| Mc Meekin JULY1914 Count down to war2 |
Russian occupation of Eastern Galicia (1914–1915)
| 2 St Petersburg: No Quarter Given p47 ＜オーストリアとのロシア＞ オーストリアの政治家がセルビアとの戦争の場合にドイツの支援を必要とした理由は明白だった。ロシアが介入するかもしれないからである。 サンクトペテルブルクは1877年にバルカン半島のスラブ人（主にブルガリア人）を代表してオスマントルコと戦争をし、1909年の第一次ボスニア危機の際にはセルビアを代表してオーストリアと再び戦争をしそうになったが、ベルリンからの微妙な脅威に直面して撤退しただけだった。 確かに、ロシアは1912年から1913年のバルカン戦争のどちらでも戦争をしなかったが、それはどちらの場合もロシアの顧客であるセルビアが勝利していて、さらにはウィーンが彼らを止めるために何もしなかったためであり、サンクトペテルブルクがベオグラードを救済する必要はなかったからだ。結局、オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに侵攻でもしない限り、サンクトペテルブルクがベオグラードを救済する必要はなかった。 「ロシアのスチームローラー」という一般的な常套句は、ツァーリ軍の実際の攻撃力を大幅に誇張していたが、ウィーンでもペテルブルグでも、ロシアが単独で簡単にオーストリア＝ハンガリーを破ることができると疑う者はいなかった。 ロシアに対するドイツからの支援があってこそ、オーストリアはバルカン半島で戦争をするという考えを抱くことができた。つまり、ドイツの支援があってこそ彼らは勝つことができたのだ。 これがセルビアとの戦争に反対するハンガリーの大臣兼大統領ティサの主張だった。ロシアは戦うだろうし、ドイツはオーストリアを支援しないだろう。 ハプスブルク家の外務大臣ベルヒトルトと好戦的な首席補佐官コンラッドがとった路線は、ティサの路線とは逆であった。ドイツはウィーンを支援し、ロシアは戦わないだろう――少なくとも彼らはそう望んでいた。 ドイツとともに、ベオグラード（政府の関与）の証拠が得られれば、オーストリアは直接的な（軍事的な）アプローチを取ることができた。 ロシアとともにでは、それは暗闇の中で飛躍するようなものであった。はたしてロシアはどうしたことだろうか？ p48 初期の兆候はオーストリアにとって明るいものではなかった。カイザーヴィルヘルム２世以外にフランツ・フェルディナンドの死を心から悲しむ外国人はほとんどいなかったが、欧州各地の英国、フランス、イタリア、ドイツの領事らは皆、訓練を受けた外交官に期待される同情と礼儀をもってサラエボからの知らせに応じた。 公式の重大な哀悼の意が捧げられた。 旗は半旗まで下げられた。 オーストリアの皇太子ロスに対して、多少緊張しながらも同情の念を表し、深くうなずかれていた。 全く対照的に、バルカン半島各地のオーストリア外交官は、ロシア側から何の弔意も示されなかったことに不満を漏らした。 ローマではロシア大使館だけがフェルディナンド大公を讃えて国旗を降ろすことを拒否した。 同様に、ベオグラードの皇帝公使館は、フランツ・フェルディナントの公式葬儀のレクイエムの間であっても、まるで殺されたハプスブルク家の後継者の記憶を故意に侮辱するかのように、半旗を掲げることを拒否した。 ＜ロシアの政策当事者たち＞ この計算された侮辱はほぼ確実に、汎スラブ主義ロシア公使 Nikolai Hartwigの仕業であり、フランツ・ヨーゼフ皇帝はドイツ大使に対し、本当の「ベオグラードのボス」は彼だと告げたという。 イタリアの外交官によると、6月28日にサラエボからの知らせを聞いたNikolai Hartwigは「天国の名において！」と叫んだという。 ベオグラードのオーストリア臨時代理大使リッター・フォン・シュトルクは、ベルヒトルトに対してのこの曖昧な発言を「Nikolai Hartwigは、知人としてだが・・・明らかに、殺人者はセルビア人しかあり得ないと先験的に考えていた。」と解釈した。 いずれにしてもそのニュースに動じることなく、Nikolai Hartwigはその夜ブリッジパーティーを開催し、その席でイタリアの外交官（後にオーストリアに寝返った）と本音の意見を内密に共有した。 Nikolai Hartwigは言った。「フランツ・フェルディナンドの殺害は、（二重）君主制にとって恩恵と見なされるべきだ」「大公は終始病んでいた」そして説明した。それはいかに「オーストリア王朝がいかに疲弊した民族であるか」を示しているのだ、と。 Nikolai Hartwigは、さらなる説明としてイタリア人に、新しい王位継承者であるフランツ・フェルディナンドの甥カールが「梅毒」であることを伝え、そのことはフランツ・フェルディナンドの死は良い知らせだったという以前の主張を無意味にした。もちろん、彼がロシアにとって良いニュースを意図していたのでなければ、なのだが。2 p49 オーストリアにとって、Hartwigの最悪の事態を考えずにはいられなかった。この男は、1912年にトルコに対して第一次バルカン戦争を開始したセルビア・ブルガリア・ギリシャ・マケドニアの略奪的なスラブ正教連合の首謀者として広く見なされ、1912年にトルコに対して第一次バルカン戦争を開始し、セルビアの民族統一主義に強力な刺激を与えた。（c.f.p26) Hartwigが裏でセルビアを統治していたというフランツ・ヨーゼフの主張は、ある種の誇張の色合いがあったが、一片の真実も含まれていた。 セルビアの急進人民党首相ニコラ・パシッチは、印象的な政治的生き残りであった。元ベオグラード市長であるパシッチは、1904年以来ほぼ継続的にセルビアの首相を務め、バルカン戦争中のセルビアの英雄的な復興主義的領土拡大を監督する一方、セルビア人や「南スラブ」のさらに過激な活動家、例えばディミトリイェヴィッチ（アピス）や彼の黒手組の共謀者などの活動家による彼に対する陰謀をかわしていた。 巨大な白いひげと厳格な顔立ちをしたパシッチは、ドストエフスキーのページに出てくる正教会の修道士のように見え、1914年時点で68歳になっていても精悍だった。それでも、彼の精力的な外見にもかかわらず、ロシアの協力がなければ、パシッチとセルビアはそれほど大きな存在にはならなかったであろう。 セルビアがバルカン戦争を戦ったのはロシアの補助金とロシアとフランスの武器によるものであり、セルビア軍がトルコとブルガリアを分割している間、オーストリア軍をベオグラードから遠ざけていたのはロシアの介入の脅威だった。Nikolai Hartwigはバルカン戦争中にパシッチのあらゆる行動を支持し、そもままさらにパシッチの側近であり続けた3。 p50 さらに、タウンで影響力のあるロシアの常連客はNikolai Hartwigだけではなかった。ロシアのベオグラード公使Nikolai Hartwigがパシッチのポピュリスト的な政権に汎スラブ主義の公的支援を提供したのと同じように、ロシアの武官ヴィクトル・アルタモノフ将軍も、セルビアのより過激な影の政府への助言と武装を支援した。 結局のところ、（今日私たちが知っているように）アピスは単に黒手組やフランツ・フェルディナンド殺害計画の秘密の主催者ではなかったのである。彼はセルビア軍情報部長でもあった。 戦後、ベオグラードでアピスとどれほど緊密に協力していたかをイタリア人ジャーナリストに尋ねられたアルタモノフは、「もちろん、私はディミトリ[ジェヴィッチ]と事実上毎日連絡を取っていた」と即座に認めた。 予想通り、ロシア武官アルタモノフは、サラエボ陰謀についての事前知識を否定し、完璧なアリバイを作り出した – 彼は1914年6月19日から7月28日まで休暇を取っていた – しかし、フェルディナンド大公の不運なボスニア訪問の目的はオーストリア軍の作戦を視察することであり、セルビアにいるロシアの公式軍事監視員にとっては非常に興味深いものであったことを考えると、奇妙なことだった。 それでも、暴露余談として、アルタモノフは「当時の小さなベオグラードでは、公の生活はごく少数のカフェに限られていたため、この陰謀を秘密にすることはできなかった」と認めた。ロシア武官アルタモノフは6月28日には外出していたが、陰謀が動き始めた5月下旬から6月上旬にはベオグラードにいた。.4 p51 一方、Nikolai Hartwigは運命の日、街にいて、後に悪名が高くなるブリッジ・パーティーを主催していた。 戦後の自白から、パシッチ首相が暗殺計画を知っていたことがわかっている。実際、彼はセルビアがまだバルカン戦争から勢力を回復している最中に、オーストリアに戦争の口実を与えたくなかったので、6月初旬に特使を通じて慎重にウィーンに警告しようとした。 （パシッチの警告は、ボスニア・ヘルツェゴビナ大臣ビリンスキなどのハプスブルク家の役人たちによって無視されるか、後に記憶から消去されたが、彼らはそれに耳を傾けなかったことを恥ずかしく思った。） したがって、セルビア首相とロシア側顧問らは大公暗殺という黒手組の陰謀には加担しなかったが、彼らは、何らかの陰謀が大公のボスニア訪問に先立って企てられていたことはほぼ確実に知っていた。そしてパシッチはそれを阻止する決定的な行動をとっていなかった[5]。 したがって、フランツ・ヨーゼフがセルビア侵略の教唆者でありバルカン半島の平和への脅威であるとしてNikolai Hartwigを指差したのは間違いではなかったのだ。しかし、ベオグラードの大臣Nikolai Hartwigの見解がサンクトペテルブルクのロシアの政策立案者を代表しているかどうかは明らかではなかった。 バルカン戦争中、Nikolai Hartwigはフリーエージェントのような振る舞いをしており、より慎重なロシアの外務大臣セルゲイ・サゾノフが定めた要旨の範囲を頻繁に踏み越えていた。 1912年10月に第一次バルカン戦争が勃発する直前、Nikolai Hartwigはサゾノフの振る舞いにほとんど疑問を抱いていた。サゾノフ外相がバルカン半島の領土現状維持を保証する先制宣言を出した後、Nikolai Hartwigはセルビア人に対し、「愚かなサゾノフ」のことは気にせず、トルコを攻撃するよう告げた。6 p52 サゾノフは誰にとっても強者というイメージは一度もなかった。 そもそも、彼はその役には見えなかった。 スリムで小柄で、当たり障りのない顔と後退した髪の生え際をしたサゾノフは、典型的なロシア官僚の雰囲気を持っていた。ゴーゴリの空っぽのオーバーコートのインスピレーションとなったのかもしれない。 バルカン戦争中、Nikolai Hartwigが征服者の英雄として浮上したときでさえ、サゾノフ外務大臣はサンクトペテルブルクの汎スラブ主義者たちから、その温厚な臆病さのせいでさらし者にされていた。 一時、サンクトペテルブルクではNikolai Hartwigがサゾノフの後任になるという深刻な噂が流れたが、最終的に皇帝ニコライ2世は単純な忠誠心からサゾノフの支持を続けた。 ウィーンのベルヒトルトと同様に、ロシアのサゾノフ外相もサラエボ事件当時は不安定な立場にあり、バルカン戦争の混乱のさなかにかろうじて在任期間を生き延びたばかりだった。 サンクトペテルブルクにはウィーンのコンラッドの好戦派に似たフランス愛者（つまり反ドイツ）の「戦争党」が存在し、農業大臣A.V. クリヴォシェイン。が率いていた。農務大臣が好戦的な外交政策を好むというのは奇妙に思えるかもしれないが、当時の帝政ロシアはちょっと変わった国だったのである。 p53 ＜ロシアの実情＞ 見た目は堂々としており、その人口統計と経済成長率により、ドイツはロシアが止められない「スチームローラー」であると確信していたが、ツァーリ帝国は実際には脆弱でぼろぼろで、日露戦争での屈辱的な敗北後に、1905年の革命がまさに起こりそうになったように、圧力を受けると崩壊する可能性があった。ロシアの工業化は急速に進んでいたが、依然として農民が人口の80パーセントを占めていた。土地改革は社会政策の重要な要素であり、農業省は非常に重要視されていた。 クリヴォシェインは、1906年から1911年まで閣僚評議会議長を務めたピーター・ストルイピンのスター的な弟子であり、土地所有法の改革を通じて、新たな無政府状態の社会革命に対する防波堤として機能する、安定して繁栄した小農階級を創設することを目指していた。 「ストルイピン計画」では、ドイツ小麦の輸入やフランスのロシア鉄道への資本投資や穀物輸出市場へのスムーズなアクセスを阻止するために積極的な関税が要求された。 なぜなら、ロシアの小麦のほとんどは黒海に隣接する南部地域で栽培されており、バルト海と北極海の港は一年のほとんどが氷に閉ざされていたため（太平洋に面したウラジオストクは現実的な選択肢としては遠すぎた）、輸出業者は、ロシアの穀物を輸出するために、オスマン海峡（ボスポラス海峡、マルマラ海、ダーダネルス海峡）を経由して地中海への不凍アクセスを切実に必要としていたからである。 海峡を通って反対方向に、ロシアの産業にとって重要な輸入部品が流れ、その代金はロシアの穀物輸出によって支払われた。ロシアの地中海へのアクセスが妨害されれば、ストルイピン土地改革計画は台無しになってしまうことだろう。その計画には、他のすべてが依存していた。 1911年にストルイピンが暗殺された後、クリヴォシェインはサゾノフよりもかなり上級の大臣評議会の上級メンバーとなった。 ストルイピンがロシアの経済近代化を完了するために「20年間の平和」を提唱したことは有名だが、1911年から1913年のイタリア戦争とバルカン戦争は、クリヴォシャインにサンクトペテルブルクにはそんな時間などはないことを示唆していた。 1912年夏、窮地に陥ったオスマン帝国政府は商船の航行を一時的に閉鎖し、ロシアの穀物輸出経済の脆弱性を露呈させた。黒海経由の輸出量は3分の1減少し、ウクライナの重工業はほぼ壊滅状態に陥った。（McMeekin The RUSSION ORIGINS of the First World War Chapter 1 The Strategic Imperative in 1914 p27～参照） さらに憂慮すべきは、1913年12月から1914年1月にかけて起きた「リマン・フォン・サンダース事件」で、この事件ではドイツの将軍が海峡防衛を担当するオスマン帝国軍団の指揮官に任命されていた。 ドイツの将校団は 1880 年代からオスマン帝国軍の訓練を引き受けており、ベルリンとコンスタンティノープルの関係は通常温かいものでしたが、これは新しいことであった。リマンの海峡の指揮により、ロシアの地中海へのアクセスは、ロシアの最も強力な敵であるドイツのなすがままにされることになったのである。.7 p54 ＜クリヴォシェイン―サゾノフ―ヴィッテ＞ 1914年当時、クリヴォシェインがイライラしていたのも不思議ではない。とにかく、この農務大臣は気性の荒いドイツ嫌いで、フランスでは一番人気のロシア人だった。 確かにサゾノフもフランス愛者であり、1894年に締結されたフランスとの軍事同盟はロシア外交政策の重要な部分であり、そしてフランスは、後進的なロシアのモデルのような存在であった。それは、ロシアの急進主義のためではなく、その情熱的なナショナリズムのせいであった。 サゾノフの立場はロシアの「国家的なリベラル」であり、それは保守派や「親独派」の反戦的立場に対抗するもので、セルゲイ・ヴィッテが最もよく代表していた。セルゲイ・ヴィッテは1890年代以来ロシアの工業化推進を主導してきた政治家だが、1906年に失脚した後、スターは影を潜めた。 クリヴォシェインと彼のフランス人支持者たちは、サゾノフのフランス好きの外交政策にはあまり同意しなかったが、コンラッドがベルヒトルトの気概を信頼していなかったように、フランス人支持者たちは、彼もねたみ深い（being yellow）のではないかと疑っていた。 オーストリアの外務大臣ベルヒトルトは、これまで見てきたように、サラエボの暴挙によって受動的な憂鬱気分から揺さぶり動かされていた。サゾノフも同様に、バルカン半島でのドラマによってクリヴォシェインと戦争当事者にそそられるだろうか、それともオーストリアが動き出したら再び後退するだろうか？ p55 多くの部分は、1914 年 7 月のこの質問に対する答えにかかっている。それでも、当時のオーストリア人にとっての答えと同じくらい、今日でも答えるのは難しいままである。 ベルヒトルトとは異なり、サゾノフは回想録の中でこの期間全体をベールに包み、7月24日までのサラエボ事件に関する形式的な言及から直接飛ばし、その間の彼の考えや意図については何も明らかにしていない。 当時の資料は役に立たない。戦後、ボリシェヴィキはロシア帝政政権の悪の「帝国主義」を非難しようとして、第一次世界大戦の起源と経過に関する秘密外交書を何百冊も出版した。 これらの本は、19 世紀から 1917 年までの大小の出来事を非常に深く網羅しているが、1914 年 6 月 28 日のフランツ・フェルディナンド暗殺後の数日間を除いては、事実上沈黙が続いている。同様に、フランスの外交アーカイブでは、駐ロシアフランス大使モーリス・パレオローグの派遣記録が、1914年6月28日から7月6日までの間、あっさりと消滅している。8 奇妙なのは、サゾノフの前任外務大臣であり、1914年にロシアの最も重要な同盟国であるフランスの大使を務めたアレクサンドル・イズヴォルスキーの行方不明の手紙である。第一次ボスニア危機での屈辱を受けて外務大臣辞任を余儀なくされたイズヴォルスキーは、パリ大使館から残念賞を授与されており、それを根拠にウィーンに対する復讐に努めた。（1914年7月にロシアの動員が宣言されたことを知ったとき、イズヴォルスキーは「これは私の戦争だ！」と叫んだと伝えられている。McMeekin The RUSSION ORIGINS of the First World War Chapter 1 The Strategic Imperative in 1914 p16～参照） パリでは、1914年以前の数年間、イズヴォルスキーがフランス民族主義の復活と再軍備への推進に関与しているのを見ていた人もいた。 ある社会党指導者が尋ねた。「[フランス]にはイズヴォルスキーの恨みに仕えること以外に栄光はないのか?」 第一次世界大戦後、イズヴォルスキーの秘密通信を記した一冊の「黒書」が出版されたが、その通信は分厚く、多くの日で5回以上の通信が行われた。 しかし、1914年6月19日から7月22日までの間に、サゾノフに宛てた一通の手紙があり、それはサラエボやロシアの外交政策ではなく、フランスの内政に関するものであった9。 p56 同様に、英国の駐ロシア大使サー・ジョージ・ブキャナンは、とにかくサゾノフがほとんど打ち明けなかったが、サラエボから11日後の1914年7月9日まで、サラエボに対するロシアの反応について報告しなかった。 そのときでさえ、彼は、サンクトペテルブルクにおける「一般的な印象」は、「これほど危険な人物（フランツ・フェルディナンドなど）が王位継承から外されるべきでそうなった、という安堵感だった」という、典型的に出典不詳の、啓発的でない意見を述べただけであった[10]。 ロシア、フランス、イギリスの情報筋の沈黙のせいで、サラエボ後の数日間のサゾノフの考えは、「敵対的な」オーストリアとドイツの外交官からの報告に困惑していたに違いない。 これらはより有益であるが、まだ曖昧である。フリードリヒ・ザパリ大使の不在中に代理を務めていたペテルブルクのオーストリア・ハンガリー公使館書記官オットー・チェルニンは、7月3日、サゾノフがハプスブルク家の後継者の死に対して心からの哀悼の意を表したとベルヒトルトに報告した。しかし、ずる賢いことに、ロシア外務大臣サゾノフは、フランツ・フェルディナンドが世界中で（そして誤って）「ロシア嫌い」とみなされているロシアでは、自身の温かい感情が広く共有されていないとも示唆した。 大公の死は、「ロシア民族主義者たちが何年も耽溺してきた贅沢な反オーストリア的煽動」を止めるには何の役にも立たないだろう、とチェルニンは悲しい結論に達した。11 週末に行われたその後の謁見では、サゾノフの（オーストリアへの）同情はすぐに消え去っていた。 サゾノフが、セルビアに対するオーストリアのマスコミの「攻撃」がロシア国内で「不穏な苛立ち」を引き起こしているとチェルニンに警告した後、チェルニンは、オーストリア＝ハンガリー政府が実際にセルビア領土に犯罪捜査を持ち込むことで（ロシアに）救済を求める可能性があるとサゾノフに伝えた。 これを聞いたサゾノフは「彼の発言を止め」、激しい攻撃を繰り出した。「外国の領土で行われた非道行為によってロシアほど苦しむ国はない」とロシア人はチェルニンに語った。「我々は、貴社の新聞がセルビアを脅迫する手法をどこかの国に対して採用したと主張したことがあっただろうか？」（c.f.McMeekin The RUSSION ORIGINS of the First World War Chapter 1 The Strategic Imperative in 1914 p49～） オーストリア人に自分の主張を確実に理解してもらうために、サゾノフは聴衆に、「その道に進入するな。危険ですぞ。」という淡いベールに包まれた脅迫で聴衆を締めくくった。’12 p57 サラエボ事件直後、サゾノフはドイツ大使フリードリッヒ・プルタレスとさらに率直に話した。プルタレスが7月13日にベルリンに報告したように、サゾノフは「セルビアに対する行き過ぎを許したオーストリア当局の行動を非難するのに十分な言葉を見つけることができず、犯罪の非難についてはほんの少しだけ述べた。そして（セルビアに対する）民衆の怒りを意図的に自由にさせた」。 サゾノフは、殺人事件が何らかの「汎セルビアの陰謀」によって引き起こされた可能性を真っ向から否定した。むしろ、それはボスニア・ヘルツェゴビナの「少数の無神経な若者」の仕業であり、サゾノフは、この地域では「少数のイスラム教徒とカトリック教徒だけが（オーストリア・ハンガリーに）忠誠を誓っていた」と一見矛盾したように主張した。 セルビア政府は単に無実であるだけでなく、「完全な正しさ」を持って行動していた。 プルタレスが、帝政ロシアのような国にとって君主制の原則の重要性と、それがサラエボのような王室暗殺によってどのように脅かされているかをサゾノフに思い出させることで、おなじみの論点を勝ち取ろうとしたとき、彼は、「サゾノフはこの発言に同意せざるを得なかったが、（この件に関して）私がいつも感じるほどの温かさはなかった」と述べた。 プルタレスは、殺害されたハプスブルク家の後継者に対するサゾノフ氏の非同情的な発言を解釈し、その敵対的な口調は「大臣のオーストリア＝ハンガリーに対する相容れない憎悪、ここでの明確で冷静な判断をますます曇らせている憎しみ」によってしか説明できないと語った。 全体として、ウィーンに対するロシア政府関係者の態度は「現地に蔓延する状況に対する際限のない軽蔑」の一つであるとプルタレスは結論づけた。 ドイツ大使プルタレスはさらに、「報道だけでなく社会でも、殺害された大公に対するほとんど非友好的な判断しか見られない」と述べた。もしプルタレスの主張が正しければ、サゾノフは民衆の反オーストリアの憤りの波に乗って、ウィーンでのベルヒトルトと同じくらい劇的に戦争党に揺り動かされたように見えた[13]。 p58 敵対国の大使からのものであり、記述とされる会話からほぼ2週間後に書かれたものであるため、1914年7月13日のプルタレスの派遣は、サラエボ事件に対するロシアの反応に関する偏った信頼性の低い報告として簡単に却下されるだろう。 ドイツ大使自身の恐れや懸念を通して濾過されたものは、そのような派遣がロシア人が実際に何を考えていたかを我々に伝えることができないのと同様に、サゾノフが本当に言ったことを正確に表現していない可能性がある。 サゾノフや他の当局者がサラエボ後に何を言ったのか、あるいは言わなかったのかはともかく、我々は依然として彼らの行動に基づいてロシアの意図を描くかもしれない。行動は言葉よりも雄弁であり、暗殺のニュースを聞いたロシアの行動は決定的であった。 オーストリアがサラエボでの犯罪を捜査する中、セルビア政府が「完全に正しく」行動していたかどうかにかかわらず、パシッチは最悪の事態に備えていた。 1914年2月以来、パシッチはバルカン戦争で枯渇した在庫を補充するための武器と物資を、ますます必死になってサンクトペテルブルクに訴えていた。ライフル、大砲、弾薬とは別に、セルビア軍は25万人の兵士のための衣類と「電信」、 電話と 4 つの無線局を必要としていた。サゾノフは3月には好意的な反応を示していたが、ロシア軍から必要な物資を奪うことを望まなかった帝国陸軍大臣V・A・スホムリノフによって却下された。 大公殺害計画がベオグラードから開始された6月初旬までに、パシッチの武器要求は熱狂的なものとなった。サラエボ事件から2日後の6月30日、ついに参謀本部は皇帝ニコライ2世の圧力を受けて、1億2,000万発の三線式小銃12万挺をセルビアに派遣することを承認した。14 p59 同日、サゾノフはロシア海軍大臣I.K.グリゴレヴィチに対し、ロシア黒海艦隊の臨戦態勢に関する情報を求める「極秘かつ緊急の」要請を送った。 このリクエストの背景と内容は重要であった。具体的には、外務大臣は、1914 年 2 月 8/21 日にサンクトペテルブルクで開催された戦争計画会議（ロシアの主要な将軍、提督、外交官の集まりで、サゾノフ自身が議長を務めた）で命令された措置を実行するために、これまでに何が行われたのかを知りたがっていた。 2月の軍評議会は当初、リマン事件をめぐる国際的緊張が最高潮に達していた1913年12月末に召集されたが、以前海軍参謀議長を務めていた重要なA・A・リーヴェン提督の病気のため、会議は2月下旬まで延期されていた。（McMeekin The RUSSION ORIGINS of the First World War Chapter 1 The Strategic Imperative in 1914 p33参照） 1914年1月13日、サゾノフは閣僚評議会の緊急会議を招集し、そこでクリヴォシェイン率いる戦争党は、リマンと海峡問題をめぐって欧州紛争を引き起こそうとする考えについて赤裸々に議論した。 ある時、当時の閣僚評議会議長V・N・ココフツォフ（平和主義者）は、ロシア陸軍大臣に「ドイツとの戦争は望ましいのか、ロシアは戦争を遂行できるのか」と単刀直入に質問した。スホムリノフはためらうことなく「ロシアはオーストリアとの決闘については言うまでもなく、ドイツとの決闘に向けて完璧に準備を整えていた」と答えると、次にココフツォフはイギリスとフランスがロシアを支援するかどうかをサゾノフに尋ねた。 サゾノフは、出発するフランス大使のテオフィル・デルカセが「フランスはロシアの望み通りに行くだろう」と言っていたと答えた。英国がロシアに代わって介入することについては、個人的には自信があるが、確信は持てず、保証できないと述べた。 サゾノフは戦争推進派に傾いていたが、いつものように強い立場を取ることは拒否していたが、ココフツォフは（軍事）介入の考えに拒否権を発動するのに十分な政治的隠れ蓑を持っていた。さらに、ロシアが海峡問題で戦争の危険を冒すのは、「共同措置におけるフランスとイギリス両国の積極的参加が確実である場合のみである」という旨の決議を出していた（McMeekin The RUSSION ORIGINS of the First World War Chapter 1 The Strategic Imperative in 1914 p32参照）。15 p60 2月21日に戦争計画会議が召集されるまでに、リマン事件によってもたらされた差し迫った危険は去っていた。しかし、特に1月の閣僚評議会の緊急会議において、戦争党派を阻止したココフツォフが2月12日に失脚し、クリヴォシェインの手先と広く見られていたる年配の看板人物I・L・ゴレミキンが後任に就いていたことからも、議事には依然として戦略的な緊迫感があった。 会議の主題の見出しにあったように、ロシアは「近い将来にでも海峡問題が明らかになる可能性」を考慮しなければならなかった。 もちろん、海峡問題がどのようにして解決されるのか正確には誰も知らなかったが、いつかは問題が解決されることになり、ロシアはその準備ができていなければならなかった。16 サゾーノフが回想録の中で回想しているように、出席者全員が「ヨーロッパ戦争が勃発した場合、コンスタンティノープルに対する攻撃は避けられないと考えていた。」 この目的を達成するために、サゾノフ、スコムリノフ、グリゴレヴィチは、戦争の場合にロシアがコンスタンティノープルとオスマン海峡を占領できるよう準備するための詳細な計画を作成した。 この計画は、黒海沿岸で利用可能な水陸両用部隊の拡大を対象としていた。すなわち、オデッサ軍管区での砲兵訓練の強化、ボスポラス海峡に軍隊が上陸できる初日が動員日（M）10からM5に加速される動員スケジュールの加速、黒海での弩級戦艦の建設（または突然の輸入）の加速、黒海にはロシアは現在一隻も保有していなかった（トルコ向けに特注で製造された英国の最新鋭弩級戦艦 2 隻が間もなくコンスタンティノープルに到着する予定であり、最初の戦艦は 1914 年 7 月であった）。そして最後に、コーカサス地方の鉄道をトルコとアナトリアの国境まで延長した。 5月と6月、サゾノフはロンドンのロシア大使を通じて、イギリスの弩級戦艦のトルコへの輸送を阻止するために必死の後衛作戦を戦ったが、拒否されただけだった。時間がなくなってきた。サラエボからそのニュースを知ったサゾノフはグリゴレヴィッチに、ロシアの黒海弩級戦艦がどれくらいで準備が整うのか教えてほしいと頼んだ。さらに緊急なこととして、彼は2月に命令された措置に従って、最初のロシア軍が動員から「4、5日」以内にボスポラス海峡に上陸できるかどうかを知りたかった。.17 p61 サゾノフがドイツ大使に抗議したことから、フランツ・フェルディナンド大公暗殺計画にセルビア（政府）は無関係だと本気で信じていたのかもしれない。 しかし、彼はこのニュースがどれほど深刻であるかを明らかに認識しており、オーストリア＝ハンガリーが激しく反発するだろうと予想していたようだ。 ロシアはベオグラードに武器を送ることで、オーストリア＝ハンガリーとの戦争に向けて同盟国の準備を整えていた。黒海艦隊の準備を整えることで、サゾノフはヨーロッパ戦争に備えていた。ロシアの主要な戦略目標はコンスタンティノープルと海峡を占領することであった。 ハプスブルク家の外相ベルヒトルトが、弱いという彼の評判にもかかわらず、ハンガリー首相ティサが懸念していたように、セルビアとの「決算」の口実としてサラエボを利用するつもりだったとすれば、窮地に陥ったサゾノフも静かにベルヒトルトの挑戦の側に立ち上がったことだろう。外交対決の舞台は整いつつあった。 |