第49番〜53番
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第49番;ユダの後悔


 ここでユダの再々登場となる。ユダはイエスを売り渡して後悔している。ユダはやはり普通の人間だったのだ。やってしまったことはしかし間接的な殺人なのだから許されることではないが、どこか人間臭さがあるような気はする。しかしやはりペテロの否認とは次元が違うことなのであろう。

 
このレシタティーボではまずエヴァンゲリストが祭司長たちの悪巧みを歌う。第4小節で「toeteten(殺した)」の言葉の通奏低音に16分音符の早い音型を与えている。そして和音は減七となっている。(下譜@参照)この音型は下方へと引っ張り込まれる形となっており、音はレシタティーボから始まりFis→Dis→His→A→Fis→Dis→Hisと下降してきてあたかも地獄へと落ちる印象を受ける。


譜@

譜A

 そして第8小節で「ユダ」の言葉が出ると、通奏低音は(例のライトモチーフともいうべき)A上の属七の第三転回形となる。(上譜A参照)

 ユダの最後の言葉(第14小節)、「Ich habe ubel getan(私は悪いことをしてしまった。)」では「Ubel(悪い)」がCであり、その和音が減七となっており、さらには前の第13小節とつながっていると考えれば、これはエヴァンゲリストとユダの関係が対斜となっており、エヴァンゲリストとユダのねじれたような関係を象徴しているように見える。とにかくこの対斜(と考えれば)は非常に目立つものである。(下譜B参照)                                      
                     

譜B第49番第12小節よりここをクリック! 

 さてこのあとは「我々に何の関係があるのだ?お前が始末しろ!」という合唱である。この合唱は短いが、完全なコリ・スペッツァーリ(ベネチア楽派風の二部合唱)である。ここでこの曲の1st、2nd各々の通奏低音(ないしはバスパート)を追って見る。(下譜C参照)するとどんどん上方へと駆け上がっていくことがわかる。これは祭司長たちの口々の叫びが興奮して次第に高まっていったことを示しているのであろう。

 この合唱の眼目は最後の小節の掛留音である。2ndソプラノのFisに1stソプラノのEがぶつかる。この不協和音は祭司長たちの興奮の頂点にユダの咎がからんでいることを示しているのであろう。


譜C

第50番;ユダの自殺

 ユダは銀貨を神殿を投げ込み、自殺した。自殺を歌うエヴァンゲリストの音型は下譜Dである。実はこの曲は第32番の第15小節、イエスが「ユダが自分を裏切りにやってくるぞ」という場面と全く同じなのである。第32曲の方はユダの初出(例のBin Ichs Rabbi?のところ)ではないにせよ、ユダが実質的に物語りに初めて登場する場面である。そしてこの場面ではユダは自殺するからユダの登場はここで最後になる。つまりユダの登場する場面の最初と最後は同じ音楽になっているのである。
  
第50番第4小節
         第32番第15小節


 その後は祭司長たちの二重合唱が続き、「神殿の金庫に納めるのはまずい、これは血で得たお金だから」と歌う。途中、第31小節では掛留音となり、「これは血で得たお金」のところ(第33小節)で両者は意気投合して?3度のハーモニーを形成し、最後はユニゾンで終止する。最初は口々に言っていたのが途中、「血で」というところで意見が合ってきたのでろう。ユニゾンで終止することにより、最後はみんなの意見がぴったり合ってユダのバカさ加減を嘲笑していたのかもしれない。第67番の後半の合唱の最後でも同じような書法がみられる。
 それにしてもなぜ最初の祭司長の叫びは二部合唱であとのそれは男声二重唱なのだろうか。

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第49番
エヴァンゲリスト

Des Morgens aber hielten alle Hohepriester und die Altesten des Volks einen Rat uber Jesum, das sie ihn toteten.
夜が明け、すべての祭司長と民の長老たちは、
イエスを殺す手筈を決めた。

Und bunden ihn, fuhreten ihn hin
そしてイエスを縛り、連行して、

und uberantworteten ihn dem Landpfleger Pontio Pilato.
総督ポンテオ・ピラトに引渡した。

Da das sahe Judas, der ihn verraten hatte,
ところでイエスを密告したユダは、

das er verdammt war zum Tode, gereuete es ihn
イエスが死罪に定められたのを見て後悔し、

und brachte herwieder die dreisig Silberlinge den Hohenpriestern und Altesten und sprach
祭司長と長老たちに銀貨100枚を返して
こう言った。

ユダ

Ich habe ubel getan,
悪いことをしてしまった。

das ich unschuldig Blut verraten habe.
私は咎なき血を密告したのだ。

エヴァンゲリスト

Sie sprachen:
彼らは言った。






ドゥッイオ 「ユダの契約」










作者不詳 「ユダの改悛」






合唱(祭司長たち)

Was gehet uns das an? Da siehe du zu!
われわれに何のかかわりがあるのだ?
自分でことに当たれ



ロレンツェッティ
「首を吊ったイスカリオテのユダ」






第50番
エヴァンゲリスト

Und er warf die Silberlinge in den Tempel, hub sich davon, ging hin und erhangete sich selbst.
そこでユダは銀貨を神殿に投げ込み、
身を起こして去ると、首を吊った。

Aber die Hohenpriester nahmen die Silberlinge und sprachen:
しかし祭司長たちは、銀貨を拾って言った。

祭司長たち(合唱)
Es taugt nicht, das wir sie in den Gotteskasten legen,
神殿の金庫に納めるのはまずい。

denn es ist Blutgeld.
これは血の贖いなのだから。