最近、↑のようなトンデモ本が出た。むろん、買う価値はないので、図書館で借りて読んでみた。

著者は日経関係のジャーナリストのようで、もともと日経は再生エネには熱心だったので、その流れに沿う本である。

表題にもあるように、そのキモは、"蓄電池”である。

元来、改めて著者から指摘されるまでもなく、国家レベルの電力受給を調性し得る蓄電システムが完成すれば、人類は、電力エネルギー問題からほぼ解決されるのである。

たとえば現在、VRE（太陽光、風力発電のような可変の再生エネ）は、かなりコストダウンが図られており（なおそれは、FITなどによる制度的優遇の賜物であり、そのために皆が高額な再生エネ賦課金を現在負担させられているという犠牲が伴っていることを忘れてはならない）、仮に蓄電側の問題が解決されれば、すなわち、variableにun-の接頭語がつけられるようになれば、間違いなく、もっとも低コストの発電源になる。むろん、蓄電によってベース電源も不要となるので、原発も不要となり、発電のための化石燃料費用はおそらくほぼゼロとなり、2050年にCO2排出実質ゼロもまた、夢ではない、ということになる。

つまり、再生エネの今後の普及はすべて、実用的な大規模産業用蓄電池が普及できるか否か、にかかっているのである。

●現行の電力供給体制を社会体制になぞらえるのは疑問
著者はいきなり、電力供給を社会体制の問題ととらえ、それは東側経済、すなわち、計画経済であり、そこに問題がある、という。つまり、計画経済が破綻して西側に吸収されたように、電力もまた、自由化等により、”西側化”が可能であるとする。

筆者の勘違いはまず、ここにある。筆者は電力の”同時同量性”を黒幕としているのだ。（同書p21）。だが、これは蓄電ができない電力需給の宿命であり、別にこのことそのものが悪者なのではない。著者は後に、大規模蓄電池システムは可能なのであるから、したがってそれを前提としない現在の”同時同量性”は悪である、と判断しているのだろう。

さらに著者は、VREのVを、社会が悪者視している、と主張する。（同書p17）。本来VREがvariableであるのは技術的宿命なのであり、そこに価値判断など入る余地もないはずなのだが、著者はそのように考えているのだ。

このように、同書はきわめて偏見に満ちた物言いから始まっている

●社会体制ではなく、技術の問題
さらに、これは月並みで陳腐なことだが、著者は技術の問題を体制の問題にすり替える。たとえば、①VREが普及しないのは、原発を政府が残したいから　②政府がいじわるをしてVREに送電線を割いてくれない、等（後者はNHKの水野倫之解説委員が主張。令和2年7月８日当ミニコラム参照）。

ただこうしたことは、本書においては、枝葉である。本書のキモは何と言っても、前述したように、大規模広域蓄電池システムの構築の可否なのであるから。

当然著者は、このシステムは将来的に可能である、という。たとえば、大規模蓄電池システムのネックはあくまでもコストであるが、、今後大量生産で需要が増えていけばそれは低下していき、「供給過剰も手伝って」（同書p110）今後10年で、その価格は１/３にまで低下するだろう、という。

だがそうなるためには、そもそも技術的問題が解決されている必要がある。

たとえば太陽光発電システムなどは、規模の原則によってその価格は大幅に低下してきた（FITという下駄履かせによるものであったことは、とりあえずは置いておいて）。それはこのシステムがたまたま、技術的問題をクリアしていたからである。言い換えれば、すでに単位面積当たり出力や発電効率はほぼ技術的限界に達していたために、需給価格の折り合いがほぼ20年前からついており、FITも相まって、急激な需要拡大が起こり、それに供給が追従可能だったからである。つまり、太陽光発電システムは、技術よりも経済問題だったのだ。

大規模広域蓄電池システムはそうではない。そもそも技術的に未完成なのだ。これは再エネ推進派も認めていて、だから必ず、”今後の技術開発が必要だが・・・”といった枕詞がつく。つまり、こればかりは、再エネ推進派も、太陽光発電システムのように、ごまかしようがないのだ。

技術的問題が発展途上のシステムは、経済問題には、乗らない。したがって、今後、大規模蓄電池システムへの需要が大幅に高まったとしても、太陽光発電システムのような順調な価格低下は起こらないだろう。技術的問題がボトルネックとなり、需要が増えても、供給過剰どころかそれに見合う供給そのものが、少なくとも太陽光発電システムのように、需給側の価格が折り合うようにはならないだろうから。

●過去の失敗を教訓に
H.フォードが自動車の大量供給を可能にし、その価格を大幅に低下させることに成功したのは、そもそも自動車の技術がその頃すでに、完成していたからであった。彼が行ったのは、技術開発というよりは、原材料の供給から始まり、大量生産システムの構築、販路確保といった経済的問題の解決であった。だからこそ、H.フォードは経済の革命児になった。

ジャンボジェットが成功し、コンコルドが失敗したのは、ビジネス的失敗と言われたが、実際には後者の技術が、結局は完成しなかったからである。航続距離、燃費、超音速ゆえの問題といった技術的問題がクリアできなかったためである。

私は、必ずや、大規模蓄電池システムは、技術的問題ゆえに、コンコルドの二の舞になる、と考えている。

当然のことながら、あてにできない技術をあてにするシステムは危険である。卑近な例では、FGT技術をあてにして計画された長崎新幹線は、長崎―武雄間はすでに高架線路が完成してしまったが、FGTが頓挫したために、鳥栖-武雄間はまったく白紙状態である。おそらく、武雄での乗り換えが恒久化し、新幹線ができたがゆえにかえって不便になったという状況が続くことだろう。

高速増殖炉技術の挫折も教訓となる。私が子供だった半世紀前頃には、まだ、人類は将来的に核融合技術を使えるようになる、とさえ言われていた。無限にある水とCO2を反応させただけでとんでもないエネルギーが出力されるわけで、この技術ができれば、人類はエネルギー問題から完全に自由になる、エネルギーは水や空気同様の自由財になる、などと言われた。

しかしそれはさすがにダメだということが当時でもわかり、その代替と浮上していたのが、高速増殖炉技術だった。これなら何とか可能かもしれない、そして、21世紀にはその技術が完成し、人類はほぼエネルギー問題から解放される、と言われていた。（私が小学生の頃には、ウランは1000年持つ、と習った。おそらくこの技術を当て込んでのことだったのだろう）。

しかしこの技術もまた、打ち捨てられた。Naを用いるなど、あまりに技術的なボトルネックが大きく、やはり人類には手に負えないだろう、とのことで。

高速増殖炉技術が使えないことがわかり、現在は、プルサーマルに縮小されている。

●技術のいいとこどりは、できない
高速増殖炉技術技術を捨てることに喜んだのが、再エネ賛成派だった。彼らからすれば、この技術が完成すれば、再生エネの出る幕はほぼなくなったわけだから。

ところが彼らは、同じように、物理学的にはもっと実現が厳しそうな大規模蓄電池システムは可能だ、としているのだ。要するに、技術のいいとこどり。

そこで思い出すのが、技術ではないが、かつての民主党政権ではマニフェストにまで取り上げられていた、高速道路無料化である。

これはもともと、2003年に出版された「日本列島快走論 (山崎 養世 著）という本が元になっている。それを、菅直人が、民主党の政策の目玉として、採用したのだ。

この本の内容は読んでいないが、確かに、それが可能なのであれば、高速道路が無料になるメリットは計り知れない。

しかし当然ながら、デメリットもいろいろあった。民主党政権はそれには目をつぶり、あらまほしき政策のみを取り上げたために、実際に採用するとなると、問題点続出で、結局は、中止となった。

つまり、技術や政策のいいとこどりはできないのである。これまでに人類が自家薬籠中にすることができた技術は、同時にデメリットをも技術的に克服できたからであった。それが結果的にはいいところどりになっただけであり、最初から技術的困難をものともせずに、いいとこどりを狙っても、失敗すること間違いなし、である。

断言しよう。この本はまちがいなく、山崎 養世氏の「日本列島快走論」と同じ運命をたどることになるだろう。

むろん、民主党政権と違って安倍政権はちゃんと考えているから、まともな政策としては取り上げないようだが、洋上風力発電がどーとか、「再生エネを主力電源に」などといった文言があるように、決して楽観視はできないのだが・・・・