| MEDIEVAL MUSIC
第１2章 |
| ｐ314(284) ＣＨＡＰＴＥＲ ＸⅡ Sｅｃｕlar Ｍｏｎｏpｈｏｎｉｃ ＳｏｎｇⅡ The Music of the Trouveres トロバドールたちの排他的固有性が残っていた母国語の歌ははなはだ奇妙であった。われわれは、彼らのレパートリーが他の国や言語の模倣や相克を煽る速度に驚く。いくつかの要素がこうした驚異的な発展に寄与している。十字軍の文化的影響はおそらく、過大評価されているが、彼らが南フランスのより都市化した生活に接していた英国や北フランスやドイツの粗野な男たちを連れてきたことは疑いない。 トロバドールの拡大のより重要なことは、トロバドールたち自身の移動である。スペインのキリスト教の王や北イタリアのさまざまな宮廷、そして北フランスにおいてさえ、彼らの多くはパトロンを見つけている。他の者達は、宮廷から宮廷へと渡り歩き、時にはジョングールたちと一緒に歌ったりもした。ジョングールの独立した活動は、世俗歌のすばやい成長や伝播において、もっとも重要な要素であると考えねばならない。 たえず動き回り、彼らは最新のニュースや歌を西ヨーロッパの宮廷にもたらしていた。彼らの影響力を測るのは不可能であるが、「ジョングールたちがフランスの社会的統一を促すように南北を結びつけたもっとも初期の影響力があったことを否定する理由はない。 より高いレベルにおいて、貴族同士の結婚は、フランスの社会統一を促し、そしてトロバドールの歌の拡散に貢献した。おそらく、このような結婚のうちでもっとも影響力が高いのは、Eleanor of Aquitaine(c.1122-1204)とフランスのルイ７世の結婚であっただろう。エレアノールは、最初のトロバドール、ウィリアム９世、アキテーヌ公爵の孫であった。彼女の父親、ウィリアム１０世はトロバドールではなかったが、Marcabruを含む、トロバドールたちの庇護はしており、エレアノールが伝統とのめりこみによってトロバドールたちのパトロンになるきっかけを作った。 エレアノールとルイは1137年に結婚し、ルイはその年に、フランス王となった。ルイは明らかに、南フランスで行われていたような宮廷の愛のゲームには無関心であった。とにかく彼の妻、エレアノールの奔放さにより、両者は1152年には離婚してしまった。エレアノールはすぐに、アンジュー伯アンリと再婚した。彼はすでに、ノルマンディ公であり、2年後には英国のヘンリー２世となった。 有名なトロバドール、Bernarte de Ventadornは、エレアノールの宮廷にいた。その頃彼女は、ノルマンディ公の公爵夫人であり、しばらくの間、英国に出かけていた。Bernarte de Ventadornもまた、ノルマンディ公の宮廷にしばらくいたが、後に英国王との関係を築き、詩よりも政治に興味を持つようになった。 エレアノールは、世俗歌に対する彼女の熱情を、子供に託した。彼女のもっとも有名な息子こそ、至上有名な、獅子心王リチャードである。ある物語によれば、Blondel de Nesleは、リチャード王が幽閉されていた城の外で、リチャードの歌のひとつを歌うことによって、彼の所在を発見した。この物語は単なる伝説ではあるが、しかしリチャードは平凡なものではあったが、歌も作った。 より重要なことは、エレアノールの2人の娘、マリーとＡｅｌｉｓの活動である。彼女らはそれぞれ、シャンパーニュとブロアの公爵夫人となった。Ａｅｌｉｓは、詩人Gautier d'Arrasを庇護したと言われている。しかし、シャンパーニュの宮廷で初期のトロヴェールの歌を庇護したのはマリーの方だった。マリーのお気に入りの詩人だったChretien de Troyesは、もともとはverseにおける騎士的ロマンの作者であったが、アルザス地方を基盤にしていた。おそらくはマリーの提案により、Chretienは、オイル語でトロバドールの詩の形式と精神をものにしていった。フランス語ソングのいくつかのコレクション、それはシャンソン集と呼ばれるが、宮廷のラブソングの半ダースは彼の作と言われている。ただし、その信憑性は定かではない。 マリーが庇護した他の詩人は若いトロヴェールであったConon de BethuneとＧａｃｅ Ｂｒｕｌｅであった。シャンパーニュの宮廷はそれゆえ、１２世紀の最後の30年ほどの北フランスの中では、詩人の活動が高い、もっとも栄えた中心地であった。１３世紀の最初の５０年ほどは、その中心地は、後にナヴァーラの国王になったマリーの孫のThibout,のようなもっとも有能かつ多作のトロヴェールを産出した。 北東フランスの最初の華やかさの後、トロヴェールたちの芸術はすぐに、オイル語が話されていた場所で、その実践者を見つけた。アルビジョワ十字軍によって南部でその活動性を立たれていた トロヴェールたちは、世俗ソングの発展の旗振り役となった。異なった社会状況への変化の結果、意図せざる道が発展した。 北フランスにおいては、南フランス同様、抒情詩や歌が貴族芸術として始まった。初期のトロヴェールたちの多くは、南部の相対者同様、卑しい出身であったが、こうした男たちが歌うことによって、そのパトロンや聴衆になったのが、宮廷の高貴さであった。 １３世紀初期のこうした状況に変化が起きた。都市の繁栄は、ブルジョワの間の世俗ソングの新たな創造者、消費者を生み出した。13世紀の最初の５０年間、多くのトロヴェールたちが、高貴なメンバーの仲間入りをした。同時にしかし、トロヴェールたちは大学卒となり、聖職者の仲間にもなった。こうした男たちの幾人かは、北フランスのアラス教区に所属した。そこは13世紀後半の、トロヴェールの活動の最後の中心地となった。 13世紀の後半は、数少ない貴族的なトロヴェールも産出していたが、大部分はギルドを確立したブルジョワメンバーであり、さまざまな北フランスの町の詩人や歌い手のbrotherhoodであった。こうしたbrotherhoodは、puysとして知られる集会となった。そこでは王子が、もっとも良質な新しい歌を選ぶためのコンテストを主催していた。Pｕy d' Ａrrａsは、特に有名であった。そしてわれわれは、brotherhoodのメンバーがリスト化され、彼らの死の年月日のある登録の記録についてわかるのである。 その名が私たちにもよく知られている多くのトロヴェールたちのうちで、二人が重要である。一人がJehan Bretel(d.1272)で、Pｕy d' Ａrrａsの王子であった。彼は、４０以上の歌を遺した。もう一人は有名なAdam de la Hale(d.1288)で、より多作であった。彼が有名なのは、中世音楽の研究で有名なEdmond de Coussemakerが、１９世紀後半に、彼の全作品集を出版したからである。 トロヴェールの貴族からブルジョワ仲間への活動拠点の移行は、フランスにおける世俗モノフォニックソングの最終段階として注目される。Adam de la Haleはしたがって、最後のトロヴェールと呼ばれている。さらなる世俗ソングの発展は、ポリフォニー音楽の歴史に属するが、Ａｄａｍは、我々が見るとおり、その方向への最初のステップを進んだのである。 トロヴェールの歌のすべてのレパートリーは注意深く受け取らなければならず、完璧な研究は、トロバドールたちのメロディに依っている。音楽資料の巨大な量からのこうした状況の結果は、保存されている。正確な数を言うのは不可能であるが、とにかく多くのシャンソン集はおよそ2400の詩と1700のメロディを含んでいる。こうした資料の多くは有用ではあるが、近代の出版は特殊なレパートリーに集中している。 こうした理由のために、さまざまな歌の形式や型式の相対的重要性を評価するのは困難である。音楽形式としての一般化は、概して、レパートリーの不完全な知識に頼らなければならない。トロバドールの音楽について多く言われていることは、トロヴェールの歌にもほぼ当てはまる。ここれわれわれは、北の作曲家たちが詩の型式や音楽の形式に置いた異なった強調について、記してみる必要があるだろう。 CHANSON DE GESTE AND RELATED TYPES 北フランスの母国語の歌は、南のトロバドールの場合もそうであったように、トロヴェールとともに突然現れたわけではない。１０世紀以降、オイル語の書き手はchansons de gest(武勲詩）として知られる詩を作るようになった。そのもっとも有名なもののひとつがChanson de Rolandである。 chansons de gestは抒情詩というよりはむしろ叙事詩であるが、それらはハープやヴィエールの伴奏で歌われたことは明らかである。詩と歌のこうした伝統は、トロバドールが特に貢献した抒情詩の型式や形式を採用したトロヴェールにとっては、疑いなく、やりやすいものであった。北の詩人はchansons de gestを忘れることがなかったが、むしろ彼らは南の相方たち（トロバドール）以上にこの詩型を発展させた。 chansons de gestは通常、不規則な長さのスタンザあるいは１０シラブルで構成されるlaissesからなり、それぞれのlaissesは、パラグラフのように、それ自身、ひとつの思想や事件にのみ関与し、韻や類韻の使用を通して、統一されている。ごく少数の詩においては、より短い最終行がそれぞれのlaisseの終止を記している。このように作られた詩は数百、数千行に上るが、明らかに単純で採用しやすい音楽素材を要求していた。素材はこのように単純そうに見えるが、実際には、このようなメロディを伴うchansons de gestを保存する写本は存在しない。 しかしながら、最近の意見は、少数の、おそらくは３つほどのメロディの定式やフレーズ―おそらくは異なった機能を持ち、テキストの構造や感覚に従って分配されたーを提案していることに注目すべきだろう。その結果は明らかに、高度に繰り返しをする形式となり、詩が分割されたlaisseとともに相当する音楽ユニットの創造を許可することになるだろう。 重要なことは、提案されたchansons de gestの音楽schemeが、関連した詩型内でより後の展開に従っていたことである。これからわれわれは、chansons de gestをその音楽的祖先に含めることであろう。 LAIS AND DEACORTS 物語詩のより古い形式に関連した歌については、以前の章で、laiとdescortについて簡潔に記した。laiの始まりははっきりせず、論争の的となっている。おそらくはもっとも一般的な理論はそれがケルト語起源で、ブルターニュ地方あるいはアングロ族とノルマン族の接触を通してフランスやってきたのであろうということである。 laisを書いた最初のフランス人詩人の一人は、彼女がヘンリー2世やエレアノールの宮廷に属していたこと以外、ほとんど知られていない。Marie de Frqnceのlaiは、物語詩であり、ロマンであり、その 素材はアーサー王の物語や円卓の騎士から取られている。押印した二組で書かれ、これらの詩は明らかに歌われてはいなかった。歌われることを意図したｌaiの夜明け前には、物語のテキストは、愛の無尽蔵な主題のかなりの長さの抒情詩の噴出の道を与え始めた。 わずかなlaisは、処女マリアを主体とした宗教的主題を取り扱っている。しかし、大部分のテキストにおいて詩人は、報われない愛に未練のある女性に対して苦情をぶちまけるようになっている。それは、このような「感情的不一致」,あるいはトロバドール（２８のdescourtと４つのlaisを遺した）の間でdescortと名づけられた人気の説明となる諍いである。 32の詩のうちわずかに４つだけが、音楽がつけられている。トロヴェールの間では、状況が異なる。ここでわれわれは、１２～１３世紀の間でフランス語の歌詞を持つ３０のメロディを見出す。そのうちの９つがdescortsであり、１３がlaisである。その他はその形式的構造にそれぞれ属する。 すでに述べたように、それは、laisとdescortsをその他のトロバドールあるいはトロヴェールの歌から区別するひとつの詩のうちの異なったスタンザの形式の使用である。ここではlaiという言葉を、この分野を代表する一般名として使いたい。 laisは12世紀後期から13世紀にかけて、あらゆる構造において変化をするべく期待されていた。スタンザの数も、それぞれのスタンザ内の行の数も固定されてはいなかった。スタンザは４から５６行の長さまであり、８～１６行のスタンザが多かったが、平均するとだいたい２０～２５行程度であった。 当時の抒情詩のあらゆる型式として、７～８シラブルの行が支配的であったが、laiの特殊な形式はしばしば３～６シラブルの短い行にある。さらに、別の変化は、laiのスタンザの間の形式的な”discord"の程度からの結果であった。 いくつかの詩においては、スタンザは異なった詩の形式を持っていた。他のものは、連続してあるいは詩の間にばら撒かれた２ないしそれ以上のスタンザが同形であった。14世紀においては、laiの形式はある程度標準化され、それは１２のスタンザから成り立つようになっていた。最初と最後は構造的に同一であり、同じメロディが歌われた。いくつかのより早期のlaisは、こうした発展を予言しているが、13世紀の高度に不規則な詩における１２スタンザを見つける研究では、必ずしもそれを確信するまでには至っていない。 laiのメロディは、その詩の構造の変異を反映している。にもかかわらず、一般的な構造は、異なったスタンザ形式と関係する展開を示し、laisにその独特の音楽的正確を付与する。この性質を研究する手始めとして、写本がメロディを保存するふたつのやり方について見ておきたい。概して、書記たちは、テキスト全体に対してメロディを転写する。少数のケースではしかしながら、テキストの一部のみが音楽をつけられている。明らかに、記譜されたフレーズは、同じ詩の構造とともに、付随する行やスタンザに従う意味合いがある。 歴史的な観点からすれば、不完全に記譜されたlaisは、特に興味深く、示唆的である。メロディの繰り返しパターンについては異なった意見もあるかもしれないが、われわれはlaiの音楽的起源や物語歌の他の型式との関係についてよく扱うことができるだろう。 もっとも明らかな特殊に記譜されたlaisの性質は、かなりの長さのテキストのためのメロディの定式の少ない数の使用である。簡単なシラビック様式と、異なったlaisにおける同様なあるいは同一の定式の再現は、グループの全ての数によって示される族の類似性にさらに寄与する。こうした性質の定式の再現は、特に、記譜されたlaisがメロディの古いfundをひきずることを示唆する。そのメロディはさまざまな詩の形式に採用され、作曲家や演奏家による自由裁量によって変形させられたのである。 こうした仮説の可能性の増大は、特に記譜されたlaisが形式のもっとも古い例に属している、という事実である。ただし、Ernoul de Gastinoisによる2作品は例外である。Ernoulについてはほとんど知られていないが、彼は13世紀前半に活躍していた。Ernoulの２つのlaisの主題は不敬というよりも敬虔であるが、それらは忠実に、より古い世俗形式の詩や音楽の構造の性格を反映していた。 Ernoul de Gastinois作のLai de Notre Dameの第１スタンザは、音楽素材の最小に対して、長いテキストを歌うやり方を説明している。テキストの２６の行に対して、わずか2つの基本的定式しかない。しかし、第２定式の少しの精緻化は、スタンザをふたつの不等な部分に分割する。写本のソースは、Example１２－１のカギかっこ内で閉じられた行に対するメロディは供給していない。 にもかかわらず、スタンザの音楽形式はab ab ab ab bbbbbb' ab ab ab ab bbbb'となることは明らかである。chansons de gestに対して与えられたこの形式と過程の間の関係は、自明である。  laiの親子関係発見のために、学者らは、それは典礼的セクエンツィアの世俗的な相方に当たる、と主張した。だが、13世紀のlaiとほとんどヒムのような同時代のセクエンツィアテキストの規則性との間には、何ら関係はないように見える。laiの全体の構造が14世紀にはいくぶん標準化されてさえ、両者の相違はより目立っているのである。 より古いlaiは、二重のcursusを持つセクエンツィアとして知られた特殊形式に結びついた構造過程を用いている。もっとも明らかで拡大した二重cursus原理の適用は、Lai de l'Ancien et du Nouvequ Testamentにおいて見られる。これは、Ernoul de Gastinois作の２番目のものである。 より古いlaiの様式からの決別は１３世紀の作曲家のいくつかの作品から生まれている。１つあるいは２つの連続した繰り返しはなくなり、メロディの貧困さは、より拡がった、叙情的なフレーズに進展した。個々のフレーズと全体のメロディは、より広い範囲をカバーし、ひとつのシラブル当たり２ないし４つの音符で、より多くの装飾部分を含むようになっている。こうした発展とともに、laiはその古風な人気のある特性を失い、当代のトロヴェールソングのより洗練された様式に近づいていった。 OTHER NARRAIVE SONGS おそらくは、chansons de gestの持続的影響の下で、北の詩人たちは、トロバドール以上に物語歌を発展させた。フランス語のpastourelleは、トロバドールのpastorelaと同じ伝統に従い、しかしたびたび、試みの誘惑よりも粗野なマナーや慣習の描写より強調した。Jehan Erarsによるpastourelleにおいては、騎士と羊飼いの娘たちとの間のコントラストがまったくなくなっている。 もうひとつの物語風ドラマ風詩の型式においては、基本的なキャラは、苦情をぶちまける女性である。恋人のいない寂しさ、夫がいる苦労、あるいは自身が選んだ結婚相手との結婚の際の彼女の両親の頑固さ、といったものである。 この手の詩は、chansons de toileとして知られている。ときには”紡ぎ歌”と誤訳されることもある。女性が糸を紡いでいる時に、不平不満を声に出すのは当然としても、彼女が読書をしていたり、単純に何もしていない時でもそのような声は出てくるかもしれない。中世には、現代のように、toileという言葉には、いくつかの意味合いがあった。一般的には、それは編まれた織物を意味していた。しかし、それはまた、特に、タペストリーに描かれた場面を示すこともできた。今日、とりわけ、toileは絵が描かれた服、あるいは絵を描くことそのものを差す。英語でいうcanvasという言葉のように。 正しさ、特にエレガントさ、chansons de toileの翻訳はそれゆえ、通常、女性が自身を場面に描き始めるような”picture song"となるべきであろう。ひとつの分野として、chansons de toileは、１３世紀初期までには、絶滅したのである。 もうひとつの傍系的子孫は、女性の悲しみが、年老いた嫉妬深い夫との結婚から沸き起こるmal mariee(ill-mated wife)の歌であるかもしれない。１３世紀後半、たまたま、mal marieeは、フランスの文学と歌の格好のテーマとなっていたのである。 chansons de toileは明らかに、フランス語抒情詩のもっとも古い形式である。そして、それとさらに古いchansons de gestの間の類似性は、たびたび注目されている。たとえば、En un vergierのそれぞれのスタンザは、同じ韻を踏み、１０シラブル行のうちの４行すべてが同じメロディを用いている。第４行でのcadenceのみが、各スタンザを決定づける２行のrefrainを導入するために変えられている。音楽形式の結果は、aaaa'BCとなるが、これは初歩的なものであり、メロディ様式はさらに、他の物語風歌においてはより精緻となる。  もうひとつの作者不明のchansons de toileであるBele Doetteは、華やかに表現された作品である。（ＡＭＭ Ｎｏ．４４）。ことにrefrainは、女性の個人的悲しみを表現している。この装飾部分を省いて考えれば、Bele Doetteは、ababCの比較的単純な形式となる。スタンザの中心の２つのフレーズの使用と、第３の、refrainを決定付けるフレーズは、ErnoulのLai de Notre Dameの第１フレーズの構造的展開を思い起こさせる。 おそらくは、おのおののスタンザやlaisseにおけるその独特のフレーズは、テキストの繰り返しや、物語風歌のrefrainの導入を示唆している。 ダンスソングやその他の人気のある民謡音楽のほかの種類はまた、refrainの使用をほのめかし、より文学的な形式で見られるrefrainのいくつかを供給する。 refarinの起源がどうあれ、それらはまたフランス語のpastourelleにおいて、重要な働きをする。おそらくはその主題のために、トロヴェールたちはいつも、高い繰り返し形式において、単純な様式でpastourellesを書いていた。Jehan ErarsのAu tems pascorは、その特徴的例である。（ＡＭＭ Ｎｏ４５）。その詩と音楽形式は以下のようである。  これと他のpastourellesの単純性が民謡の利用による結果なのか、洗練されたパロディの結果なのかは、まだ疑問の域を出ない。しかし、pastourellesは、貴族、あるいはブルジョワや素朴なマナーでファンを喜ばす聴衆のために意図されたものである。こうした聴衆のために、作曲者たちは、人気歌の直接の引用よりもむしろ、技術的な模倣に誇りを持っていた。Au tems pascorのメロディの作成は、とにかく、うるさい状態で終わるような素朴なパーティーの描写のために適した有名な音楽を作り上げたのである。 REFRAINS refrainは、chansons de toileやpastourellesといった物語風歌においては、共通したものであるが、スタンザ形式のさまざまな他の詩のタイプにもまた現れる。refrainの創造はテキストの繰り返しとなる。しかし、音楽家にとっては、refrainのメロディと他のスタンザ部分の関係こそが、関心があった。Bele Doette とEn un vergierにおいては、refrainは新しいメロディを作っている。Au tems pascorのrefrainは他方、当初のフレーズのメロディを繰り返している。 このようなスタンザの形からの素材の繰り返しは、分類不能な多くの形式を作り出す。ある書き手はrotrouenges歌と命名する。それは、最後のフレーズのメロディやスタンザのフレーズもまたrefrainを提供している。この使用法は、いくぶん不安定な証拠しかない。なぜなら、この用語は宮廷での使用はなくフランス語歌のゆるやかな命名として始まっているからである。 詩にしても音楽にしても、統一した形式はなく、我々が言うことができる多くは、rotrouengesは通常、古い詩の構造の単純さを伴うrefrainと結合していた、ということである。 rotrouengesと呼ばれるものの後の例は、１３世紀後半のＰｕｙ ｄ’ＡｒｒａｓのメンバーであるGillebert De BernevilleによるDe moi dolereous vos chant AMM No.46である。 この歌のスタンザ形式は、refrainを伴い、 a7a7a7b3B3となる。その音楽形式は、簡単には描きがたい。オープニングフレーズは、第２行も繰り返しとなる。その後新しいフレーズbが現れ、さらに３つの音符の動機ｃでひとつのスタンザを作っている。refrainはスタンザの最後の８シラブルの音符で形成されている。しかし、それは異なったフレーズ構造である。それゆえに、スタンザとrefrainとの間の音楽的関係は、実際よりも単純になる。 動機ｃもまた、フレーズｂの最初の３つの音符である。そしてそれゆえ、スタンザのメロディの終わりの機能とｂとｃの繰り返しの最初という、二重の機能を持っていることになる。こうしたオーバーラップした繰り返しの精緻性は、Gillebertがブルースを歌う単純さを覆い隠すことになる。 ソリストがスタンザの前半部分を歌ったあとに、聴衆がrefrainを一緒に歌ったであろうと言われている。聴衆の参加はダンスソングでは普通のことであったが、こうしたchansons de toileではめったになかった。そこでは、refrainは通常、非常に個人的な感情を表現していた。 chansons avec des refrainsとして知られる歌においてもまた、それはあり得ない。こうした歌は擁護の通常の意味におけるひとつのrefrainは持っていない。その代わり、それぞれのスタンザは、よく知られた歌から取られた異なったrefrainとともに終わっている。 作曲者たちははっきりと、聴衆がfamiliar quatationを認めることと、こうした導入の独創性を認めることを期待していた。聴衆は、これらのrefrainがどのようなものであるかを予め知らなかった時に、彼らがrefrainを歌うことはおそらく期待はしていなかた。 引用したrefrainの実践は、１３世紀から１４世紀初期にかけて、ひろく広まった。ほとんどこの時期を他の時期から区別するほどであった。中世文学者たちは、長い間、この実践の存在を認めてきた。1904年、Alfred Jeanroyは５４のシャンソンを「テキストとは無関係のrefrain」としてリスト化した。これらの多くはpastourellesであったが、他のタイプの歌は、chansons d'amourを含んでいた。明らかに13世紀に属する歌のすべてあるいは大部分は、Arrasのトロヴェールの後の世代や、北フランスの他の町で作られた。作曲家は概して、foreign refrainを導入するために同じ一般的手順を踏んでいた。歌のすべてのスタンザは、refrainの韻を導入するための追加の行であるそれぞれの終止を除けば、同じ詩型である。いくつかのケースでは、追加の行はまた、refrainのメロディを予見させるような別のメロディとなっていた。  Penser ne doit vilenie AMM No.47は、foreign refrainがシャンソンの主要部位に関係する性質を持っている。すべての４つのスタンザは同じ韻を踏み、それは最初の７行が、 a'ba'bba'a'となっている。それぞれのスタンザの第８行は、最後の行のrefrainを導くようになっている。トロバドールの詩に共通した工夫を凝らしながら、詩人はさらに、次のスタンザの始まりにつなげる最後の言葉をrefrainのテキストで統合している。 詩における音楽の設定は、いくぶん、異なっている。最初の８行はaa'aa'bcaa'となっている。さらに加えて、フレーズa'は、最初のrefrainの終止部分に再度現れる。2回目のrefrainでは、この部分で最初の2音が欠如する。 3番目のrefrainのメロディは、こうした状況とは無関係である。そのオープニングフレーズは最初のrefrainに似ているが、最終的には、驚くべきことにド音となり、概して期待を抱かせるであろう終止に対して4度も上となる。 Penser ne doit の第４スタンザは、問題がある。なぜなら写本では、そのrefrainのメロディが欠けているからである。そのために、他の写本での同じrefrainからの３つの引用がなされている。しかし、こうしたやり方は、正しい解決法ではない。 すべての３つのバージョンはAMM No.47で示されている。最初の２つは3番目のrefrainとよく似ている。ことに、最初と終止において。それぞれはそれゆえ、Penser ne doit で引用された最初の２つに合致する、関係したrefrainのメロディの第２のペアを現出することになる。 こうしたことは、我々が第４のrefrainの正しいメロディを発見したことを証明しているように見える。無論我々は、依然として、どのように校訂transpositionをするべきかはわからないのであるが。 ド音で終わる（3番目の）バージョンは、人騒がせだった第３refrainのカデンツを追認しており、（やはりド音で終止することにより）２つのメロディを強調している。他方において、ソ音でのtranspositionは、第３，４refrainの間の類似性を壊すことなく、期待される終止へと導くことになる。 どのような解決法が意図されていたのかは、常に我々があずかり知らぬところである。シャンソンと最初の２つのrefrainの間の音楽の関係が、それらのオリジナルなメロディの変形なのか、あるいはシャンソンのメロディ構築においてもともと存在していたフレーズを丁寧に用いた結果なのか、についてもまたわからないところである。 その他の資料は、完全に異なったメロディを持つ両refrainを引用しているが、我々はそれゆえ、作曲家はPenser ne doit に対する彼のメロディに関係する責任があったと考えるべきなのであろう。 引用したrefrainの実践がトロヴェールの歌の限界を超えて拡がったことはすでに明らかになっている。Penser ne doit における全部で４つのrefrainは、異なったモテットにもまた現れてきている。13世紀のポリフォニーの支配的な形式として、モテットとそこにおけるrefrainの頻繁の引用については第１４章で議論される。ここで我々は、単に、モテットがrefrainのメロディの主要な資料であったことに注目していればよい。こうしたメロディのオリジナルな形式がどの程度transmitされたかについては、いろいろ疑問が残っている。 13世紀の詩人が引用したrefrainのテキストに関しては、ほとんど知られていない。いくつかは物語風歌から、特にpastourellesから、しかし大部分はあきらかに、ダンスや大衆的人気のある別の歌からであろう。 こうしたrefrainが保存されている完全なテキストはほとんど存在しない。かくも多くの作品が失われたことを後悔するようなことはほとんどない。ダンスソングの詩も音楽もとくに独自性があるわけではない。テキストにある慣習的定式や決まり文句は、メロディ化とは無関係に、短く、繰り返す傾向が強い。 多くの歌にとって、refrainは、テキストの他の行が歌われた全体のメロディを含んでいる。にもかかわらず、13世紀のダンスソングは、重要な歴史的地位を占めている。 ロンドー、バラード、ヴィルレーといった後のフランス語詩や歌のより多くの文学的formes fixesが、こうしたものから由来している。こうした形式や関連性の初期の歴史は、混乱した状況にある。これらは実際、13世紀になって初めて”固定される”のであり、その時のトロヴェールたちの活動はすでに終了期に来ている。こうした固定された形式の確立は、単純なダンス調からポリフォニックソングへの移行期と一致している。 移行が遂行されるや、15世紀の終わりまで、３つの異なった形式がフランス語抒情詩に支配的となる。 THE RONDEAU ロンドーは、北フランスでは、carole,ronde,rondet,rondeｌ.rondeletなどとも呼ばれ、ラウンドダンスという言葉と多かれ少なかれ同義である。それは、refrainのグループ実践がダンスリーダーによって行を変えて歌われていた。 現代の使い方では、carolという言葉のもともとの意味は重要である。キリスト生誕よりもむしろ、初期のダンスソングの多くが春の回帰を喜び、May Dayのお祝いが、その起源となっている。いくつかの場合、１３世紀のラウンドダンスもやはりcaroleと呼ばれ、より一般的には、rondeの短縮である。最終的には、現在我々が用いているroudeauとなる。 多くの13世紀のロンドーは、内部にrefarinを含み、6行から成っている。後期の「固定された」形式では、refrainはまたロンドーを導入し、２つの韻を踏む8行の詩となる。第１、２行は全体がrefrainであり、第７、８行として戻ってくる。第1行はまた、第４行としても戻ってくる。 残りの行は異なったテキストを持つが、refrainとして同じ韻を踏む。（後のレパートリーでは、フランス語と英語両者とも、この形式は幾分誤った命名trioletと称される）。 こうしたロンドーの音楽設定は２フレーズのみから成る。そしてすべての行は同じ韻を持ち、同じメロディで歌われる。我々はそれゆえ、詩と音楽の形式をABaAabABと表すことができる。（大文字はrefrainを示す）。 13世紀の特徴的なロンドーは、Guillaume d'AmiensのDe ma dame vientである。  この8行ロンドーの抑制とそのメロディ様式の単純さは、さらなる発展に対する期待をあまり抱かせない。にもかかわらず作曲家たちは、その基本的構造を保持して、同時に詩の長さを拡張し、丹念な音楽設定を行った。こうした発展はしかしながら、トロヴェールの歌のみならず、１４～５世紀のポリフォニーの歌においても起こった。 THE BALLADE 我々が前章で見たように、トロバドールたちは一般的に、彼らのダンスソングをdansasあるいはbaladasと読んでいた。baladaという名前は、フランス語とイタリア語の両方で音楽用語として使われている。しかし、この言葉は、両国においては、異なった形式として使われている。 イタリア語のballataは、refrainを詩の最初に持ってきて、そのあとにそれぞれのスタンザを持ってくる。さらに、それはフランス語のvirelaiに相当する。 フランス語のballadeは、明らかにほぼ同じように始まるが、別のように展開する。、シャンソンの影響のもとに、オープニングrefrainはなくなり、aabの固定した形式を採用する。われわれはすでに、この形式を、トロバドールのいくつかのcansosにおいて見出したが、それはむしろトロヴェールに共通したシャンソンであった。 aab形式の多くのシャンソンは、通常はrefrainを持たないが、同時代のダンスソングの数少ない例からは区別される。それゆえ、こうしたシャンソンをballadesとみなすのは、間違いである。 14世紀になって初めて、バラードはより洗練されたシャンソンの形式的・様式的性質となった。移行は完全に成し遂げられ、refrainを伴うバラードは、フランス語の世俗歌のもっとも一般的な形式となった。 cansosやシャンソンの多くのスタンザと比較して、バラードの”固定した”形式は、３つのスタンザ＋envoy（使者）を持つ（ほとんどにおいてそれは音楽設定においては欠失している）だけである。 スタンザ数の減少に伴い、韻律の長さや錯綜の長さの延長が図られている。chansons d'amourから、バラードは、ペアとして最初の4行（通常ababという交代した押韻含む）の特徴的配列を借入れた。スタンザの残りは津上、３～４行からなり、refrainを含んでいる。特に一貫した韻律はない。refrainのほとんどは１行のみであるが、最後の行と同様、最後から２番目を含む場合にはいくぶん、拡張される。いくつかの場合、スタンザ自身は10行までに拡張される。こうした点から、バラードのスタンザ形式は、ロンドーのそれのようには固定はされてはいない、ということが理解される。 異なった長さのスタンザのための典型的形式を示すことは可能である。形式の最後部分に対する押韻が一般的かつ可変的であることには気をつけるべきである。  こうしたスタンザパターンから、いくつかのバラードのテキストは３セクションに分かれた音楽形式に適合するということがわかる。その最初は繰り返され、第３はrefrainとなる。ロンドー以上に、文学的音楽的形式としてのバラードの出現は、重要な14世紀の現象であった。 THE VIRELAI ３番目の固定様式、ヴィルレーは、詩と音楽のジャンルを区別するものとして認められた最後ものであった。その名前は１４世紀になるまで一般的には使われなかった。その由来やもともとの意味合いは曖昧である。vireliあるいはvirenliなどとも綴られ、ダンスに関連して、言葉は初期の詩のテキストにも現れる。 最近の意見では、vireliは”thrn her”として、virelaiは”turn them"として説明される。virlaiの綴りは、laiを反映しているのであろうが、両者は無関係である。「virelaiはturned(vire)したlaiである」という 15世紀の提案（現代においても繰り返されてはいるが）は、言葉の本来の意味と使い方が長く忘れ去られていた時に明らかになった偽りの語源論のようである。 詩と音楽の構造において、ヴィルレーは明らかに、refrainを伴う他のダンスソングに関係する。それはrefrainとともに始まる。バラードのようにスタンザは３つの部分に分けられ、３番目はrefrainのメロディを繰り返す。ヴィルレーの完全な形式は、それゆえ、AbbaA baA bba etc．となる。もしも我々がヴィルレーを、最初のスタンザの始まりがrefrainを有している点においてバラードの一種とみなすのであれば、フランス語のヴィルレーとイタリア語のバラータの同一形式がより古いフランス語のバラードやプロヴァン語のbaladasあるいはdansasから進化したものであることは、確かになるだろう。 さらなる進化においては、ヴィルレーは、通常のスタンザの数を３つに減じたバラードに従った。同じ音楽が歌われるセクションは同じ詩構造をしており、他の観点においては、詩は自由であるが、ヴィルレーの形式的パターンのみは概して固定的である。 ポリフォニックな世俗歌における固定した形式の後の優位性は、トロヴェールのレパートリーの形式の重要性を過大評価させることはない。こうしたレパートリーのはるかに大きい部分は、我々がトロバドールの遺した作品、chanson,jeux patris(debates) ,lais,descorts,pastourelles,albas(aubes)において見出す歌で構成されている。 フランス語の貢献は、chanson de toile”紡ぎ歌”やmal mariee(ill-mated wife)にも及んでいる。Adam de la a Halle(d.1288)のような後期１３世紀の作曲家の作品においてさえも、こうした類いの歌はさらに支配的である。Adamの全作品は、３４のシャンソン、１７のjeux patris、１６のrondels,そして５つのモテットを含んでいる。加えて、彼の有名なJer de Robin et Marionは、偶発的な音楽を伴ったドラマ化したpastourelleである。 より以前の作曲家たちは、トロヴェールの歌の大きな写本中には特に目立っていなかったダンスソングにさえ興味を示していなかった。 ヴィルレーとバラードは、その形式が14世紀に固定化されて初めて、発展するようになった。13世紀末においてさえ、rondelという用語は、さまざまな形式の多数をカバーしていた。Adam de la a Halleの再度の引用に関し、彼の作品の写しは、ダンスソングの差書のポリフォニックな設定がなされた１６のグループに対してLi Rondel Adanというタイトルが与えられている。 こうした作品の大部分は、その形式や韻律は完全には標準化されてはいないが、ロンドーである。作品の一つはヴィルレーの形式であり、ほかには最初にrefrainを持つバラードもある。こうした形式の分割は、ポリフォニックソングの3つのメジャーなタイプとなった。 GENERAL CHAACTERISTICS OF TROUVRERE SONG 北フランスの世俗歌は、それ自身、南からの原動力を受け取った。そして、トロバドールとトロヴェールのレパートリーは、自然と、一般的な性質を共有することとなる。だがトロヴェールはいまだにパイオニアの足跡をたどるだけの内容は有していなかった。その代わり、彼らは新しい道を踏み出し、自身の独自のクオリティでもって、その音楽を作った。多くのフランス語の歌は、プロヴァンス語のcansoの精緻で洗練されたスタイルを真似ている。 しかし多くは、フランス語に固有であると考えられる、自発的快活さや優雅な移り気さを感じさせている。テキストにおいてもっとも明白なことは、こうした形質もまた、それ自身、音楽に取り入れられているということである。 トロバドールたち以上に、トロヴェールたちは、メロディ形式の単純さや直接性を開拓した。それはほとんど民謡調の歌であった。その性質へのフォークソングの影響の結果がどの程度であるかは、決定できないが、歌のポピュラーな性質が、トロヴェールのレパートリーの多くの形質を供給したことは見て取ることができる。 chansonde gesteから物語風歌に関連して、トロヴェールの、持続的なメロディ構造よりも繰り返しへの選好があるに違いない。こうした選好を強化することは、明らかにrefrainへの好みである。その結果、形式的デザインのバランスと明瞭さはトロヴェールの歌の目立つ性質となっている。 同じ資料から由来するであろうもうひとつの性格は、単純で本質的なシラビック、メロディへの選好である。この観点では無論、トロヴェールのレパートリーはさまざまな多様性を示す。chanson de toileのBele Doetteは、表現豊かな目的のために広範囲にわたって装飾を施したひとつの極端な例である。 通常のシャンソンは、ことに初期のトロヴェールにおいて、トロバドールのcansoのようなより抑制した抽象的なやり方で、歌の装飾を使用する傾向にある。さらに極端な例では、Jehan Erars作のAu tems pascorのような完全にシラビックで、フレーズを繰り返し、音程が狭いがアウトラインがはっきりしない曲は、人気のある音を作り出す。このタイプの多くのメロディは、おそらくは、世俗歌の芸術に対するトロヴェールたちのもっとも重要で魅力的な貢献である。 多くのトロヴェールの歌の人気を作り出すリズムと音律の役割は、問題が残っている。ある学者らは、特に疑問もなく、あらゆるトロヴェールの歌に対して、3拍子の音律の適用を受け入れている。その結果、多くの場合、音楽的な満足感も歴史的正当性もなくなってしまう。 12世紀の後半のトロヴェールの第一世代が、聖なるポリフォニーの分野において発展していった韻律構成に絶えず従っていたとは、考えにくい。Bele Doette(AMM No.44)のような高度に装飾がほどこされた作品は、音楽的問題を遺す。 ３拍子の拘束服を被せられて、メロディもテキストも歪み、不自然になる。テキストの構造はさらに、演奏にあたっての、ある程度の自由の必要性を示している。10行の詩行はcaesura（中間終止）により、４＋６行へと分けられるが、caesurasと完全な行はそれぞれ、男性、女性終止となるかもしれない。慣習に従い、写本の資料は第１スタンザのメロディのみが記してあり、それは、それぞれ第1行、３行のcaesurasでの女性、男性終止に対する多様性を残している。我々はしかしながら、どのように第2行、4行におけるcaesurasの男性終止を扱うのかはよくわからない。AMMにおける歌詞のつきかたは、単に、こうした問題の解決を示唆しているにすぎない。アクセントや構造、テキストの意味合いの変更を基盤とした自由なリズム解釈こそが、この歌の持っている表現力豊かな性質を引き出すことができるのである。 13世紀が進んで、数多くの発展が、トロヴェールの歌において３拍子の使用をそれにふさわしく、適当なものへと変えていった。大部分において,refrainだけは生き残ってはいたが、残っていたダンスソングは音律を持つ必要性があった。こうしたrefrainの引用はそれゆえ、全体のメロディの音律構造を導いた。同様に、規則的な３拍子音律は、そのポピュラーで粗野なダンススタイルが模倣されることを、Au tems pascorに要求したように思われる。テキストや音楽のアクセントがときに臆病に互いにぶつかり合うこともある（Amm No.45の第１スタンザの第９、１０行）。 トロヴェールたちに3拍子音律を採用させたもうひとつの発展は、13世紀のモテットにおけるフランス語世俗歌の利用とrefrainの引用であった。ここではとにかく、テキストの流動的なリズムが、規則的な音律パターンに従属していた。 正確な音価を示すことが有用であることがわかったはるか後までも、トロヴェールの歌が、非計量的記譜法で書かれ続けていたことを思い出してみたい。 Adan de la Haleの作品集がモノフォニーのシャンソンやjeux partisに対して非計量的に書かれ、同時代に計量記譜法がポリフォニーのrondelやモテットに使われていたことは、確かに重要である。 トロヴェールたちが演奏の自由を欲し、そのために彼らは記譜法によって自分たちのメロディを選んだという結論は、不可避であると思われる。 14世紀になって初めて、我々は、はっきりとした音価を示し、規則的な音律パターンを持つ最後のモノフォニックソングに出会うことになる。その頃までには、トロヴェールたちの時代は過ぎ去り、世俗歌はその新たな発展の局面に入り始めていたのである。 連続的な発展は、おそらくは、文化や社会的生活において重要な部分であることを演じることをやめなかったフランス語の世俗歌のもっとも注目すべき観点である。 これほどまで長い生命力あった理由は、資料の広い多様性からの影響への持続的同化にあったに違いない。トロヴェールの歌における音楽とテキストの影響は同時代のプレインﾁｬﾝﾄやポリフォニーからのものであり、ラテン語や世俗詩、教会人や俗人、貴族や市井人、トロバドールやケルト語の詩人たちからのものである。 音楽的には、こうした影響はモノフォニックソングの狭い限界内で発展させられている。こうした限界がより閉鎖的になると、作曲家たちが同時代のポリフォニーの採用による新しい可能性が開かれるようになる。 この決定的なステップは、フランス語歌の未来の生命で確かめられる。重要なことは、その主題の多様性である。トロバドールたちと同様、トロヴェールのレパートリーの核には、まじめな愛の歌が形成されていた。異端尋問やアルビジョワ十字軍、ルイ９聖の憐れみによって産生されたこうした精神は、再度、処女マリアに対する膨大な数の歌の産生や、対価を要求しない忠実な奉仕精神としての愛の宮廷の理想へと結実していった。 しかし、トロヴェールたちは、こうした概念の減少への反動として、さまざまなやり方を見出した。春の歌は愛の喜びを祝し、pastourellesは素朴な喜びの生き生きとした描写を創造した。社会のマナーやモラルは概して、泣くユーモアを引き起こし、聖職者も俗人も風刺的攻撃から安全ではなかった。 完全に軽薄な側からは、jerux partisが愛のジレンマを論じ、sottes chansons(folish songs)が真面目なシャンソンの下劣なパロディとなった。トロヴェールたちは、要するに、永続的なテーマと、中断されなかった歴史の連続した流れの中で、フランス語歌が特徴づけられた様式的革新の受容の両者を確立した。 |