拒否したため。セルビアがオーストリアに潰されるのを許すのではなく、セルビアを支援するために介入するというロシアの決定に対して。しかし、これらの選択はすべて、ドイツが英国の中立を前提とするかどうかにかかっており、これが危機のあらゆる段階の拡大における決定的なつながりであった。

私は、ベートマンと他の主要なドイツの政治指導者たちは英国の中立性にかなりの自信を持っており、彼らの政策はその期待に基づいていたと主張する。

そして、7月29日に彼らの想定が打ち砕かれて初めて、彼らは政策を転換し、戦争を回避するために危機を管理しようとした。

私は、なぜドイツ人がこの誤った仮定にこれほど長い間固執してきたのかを説明し、イギリスが明確な約束をしなかった点と、存在した警告をドイツが認識できなかったことに焦点を当てる。次に、7 月危機における他の 3 つの重要な決定に戻る。①オーストリアは暗殺直後に行動を起こさなかったこと、② Halt-in Belgrade提案の失敗、③動員決定の連動。

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英国の中立に対するドイツの仮定
皇帝ヴィルヘルム 2 世とヤーゴ外務大臣は、危機の初めからイギリスはヨーロッパの紛争から距離を置くだろうと確信していた43。

ベートマンはイギリスの意図に関する不確実性を認識しており、時にはイギリスの意図の見積もりが揺らぐこともあったが、エヴィデンスの大部分は彼がイギリスの中立性に概ね自信を持っていたことを示唆している[44]。

彼は政策全体をこの前提に基づいており、グレイから不介入の正式な約束を取り付けるためにいくつかの外交的取り組みを行った。しかしドイツ指導者らは、イギリスの中立性は、ドイツがロシアの侵略に対抗して防衛戦争を戦っているというイギリスの認識次第であると信じていた[45]。

このようにベートマンは、紛争開始の責任をロシアに転嫁しようとして、ドイツがロシアより先に動員しないよう細心の注意を払った[46]。

彼は、ロシアを非難することで、政治的に必要であると考えていたドイツの社会民主党の支持も獲得できると信じていた[47]。

軍は一般に、イギリスの中立にはあまり自信を持っていなかったが、短期戦の想定を考えると、いかなる介入も対フランス戦争の結果に影響を与えるには遅すぎると確信していた（だから介入はない方がよい）[48]。

ベートマンが、たとえ最も悲観的な気分であっても、この最小限の仮定を受け入れたことに疑いの余地はない。49
49　ベートマンのカイザーに対する声明（7月23日）は、「イングランドがすぐに争いに加わることはありそうもない」と述べており、予想された（その介入の）遅れが決定打であったことを暗示している。 (Jarausch, "Illusion of Limited War," p. 62.)

彼は、「ヨーロッパのパワーバランスの維持に対するイギリスの利得は、フランスの完全な粉砕を許さないだろう」と述べ、これがイギリスの介入の基準であると想定し、ドイツが「フランスに領土の譲歩を要求しない」と約束することで、介入は避けられると確信していた。結局のところ、ドイツの主な戦争目的はオーストリアを支援し、ロシアを倒すことであった。Fischer "Miscalculation," p. 382.

したがって、文民および軍の指導者らは、もしイギリスが介入したとしても、フランスとの戦争の結果に影響を与えるにはすでに遅し、となるだろうという想定をしていた。

たとえ、ベートマンは英国の中立性自体を期待していなかったとするTrachtenberg（("Meaning of Mobilization,"134-137ページ）らが正しいとしてもそれは私の議論の本質を損なうものではないだろう。すなわち、ドイツの政治指導者と軍事指導者は、少なくとも次のことを確信していたのだ。イギリスはフランスが潰されそうになるまで介入しないだろうし、（介入したとしても）西側での戦争の結果に影響を与えるには遅すぎるだろうし、ドイツはフランスに領土併合を求めないという保証を与えることでイギリスの決定に影響を与えることができるだろう、と。

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　ドイツが英国の中立を前提としていたことの重要性は、グレイがドイツに対立するようになったという、駐英ドイツ大使リヒノフスキー王子の報告（7月25日以降）に対するベルリンの反応によっても証明されている。カイザーはこれらの警告を真っ先に真剣に受け止め（7月27日）、その日のうちにHalt-in-Belgrade提案を妥協案としてまとめ、7月29日朝にオーストリアに提出した。50

7月29日遅く、ベートマンはリヒノフスキーの電報を受け取り、そこには、フランスが関与する大陸戦争において英国は傍観することはできないという、グレイからの明白な警告が書かれていた[51]。

ベルリンでの反応は即座で、非常に明らかなものであった。フィッシャーが主張するように、ベートマンと他のドイツの政治指導者たちは、「危機の間の彼らの政策の基盤が崩壊した」ため、この電報によって「打ち砕かれた」。

その夜、ベートマンはますます緊急性の高い電報を次々と打って応じた。彼はウィーンが調停とHalt-in-Belgrade提案を受け入れるよう提案し、ドイツが「ウィーンによって理不尽に世界大火に巻き込まれる」ことを許さないと警告した[52]。
52　Fischer (Germany's Aims, pp. 79-82)とある程度Geiss (July 1914）は、7月29日から30日にかけてのベートマンの政策転換は一時的なもので、その日後半の「和平への動き」は英国を欺き、紛争の責任を確実にロシアに転嫁するための単なる術策的方便に過ぎなかった、と論じている。

Lebow (Between Peace and War, pp. 135-139)は、7月29日から31日にかけてのベートマンの政策転換における心理的ストレス、感情的混乱、誇張された自信と悲観的な運命論、そして過剰な警戒心の対処行動の重要性を強調している。これらの出来事の別の解釈については、Trachtenberg「動員の意味」を参照。

イギリスの意図の決定的な影響は、ドイツが「フランスを攻撃しないのであれば、イギリスは中立を保ち、フランスの受動性を保証する」というグレイの提案に関するリヒノフスキーの8月1日の報告に対するドイツの反応によっても証明されている。Albertini, Origins, Vol. 3, pp. 380-381.

首相の熱烈な支援を受けてカイザーは、「今我々ができるのはロシアとのみ戦争ができる。全軍を東へ行進させるだけだ」と発表した。Tuchman, Guns of August, p. 98.

モルトケは反対したが却下され、ドイツはイギリスの提案と思われる内容を受諾する電報を打ったが、リヒノフスキーの報告が誤りであったことがわかった。

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こうしてベートマンは、彼が常に恐れてはいたが29日にいよいよその可能性が出てきてしまった結果（英国の中立政策の放棄）を避けようとした必死の試みの中で、7月の危機を通じてドイツを導いてきた政策を突然転換した[53]。
53. Trachtenberg ("Meaning of Mobilization," pp. 136-137)は、ベートマンの突然の政策転換の主な原因はグレイからの警告ではなく、ロシアの部分動員のニュースだったと主張している。（訳注；”夢遊病者たち”ｐ779～もこの説を採っている）。Trachtenbergは、午後9時12分にドイツ外務省に受信されたグレイの警告を記したリヒノフスキーの電報は、ベートマンのその後の行動を説明するのに間に合わなかったと主張している。その夜のベートマンの行動とは別に、大陸戦争におけるイギリスの中立に対するドイツの期待を示す十分な証拠があり、Trachtenbergの議論が正しければ、ドイツの好みに関する私の評価や、戦争の原因に関する私の全体的な解釈が損なわれることはないであろう。

しかし、7月29日から30日の夜にベートマンが送信した電報の順序、タイミング、内容を私自身が検討したところ、Trachtenbergのこれらの結論は正しくないことが示唆された。ベートマンはイギリスだけでなくロシアからも知らせを得るのが遅れ、彼がグレイからの警告に最初に言及した電報（午前2時55分と午前3時に発信）は、ロシアの動員について彼が初めて言及した内容を含む少し前の電報よりも。はるかに大きな恐怖と切迫感を示していた。

　もしベートマンがもっと早く、特に7月28日のオーストリアの宣戦布告より前にこの（調停とHalt-in-Belgrade提案を受け入れる）圧力をかけ始めていたら、以下で論じるように、オーストリアがそれに抵抗することは極めて困難であったであろう（実際にはオーストリアは抵抗した）。

しかしまず第一に、そもそもなぜドイツの政治指導者たちは、イギリスの中立性にあれほど自信を持っていたのだろうか？

ドイツが、特にベルギーの中立が侵害された場合、フランスとロシアの同盟国が関与する大陸戦争にイギリスが介入することを知っていたはずだったのでは？と言うのは簡単だ。

二正面戦争でドイツが勝利すれば、ドイツは大陸での優勢な地位と海峡の重要な港を支配することができ、イギリスは大陸に強力な同盟国を失い、ドイツに戦略的・産業的基盤を提供し、そこから英国に対する世界的な挑戦を開始することになったことだろう。54。
54. 第一に、フランスとの海軍協定についてはドイツ人もある程度は知っていたが、イギリスに追加の義務を課した。第二に、英国の評判も危険にさらされていた。第三に、二度のモロッコ危機におけるイギリスの政策は、ドイツがフランスを犠牲にして影響力を強める一方で、イギリス政府が脇を固める可能性は低いことを示していた。モルトケは1913年のメモの中で、イギリスが独仏戦争に介入するのは「ドイツの覇権を恐れており、勢力均衡を維持するという政策に忠実であれば、ドイツの力の増大を阻止するために全力を尽くすだろう」と主張していた。 Tuchman, Guns of August, p. 144; Trevor Wilson, The Myriad Faces of War: Britain and the Great War, 1914-1918 (Oxford: Basil Blackwell, 1986), chap. 1; Sir Llewellyn Woodward, Great Britain and the War of 1914-1918 (Boston: Beacon, 1967), pp. 19-20.

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さらに、イギリスは、大陸戦争が起これば、そこで中立を保つことはできないことだろうという警告は何度も出していた。

　ドイツの政治指導者たちがこれらの警告を無視し、英国の戦略的利益を認識できなかったのは、動機付けられた心理的偏見と希望的観測によって部分的には説明できるが55、英国の中立に対する彼らの仮定は完全に不合理というわけではなかった。ロンドンから発信される信号のすべてがリヒノフスキーの警告と一致していたわけではなかったからだ。56
56. Lebow、同上、p. 129は、リヒノフスキーはベルリンでは支持されておらず、その理由で彼の早期警告は無視されたと論じている。

グレイはベルリンに無条件中立の約束を与えることを繰り返し拒否したが、フランスとロシアに対し、彼らを守るという約束を与えることも拒否した。

ドイツの「誤解」が、動機のある偏見だけでなく、受けとったサインに内在する不確実性に由来していたことは、フランスとロシアの当局者らの事実によって示唆されている。フランスとロシアの動機付けられた偏見は、ドイツとは逆の方向に導いたであろうし、イギリスに明確な約束を求めて絶えず圧力をかけてきたドイツも、イギリスの意図については不確かだった[57]。
57. フランスのジョフル参謀総長はイギリスの介入にあまり確信を持っていなかったので、フランス軍の戦争計画を立てる際にイギリスの介入を想定しなかった。サゾノフは7月24日、ロシア閣僚理事会において、「英国がこの問題でどのような態度をとるか分からないため」戦争が拡大すれば危険であると警告していた。Samuel R. Williamson, "Joffre Shapes French Strategy, 1911-1913," in Paul M. Kennedy, ed., War Plans of the Great Powers, 1880-1914 (London: Allen and Unwin, 1979), p. 146; Sagan, "1914 Revisited," pp. 169-170.

実際、イギリス自身でさえも、自分たちが何をするか明確ではなかったのだ。閣僚のデイビッド・ロイド・ジョージとウィンストン・チャーチルは、政府が大陸に介入するかどうかについて懐疑的であり、グレイ自身も確信を持っていなかった[58]。
58. 7月29日、グレイはジュール・カンボン駐ベルリン・フランス大使に対し、「もしドイツが関与し、フランスも関与した場合、我々は何をすべきかまだ決めていなかった」と語った。8月1日、英国内閣は、英国遠征軍を大陸に派遣する提案を拒否し、チャーチルが海軍の総動員を命令することを禁じた。Wilson, "The British Cabinet's Decision," pp. 149-150; British Documents, Vol. 11, No. 283, p. 180; Joll, First World War, pp. 19-20.

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　英国が、同盟国を支援するという明確かつタイムリーな約束を怠っていた（中立のふりをしていた）ことは、オーストリア・セルビア戦争とその世界大戦への拡大に至る過程における重要なステップであった。なぜなら、それによって、ドイツの政治的意思決定者が、ウィーンでの政治的意思決定者たちを抑制することになる唯一の脅威が排除されたからである。

しかし、英国の指導者たちは外交上および国内政治上の深刻な制約に直面しており、彼らが簡単に異なる別の行動をとれたかどうかは明らかではない。

彼ら（英国）の戦略的ジレンマは、明確な（中立性の）約束がドイツに対する抑止力を強化する一方で、同時にロシアがオーストリア・ハンガリーに対しては、より危険な道を追求することを促す可能性があるということであった。（Fromkin, David. Europe's Last Summer p226）

多くの英国指導者は、自らのコミットメントを曖昧なままにしておくことで、ロシアを疎外させることなく抑制し、ドイツを刺激することなく抑止できる可能性を最大限に高めることができると考えていた[59]。
59　グレイが試みたバランスをとる行為は「あいまい戦略」として説明されている" by Glenn H. Snyder, "The Security Dilemma in Alliance Politics," World Politics, Vol. 36, No. 4 (July 1984), pp. 461-495. 。この戦略はロシアとドイツ両国において不確実性が（リスク回避をする）警戒を引き起こすという前提に基づいていたが、国家がリスク回避的であるという前提には議論の余地がある。On "risk orientation," see Bueno de Mesquita, The War Trap, pp. 33-40, 60-64.

ドイツに対する英国の抑止的な脅威を弱め、遅らせるというグレイの政策（中立化政策）は、英独関係が過去3年間で改善したという英国の認識と、ドイツに対するより緩和的な戦略が7月危機に対する協力的な解決をもたらす可能性があるという彼の信念によって強化された。バルカン戦争でもそうであった60。
60. Lynn-Jones, "Detente and Deterrence," pp. 125-140.この議論は、グレイがベルリンが平和党派（ベートマン率いる）と戦争党派に分断されていると認識し、（グレイが）ドイツに対する圧力は、ベルリンの強硬派を強化するだけであることを恐れ、融和的な行動は、軍との内部政治闘争においてベートマンを強めるかるかもしれない、と信じていた。See Michael Eckstein, "Sir Edward Grey and Imperial Germany in 1914," Journal of Contemporary History, Vol. 6, No. 3 (1971), pp. 121-131.

しかし、7月27～28日以降、ドイツを刺激するという懸念は疑いもなく薄れていた（中立計画が不要になってきた）。というのは、ドイツがグレイの四大国会議提案を拒否し、オーストリアが（28日に）宣戦布告をしたことで、中央同盟国の意図に関する残された疑念が大幅に軽減されたからである（開き直り？）。

　7月27日までに、グレイがドイツに明確な警告（ドイツの出方によっては中立とはならない）を発することを妨げた主な要因は、イギリスの閣僚政治であった。

自由党内閣の約4分の3はイギリスの戦争関与に反対しており、グレイは政府から何らかの約束を取り付けるのは難しいことを知っていた。61
61. 7月27日の閣議で、グレイはフランスがドイツに攻撃された場合にイギリスが介入するかどうか尋ねた。５人の閣僚は、そのような決定が下されれば辞任するだろうと警告した。 7月29日、内閣は戦争を決定する条件を特定することを拒否した。 8月1日、グレイは「現時点では大陸に遠征軍を送ることを議会に提案することはできない」と述べた。British Documents, Vol. 11, No. 426. See also Steiner, Britain and the First World War, chap. 9; Wilson, "The British Cabinet's Decision," pp. 148-159; Woodward, Great Britain and the War, pp. 21-22.

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グレイの目的は、可能な限り、大陸戦争を防ぐことであり、戦争が起こった場合にはしかし、英国を団結させて戦争に参加させることであった。

ドイツに対する（英国の中立性があやういとする）早期の警告は、最初の目的（大陸戦争を防ぐ）を前進させるかもしれないが、2番目の目的（英国を団結させて戦争に参加させる）を脅かす国内の反応を引き起こす可能性があった。

ドイツがフランスを攻撃するかベルギー領土を侵犯した場合には、イギリスが宣戦布告するだろうとドイツに警告したことに関して、チャーチルは後に次のように書いている。

もしエドワード・グレイ卿が示唆したような最後通牒（中立の破棄）を送っていたら、内閣は解散していただろうと私は確信しているし、また解散したと私は信じている。少なくとも水曜日（29日）か木曜日（30日）までは、下院は彼の行動（中立の破棄）を拒否していたであろう。（中立の破棄に対する）ドイツの反応は、まさに英国国家を戦争に導いていたであろう（だから中立は維持している（ふりを）方がよい）62。

チャーチルがドイツの行為に言及していることは重要である。セルビアに対するオーストリアの行動は、イギリスを引き込むには十分ではなかった。なぜなら、和解が不可能な場合、イギリスは大陸戦争や世界戦争よりも、結果が何であれ、バルカン半島での局地戦争を好んだからである。しかし、イギリスを戦争に参加させるために必要または十分なドイツの具体的な行為は何だったであろうか?63
63. グレイにとっては、いかなる仏独戦争も英国の利益を十分に脅かしており、介入が必要だった（中立の維持は困難）。（英国）内閣にとっては、フランスの深刻な軍事的後退とドイツの大陸での覇権の脅威が、おそらく介入の前提条件だった。つまりこれ（グレイの主張）は上述したドイツの「弱い（条件の緩い）中立の仮定」であった。グレイ氏は議会の支持についても懸念していた。Mayer, "Domestic Causes," pp. 298-299.

様々な不測の事態が起きた場合に内閣がどのように行動したのかを正確に知ることはできないが、戦争の初期段階で英国の介入を閣議が承認する決定的なきっかけとなったのは、ドイツによるベルギーの中立侵害であったと思われる。これはドイツのシュリーフェン計画の不可欠な部分であった64。

急進派は何年にもわたって力の均衡の議論に振り回されることを拒否しており、最終的には1839年のベルギーの中立保証によってもたらされる道徳的正当化を必要とした[65]。
65. Steiner, Britain and the First World War, p. 237. したがって、ベルギーの重要性は、特に閣僚の急進派にとっては、戦略的というよりも政治的なものであった。大陸の勢力均衡とベルギーとドーバー海峡の将来は、ベルギーの中立が最初に侵害されたかどうかに関係なく、最終的には独仏戦争の結果に依存することになった。

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　グレイへの国内政治的制約は、彼に対して、ドイツに影響を与える何らかの手段をまだ許容させていた。ベルリンへの正式な脅威はおそらく内閣政治によって阻止されたが、非公式の警告は阻止されなかった。

7月29日のグレイの警告は内閣によって承認されていなかったが、（中立の維持は困難という）その警告はドイツに多大な影響を与えたので、同様の非公式警告がもっと早く発令されていた可能性がある。

もし（中立の維持は困難という）警告が23日のオーストリアの最後通牒より前に、あるいはおそらく27日遅くまでに出されていたら、ドイツに警告が発せられ、（最後通牒ないしは宣戦布告は不可という）オーストリア・ハンガリーに対するドイツの圧力を成功させるには十分であり、戦争は回避できたであろう。少なくとも一時的には。

しかし、当時、グレイは戦略的な考慮事項によって制約を受けていた。今となってはロシアよりもドイツの方が自制を必要としていたこと、またイギリスがもっと早くベルリンに（中立の維持は困難という）圧力をかけていればおそらく戦争は回避できたであろうことはわかっているが、1914年7月にグレイがこのことを理解していたはずだったとは言うのはさらに難しい。

　（ドイツの立場からの）イギリスの中立という誤っていた仮定は、オーストリアによるセルビア侵攻、ひいては大陸戦争や世界戦争（少なくとも7月28日のオーストリアの宣戦布告まで）をドイツが支援するための必要条件ではあったが、十分条件ではなかった。

①もしもオーストリアが暗殺事件直後に軍事行動をとっていれば、②もしもオーストリアがセルビアに対する限定的な軍事行動を目的としたHalt-in-Belgrade計画に同意していれば、あるいは③オーストリアにこの計画を受け入れさせて危機を管理するための外交努力へともっと時間が与えられていれば、大陸戦争は避けられた可能性があると考えられる。

以下では、これらの「選ばれなかった道」をそれぞれ検討し、これらの選択肢が政治家の目にはあまりにも高価なものとなった戦略的および国内的制約を特定する。

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オーストリア・ハンガリー間の軍事行動の遅れ
オーストリアはfait accompli既成事実戦略を追求したが、大公暗殺後セルビアに対する軍事行動を1ヶ月延期した。セルビアに対する普遍的な怒り、オーストリアの名誉を守るための限定的な対応が正当であるという広く広まった信念、より広範な戦争への恐怖ということの組み合わせを考えれば、このタイミングは極めて重要だった。そしてロシアに対するドイツの脅威は、戦争を局地化するには十分だったかもしれない。A.J.P. テイラーは「オーストリア＝ハンガリーにとって唯一の成功のチャンスは迅速な行動だっただろう」と結論づけている[66]。
66. Taylor, Struggle for Mastery, pp. 522-223. Ritter は、「際限なく遅延が発生するよりも、迅速な行動が政治的にはるかに効果的で、ヨーロッパの平和に対する危険も少なかっただろう」と結論づけている。Ritter, Sword and the Scepter, Vol. 2, p. 236.

Samuel R. Williamson, Jr.は、「7月初旬には計算済みで許容できるリスクであるように見えたセルビアとの局地戦争は、2週間後にはより危険で挑発的なものとして迫ってきた」と書いている。Williamson, "Theories of Foreign Policy Process and Foreign Policy Outcomes," in Paul Gordon Lauren, ed. Diplomacy (New York: Free Press, 1979), pp. 151-153. See George, Avoiding War, chap. 5, for a theoretical discussion of the fait accompli strategy.

　ほとんどのドイツの政治指導者や軍事指導者は、即時に行動を起こせば大規模な戦争は回避できると考えており、これがオーストリアに対し、できるだけ早く行動するよう圧力をかける主な要因となった[67]。
67. グレイもこの仮定を受け入れた。Butterfield, "Sir Edward Grey," pp. 10-11; Fischer, Germany's Aimns, pp. 53-61

しかしながら、遅れが長ければ長いほど、セルビアへの処罰が暗殺から切り離されればされるほど、セルビアに正当性が与えられる可能性があった。ツァーリは君主の団結の原則からバルカン半島における戦略的利害に関心を移したであろう。遅延の主な結果は、早期の懲罰的な攻撃（限定的な軍事作戦）の可能性を、さらにエスカレートする可能性が高い大規模な局地戦争に変化させることであった。

　我々は、この遅れをどう説明すればよいのだろうか？　（オーストリアは）7月5日から6日にかけてドイツから白紙小切手が届くまでは何もできなかった。

その後の大幅な遅れの理由の一つは軍事的なものであった。ベルヒトルトは当初、動員せずにセルビアを攻撃することを望んでいたが、7月6日にコンラッドから、動員後2週間まで侵攻を開始できないことを知り、心を痛めた[68]。
68. Albertini, Originis, Vol. 2, p. 455. 重要な問題は、オーストリアが一般的な侵攻とは独立して、セルビアに対して限定的な軍事作戦（懲罰的攻撃）を行うことができたかどうかである。すなわち、このオプションの緊急時対応計画が 7 月初旬に存在していたかどうか (またはそれ以降のHalt-in-Belgrade 提案について)、そしてそのような行動がその後のセルビアやロシアの動員を妨げたかどうか。See Levy, "Organizational Routines," p. 200; Pierre Renouvin, The Immediate Originis of the War (28th Juine-4th Augtust 1914), trans. Theodore Carswell Hume (New Haven: Yale University Press, 1928), p. 128; Holsti, Crisis, Escalation, War, pp. 157, 216.

しかし、A.J.P. テイラーは、セルビアはベオグラードを守らないことを決めたと主張する。Taylor, "War by Time-table," in Plriell's History of the Twentieth Centuny (New York: Purnell, 1974), p. 445.　445. もしそうであれば、オーストリアはその後の作戦を妨げることなくベオグラードを容易に占領できただろう。

国内の構造的および政治的制約によって遅れはさらに悪化した。

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統一された君主制のもとで、ハンガリーのティサ首相が戦争に同意した7月14日（それは、ティサ首相からのセルビアを犠牲にした領土併合の放棄（小規模な辺境「調整」を除く）の要求をオーストリア＝ハンガリー閣僚理事会が受け入れた日だった）まで、それ以上の行動（最後通牒や宣戦布告を含む）は禁止された。69
69. ティサはツァーリを安心させ、ロシアの介入の可能性を最小限に抑えたかった。しかし、この行動は遅すぎた可能性があり、オーストリア・ハンガリー両国がこの約束（領土併合の放棄）を果たす計画を立てていたかどうかは定かではない。Albertini, Origins, Vol. 2, p. 175; Schmitt, "Coming of the War," Vol. 1, pp. 345-57; Norman Stone, "Hungary and the Crisis of July 1914," Journal of Contemporary History, Vol. 1, No. 3 (1966), pp. 147-164; Williamson, "Origins of World War I," p. 10

　7 月 14 日以降、最後通牒が 9 日間遅れたことは、さらに 2 つの要因によって説明される。

１つには、収穫のスケジュールによって課せられた組織上の制約が軍に向けられたこと。これによって、予定されていた7月21日から22日の帰還前の部隊の召集が複雑になった。なぜなら、それは収穫を混乱させ、場合によっては鉄道ベースの動員計画を混乱させ、予想外の利益を排除する可能性があったからである。70。

次に、オーストリアの意思決定者らが、ロシアのより強力な対応を促す可能性を懸念して、7月23日のポアンカレとヴィヴィアーニのサンクトペテルブルク国賓訪問が終わるまでセルビアに最後通牒を渡すことを望まなかったこと[71]。

だがこの頃までには、王室暗殺に起因するオーストリアの軍事行動の正当性の装いはすでになくなっていたことだろう。

さらに、前例のない最後通牒の条件が知られると、欧州の政治指導者らはセルビアではなくオーストリアの方を、国際規範の主な違反者とみなすようになった。この時点では、平和への最大の希望は、オーストリアの宣戦布告をむしろ遅らせることの方にあったかもしれない。

　コンラッドは、セルビアに対する宣戦布告と圧倒的な既成事実fait accompliを、軍事作戦が開始できる8月12日まで遅らせたかったが、ベルヒトルトはドイツとますます声高になるマスコミや国内世論をなだめるために、早期の宣戦布告を主張した（7月26日）。72

ベルヒトルトは、宣戦布告と侵攻との間の時間経過を重視し、セルビアの「無条件服従」を確保するための追加の強制圧力の時間が与えられることを期待した[73]。
73. それゆえにベルヒトルトは明らかに、セルビアに対する（早期）軍事的勝利から強圧的な外交へと彼の戦略を変更した。

（セルビアからの）必然的な拒否が、彼が望んでいた戦争を正当化するように最後通牒をデザインした後に、そしてそれから、オーストリアには即座に既成事実fait accompliを作る手段が欠けていることを認識した後に、ベルヒトルトは軍事的勝利から強圧的な戦略に切り替えたが、そうした切り替えを効果的にする可能性のある外交的手段との組み合わせをしなかった。

彼はセルビアが面目を保って危機から抜け出す方法を提供するための最後通牒の屈辱的な条件を緩和しなかったし、セルビアと協商の決意を強めただけの時期尚早な宣戦布告で事態をさらに複雑にし、それはセルビアと協商国側の決意を強めただけであった。

Ｐ173
このタイミングは極めて重要だった。なぜなら第1に、オーストラリアによる宣戦布告とセルビアに対する動員（どちらも28日に行われている）がロシアの部分動員に直接つながり、その後4日間にわたって急速かつほぼ不可逆的な一連の脅迫と動員が始まってしまったからである。

第２に、ウィーンが、グレイからのリヒノフスキーの警告を受けて7月29日から30日の夜にかけて始まったドイツからの自制圧力（グレイの調停案に乗ること）に抵抗することがより困難になったからである。

　オーストリアの動員計画とその戦略的ジレンマを検討してみると簡単にわかるように、ウィーンの宣戦布告と軍事動員は、軍事的考慮ではなく政治的考慮によって動かされたことを認識することが重要である。ロシアとセルビア両国に対する二正面戦の見通しに直面して、オーストリアの軍事計画立案者は、動員と戦争計画にある程度の柔軟性を組み込んだ。

こうしたことは、セルビアまたはロシアのいずれかに対する部分動員を許容し、特定の脅威に応じて、一方に対する攻撃行動と他方に対する防御行動を許容した。しかし、セルビアに対して部分動員（プランＢ）が開始されると、関与した軍隊をロシアの大規模な攻撃に対抗するために、ガリツィア戦線に簡単に戻すことはできなかった74。
74. この硬直性は、二正面戦争を戦うことの固有の困難、オーストリア＝ハンガリー帝国の鉄道網の質の低さ、そしてシュリーフェン・プランの要件による戦争の初期段階で、ドイツがロシアに対抗するための多大な援助を提供する能力の無さと意志のなさによるものであった。

コンラッドの防衛計画では、ガリツィア（A戦隊、30個師団）とバルカン半島（Minimalgruppe Balkan、10個師団）の両方で最小限の防衛力を要求していた。追加の 12 個師団 (B戦隊) をバルカン半島 (セルビアを破壊するのに十分な兵力を加える) またはガリツィア (A 戦隊と合同してロシアに対する強力な攻撃を提供する) のいずれかに派遣する可能性があったが、B戦隊は一度コミットすると、簡単にまたはすぐに他の戦線に移ることはできなかった。Stone, "Moltke and Conrad," pp. 225-226, 243-244.

こうしたことはウィーンにとっては、動員が始まった後は事態の流れを遅らせるのではなく加速させるインセンティブを生み出したが、同時に、ロシアの意図が不透明な中、動員をできるだけ長く遅らせようとする軍事的インセンティブも生み出した。

ベルヒトルトにとって動員は、可能であれば強圧外交によって、必要であれば戦争によって、セルビアを服従させる戦略の不可欠な要素であった。しかし、動員はコンラッドの戦争の準備にとっては不可欠ではなく、実際には戦争の準備に損害を与えた[75]。
75. コンラッドは、ロシア軍が介入を計画しているかどうかを、動員5日目までに知る必要があると主張した。そうでないと彼の計画は狂ってしまったのだ。コンラッドはロシアの介入の遅れたを「最も困難だが最も可能性の高いケース」と表現し、モルトケも同意した。 Stone, "Moltke and Conrad," pp. 228-235; L.C.F. Turner, Origins of the First World War (New York: Norton, 1970), pp. 92-93; Turner, "The Russian Mobilisation in 1914," in Kennedy, War Plans, p. 258; Albertini, Origins of the War, Vol. 2, p. 482; Fischer, Germany's Aims, p. 74.

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　振り返ってみると、コンラッドが軍事作戦の開始まで宣戦布告を遅らせようとしたことは、平和的解決の可能性を高めたのかもしれないが、その効果は大して大きくはなかった。ロシアの利害は、宣戦布告そのものよりも、オーストリアの動員そのものによって、はるかに脅かされた。

ロシアの動員によって引き起こされた事態の加速を考慮すると、オーストリアの宣戦布告の遅れが危機管理で多くの時間を稼いだ可能性は低い。

一方、宣戦布告がなかったら、ロシアの指導者たちはオーストリアの意図についていくぶん確信が持てず、したがって動員する傾向が若干弱かったかもしれない。そうすれば、Halt-in-Belgrade提案を通じた危機を管理する努力に、もう少し時間が与えられただろう。76
76. 以下で議論するように、オーストリアの動員計画における技術的硬直性によって生み出された機会をロシア人が理解していれば、これは特に当てはまる。

さらに、オーストリアの宣戦布告は、その意思決定者の目には、動員よりもそれを覆すのが難しかったかもしれない77。
77. オーストリア人はドイツ人とは異なり、動員が必ずしも戦争を意味するとは認識していなかった。See Schmitt, Corning of the War, Vol. 2, pp215

したがって、宣戦布告を遅らせただけでも、オーストリア指導者が方針転換する際の評判、国内政治的、心理的コストは軽減され、したがってドイツの圧力の下でオーストリア指導者らがベオグラードの Halt-in-Belgrade 提案を受け入れた可能性がいくらか高まったことであろう。78
78. これはグレイが、最後通牒、四大国会議提案のベートマンの拒否、ロシアの初期の戦争準備の組み合わせを、ドイツに強い警告を発するのに十分な脅威であると見たことを前提としている。たとえオーストリアの宣戦布告がなかったとしても。このような警告があれば、ドイツはオーストリアに自制を求めるよう圧力をかけることになったことだろう。

しかし、これらの変化の規模が、大国の誰も望んでいなかった世界戦争を一時的であっても遅らせるのに十分な大きさであったかどうかを言うことは不可能なのである。

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