ステロイド剤のはなし

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みなさんはステロイド剤のことをよくお聞きになることがあると思います。世間一般のイメージでは「ステロイドはこわい」とよく言われています。実際のところはどうなのでしょうか。 ステロイド剤はこわくない 　結論を先に言えば、ステロイドというものは使い方さえ誤らなければ決してこわいものではないということです。そもそもステロイドというものは人間が生きていくためには欠かせない物質です。人間の身体では常にステロイドが断続的に一定量分泌されています。（特に朝方）　この分泌があるからこそ、私たちは生きていけるのです。そして特に身体にストレスがかかった時などはこのステロイドの分泌量が増大し、それによって身体はストレッサー（ストレスの原因となるもの。通常ストレスといわれているのはこのストレッサーのことです）に対して抵抗することができるのです。 　このようにステロイドは人間が生きていくうえに欠かせない物質な訳ですが、それではなぜステロイド剤というものが病気の治療に使われるのでしょうか。 ステロイド剤の作用 　ステロイドは「現代の魔法薬」と言われています。それはさまざまな病気によく効くからです。ざっと挙げてみても種々の膠原病、気管支喘息、ある種の肺炎、脳腫瘍や特定のガン、さまざまな皮膚疾患、その他さまざまな病気の治療に使用され、すばらしい効果を得ています。 　ステロイドは基本的に身体の炎症作用を押さえる働きがあります。そのためにいろいろな原因で身体に炎症が起こり（細菌感染やウイルス感染などは除く）、それが病気を悪化させている場合には大変有効なわけです。炎症が原因となっている病気は無数にあるため、これらの病気には基本的に薬剤としてのステロイドが有効となるのです。 ステロイド剤の副作用 　このようにすばらしい効果をもつステロイド剤ですが、「よく効く薬は副作用も多い」原則により、当然副作用も強烈です。そのためにステロイド剤はこわい、と言われているのですが。 　 　医学書を見るとさまざまなステロイド剤の副作用が挙げられていますが、要するにステロイド剤の副作用というものは前述した生理的なステロイドの分泌を押さえてしまうことにあります。 　人間の身体というのは普通の食生活などをしていれば、必要な物質は過不足なくきちんと体内で合成されているのですが、薬剤としてそれが過剰に体内に入ってくるとその物質を産生する力が弱くなってしまうのです。 　ステロイドはその典型で、薬剤としてステロイドが体内に入ってくると、生理的なステロイドを産生する副腎皮質という臓器が萎縮してきてしまいます。「外から完成品をわざわざ入れてくれるんならなにもオレたちゃ一生懸命働くこたぁねえや」という風に副腎皮質が思ってしまうのです。人間社会でもそうでしょう。あまりにも社会福祉が行き届きすぎて、働かなくとも福祉からカネをもらえる、となれば「わざわざきつい思いせんでもお上からカネをもらえばいいや」ということになって働く能力がある人でもあまり働かなくなるでしょう。あるいはかつての巨人のように外部から有名選手ばかり集めてくれば、巨人生え抜きの選手などは「外から有名選手ばっか集めてくるんなら俺達の働き場所がない」といって一生懸命練習しなくなるでしょう。それと同じです。 　こうしてステロイドの投与を続けて、副腎皮質がステロイドを作るのをなまけてしまった状態で、もしステロイド剤を急にやめてしまったらどうなるでしょう。「それじゃオレたちが頑張るか」とすぐに副腎皮質が働きだすかというとそうではありません。人間と同じでなまけることに慣れてしまった副腎皮質はもう働かないのです。するとどうなるか、副腎機能不全という状態になります。 　つまりステロイドが身体に供給されなくなるのです。この状態が続けば人間は生きていられません。ステロイドの供給が止まるのは石油の供給が止まるのと一緒でそれなしでは人間は生きられないのです。これがステロイド剤使用のこわいところです。すなわち長期にわたってステロイド剤を使用していた人が急にそれをやめた時が非常に危険なわけです。したがってステロイド剤を処方された場合、必ず医師の指示通りに飲まなければなりません。他のクスリは自己判断でやめてしまってもそう大事にはならないのですが、ステロイドの場合には自己判断で勝手にやめた場合は命にかかわると思ってください。 短期間のステロイド剤の使用は安全 　したがって数日以内のステロイド剤の使用ならばあまり心配はない、ということになります。たとえば病気の種類によってはパルス療法といってステロイド剤を生理的必要量の何百倍も投与することがあります。ステロイドを多量に投与することにより、身体を刺激し、イッキに病気を退治してしまおうというわけです。いわば「びっくり療法」といってもいいでしょう。短期間の使用ならばこのような大量のステロイドを使用してもそれほど問題はないのです。またパルス療法ほどではないにしても、一般的には短期間のステロイド剤投与は量的には生理的必要量をはるかに超える量を投与することがほとんどなのです。（そのくらい投与しないと効果もない） 長期のステロイド剤投与はできるだけ少なめに 　病気の種類によって場合によっては一生ステロイド剤を投与しなければならない患者さんもいます。こういう人に対しては当然ながらできるだけ少量のステロイド剤ですむように調整します。また投与時間も朝一回とし、できるだけ生理的なステロイドの分泌を助けるような状態にします。　何かの原因でステロイド剤が飲めなくなったとき大変なことになるからです。 ステロイドを毛嫌いしないで！ 　このようにステロイド剤というのは使い方さえ誤らなければ決して危険なクスリではありません。世上いろいろ問題となっているのは医者の使い方がまずかったり、患者さんが医者の指示通り服用しなかった場合のことが多いのです。 　 　世間には医者でもないのにステロイド剤の副作用をあまりに強調して「あんなクスリは危険なので飲んではいけません」などと吹聴して回り、わけのわからぬ民間療法を薦めたりする人がけっこういるのは残念に思います。そのために必要な治療が行われずに病気が悪化している人も多いのではないのでしょうか。アレルギー性の皮膚炎などでうまくステロイド剤を使えばきれいに治るのに、やたらステロイド剤をこわがって服用しようとしない人がたまにいますが、かえって皮膚炎を悪化させ、悲惨な結果となっています。 　 　確かに医者によっては後先かまわずやたらステロイド剤を処方し、一時的に患者さんを良くして評判を高めよう、としている人もいるのも事実だと思います。信頼するお医者さんからステロイド剤を処方されたら、まず副作用のことをよく聞いて納得のいく説明があればそのお医者さんを信頼してステロイド剤をきちんと服用してほしいと思います。

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