患者名： ９歳 男性
主訴：右下腹部痛
職業：小学3年生 体重６２ｋｇ
既往歴：相撲をやっている
現病歴：前日より右下腹部痛と下痢があるとのことで当院受診、内科の診察を受ける。この時は急性腸炎の診断にていったん帰宅となった。翌日痛みが取れないとのことで私の外来を受診となる。
理学的所見：右下腹部（McBruny点）を中心とした圧痛（＋）
反跳痛（＋） 心か部痛（−） 下痢（＋） 嘔吐（＋） 急性虫垂炎を積極的に疑う所見。
LABOデータ：白血球１４９００ CRP７．４７
検査所見：腹部エコー上は虫垂はあきらかには同定されずむしろ回腸末端炎を疑う所見とのこと。腹部CTにては虫垂と思われる低濃度領域を認め、その回りには炎症によると思われる高濃度領域を認める。腹水（ー）（下図）
以上の所見を総合して穿孔性虫垂炎を否定しえず、同日緊急試験開腹術となった。
手術所見：全身麻酔下に右McBurny点を中心として１０ｃｍの皮切（太っている為） 腹膜を開くとやや便臭のある濁った腹水がどっと噴出した。創が大きいため虫垂はすぐに同定できた。根部にまで炎症がおよんだすさまじいまでに腫大した虫垂であった。全体は壊死性で、一部穿孔していた。癒着がひどいため逆行性に虫垂処理を行った。虫垂切除後は腹腔内を生食５０００ｃｃにて洗浄し、ﾍﾟﾝローズﾄﾞﾚｰﾝを留置した。なお、切除した虫垂内には糞石を認めている。
術後経過：術後は予想通り創感染を起こした。（こうした穿孔性虫垂炎ではほぼ必発である） しかし抗生剤のみで保存的に軽快し、術後3週間後に退院となった。
| 考察と反省点 この二症例はたまたま1カ月をおいて経験したものである。症例７の反省点は最初に患者が受診したときに急性虫垂炎の診断がつけられていないことである。この時診察した医師は循環器専門医であり、腹部の病気の診療は不得手であったが、きちんと腹部の触診やエコー検査などをやっていれば急性虫垂炎の診断はついたと思われる。やはり専門分化した医療の弊害である。この時期に診断がついていれば穿孔する前に手術をすることができたかもしれない。 症例８は私の誤診例である。ただし自己弁明させてもらえば一般的に急性虫垂炎と上行結腸憩室炎の鑑別は非常に難しい。（特に虫垂が穿孔している場合）理学的所見だけでは区別がつかないことが多い。（大腸憩室炎とはのページ参照）またエコー検査はたまたま私自身がやる機会がなく、検査技師にまかせてしまった。腹部CTでも上図の如く、この両者はかなり鑑別が困難である。retrospectiveにみれば症例８のＣＴでは大腸憩室もあるし、容量の関係で一枚しか図示していないが、虫垂炎にしては炎症部位の長さが長かった。しかしながら患者さんの痛がりようは尋常ではなく、結局緊急手術に踏み切らざるをえなかった。今からおもえば夜中一晩抗生物質と点滴で様子を見ておけば朝には少しは落ち着いていたと思う。 かつて急性虫垂炎の正診率は７０％程度であった。要するに3割は誤診だったのだ。右下腹部痛といえばなんでも手術していたのである。しかし以前はほとんど理学的所見とLAＢOデータしかなかったのだから、医者とて神ではない以上これはやむを得なかったかもしれない。現在はエコーやＣＴがあるので正診率ははるかに向上しているが、それでもやはり開腹してみたら他の病気であったということはたまにはある。私の場合でも最近ではこの症例８が唯一の急性虫垂炎の誤診であったのであえてここに挙げさせてもらった。 |
