洗脳
　自衛隊員への罵声
　自衛隊員がやれ、カンボジアだ、やれペルシャ湾の掃海だので海外へと出て行く。そんなときテレビで必ず放映される光景が、左翼系の労働組合員などを中心とする人たちがボートのような小さい船に乗って「海外派兵反対！」だの「自衛隊は出て行くな！」などとメガフォン片手に叫んでいる姿である。

　彼らは何のためにあんなことをやっているのだろうか。無論、自衛隊の海外派兵に反対だからやっているのだろうが、ちょっと冷静に考えれば彼らのやっていることは非常におかしいことに気づく。

　自衛隊員は自らの信条、思想に従って行くのではない。職務命令にしたがって行くだけの事である。つまり一般サラリーマンの転勤命令などと一緒である。派遣されていく自衛隊員からすれば「自分達は職務命令にしたがっているだけのことだ、自分達にこんな罵声が浴びせられるのはお門違いだ」と文句の一つもいいたくなるだろう。したがって自衛隊員に向かって「海外に出るな！」と叫ぶことは彼らの職務を放棄せよ、と言っていることと同じである。すなわち結果的に自衛隊という武装した組織に対し、その命令系統を破壊しようとしているのである。命令系統がむちゃくちゃになった軍隊の恐ろしさについては左翼系の人間ならばよく知っていることであろう。彼ら（左翼系の人間）は自衛隊員に自らの信条を叫び、訴えることで日本の平和を守ることが出来る、と信じているのであろうが、実際には逆の結果となりうべき行為を行っているわけである。

　ああしたシュプレヒコールをするのならば、その矛先は自衛隊であってはならないのである。自衛隊の海外派遣を決定した政府に対してそれはなされるべき行為なのだ。国会なり、なんとか委員会に対して「自衛隊海外派兵反対！」と叫ぶのであれば事の是非は別としても論理として納得はできる。昔の「安保反対」のシュプレヒコールが国会にこだましていた時の方がやり方はともかくとしても、世間を納得させる力はあったのである。

　それにしてもこんな理屈は別にむずかしいことでもないし、誰にでもわかることだと思うのだが、なぜ彼ら左翼系の人たちはいつまでも同じ事をやってるんだろうか。

　そもそもあの手の動員は必ずやらせている誰かがいる。私は昔公務員をしていた時、労働組合からたびたびいろんな示威運動の動員に担ぎ出されたからその辺はわかるつもりである。やらせている連中には私が指摘した矛盾がよくわかっているはずなのだ。それをわかった上でさせているからアクドイ。

　それではなぜわかった上であんな自衛隊員へのシュプレヒコールをさせているか、といえばおそらくはその宣伝効果をねらっているためと思われるのである。今の時代、国会に乱入しても世間の支持は得られない。自衛隊が海外へ出発していく瞬間が勝負なのである。この時は必ずテレビで放映されるし、世間の注目度が高い。この時をとらえて示威運動をやるべきだ、左翼運動はまだまだ力を失っていないんだぞ、という絶好のアピールになる、との考えからである。なんのことはない、あの港でのシュプレヒコールは左翼運動の単なるコマーシャルなのである。やらせている連中はそれ以上のことは考えていない。

　だからかわいそうに思うのは何も知らずにやらされている（テレビに出ている）人たちである。私の経験からいっても第一線で労働運動で頑張っている人はまじめで一生懸命な人が多い。本当に左翼運動が世のため、人のためになると信じ込んでいるのだ。なかには家庭を犠牲にしてでも頑張っている人もいた。しかし、いかんせん彼らは労働組合の上層部から利用されている、ということに気づいていないのだ。もし気づいていたらバカらしくてあんなことやらないだろう。

　　洗脳される恐ろしさ
　残念ながら、あの、港でさかんにシュプレヒコールをして気焔をあげている人たちは左翼系の労働組合などの上層部から洗脳されてしまっているとしかいいようがない。彼らは考えることを放棄させられてしまっているのである。只管、上層部からの指令に忠実であるよう教育され、それこそが労働運動であると思い込まされている。だってちょっとまともに考えたらあのシュプレヒコールは論理的におかしい、と気づくはずだから。

　かつて私が公務員だった頃、一生懸命労働運動（と称するもの）をしている青年部の幹事に「あなたのやろうとしていることはどんな意味合いがあるのですか？」と問うたら、わからない、と言った。わからないけど、とにかく上層部の指令だからやるのだ、とのことであった。彼らにとって上層部の指令はつねに正しいのである。左翼運動の始祖ともいうべきマルクス、レーニンが絶対無謬であるのと軌を一にしている。

　その昔、統帥権干犯を理由に浜口雄幸首相を狙撃した愛国社という右翼の佐郷屋留雄という男は「統帥権とは何か？」と聞かれて答えられなかったという。浜口雄幸は傷がもとで間もなく死亡、政界はその後５ヶ月にわたって混乱を極め、当時の恐慌に拍車をかけた。

　左であれ、右であれ、上層部の人間が現場を担当する人間から思考力を奪う洗脳を行うのは共通している。現在の世で佐郷屋のような突出した人間の出ないことを願う。

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