| MEDIEVAL MUSIC 第７章 |
| ｐ173(143) ＣＨＡＰＴＥＲ Ⅶ Further Expansion and Embellishment of the Liturgy NEW FEAST IN THE LATER MIDDLE AGE その最初の800年間、教会暦には、特殊な祝祭は限られた数しか存在しなかった。しかし、９世紀始めには、宗教活動はセクエンツィアやトロープスの創作から教会年における多くの祝日の巨大な成長をもたらした西ヨーロッパ中の教会やカテドラルの建築まで広がった。 新しい祝祭の多数は、よりあとに創造されたり突然有名になった個人的な聖人を讃えるものであったが、中世の宗教フィーバーは時勢固有の新しい祝祭をも加えていった。Trinity Sundayは10世紀初期に、Corpus Christiは1264年まで３世紀にわたり続いた。その他の教会暦への貢献は、処女マリア崇拝の伸長が彼女の名誉において、新たな祝祭を加える動機となった。 それぞれの新たな祝祭は、ミサと、第2晩課からのあらゆる時課の礼拝の完璧な設定を要求した。しかし、ローマは明らかに、そのようなニーズを感じておらず、西洋キリスト教国のすべてにおいて使用されるべき統一した礼拝を確立することができなかった。 いずれにせよ、我々は、同じ祝祭のための異なった礼拝を見出す。こうしたことは、諸聖徒（の祝祭）の場合、すべての教会が同じ程度の荘厳性を持って祝日を祝っているわけではないことで引き起こされる。新たに創造された聖徒たちは、彼らが住んでいたり活動したりしていた地域では高い名誉を受け取った。パトロンの聖徒の祝日は、彼らが庇護のあった都市や教会や修道院において、特殊な奨励を受けた。 新しい礼拝の創造のさらなる原動力は、十字軍や遺物の活発な取引の結果からやってきた。聖徒の遺体の行列は、自然と、壮大な彼の祝祭の荘厳な祝福を呼び起こした。重要な聖人の完全なる身体などは、その置かれた場所が巡礼の目的地となった。聖ヤコブが北西スペインのサンチアゴデコンポステラに移された時のように。 この出来事は、コンポステラの聖ヤコブの祝祭のための精巧な礼拝の発展の機会となった。そこでは、カテドラルのアーカイブが、有名なCodes Calixtinusを保存している。 他の遺物もまた、新しい礼拝の創造を導いた。たとえば13世紀には、貧乏な－そして野心的な－ビザンチン皇帝は、自身が返済することができなかった多額のお金を担保として、ヴェネチア人に、茨の王冠を与えた。フランスのルイ9世は、債権者に精算をし、1239年には遺物を所有していた。これと他のキリストと聖母マリアの遺物を収蔵するために、ルイはパリに聖なるチャペルを建造した。それはおそらく、あらゆる遺物の中でもっとも大きく美しいものであった。 必ずしも長く続いたわけではないが、典礼や音楽の歴史において重要なのは、茨の王冠を讃える特別な多くの礼拝である。ルイ自身は、1297年に聖徒として列聖された後に、いくつかの異なった礼拝に属することとなった。中世は明らかに、新たな礼拝を創作する機会に欠けていたおり、多くのカテドラルや修道院は、特殊な祝日のために、彼ら自身の典礼を発展させることにプライドを持っていた。中世の人たちは明らかに、教会の礼拝を固定したもの、不変的なものとしてではなく、個人的な貢献をすることができる宗教的信心の生きた表現として看做していた。 こうした新しい礼拝に対する一般的な中世の命名は、historiaeであった。おそらくは彼らは、聖人の生き方から、あるいは聖書物語から彼らのテキストの主題を引っ張ってきたためであろう。今や、幾分混乱しているが、それらはOfficesとして一般には知られている。この用語は、概して、典礼の毎日の時課や、礼拝の特殊な一式、特殊な祝祭においてはしばしばミサをも意味する。 こうした特殊なOfficesは、それぞれの礼拝のための固有文、ことに晩課、夜課、賛課のための新たなテキストや新たに採用されたメロディを要求した。 新しいチャントはそれゆえ、hymn,responsories,詩篇のためのantiphones,canticlesを含んでいた。後のOfficiesにおいては、すべてのこうした項目のためのテキストは、後期セクエンツィアのように通常押韻し、リズム的な詩と同種となった。Analecta Hymnicaが850を超えるこうした押韻したOfficesを含むことは、その巨大な人気のバロメーターとなっている。 ADDITIONS TO THE MASS Officesと比較して、ミサはそれ自身、詩のテキストの浸透に対して、より無感覚であった。ことに押韻の多様性において。 トロープスとセクエンツィアは無論、Alleluiasのverseの機会のように,そのより後の段階の発展において、こうした詩を導入した。しかし全体的には、ミサ固有文のチャントは、教会暦に新たに加えられた祝祭に対してさえ、そのテキストに対する聖書の影響を受け続けていた。 ごく例外的なケースでは、固有文のチャントは詩のテキストから供給された。興味深いことに、その実践は、Offertorie やCommunionsに限られていた。おそらくは、こうしたチャントは、詩篇唱の形式の同義語を失っていたためであろう。 ミサ固有文のトロープスに関連しあAnalecta Hymnicaの分冊（Vol.19)は、４２の”押韻したOffertoriesと２７の”押韻したCommunions”を含んでいる。こうしたチャントの大部分は処女マリアの祝日のためのものであり、あるいは個人的な聖人のためのものであった。そうしたほとんどは、１５～１６世紀の写本から由来する。ミサ固有文全体が押韻した詩で作られることはめったにない。P.Wagnerはひとつの例を”興味深い”とし、”こうした作品は典礼的大敗の時期に属するものである」とコメントしている。 ミサ固有文に詩のテキストを取り入れようとする試みよりも、ミサをより装飾的にする手段としてより実りある、受け入れられてきた手段がある。トロープスが個々のチャントを拡大してきたように、導入、補間、結語はミサ自身の形式を拡大した。固有文、通常文両者の公式項目は、不変なままに、地域よりの付加の大多数をサポートできるような構造枠を形成した。 LUの第１ページに通常文（The Ordinary Chant of the Mass)がIntroitよりも前にフルページで現れることには驚かされる。同様に、解放句であるIte,missa estが、祈りと最後の福音書の前にあることにも。 通常文のチャントはさらに、"The Asperges"と呼ばれるものから始まる。これは、聖水とともに祭壇、聖職者、会衆の潅水の間に歌われるチャントである。中世の実践においては、テキストであれ音楽であれ、さらなる付加が導入や終結の儀式をさらに長くしていた。ミサの間の補間はその音楽内容を豊かにした。礼拝の同じポイントでの高貴な聖別、さらなる音楽の挿入は、荘厳なる祝祭のために、否、通常の主日においてさえ受けいられた実践であった。加わった音楽は、王室の結婚式や司教の叙任、王の戴冠といった特殊な儀式と関連したミサに用いられた。 これまでも述べられていた通り、多くの宗教的音楽のもともとの機能は、今や決定はできない。しかし我々は、ミサに一般的に付加された音楽のいくらかは知っており、学者たちは、単声であれポリフォニーであれ、フランス王の戴冠のために作曲されたごく少数の作品を特定している。 LITURGICAL DRAMA 劇的表現の導入はおそらくもっとも興味深く、中世の教会が拡大し、その典礼を装飾するためのもっとも意外な方法である。典礼劇の記録された歴史は、３人のマリアが復活のキリストの墓で天使と出会う場面の描写から始まる。通常、その冒頭句は”Quem quaeritis"であり、”劇”は、3行の対話からのそのもっとも単純な構成からなる。 天使； あなたは誰を探しているの？（Quem quaeritis） キリストの召使？ マリア； ナザレのイエス、十字架につけられ、天国の召使 天使； 彼はここにはいません。彼が言っていたように、天に昇ったのです。行きなさい、そしてイエスは昇天した、と言いなさい。 しかしこの形式の対話は、劇として現れるのではなく、キリスト自身が「私は昇天した」と宣言するEaster Introit Resurrexi(AMM,No.5)に対する導入的トロープスとして、950年頃のSt.Gall写本に現れる。 別の版は、最初に保存されたものだが、Limogesにおいて、923－934年の写本に現れる。この版もまた、Easter Introitに関係しているが、興味深いことに、より後のSt.Gall写本よりもこちらの方が複雑なのである。それは、Introitの別のトロープスを埋入しているが、3行の核は３人のマリアの第２話で拡大されている。「ハレルヤ、主は昇天される。今日は強いライオンである、神の子キリストが昇天される。神に感謝、エイヤ！」 写本は、Quem quaeritisについてのこれら２つの初期の版のどちらが劇化されたかについては何も語っていない。それらはおそらく、Introit自身の通常として、あるいは、トロープスに特化した数多くの後の資料として、responsoriallyにあるいはantiphonallyに歌われていたのだろうが。 劇的表現の証拠は、音楽資料からではなく、Regularis concordiaに見て取れる。それは、英国におけるベネディクト派修道会会則の祝典のためのマニュアルである。965年から975年にかけて、Winchesterの司教Ethelwoldによって作られたもので、Regularisは、Quem quaeritisの劇が、Easter Sundayの朝課のresponsory後にどのように演じられたかを説明している。 Ethelwoldの記述における対話表現は、歌われたチャントのテキストのincipitsであることが仮定される。そうであれば、劇はSt.Gallからの3行の核から始まり、Limogesからのマリアたちの会話を加えることになる。 さらなる２つの付加がある。天使は典礼的antiphonを歌う。「主がいる場所に来て、見なさい」。そしてマリアたちはもうひとつのantiphonで「私たちのために十字架にかけられた主は墓より昇天した、ハレルヤ」と歌った。そのパフォーマンスは、ベルの伝統的響きに伴われたTeDeumの歌とともに、朝課の規則的な礼拝に戻る。 Regularis concordiaのわずか数年後、Wincheste Troper(c.980)が、音楽と伴う劇の完全版を保存している。この版はEthelwoldの記述の詳細な段階を欠いているが、その内容は、ふたつの点で異なっている。 第１に、は、天使の最後の話としてのもうひとつの典礼的antiphonの挿入である。マリアたちが、墓が空であることを見た時、天使は彼女たちに言った「早く行って、主が昇天したことを弟子たちに言いなさい」。劇は、マリアのanthiphonの次の発言で終わる。「主は昇天した」。 Te Deumの省略は、第２のそしてより重要なRegularis concordia版との相違である。なぜならそれは、劇が朝課の終わりに演じられたわけではないことを示すからである。もしもWincheste Troperの位置－他においては、典礼行事の正確な順序を示している－を信用するならば、この劇の版はPaschal Candle(訳注；聖土曜日に祭壇の福音書を置く側に立てるロウソク。キリストを象徴し、復活祭後４０日目のAscension Dayまでともす）の聖別の前哨として作られたことになる。 時系列的な矛盾にもかかわらず、今記述された初期のQuem quaeritisの対話の出現は、典礼劇がどのように発生したのかをオーソドックスに説明する基本を提供した。こうした説明によれば、もっとも単純な形式（3行の核）はもっとも初期であらねばならず、おそらくはSt.Gallで作曲され、Easter Introitのトロープスとして始まった。トロープスが後に拡張され、朝課の終わりの墓への訪問として演じられた時、劇的な表現は、トロープス化のプロセスの直接の成長を遂げたのである。 こうした伝統的な説明へのさまざまな反対も過去にはあがっていた。しかし、最近では、より信頼のできる別の案の提示が、重要な疑惑を引き起こしている。Hardison、Jr.は、典礼における劇の場所を分析し、トロープスや劇のQuem quaeritisの伝達における多くの写本の変則を調べ、劇はEaster vigilの祝福に付加されたものとして、おそらくは最初に始まったのであろう、と結論づけている。よりあとの記事が、HardisonのQuem quaeritis劇と、聖土曜日の儀式の記念であることを強調した9世紀のEasterVesperの一部の注目すべき平行関係について発見を報告した。 Timothy McGeeによる、Quem quaeritisの典礼的位置づけに関するさらに後の研究では、Easterミサの前の対話では、それに先立って行列による儀式（しかしミサそのものからは切り離された）が形成されたことが示されている。 １０～１２世紀の８つの写本の証拠から、Mc Geeは、小対話がEaster Introitに直接結びついたトロープスとみなすことに、疑問を持っていた。代わりに、それは分離した自己を含んだ儀式であったと結論づけている。こうした儀式が非常に初期から表現的要素を含んでいたかもしれないと仮定することは、不合理ではない。 多くの資料は、対話としての上演を示し、いくつかは、それが”墓で”あるいは”墓への訪問で”歌われたことを示している。ミサの前の行列から朝課の最後（夜明けの時期）への儀式の遷移は、マリアたちの墓への到着（「非常に早い朝に」ルカによる福音書第２４章第１節）への確信への望みを反映しているのであろう。 McGeeの調査は、Hardisonの推論が明らかであることを確かめ、部分的な改訂をした。典礼劇が現存のチャントのトロープス化の課程で発達してきたとする古い仮説は、もはや支持されない状況である。両者の表現の場面やトロープスは確かに、教会儀式を装飾し、人間的にするために同じ勢いの結果となった。しかしそれぞれは独立して発展した。両者の時折の関係は単に偶然であり、直線的な流れではない。 Easter劇の起源がどうあれ、それが、キリストが生まれた時に羊飼いたちが訪れた表現をするクリスマス劇のモデルとなったことは明らかである。この劇は、”Quem quaeritis in praesepe,pastores,dicite（かいばおけでだれを探すのですか、羊飼いたち、言いなさい！）"という言葉でもって、11世紀の資料に最初に現れる。羊飼いたちは答える。「救い主、主なるキリスト・・・」。ふたりがさらに従い、2番目はクリスマスミサのIntroitを歌う。 この劇がたびたびミサを導入したことは、典礼劇がトロープスから発展したのだという、正統な仮説を確認する。しかし、もうひとつのクリスマス劇、The Visit of the Magi（東方の三博士の訪問）には、疑問がでてくる。この劇の大部分の例は、朝課と関係し、独立した作品となっている。羊飼い劇よりも内容においてより多くの多様性があり、それらはしばしば高い複雑なエピソード形式を拡大した。羊飼いや三博士の訪問は、しばしば一つの劇にまとめられた。それはヘロデ王の王宮の精巧な場面をも含まれていた。こうした場面は、「幼児殺し」や「ラケルの嘆き」のドラマ化を示唆した。 11世紀に現れたもうひとつの劇は、Ordo prophetarumであったが、それはクリスマスシーズンに演じられた。6世紀の説教をもとにして、それは、VergilやSybilといったキリストの降臨を預言した異教徒のような、旧約聖書のさまざまな特徴的場面を収集していた。 12世紀になって初めて、Easter劇は、クリスマス劇の豊かさと複雑さに向かい始めた。もともとは先立つ世紀からあういは同時代の劇におけるその他の主題であったのだが。 墓地における中心的な対話の前後に加えられた新しいエピソードや場面があった。さまざまなエピソードは、生誕に関連したように、復活に関係していたが、別々の寸劇として異なった機会に演じられた。それらは時には結合して長くなったり、ずっと続いたりもした。復活や生誕の季節は、当然、典礼劇の産生には都合のよい時期であった。そしてそれらは、保存された劇の上演を鼓舞した。 １２～１３世紀の２０以下の現存する劇は、別の主題をベースにしている。旧約聖書からドラマ化された物語は、イサク、ヨセフと彼の兄弟、ダニエルを含んでいる。新約から供給された物語の多く、たとえば蒙告、ラザロの復活、パウロの回心等は、めったに大きくはならなかった。 興味深いことに、８つの劇は－それらの約半分は復活やクリスマスとは無関係－聖書から取られたものではなく、中世の宗教的神話のもっとも有名な物語であった聖ニコライの奇跡へ捧げられたものである。 場面やコスチュームとともに、単純な対話から長い劇へといった典礼劇の拡大は、新しいテキストや新しい音楽の導入に依存していた。その歴史において、典礼劇（liturgical plays)は、話されるドラマというよりは、歌われていた。実質的には、音楽劇である。 一部の作家はそれらを”中世オペラ”と呼んだ。その名前は、我々が今日知っているオペラの用語を考えると、誤解を招くが、中世のオペラは確かに、劇であり歌われたのである。しかし、14世紀後半までは、楽器の参加への言及はオルガンと時々のベルのみであり、それも、Te DeumやMagnificatのようなチャントに伴うに過ぎなかった。 さらに、音楽は全体にモノフォニックであり、単一のメロディは保持音的であり、いくぶんプレインソングの正確を持っていた。こうした限られた条件内でしかし、中世オペラの音楽は、相当な多様性を示しているのである。 その起源がどうあれ、復活やクリスマスのQuem quaeritisの対話のメロディは、それらが最初に出現したIntroitのスタイルに合致していた。劇においては、antiphone,TeDeum,後にはsequenceのような典礼から取られた付加テキストは、それらの伝統的なそして比較的単純なメロディをよく保持していた。それゆえに、それらは、すでに流行していた様式（一部はシラビック、であり、一部はメリスマ的であった）に、完全に一致した。そうした様式は、非典礼的なテキストに対する新しいメロディが要求され、後にそれが付加されることにおいての標準となった。 メリスマのより精巧な様式は、通常、lamentsや、ドラマチックで感情的な意図が明白である場合のために取って置かれていた。しかし、ドイツ語起源の後の劇がメリスマ的精巧性を持つ傾向にあることは興味深いことである。こうしたドイツ語メロディは興味深く、美しいかもしれないが、それらはしかし、フランス語劇が固執していた単純なメロディ様式よりもドラマ効果が少ない。中世オペラにおいてさえ、言葉に音楽が従属する典型的なフランス語原理は、よく確立されていたのである。 １２、１３世紀には、新しい発展は、典礼劇に対する押韻された詩のテキストの導入をもたらした。この発展は、セクエンツィアにおける新しい詩形式の出現や多くの押韻されたOfficesと一致する。新しい劇は今や、そのテキストと一貫した音楽構造において、大きな多様性を示すのである。 音楽においてもっとも興味深い、詩の形式の中には、一種のセット作品となって、散文的な対話と典礼チャントが交代するものがある。他のものは、より古い散文のテキストは詩にリモデルされ、改訂され、完全に新しくなったメロディを供給した。こうしたプロセスは、時に非常に極端になり、典礼的テキストやメロディにはほとんど依存することなく、大部分のテキストが詩形式となることもあった。 こうしたプロセスの結果が現れているものとしては、ダニエル劇以上に適格なものはない。この劇はおそらく、あらゆる中世ドラマのうちでももっとも広く演じられ、もっともよく知られたものである。hymnとTe Deumの１つのスタンザという、２つの決定的な項目を除き、この劇のテキストとメロディは、全体的に非典礼的である。こうした多様な形式と様式が、ダニエル劇を、中世のドラマ芸術のもっとも魅力的な例としているのである。 REPRESENTATIVE PLAYS FROM FLEURY 典礼劇のもっとも重要なコレクションはおそらく、Fleury Play Bookであろう。これは、St. Ｂｅｎｏｉt-sｕr-Ｌｏｉrｅ修道院に保存されていた。13世紀の写本の10の劇が、修道院の劇のレパートリーを形成し、主題と創生方法の双方で、後期の典礼劇のあらゆるタイプを代表している。 最初の４つは聖ニコライの奇跡を取り扱う。さらに２つはクリスマスの季節のための劇であり、２つは復活のためのものである。最後の２つは聖パウロの回心ととラザロの復活The Raising of Lazarusの聖書物語をベースにしている。 すべての劇は典礼チャントで終わっている。通常は、Te Deumであるが、概してこれらのテキストは3つの異なった種類になる。 ①ほとんどすべて押韻した詩 ②ほとんどすべて典礼チャントの散文 ③両者の混合 それぞれが表現する劇についてのコメントは、少なくとも、それぞれが起こした異なった音楽形式と様式を示唆する。 PLAYS WITH LARGELY POETIC TEXT ダニエル物語は、大規模な詩のテキストの分類に属する。そのテキスト形式と音楽設定の大きな多様性により、ユニークな地位を保っている。概して、この分類の劇はテキスト的にも音楽的にも、資料は限られている。しばしば、単一の詩の形式や単一のメロディさえ、劇全体に使われる。これはFleury Play Book中の聖ニコラスの奇跡の最初の２つにあたる。あるいはまた、最後の劇The Raising of Lazarusも含まれる。 実践は、何百という行に対して、１つか２つのメロディ定式しかない同時代の叙事詩chansons de gesteのパフォーマンスによって示唆される。劇は長くはないが、ひとつのメロディの絶え間ない繰り返しはほとんどドラマ的とは言えない。 想像たくましき仮定は、4番目の聖ニコライの奇跡、The Son of Getronへの興味を呼び起こす。物語は単純で、異教徒の王の召使が、王の家に給仕として１年ほど仕えていた小さな少年を誘拐するものである。聖ニコラスは、彼の両親へ、少年を奇跡的に戻すことに成功した。テキストは引き続き、単一の詩形式を用い、それぞれの行で１０シラブルを持つ４行スタンザ形式である。しかし、それぞれの性質に対して、召使の合唱を含む、異なったメロディを割り当てるような変化がみられる。 この音楽的性格原理から離れてはしかし、ほとんどドラマ的効果は得られない。 まず、同じメロディで、母親が嘆き、彼女の慰め主が慰めるのは、不自然であるように思える。この尋常でないひとつのメロディの繰り返しがポイントである。嘆きと悲しみから、母親はしだいに希望を見出すようになり、ついには、彼女の慰め主のアドヴァイスにしたがって、彼女は聖ニコラスの仲裁に対する祈りの場面を取り結ぶ。メロディが得る二重の意味合いは、それが異教徒の王の召使としての自分の運命を嘆く少年の口に再度出現する時に明らかになる。彼自身のメロディを放棄して、少年は聖ニコライに対して、母親の嘆きと祈りを呼び起こす。 このような精緻なやりかたで、音楽は聴衆に対して、まもなく劇がハッピーエンディングになるような、聖徒の関与を準備する。十分適切に、母親の喜びの歌を閉じるには、息子のメロディからの支配的動機（5度の間隔のメリスマ的下降音型）を借用した新しいメロディを使う。 The Son of Getronに見られる誇張にワーグナーのleitmotifの実験をみるのは大げさではあろうが、音楽のある種の示唆的力は、ここではよい効果を発揮している。 PLAYS WITH LARGELY LITURGICAL TEXTS 多くの劇が初期の復活劇の例に従い、そのテキストの大部分を典礼ちゃんとから引き出している。交唱はこのテキストの分類においては好まれた形式であった。しかし、トロープスやセクエンツィアのようなより長いチャントもまた、含まれていた。むろん大部分は、散文的テキストであり、それぞれは聖書やより単純な聖句から取られている。通常、劇はテキストが典礼で歌われた状態で、メロディを保持する。しかし、今後は、典礼テキストは新たに作曲されたメロディに見えるようにするようになるだろう。なぜなら、こうした新しいメロディは、伝統的なプレインチャントスタイルとは離れ、この種の劇は、ライムやリズムを使う詩よりもよりまじめに、シビアに、より典礼的になるからである。 Fleury Play Bookの１０の劇のうちで、唯一、The Appearance at Emmausのみが、大規模な典礼的テキストを伴い、この分類に属する。Rembert Weaklandによれば、”このPeregrinus Playのほとんど全体は、chant antiphonesから構成される”（Peregrinusという用語は、変わった人、巡礼者という意味であるが、2人の弟子がエマオへ向かう途中で昇天したキリストに会ったことを取り扱う劇として特定されている）。 写本のルブリックは、その劇は復活日後の水曜日の晩課で演じられる、としている。そして交唱のいくつかは、復活シーズンに使われる。キリストの最初のチャント、たとえば Qui sunt hi sermonesは、今や、復活後の月曜日の晩課におけるMagnificatのための交唱である（LU p788)。 すべての劇の交唱が典礼に残されているわけではないが、いくつかのテキストは、異なったメロディを残している。それゆえ、多くのチャントの典礼的性質が認められなくなることは、決して驚くべきことではない。 不幸なことに、認識の欠如は定量的転写を導く。再度Weaklandを引用すれば、それは”気まぐれに見られる”。ある理論が早期プレインチャントのリズムに関してどうあろうとも、12世紀までは、非計量的音価で演奏されなければならないのである。The Appearance at Emmausが計量的転写である限り、自由であれ３拍子リズムであれ、場所がない。プレインチャントを歌う同時代のやり方は、我々が知る限り、典礼自身からの膨大な素材を描いた典礼劇の近代的解釈のための基礎を供給する。 PLAYS WITH A MIXTURE OF POETIC AND LITURGICAL TEXTS 復活とクリスマスの劇は、もともと、新たな散文テキストと典礼チャントの混合であった。最初に、拡大された場面が、エピソードが付け加えられたエピソードが同じ課程をたどった。チャントのみではドラマ的対話が不十分であることがわかると、新たな散文テキストに、それに合う音楽が設定された。 後の付加は、劇のすべてにわたって、異なった場所に、押韻したとリズム詩を産生した。それゆえ、多くの十分に発展した劇は、典礼チャントと散文のドラマ的対話を、詩のテキストをセットとして持つ作品とに結びつける。 こうした異なったタイプの混合は、学者たちに、オペラのレシタティーボとアリアとを比較させる。詩的テキストが３拍子で演奏されれば、表現はより顕著となる。セット作品の様式は、自由に歌われる散文的対話、非計量的リズムとは好対照となる。 Fleury Play Bookの２つの劇は、こうした詩、散文、典礼的テキストの混合を説明する。The Representation of Herod とThe slaying of the Childrenの２つである。これらの２つの劇は、野の羊飼いたちの見るところから嬰児殺し、ヘロデの死、エジプトからの聖家族の帰還までの全体的なクリスマス物語をドラマ化している。 近代的な復刻において、それらはThe play of Herodのタイトルのもとでひとつの劇として演じられ、出版された。この校訂では、活動的な版が、Fleury Play Bookからの文字通りの転写とファクシミリでもたらされた。それゆえに、興味ある学生は、近代的な装いと同様に、そのオリジナルな形式での中世ドラマを研究する唯一の機会を得たのである。 詩と散文の間の最初の対照のひとつは、ヘロデが3人の王を問い詰めるために兵士を派遣するところから始まる。兵士たちは、散文で東方の三博士に問う。しかし彼らは押印したverseで答える。詩のテキストが、散文の対話の連続後の感情的クライマックスの場面を強調する。 それゆえに、ヘロデの王宮での長い場面において、王は東方の三博士の目的を理解し、彼らが預言者から集めたことを言うために、書記たちを召喚した。書記たちは、預言者がベツレヘムにおけるキリストの生誕を預言した、と報告する。ヘロデは怒り心頭となる。彼の息子Archelausが間に入り、ふたりは交互に同じメロディの4行スタンザの歌を歌う。この爆発の後、場面の最後のチャントのための散文に戻る。ヘロデは偽って、東方の三博士に、嬰児の言葉を取り戻すように言う。そのために、彼も行き、彼に敬意を表するかもしれない。 The play of Herodの第二部は、ラケルの嘆きと殺された子どもたちの感情のピークとなる（Nos.17-23; AMM,No.28)。この有名な場面では、The Son of Getronのように、ソロラメントが慰め主のアンサンブルチャントとともに交代をする。しかしラケルの嘆きはより拡大されており、その構造と様式は双方ともに変化詩、表現的になっている。 ３つの番号（２つが慰めを伴うラメント）は、同じ詩的リズムの押韻したverseのスタンザである。それらは同様の冒頭動機と繰り返す終止パターンにおいて、音楽的に関係がある。慰めの第二チャントの最初、３つの番号の別のグループ(20-22)は、Notkerのセクエンツィアをそのテキストとして引用する。行はそれゆえ、長さにおいて不規則となり、押韻しない。kのようなより古いテキスト形式へ戻りながら、ラケルの最後の嘆きは典礼的交唱とともに幕を閉じる。Notkerのテキストのためのメロディは、あらたねいFleuryのために作曲されたものであるが、交唱は伝統的なメロディである。 ラケルの嘆きの場面のための全体のテキストは、様式において興味深い混合である。しかし、”近代的”なリズム詩から聖書的あるいは典礼的テキストへと立ち戻る進化は、熟考を要する。確かに、交唱は、聖金曜日の賛課で歌われ、それゆえに復活が来ることを示唆していることは重要である。Fleury劇では、大天使が、ラケルがいなくなったあと、子どもたちをすぐに天に引き上げる。ラメントの省略形はしばしば引用されるが、むしろ長い場面が研究され、その効果の完全な会得のために、全体が聞かれるべきである。 近代の校訂者の言葉によれば、我々は、”中世において見つかったドラマのためのメロディの使用のための最も注目すべき例のひとつ”を持っている。Smoldonの形容”～のひとつ”は、はこうした声明から排除されたのかもしれない。 The play of Herodについての最後のコメント。冒頭のエピソードは全体的に羊飼いたちの劇であり、助産師と羊飼いたちの親しい対話を含んでいる。しかし興味深いことに、最初のふたつの言葉”Quem quaeritis”は復活祭のメロディの最初に歌われているのだ。そこでは、クリスマスのトロープスの伝統的なメロディに、スムーズに移行している。それゆえに、The play of Herodは、キリストの生誕のみならずその復活にも関係しているのである。そして巧妙にも、私たちに、典礼劇が空になった墓の場面から始まったことを思い起こさせるのである。 LITURGICAL DRAMAS AND VERNACULAR PLAYS 典礼劇という用語の妥当性はときに疑問符がつくが、多くの考察は、その使用の継続を正当化する。ほぼ例外なく、テキストはラテン語であり、上演者は聖職者であり、場所は教会内である。すべてのうちで最も重要なことは、典礼劇は、典礼そのものとのもともとの結びつきを決して失ってはいない、ということである。 劇は朝課のあとに演じられ、賛課や晩課への補間として、時には、ミサの前にも演じられる。教会が、こうした劇を聖務日課典礼の一部として認めようとしないがためにその機能を否定することは、宗教的遵守に対する中世の態度を歪めることになる。 これまで見てきたように、中世人は、さまざまな方法によって、教会のユニバーサルな典礼を装飾し、拡大することに自由であった。こうした方法のうち、典礼劇あもっとも興味深く、魅力的なもののうちの一つだったのである。 典礼劇という言葉は、教会のラテン語劇を俗語での奇跡や神秘劇から区別するのに役立つ意味合いをもたらした。１３世紀の末までに、典礼劇の独立した発達は、完成した。 カテドラルや、特に修道院においては、ラテン語劇の上演は、典礼への補助として、16世紀あるいはそれ以降まで続いた。しかし1300年より後、宗教劇は、人気ある想像を捉えた人々の言葉で演じられるようになる。現代の用語は（中世には見られなかった）、処女マリアの奇跡をや生活、諸聖徒の奇跡、聖書の物語に基づく神秘劇、などを描いた奇跡劇の区別をしている。 双方の類いは、１２～１３世紀のラテン語劇に見られ、これまで見てきた通り、同じ世紀はフランス語における両種の出現を見た。最初から、明らかに、母国語劇は、聖務日課典礼に付加された教会で演じられるのではなかった。その歴史を通して、多数派は、Te Deumとともに終了した先祖たちの裏切りを続けてきたが。 他の典礼的チャントの時折の導入にもかかわらず、おそらくは典礼劇と母国語劇の間の主要な区別（言語の区別の後）は、歌われた対話よりも、話された後者（母国語劇）の使用あった。大部分、おそらく、この変化は、上演者たちが今や俗人となり、訓練された歌手としての聖職者ではなかったために起こった。ミンストレルは、たびたび、歌い手あるいは器楽奏者として上演に参加したが、奇跡や神秘劇はますます、時折音楽が奏でられるだけの話されたドラマ、となっていった。 教会の桎梏から自由になり、母国語劇は、大きな自由とユーモアのセンスをもって、聖書的あるいは伝説的な主題を扱うようになった。地獄での悪魔と一緒の場面は特に人気があった。奇跡劇以上に、神秘劇は15世紀までに、長く、精巧になった。その上演はたびたび、数日に及び、人間の創生から最後の審判までの聖書の物語全体をカバーしていた。 こうした劇に適合した装飾として音楽はあり続けたが、今日現存しているものはほとんどない。歌われたテキストは、詩の形式で、１３世紀から１５世紀の世俗歌の性質を保っている。こうした音楽の設定は、その時代の性格に沿うものであると考えられる。 ある種の場合では、いくつかのシャンソンやモテットが歌われたことしか見つけ得ない。器楽音楽の使用は示唆されているが、音楽家たちが何を演奏したのかについては、あまり具体的なことはわかっていない。劇作家や書記の音楽へのこうした冷淡さのために、神秘劇は音楽の歴史部分というよりは、理論のそれをより濃く残している。オペラの発展を予告するよりも、それらは多分にシェイクスピアの先祖であったのである。 |