森前東京オリンピック組織委会長が辞任したきっかけは、当初は、森氏の「女性蔑視発言」と表現され、そのようにニュースなどでは伝えられていた。だが、今週（2月15日以降）に入ってくらいから、その表現が微妙に変化してきていることにお気づきだろうか？　それまでは「女性蔑視」と断定的だったのが、ニュースでそれは、「女性蔑視とも受け取られる」あるいは「女性蔑視とも取れる」というように変わってきているのだ。

実は、森発言があった直後のお昼のワイドショーでは、山下JOC会長が「女性蔑視とも受け取られる」と発言した折に、即座にコメンテーターが「それは間違いだ、”受け取られる”ではなく、蔑視そのものだ」とクレームをつけていた。しかし今週に入ると、コメンテーターがクレームを入れた表現に、マスコミが変えてきているのだ。

先日の当ミニコラムでも指摘したように、実は、森氏の”女性蔑視”発言は、マスコミ、ことに毎日新聞によって作られたものだった。すなわちそれは、森氏の発言が女性蔑視かどうかを、毎日新聞記者が自身の価値判断で書いた記事が元になっていたのだ。

したがって本来大事なことは、もともとの森発言の精査、ということになる。それを読むと、森氏は「女性は優れている」とも言っているし、少なくとも私には、それが女性蔑視とまでには至らない、と感じた。少なくとも、この発言ひとつで森氏が辞任に追い込まれるほどのこととは、思わなかった。

但し、おそらく森にもともと批判的ないしはフェミニストからすれば、（かつてしばしば行われたように）発言の一部を切り取り、あるいは一部を意識的に撥ねることで、それを女性蔑視発言に仕立て上げることは可能だった。

毎日の記者がそれをしたのだった。

毎日新聞でさえおそらくは、この記事がその後森氏を辞任に追い込むとまでは、思わなかったのではないか。何となくそこまでは悪意を感じないので。

問題はこの記事を”使える”と踏んだ、悪意ある勢力の存在である。森おろし、ないしは東京オリンピック阻止を狙う勢力（それは日本を破壊したい勢力につながる）は、（特に左の方から）相当あるだろうから、彼らがこの記事に目をつけ、マスコミを炊きつけて、森氏を追い込んだものと思われる。

つまりは、森氏は、毎日新聞とアンチ森勢力の二乗による、ばかげたパフォーマンスの犠牲になったのだ。

さすがにマスコミも、自分たちが乗ったこのばかげたパフォーマンスに贖罪をしたくなったのだろう。だからしれっと、特に今週になってから、その表現を変えていった。彼らには彼らなりの良心はあるのだろうが、同じマスコミが、先週の段階では、その「受け取られる」発言そのものを批判していたことを忘れてはいけない。

●世論を作るマスコミの恐ろしさ
1931年に石原莞爾らによって行われた満州事変が、当時の朝日新聞らマスコミによって好意的に取り上げられ（それ以前は反戦世論が強かった）、当事者らが一番懸念していた世論の反対がたちどころに融解した事実は有名である。

満州事変そのものは、私は間違った選択であったとは思わないが、マスコミがあまりにもいけいけどんんどんとやったために、事変が、石原らの意図を超えて拡大し、最終的には中国政策は収拾がつかなくなってしまった。こうした意味合いにおいて、やはりマスコミの罪は重い、と私は思う。

朝日新聞は、こうした戦時報道を反省し、その反動で戦後は反戦の旗手となったが、微妙な世論の動向をつかみ、それを増幅させるマスコミの性は戦後も延々と続いている。戦後はそれが逆に、非現実的な反戦思想を生み、マルクス=レーニン主義に固執する社会党を延命させる一因ともなった。吉田茂（半面講和）、岸信介（安保改定）、中曽根康弘（国鉄分割民営化）といった、世論に迎合しない自民党の硬骨漢が、そうしたマスコミ勢力から日本を守ったと言えよう。逆に、時代の流れを作ったマスコミに迎合した三木武夫（ロッキード事件）、河野洋平（河野談話）、菅直人（脱原発）といった人は、日本を確実に痛めつけた。

いずれにせよ、こうしたマスコミの性は、基本的には日本人にはマイナスに作用してきた。世論にある微妙な傷を針小棒大に報道するから。