核アレルギーについて
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世界の三大アレルギー
世界の三大アレルギーと呼ばれるものがある。日本の核アレルギー、韓国の共産主義アレルギー、そしてドイツのインフレアレルギーである。いずれもそれぞれの国が背負った歴史を背景としている。
日本の核アレルギーはいうまでもなく、日本が世界の中で原爆を投下された唯一の国だからである。核のこわさを身をもって知っている。広島、長崎で合計十数万人もの死者が出ている。一度にこんな死者が出た例は自然災害を入れても他にないであろう。そのために日本は戦後、核廃絶に熱心に取り組んできた。「自分達は核のこわさを身をもって体験した。あんなにおそろしい兵器はない、なんとしても核を世界からなくさなければならない」と声高に叫んできた。また、日本が核をもたない、というのは国是である。今後はいかなる政権が出てきたとしても核武装をしよう、というようなことには絶対にならないであろう。
韓国の共産主義アレルギーは朝鮮戦争が原因である。昭和２５年、突然北から北朝鮮軍が攻め入ってきた。（当時朝鮮は北と南に共産圏、資本主義圏のそれぞれ別々の政府があった）韓国軍は不意打ちを喰らい、ソウルはまたたくまに占拠された。いよいよ釜山まで追い詰められ、朝鮮半島全体が共産圏に入るか、と思いきや、マッカーサーの仁川上陸作戦が成功、北朝鮮軍は補給路を断たれ、退却を余儀なくされた。この経験を通して韓国国民は北からの脅威（＝共産主義の脅威）をいやというほど味わったのである。
ドイツは第一次大戦後、天文学的なインフレにおそわれた。なんと数年間に一兆倍に物価が上がったのである。タバコの値段などが同じ日の朝と夜では何倍も違ったらしい。野菜などを買いに行くのにトラック一台分の紙幣を運んだ、だの信じられないような話が残っている。第二次大戦後もこれほどではないにせよ、やはり相当なインフレにおそわれている。ドイツは連合軍から直接首都を攻撃され、おそらく物資が極端に不足したのであろう。また戦争のためにどんどんお札を印刷し、結局こうした天文学的なインフレとなったものと思う。いずれにせよ、ドイツ人はこうした経験を持っているためにインフレ懸念が非常に高い。（フランス人の金選好の高さも同じような理由である）
他人にはわからないアレルギーの症状
アレルギーというのは医学的には何らかの刺激にたいする過剰反応である、とされる。たとえば花粉症の場合、スギなどの花粉がアレルゲン（アレルギーのもととなる物質）となり、それに対して身体が過剰に反応し、いわゆる花粉症状を作り出す。アレルギーの特徴は同じ刺激を受けてもそれに対する反応の個人差が大きく、したがって同じようにスギの花粉が飛んできても特定の人しか症状があらわれないことである。そのために花粉症の苦しみは本人にしかわからない。そして一度花粉症にかかれば次回からは花粉に対して、極端な警戒心を持つようになるものである。これがアレルギーの特徴である。
世界には通用しない日本人の核アレルギー
さて上述のように、世界で唯一の被爆国である日本は核のこわさを実体験しているだけに、世界中の人もまた自分達と同様である、と考えがちである。しかしこれこそまさに「核アレルギー」であって、核に関する些細なことがらにまで敏感に反応するのである。そして世界から核を無くすのは当然である、と大部分の日本人は考える。
しかし残念ながら、と言おうか当然ながら、と言おうか、核へのアレルギーを持たない世界世論は平均的日本人の核への考えとはだいぶズレがある。特にフランスなどは核武装が当然と考えている。アメリカや旧ソ連は世界戦略の一環として核を保有していた訳であるが、フランスの場合は異なる。あくまでも自国の安全保障の一環として核を保有したいのである。（中国やインド、パキスタンなどもそうである）
１９９５年にフランスは核実験再開を行ったが、まわりがなんやかんや言おうが結局は実験を強行した。自国の安全保障のために、核は必要である、というのがフランスの国是なのである。それは核武装はしない、という日本の国是と同様にそれはそれで無視はできないひとつの考えなのだ。あの時に日本からも左翼系の議員が核の実験場となったムルロア環礁まで抗議に出かけたり、グリーンピースだかインゲンマメだか知らない団体が抗議をしたり、日本でもフランス製品の不買運動などが起こったりしたが、しょせんは核アレルギー国によるおせっかいにすぎない。
たとえばスギ花粉症の人が「スギの花粉は花粉症の原因になるから全国のスギを切り倒しましょう」といったところで誰からも相手にされないだろう。前述の世界の三大アレルギー国の一つ、韓国がもし「共産主義は怖いからこれを根絶しましょう」と叫んだところで日本人がこれに協力するだろうか。
核のこわさを強調し、その廃絶を求める、という平均的日本人の考え方はおそらく世界世論とはなり得ない、と思う。日本人の考え方はまさに「核アレルギー」であって、世界の眼から見れば花粉症患者が花粉を極端に怖がっているのと同じようにしか見られていないのだ。世界世論は無論、核実験に対しては反対であるにはちがいないが、それは核実験に対してであって、核の存在そのものに対してとはややニュアンスが異なるのである。核を保有することと、核実験を行うこととは次元の違う問題なのだ。(日本人の多くはこれを同一問題として見ているだろう）
大事なのは「核の廃絶」ではなくて「核のコントロール」
フランスなどはあくまでも抑止力として核を保有しているわけであって、これを実際に使用することはあり得ない。つまり核はしかるべき政府が保有している限り実は安全なのである。核がこわいのはテロなど、コントロールの効かない団体がそれを保有したときである。このとき、世界はパニックになる。テロは核兵器を武器にどんな無理難題でも通すことができるようになるのだから。
したがって大事なのは核をなくすことなのではなくて、これをきちんと国際的にコントロールすることなのである。いくら核の製造を禁止したところで、そのノウハウは世界中にばらまかれているのだから、必要があれば（地域紛争やテロなど）必ず誰かが作る。これはアメリカのかつての禁酒法や日本の学校教育法上の体罰禁止規定と一緒である。（当サイト体罰はやってはいけないのかのページ参照）いくら禁止しても必要なものは誰かが必ずアングラで不法に作ったりするものなのである。そしてその時は合法な時よりも結果は悲惨なものとなるのはアメリカの禁酒法の歴史が証明している。もし世界の各政府が核を持たなくなり、いわゆる「核廃絶」が実現されたら、その時きっとテロリストはワラうだろう。「いよいよオレたちの思う存分のことができる時代がきた」と。
いくら核廃絶を唱えたところでこうした冷徹な現実を知っている世界世論は醒めた目でしか見ていないことを核廃絶論者は肝に命ずべきである。逆説的に聞こえるかもしれないが、核廃絶がなされたとき、人類はまちがいなく核で滅びるのである。禁酒法のときはアル中が増えただけで被害は止まったが、核廃絶による人類の被害は計り知れないものとなるにちがいないのである。
補遺；天然痘ウィルスの保管について
天然痘は１９７９年に根絶宣言が出された。しかし天然痘ウィルスは常に培養され続けてきた。天然痘が根絶されたのなら、危険な天然痘ウィルスの培養もやめればよいではないか、と普通は考えてしまうだろう。しかし、万が一天然痘が世界のどこかで出現したとき、人類がそのウィルスを持っていなければワクチンを作れない。そのために天然痘ウィルスの培養が必要なのである。危機管理とはこういったものだと思う。核もまたこれと同じである。テロによる核兵器使用を防ぐために、少なくとも世界戦略としての核は保有し続けなければならないのである。
補遺２；
しかし核は人類を殺戮する恐ろしい兵器だ、スギ花粉などとは次元が違う、と言う人がいるかもしれない。だが問題の大小はあるにしても議論の本質は同じである。
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