清潔志向に思う―もっと不潔を！

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世は清潔志向である。ここではいくつかの例を取り上げて不潔の大切さを考えてみたい。 無意味な抗菌グッズ 　数年前にＯ−１５７による食中毒で不幸にも何人かの子どもが亡くなってからか、世の中にはいわゆる「抗菌グッズ」なるものがあふれるようになった。私の身の回りでもそれは多数見られる。これだけ売っているからにはやはりそれなりの需要があるのだろう。「Ｏ−１５７で子どもが死んだら大変。だから子どもが使うものはすべて抗菌グッズにする」という親もいるかもしれない。 　しかしこの「抗菌グッズ」なるものは無意味である。なぜならこの世の中にはありとあらゆるバイキンが溢れており、たとえば私たちの皮膚にだってブドウ球菌と呼ばれるバイキンが無数にいるし、腸や口の中などにも無数のバイキンがいる。こんなにバイキンだらけの世界に住んでいて身の回りのものをほんの一部だけバイキンがつきにくくしたところで何の意味もない。少しでも付加価値をつけて販路を増やしたいメーカーの思惑だけのことである。わざわざ高いカネを払ってこういう無駄な付加価値を買う人の気がしれない。 　抗菌の対象をＯ−１５７に限ればもっと無意味である。Ｏ−１５７の感染経路はそれがひっついた食物などを摂取したり保菌者のうんちなどによる経口感染であるから、靴下などの身の回り品を抗菌にしたところでＯ−１５７の感染を防ぐことなどできっこないのである。 　Ｏ−１５７の感染を防ぎたいなら野菜をきちんと洗うとか肉などはきちんと火を通すとかの昔ながらの食中毒の予防法しかない。 子どもには風邪をひかせよう 　親ならばだれでも子どもに風邪をひかせないよう、ケガなどさせぬよう、育てたいと思うであろう。しかし怪我はさておいても風邪を一度もひいたことのない人などいるだろうか。 　風邪の原因であるウィルスはありとあらゆるところにいる。たまたま風邪をひいた人がそのウィルスを体内で濃縮、培養してそれを他人にうつす。人間が社会生活を営んでいるかぎり、風邪のウィルスに暴露されないでいることは不可能である。 　人間には免疫力がある。これはチョー精密な軍隊のようなものであり、学習能力があるから、一つのウィルスを撃退するたびにその情報が蓄積され、再度同じ敵が来た時はより強力な防衛体制をしくことができる。（免疫ができる） 　したがって子どもには小さい時からどんどんいろいろなウィルスに暴露させて免疫体系にいろいろ学習させ、強力な防衛力をつけさせた方がよいのだ。だから子どものうちは風邪はどんどんひいた方がよい。 　風邪に限らず子どものうちはいろんな感染症にかかっておいた方がよい。それによってさまざまな感染症に対する免疫体系ができあがり、たくましい人間に育つ。 　水痘に登校停止は必要？のページで述べたように幼稚園や保育園の管理体制ばかり考えてやたら登校停止にしてはいけないのだ。保育園などで水痘や麻疹、風疹などがパァーっと広まってくれたら、天然ワクチンをタダで打ったようなもので大助かりである。 　これらの病気はちょっと安静にしていれば何も治療も必要とせず（というか治療法がない）、きれいに治るから、かかっても別に命に別状はない。麻疹やインフルエンザなどでは原因不明の脳炎などになる子も稀にいるが、おそらく交通事故で死亡するよりも少ない確率である。それにワクチンによってこれらを完全に予防できるわけでもない。こうした稀な病気を心配するよりは、子どもの交通安全対策をもっとやった方がよい。 　妊婦さんの風疹が問題になるのも、昔はみんなが子どもの時に風疹にかかってその免疫があるのが当たり前だったのに、最近では子どもの時に風疹にかからないままに大人になった人が増えてその免疫がない人が増えてきたためである。（しかしそれでも妊婦検診などで風疹の抗体価を測るとだいたいの人は陽性である。結局なんやかんやいっても不顕性感染も含めて、みんな風疹にはかかっているのである） 子どもは不潔でけっこう 　赤ん坊の頃はともかく、子どもはある年齢になったら（２〜３歳すぎ）もうあまり清潔にこだわる必要はない。 　昔の子は青っ洟たらして泥んこ遊びをしていた。多少のケガなんか放って置いた。今は親が子どもを大事にしすぎる。ちょっとしたケガでもすぐ病院に連れてくる。（病院に来る子の９０％以上は別に治療もなんにもいらない子だ）　泥んこ遊びなど「不潔だからやめなさい！」となる。 　無論あるレベル以上の病気やケガはきちんと病院で治療しなければならないが、今の親はその判断ができない。だからなんでもかんでも病院へ、となる。さらにまた、保育園や学校などは管理責任を問われるのがいやなのか、ちょっとしたことでもすぐに診断書を要求してくる。 　人間には自然治癒力があるからある程度のケガや病気は自然に治る。そしてその自然治癒力（イコール免疫と考えてもよいが）は不潔な環境でこそ強くなるのだ。さまざまなバイキンやウィルスに暴露されることによって子どもの体内の免疫系は発達する。 　かえって子どもの時に大事に育てられすぎて必要な免疫ができないままに大人になってしまった方がよっぽどこわいのである。 　Ｏ−１５７の事件以来世の中ではとみに清潔志向が高まったようであるが、そもそもＯ−１５７を引き起こす原因である病原性大腸菌そのものが、ある意味で人間社会の清潔志向の結果である。（人間の身体にどこにでもいる常在菌が人間の清潔志向のために住みにくくなり、病原性を獲得することによって生き延びてきた） 　また花粉症などのアレルギー疾患の近年の増加は人間の清潔志向により寄生虫が少なくなった結果だといわれている。（それまで寄生虫などを敵としていた好酸球というヤツが敵がいなくなったために自分の身体を敵とみなすようになった。そのためにアレルギーというものが起きる） 　人間社会が清潔になればなるほどバイキン達はこれに逆襲しようとする。バイキンマンは悪者らしいが、バイキンはすべてが悪者ではない。しかし人間の清潔志向のもとにいいバイキンまでが十羽一からげに退治されてしまっている。よいバイキンまでがやられてしまうことによって人間はますますひ弱になっていく。 　そして清潔に慣らされたか弱い人間は生き残って強靭になった新手のバイキンたちにやられてしまう。Ｏ−１５７の事件はまさにその象徴といえる。大人はともかく、子どものうちはきたない環境のもとで不潔に育てたほうが人間社会のためにもいいと思う。

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