芦田均は、論語をもじって、「学びて思わざれば、則ち左傾し、 思いて学ば ざればすなわち右傾す。」と言った。一般的に、左の方の人は頭は良くてよく勉強しているが、物事をあまり深く考えない、右の方の人は逆に、頭は多少悪くても、よく物事は考える、といった傾向があったからである。

さて、法律を多少でもかじったことがある人は、「棄却」と「却下」の違いは、よくご存知であろう。両者の違いは、民事訴訟で裁判所が受理した訴訟について、審理の結果、提訴に理由がないとして請求などを退けるのが棄却。 申立て自体が不適法であるとして、理由の有無を判断しないで、門前払いをするのが却下ということになっている。

習った時にはさほどには思わなかったが、この問題に関しては、まさに、却下と棄却の差は、きわめて有用である、と言わざるを得ない。この裁判は、日本政府にとってはまったくの問題外のものであり、最初から訴訟そのものを無視してきた。だからこそ、”却下”という用語が使われなければならない。

さすがに、ほとんどの報道は、そのようにしていた。ところが、私が調べた限り、ただひとつ、”棄却”を使っている記事があった。それが上記の夕刊フジのそれである。

夕刊フジといえば産経新聞、すなわち、右。そこで、芦田均の言葉を思い出したわけである。

この記事こそ、芦田均の言う通り、右派の無知を晒しだしたものだと言ってよい。産経新聞には、まともに法律を学んだ記者がいないのか？

産経新聞は確かに、その主張自体は良いのだが、用語の使い方などについて、いまひとつ甘いところがある。こうした点については、朝日新聞の方がきちんとしている。

このような無知を晒しだすと、その内容自体の信頼性も問われることになりかねない。あまりにも非常識な用語は使わないよう、産経新聞系には、もっとしっかりとした記事を書いてもらいたいと思う。せっかく、その内容自体は良いのだから。

大東亜戦争末期、戦争をやめるかやめないかで、国政がもめていた。最大の抵抗勢力は陸軍だった。本土決戦をその政策とし、大陸で多くの軍人が死んでいたから、立場上、終戦案は呑めない。だから当時の阿南 惟幾陸相は最後まで終戦には反対し続けた（終戦後、その責任を取り、自決。ちなみに、阿南は愛妻家で、戦後の評価が高い米内光政のような当時の高位軍人が軒並み愛人を抱えていた中、妻以外の女性は持たなかった）が、内心は終戦が必要と考えており、ご聖断を支持した。

阿南がもしも、本心のままに動いていたら、陸軍の立場は丸つぶれになり、クーデターでも起こりかねなかった。阿南がうまく芝居をしたからこそ（ついでに、当時の鈴木貫太郎首相も、継戦派を支持するような芝居をした）、陸軍の不満も何とかおさまり、終戦が可能となったのだ。

今回の海洋放出もまた、こうした芝居が漁連の中で行われている、と見るべきだろう。

●各界の反応
このように、処理水海洋放出の最大の敵は、風評であり、それの判断基準になるのが、”安心”である。つまり安心とは、何ら科学的根拠はないが、一部勢力にはそれが、判断の重大要素となってくるのだ。

この”安心”の評価が左右陣営で見事に分かれ、そのリトマス紙となっている。以下、具体的に挙げてみよう。

立憲民主、共産党はむろん、反対。主要野党は、安全よりも安心優先であり、それは、放射線障害のみならず、立憲民主がゼロ・コロナを謳っているように、どんな分野にもゼロリスクを求めるのが、こうした野党の基本的態度である、と言える。

福島県は、今のところは中立の立場。ホンネは賛成なのだろうが、漁連の立場を鑑みれば反対をせざるを得なくなり、結局は意見を言わないのが得策、と判断しているのだろう。

諸外国では、そもそも他国が日本以上に高濃度のトリチウム水の海洋放出をしていることからして、概ね、政府の態度には理解を示している。例外が中国・韓国で、これまたあらゆる外交問題において、両国の対日態度がその他の外国(たとえば台湾）と正反対であったのと、軌を一にしている。

こうしてみると、日本の野党は結局のところ、風評被害を利用ないし拡大している中国・韓国と同じ立場に立っていることがわかる。こうした政党に日本の国益をまかすことができないのは、当然のことだろう。彼らは日本よりも外国の国益を大事にする勢力なのである。

新聞もやはり、これまでどおり。読売・産経と毎日・朝日が鋭く対立している。朝日新聞などは、「新たなタンクを設けるなど、さらに貯蔵する余地はないのか。」などと書き、結局は、辺野古移設問題の時と同様の態度である。この問題において朝日は、「他の場所に移す余地はあるはずだ」との見解を取っていたから。

地方紙もまた、概ね、処理水の海洋放出には否定的である。相変わらず、日本の新聞は、国益を無視した近視眼思考である、と言えよう。彼らもまた、日本よりも中韓の味方、なのである。（2021年4月15日各紙社説参照）

●風評を作る野党、中韓、新聞
既述の通り、問題の本質からして、処理水の海洋放出が安全上の問題には、なるはずがない。問題は”安心”に対する人々の考えの違いである。

世の中にはいろいろな人がいるから、なかには杞憂の語源になったような、天が落ちてくるのではないか、レベルの心配性の人もいるから、野党や中韓はそうしたレベルの人たちをターゲットとしている。

無論、彼らの中枢部では、安全と安心はきちんと区別がなされている。彼らは要するに、杞憂レベルの不安性の強い人たちを背後からそそのかして、自分たちの支持勢力としている。中韓の場合は、外国のことにて放射線には無知な民衆が多く、元来根付いている反日意識とも呼応できるのだろう。

漁連の長が、菅（すが）首相と通じていながら、立場上は漁民を騙して反対を貫いているように、野党らは、問題の本質を理解しながら、あえて支持者らを騙している。両陣営ともに支持者を騙してはいるのだが、前者は良性、後者は悪性の騙しである、と言えよう。

反対者らは、支持者らを騙すことによって、あえて風評を作っている。風評を作りながら、風評被害対策を！などと言っているのだ。新聞もまた、その片棒をかついでいる。これでは新聞を読む人が減るのも、むべなるかな、であろう。