第５１番　くるったアリア
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イエスを売って後悔しているユダの思いをぶちまけるようなアリア。（ユダの話参照）

　このアリアはレシタティーボ・アコンパニャートなしにいきなり出てくる。しかも前曲の調性（hmoll)とは直接関係のないＧｄｕｒである。

　ところでこのアリアは何かと前の４７番のアルトのアリアと比較される。ここでこの２曲の類似点と相違点をまとめてみる。
　類似点　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
１　共にレシタティーボアコンパニャートがない。　　　　　　　　　
２　低音ソロ歌手とヴァイオリンソロが組み合わさっている。　　　　
３　伴奏は弦楽器である。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
４　中間部で伴奏が転調する。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
５　後奏が前奏をそっくり繰り返す　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　相違点
１　Ｎｏ．４７は前曲との調性の連結が自然だが、Ｎｏ．５１はそれが不自然である。
２　Ｎｏ．４７は短調、Ｎｏ．５１は長調である。
３　Ｎｏ．４７はバッハ最高の名曲だが、Ｎｏ．５１はかなりの手抜き工事である。（無論意図的にだが）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　こうして比較すると、これら２曲はある一定の意図でもって対として作曲され、さらにある一定の意図をもった相違点が作られているのがわかる。これは他でもない、バッハのペテロとユダへの扱いの違いによるのである。Ｎｏ．４７に最高の名曲を当てたということはバッハのペテロへの敬愛を示すものとみてまちがいなかろう。

　これに対し、Ｎｏ．５１はおせじにも名曲とはいえない。ヴァイオリンソロはＮｏ．４７とは打って変わり、訳のわからない３２分音符が断続的に入り、くるってしまったユダの心境を示している。


　１６分音符の分散和音がときどき掛留音的に和音をはずれる（第９、１２、３４、４３，６１小節）のもまた同様であろう。

　
　ただし、ヴァイオリン独特の広い音域を使ったパッセージが頻回に現れ（これは銀貨が神殿の床で跳ね返る様子を描写しているという）、決して聞いていて退屈はしない曲となっている。しかしバッハがわざと少しヘタに書いたものであるのはまちがいない。

　Ｎｏ．５１が長調で前曲と関係のない調性で突然出てくるのはいかにも不自然である。こんなところはユダのおかれた立場をうまく表しているといえよう。また第３５小節から第４０小節まではＧｄｕｒの下属和音系に転調し（下譜のように第３５小節の１拍目と３拍目では三全音が入っている。ここの歌詞は「verlorne Sohn[放蕩息子]である。これを表現するために三全音を使用したのであろう）ユダの歌う勢いの減弱を感じさせる。


　第４２小節からはさらに旋律の様子が不自然となり、いよいよユダもお陀仏か、という感じを受ける。最後はまた元気を取り直して後奏は前奏を繰り返して終わる、という次第である。

第５２番　ピラトの登場
　このレシタティーボでは前半でエレミアの預言の話があったあと、いよいよ総督ピラトの登場となる。何を聞いても馬耳東風のイエスをピラトがいぶかっている。ピラトがイエスに「お前はユダの王か？」と問うときのみ、イエスは「そうだ」と答えるが、そのイエスの言葉の直前のエヴァンゲリストの言葉（第１９〜２０小節）は下譜のようにＧｄｕｒの和音を単純になぞる形となっており、そのあとのイエスのきっぱりとした答えを導いている。。そのあとのイエスの答えは簡単なものである。

Ｎｏ．５２第１９小節〜

第５３番　３回目の受難コラール

　ここで３回目の受難コラールがでてくる。調性はＤｄｕｒである。これまでの３曲の受難コラールはいずれも長調での編曲であった。そして調性は半音づつ低くなってきている。（１回目Ｅｄｕｒ　２回めＥｓｄｕｒである）　前２曲は編曲は全く同一であるが、この曲はやや編曲が異なる。

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第５１番
YoutubeNo.51-55
バスアリア
Gebt mir meinen Jesum wieder!
私のイエスを返してくれ！

Seht, das Geld, den Morderlohn,
見るがいい、殺しの報酬である金を、

Wirft euch der verlorne Sohn
Zu den Fusen nieder!
放蕩息子は足元に投げ出したのだ。

Gebt mir meinen Jesum wieder!
私のイエスを返してくれ！

第５２番
エヴァンゲリスト
Sie hielten aber einen Rat und kauften einen Topfersacker darum zum Begrabnis der Pilger.
彼らは相談のうえ、そのカネで「陶器職人の畑」を買い、巡礼たちの墓とした。

Daher ist derselbige Acker genennet der Blutacker bis auf den heutigen Tag.
そこでこの畑は、今日に至るまで、血の畑と呼ばれている。

Da ist erfullet, das gesagt ist durch den Propheten Jeremias,
こうして、預言者エレミヤによって言われたことが成就した。

da er spricht:
彼はこう言っている。

≫Sie haben genommen dreisig Silberlinge,
「彼らは銀貨３０枚を拾った。
damit bezahlet ward der Verkaufte, welchen sie kauften von den Kindern Israel,
それは、彼らがイスラエルの子らから買った者の身請け金であった。

und haben sie gegeben um einen Topfersacker,
彼らはそれを、陶器職人の畑の代価として
支払った。

als mir der Herr befohlen hat.≪
主が私にお命じになった通りに。」

Jesus aber stund vor dem Landpfleger;
さて、イエスは総督の前に立った。

und der Landpfleger fragte ihn und sprach:
総督は彼に尋ねて言った。

ピラト
Bist du der Juden Konig?
お前はユダヤ人の王か？

エヴァンゲリスト
Jesus aber sprach zu ihm:
イエスは答えて言った。

イエス
Jesus aber sprach zu ihm:
あなたの言うとおりだ。

エヴァンゲリスト
Und da er verklagt war von den Hohenpriestern und Altesten,
彼は祭司長や長老たちに告発されたが、

antwortete er nichts.
何も答えなかった。

Da sprach Pilatus zu ihm:
そこでピラトが彼に言った。


ピラト
Horest du nicht, wie hart sie dich verklagen?
聞こえないのか、こんなに厳しくお前を告発しているのに。

エヴァンゲリスト
Und er antwortete ihm nicht auf ein Wort, also,
それでもイエスは、一言も答えなかった。

das sich auch der Landpfleger sehr verwunderte.
これには総督も、大変不思議に思った。

第５３番
コラール
お前の道と
心のわずらいとを
誠かぎりない護りに委ねなさい、
天を統べる者の。
雲、大気と風に道を備え、
それらをめぐり行かせる者は
道を見つけてくださるだろう、
お前の歩むことのできる道を。

Befiehl du deine Wege
Und was dein Herze krankt
Der allertreusten Pflege
Des, der den Himmel lenkt.
Der Wolken, Luft und Winden
Gibt Wege, Lauf und Bahn,
Der wird auch Wege finden,
Da dein Fus gehen kann.