石原莞爾ら関東軍の出先が起こした満州事変は、その大局的な評価はとりあえずは置いておくとして、当時の日本政府や軍中央としては、迷惑千万だった。

しかし、もしも当時のマスコミである新聞がそれを否定的に伝えていたならば、政府や軍中央は、世論をバックにして、関東軍に対して、もっと強い処置が取れたことだろう。さすれば、関東軍も、石原らの思惑通り、満州国からの越境は控え、その後の日中関係は大幅に変化していた可能性がある。戦後日本史では、満州事変が「15年戦争」の始まりと位置されるに至った（それ自体は虚構なのだが）が、 そうしたことは起こらなかっただろう。

つまり、日中戦争は、もともとの政府や軍中央部の意志を無視した世論が引き起こしたもの、と言える。そしてそんな世論を誘導したのが、朝日新聞を始めとする、当時のマスゴミだったわけだ。 春秋の筆法になるかもしれないが、マスコミが日本を滅ぼした、ともいえる。

こうした残念な史実は、現在のCovid-19禍においても、そっくりそのまま再現されてしまっている。

現在のマスゴミは主として、テレビのワイドショーである。これは玉川や片山元鳥取県知事だけでなく、八代代議士のような一部の良心的なコメンテーターを除き、ほぼすべてのワイドショーにおいて言えることである。

ワイドショーは、とにかく視聴率が取れればよい。彼らはそれで競争をしているのだから、それは当然のことで、満州事変を煽った朝日新聞と同じである。

残念ながら、いくら日本人の民度が世界的には高いとはいっても、こうしたワイドショーの目論見を否定できるだけの識見を持つ人は、ほとんどいない。したがって、どうしてもワイドショーの意見が鵜呑みにされ、それが世間となる。

そのワイドショーは、基本的には、いけいけどんどん、である。満州事変の時と同じで、そうしないと、視聴率が取れないから。具体的には、以下のように。

①”専門家”は医療関係しか出さない。それも、日本医師会長や東京都医師会長の意見に忠実な人たちだけ
②こうした人たちに、過度に”医療崩壊”を煽らせる。
③そして、医療崩壊を防ぐためには、緊急事態宣言が必要だ、と片山や玉川などを通して言わしめる
④Covid-19は、エボラ出血熱並みのきわめて感染力が強い感染症である、と言い広める
⑤大事なことは医療崩壊を防ぐことで、そのためには、経済がやられても仕方がない、と国民に思わしめる（実際、世論調査では、ダブルスコアで、経済よりも医療優先という意見が多い）。

実は↑の意見は、決して間違いではない。だからよけいに始末に困るのだ。それは、満州事変自体が、歴史的には決して間違った事象ではなかったのと同じように。

問題なのは、Covid-19の認識、対策として間違ってはいないのだが、こうしたことが結局は、経済を破壊することになる、ということ。満州事変の行き着いた先が、300万人の日本人の死亡に結びついたように。

ではどうすればよいのか？　満州事変で言えば、国民がそれを非難すればよかった。それで関東軍は満州に留まることができたわけだから。

Covid-19については、withコロナに徹することが、「満州事変への非難」に相当する。欧州の１/10の優秀な成績なのになぜ医療崩壊が起こるのか、言い換えれば、欧州ではなぜあんな惨憺たる状況なのに、何とか医療が持ちこたえているのか、をきちんと説明し、医療界が今、本当にしなければならないことを、もっとまっすぐに伝えなければならない。

今のマスコミは、それを明らかにおろそかにしている。そして、日本医師会長派の医師らの意見だけをあたかも医療界全体のように報道し、世論を煽る。そのひとつの到達点が、立民党によるゼロコロナ論である。

このような非科学的な認識が、一定の影響力を持つことが、きわめて、恐ろしい。あたかも、大東亜戦争末期の、竹やりで鬼畜米英を倒せる、という発想のごとく。

話は変わるが、スウェーデンでは、政府が世論に迎合し、疫学者テグネルが進めてきた政策をひっくり返しつつあるようだが、テグネル自体は、その意見を変えてはいない。彼は今でも、自分の意見は正しいと信じており、世論に安易に迎合はしない。

そうした意味で、8割おじさんは、テグネルとは正反対からの意見の人だが、自分の意見を変えようとしないことは、テグネル同様、評価はできる。

思わず、民主党政権、菅直人内閣時代の、「第三の道」論を思い出した。

それは、経済成長と社会保障の両者はトレードオフなのではなく、ともに共存共栄する、という奇妙な政策であった。社会保障費の増大は、新たな需要や雇用を創出するから、経済成長に寄与するのだ、という考えだった。

そこには、社会保障は所詮は経済成長の果実を食う存在である、という事実が見逃されていた。当然のことながら、菅（かん）内閣のこの政策は、空振りに終わった。

この「第三の道」論が示すように、サヨクという存在は、あらまほしき理想を追い求め、実際の現実には耳をふさぐ傾向がある。見たくないものは見ない、という発想である。

もともと左翼思想がそうした理想から始まった。サヨクの創始者はレーニンだが、レーニンは、有能かつ、心優しい稀有の人物だった（たいていはどちらかか、どちらもないから）。自分は富裕層に属し、黙っていても、ロマノフ王朝のもとで、裕福な生活が保障されていたのにもかかわらず、貧しき人たちの生活改善を考えた。 この世にはなぜ貧富の差があるのか？　レーニンは、それは個人ではなく社会に責任がある、と考えた。ロマノフ朝を倒し、マルクス思想で世を統一すれば、この世から貧困はなくなる、と考えた。

だがそれは、幻想だった。レーニンはしかし、共産主義の間違いを認めることなく、その政策を進めた。そのために経済は最悪となり、結局は、資本主義的要素を取り入れたネップを施行せざるを得なくなった。

経済政策としての共産主義が誤りであることは、その後、中国において、鄧小平の資本主義的政策で明らかとなり、最終的には、’91年の旧ソ連崩壊で証明された。言い換えると、そこまでにならなければ共産主義の誤りは明らかにはならず、そのために世界は70年を浪費せざるを得なかった。

このように、あらまほしき理想を追ったサヨクは、マルクス=レーニン主義が崩壊したあとも、イデオロギーフリーとはなったが、やはりそれを求め続けた。というか、理想を追うことがサヨク路線だった。

たとえば、戦後の講和における、全面講和論がその典型例である。こうあって欲しい、こうあるべきだ、という理想に固執し、吉田茂の反面講和論と対立した。

そうしたサヨクの理想論が、巡り巡って、菅（かん）内閣の「第三の道」論となった。経済は成長させたい、社会保障は充実させたい、本来はトレードオフである両者の関係を何とか両立させたい、という理想論が、それをなさしめた。

枝野氏の論も、まさにこの延長にある。感染は徹底的に抑えたい、ゼロコロナだ、しかし同時に経済も成長させたい、両立するはずがない両者を両立させることこそが、枝野氏のサヨクたる面目躍如であった。

無論、枝野氏は利口だから、それが不可能なことも、わかっているはずだ。だから、感染を徹底的に抑えながら経済を成長させるための方策は示さない。ただ、”それは可能”としか、言わない。

言っていることは結局は、徹底的な補償、補助金のバラマキである。彼の言う経済成長とは、結局はバラマキなのだ。それは、旧民主党時代に通じる。

仮にそれをするにしても、責任与党ならば、そのための財源を確保しなければならない。増税など絶対にできない以上、それは後の世代からの借り入れに頼らざるを得ない。しかし、建設国債と違って、Covid-19対策は資産として残らない。完全な赤字国債なのだ。

だから麻生財務相は、バラマキには釘を刺した。

枝野氏だって、民主党時代の政権を担当した一人だったのだから、財源の確保の難しさは、熟知しているはずだ。それでもこのような無責任なことを言うのは、ひとつには、共産党を意識してのことかもしれない。

周知の如く、共産党は、緊急事態宣言自体に反対してきたから、立民のように、これを主張できない。そのために、共産党の批判は、とにかくばらまきしかない。枝野氏は、選挙対策のために、あえて共産党に乗った面もあるのだろう。

いずれにせよ、こんな実現性の薄い理想論をトップがNHKで話すような政党に、政権など任せられるはずがない。菅（すが）内閣の支持率がいかに落ちようと、今の野党が政権を取ることは、絶対にないだろう。枝野氏のこの発言は、あたかもそれを証明してしまったようである。語るに落ちる、とはこのことか。