タイでは若者のデモが続いているが、その要求のひとつに、国王の仲裁をやめよ、というものがある。私はこれこそが、まさに、若さゆえの未熟さ、過ちの典型であると思う。

タイは、クーデターがしょっちゅう起こる国として有名であるが、流血に至る事はほとんどなかった。それは、国内の諸勢力の対立が起こったときには、在位70年にわたったプミポン前国王が仲裁をしていたからである。

特に有名なのが、1992年の暗黒の5月事件の時で、この時には300人以上の死者がであたが、プミポン国王の仲裁で、何とか一件落着となった。

ただ、こうした体制は、美徳のように言われていたが、２つの問題点があった。

①国家の非常時に君主の判断を仰ぐのでは、民主主義どころか、立憲君主制でもない、絶対君主制である
②国王という”体制”よりもプミポン国王という”属人性”に頼りすぎていた

①については、立憲君主制で運用されていた戦前の日本よりも遅れた体制であることが重要。戦前の日本においては、立憲君主制であったがゆえに、大東亜戦争に突入したのだった。立憲君主であった昭和天皇は、「四方の海・・・」という有名な歌で反戦の意志を示すことしかできなかった。しかし、大東亜戦争終結時には、昭和天皇は、絶対君主として動いた。憲法にもとづいた諸制度では戦争を終結することができず、最後は昭和天皇の”御聖断”でやっと終戦の国家意志が定まった（無論、内閣が綿密な根回しはしており、事実上は内閣の意志だったのだが、”ご聖断”でなければ国民が終戦を受け入れなかったことは間違いない）。つまり、大東亜戦争は民主主義が始めて、絶対君主が終わらせたのである。

タイの国王は、ここまでの決断ではないにせよ、いずれにしても国の一大事の時には、（毎回ではないにせよ）国王自身の意志が国家の最終意志になる以上、絶対君主制と言わざるをえないわけで、きわめて遅れた制度である、と言える。（つまり、タイ式民主主義というのではなく、絶対君主制的なのである）。

なお、19世紀の英国の思想家ウォルター・バジョットは、立憲君主の持つ権利として、1.相談を受ける権利　2.何かを奨励する権利　3.警告する権利を挙げている。

これを素直に採れば、大東亜戦争を終わらせた天皇はともかく、プミポン国王は典型的な立憲君主であったと考えられよう。しかし、君塚隆著「立憲君主制の現在」ｐ37では、「20世紀以降にはこれだけでは捉えきれない新たな現実が付け加わっていく」としている。そして、今世紀の憲法学者Cレーヴェンシュタインの言葉を引用し、「国王の権利は『報告を受ける権利もしくは説明を求める権利に弱められた』」としている。

つまり、現在においては、立憲君主はほぼ何も意見を言わない状態になっていると言えよう。そのような状況で、ここまでの仲裁をしていたプミポン国王はやはり、絶対君主的だった、と言うべきではなかろうか。

②については、これぞまさに、絶対君主制の問題点をさらけだした、と言える。つまり、良い君主であればよいが、そうでない君主では、一挙に国家体制が不安定になる、ということ。こうした落差はおそらく、衆愚政治に陥る危険のある民主主義体制よりも、まずい体制である。だからこそＷ．チャーチルは、「これまで試みられた政治体制を除いて、民主主義は最悪の制度」と言ったのである。

すでにプミポン前国王生存時から、ポストプミポンについての不安は、夙に言われていた。プミポン国王が死去してちょうど4年経って、Covid-19禍と相まって、その不安がまさに具現してしまった、と言えよう。

●若者たちはなぜ国王の仲裁をいやがるのか
これには２つの意味合いがあると思う。

①そもそも絶対君主制的な国王の仲裁がいやだ
②現在のワチラロンコン国王の仲裁ではうまくいかないからいやだ

①と②は関連はしている。たとえば、常に民のことを第一に思うプミポン国王のような良き絶対君主が常に得られる保証があれば、それは間違いなく、民主主義よりははるかに良い制度であり、それを壊そうという人たちはほぼいないであろうし、そんな主張をしても、相手にされないだろう。実際、プミポン国王時代には、そんなデモはなかったわけだから。

だが、そんな保証はどこにもなく、実際それは現国王によって裏切られている。若者たちはだから、このような不安定な国家体制がいやなのだろう。

●国王の仲裁なかりせば・・・
だが私には、今のタイの若者たちは、あたかも、フランス革命前のフランス人のような気がしてならない。つまり、国王の権威の大切さ・重要さを知らない。

私は、タイにおいては、国王の権限を縮小させるのは、逆効果だと思う。つまり、国王の仲裁がなくなれば、タイはむしろ、流血の事態が多発するのではないか？

フランスでは、フランス革命後は流血騒ぎとなり、最終的にはナポレオンという独裁者が現れた。ロシアは、ツァーリが打倒されたあとは共産党の独裁、その後はプーチンという”帝王”の事実上の独裁国家である。中国は共産党独裁、アラブ国家は王室による絶対主義国家である。イラクやリビアは、独裁者がいなくなって、国がバラバラになった(国の成り立ちが英仏などによる人工的なものであったことを割り引いても）。その他、チリ、ハンガリーなど、当初は民主主義が根付いたように見えても、結局は独裁政権となった国もある。

いずれの国も、民主主義での統治は不可能なのだ。民主主義体制が可能な国は、実は限られている。失礼ながら、おそらくタイも、西洋型の民主主義国家の運用は難しいだろう。

こうした国はだから、国王の権限を弱めるよりも強化すべきなのだ。若者たちは、未熟ゆえ、こうしたことを何もわかっていない。

小児の救急患者が減少したこと、その理由についての報道は多いが、その”結果”、すなわちでは、搬送減少によって死者が増えたのか、といったことについての報道は非常に少ない。

それはおそらく、その”結果”があまり問題がないため、であろう。もしもその結果、死亡する小児が、その減少した割合の応じて増加すれば、本来は、こちらの方がニュースになるはずだから。

ニュースでは、小児の救急搬送が4割減少したという。だから、理屈で言えば、亡くなる小児の数は4割増えるはずだが、そうした報道はない（あれば必ず報道されるだろうから・・・）。

つまり、救急搬送される小児の数は4割減少しても、それ自体が小児の生命維持に問題を起こしているわけではない、のである。

そもそも、小児の救急搬送がここまで減少したのはなぜか。

ＮＨＫニュースでは、救急搬送減少の理由として、①子どものウイルス感染を懸念した親の「受診控え」、②マスクや手洗いなどの対策で感染症自体が減っていること、があげられている。

しかし、これは実は、理由にはならない。「搬送」の減少の理由を「受診」の減少にしているからだ

「搬送」と「受診」はまったく異なる。前者は正規の診療時間帯以外での、あるいは病院到着までの時間短縮が必要のある急患であり、すぐに病院受診をしないと命にかかわる危険がある患者が対象となるが、後者については、特に、緊急性は要しない患者が対象である。

だから、①、②は、”病院受診者減少の理由”にはなるが、”救急搬送減少の理由”にはならないのだ。無論、救急搬送患者を広い意味での病院受診者に含めれば、その限りではないだろうが、緊急性を要する患者数の減少の理由としては、やはり弱い。

私は単純に、救急搬送減少の理由は、そもそも、その一定割合は本来、それが不要だった、緊急性もなく、あるいはそもそも受診の必要性さえもなかった、ということだと考えている。だから、その減少が小児の命を脅かしているわけでもない、ということになる。

実際、当直などの時間外診療業務をしていると、確かに少なくとも半分くらいの救急搬送患者は、少なくとも緊急性はない、という印象を持っている。小児だとその割合はさらに大きくなる。

たとえば、単に熱を出したというだけで、時間外に駆けつけてくる親がいる。そのほぼ100％は、緊急性がない。もともと受診の必要もない。その熱は、身体が必要だから出てくるわけで、身体が不要と判断すれば、必ず自然に下がるからだ。仮に髄膜炎のような重篤な病気が原因だったとしても、少なくとも救急搬入の必要性は、まずない。

おそらくは、Covid-19の影響での救急搬入減少分の大部分は、このような、本来救急性が低かったケースであったと思われる。厳しい条件で、親が本能的に、不要な救急搬送を見分けたのだろう。

ただ、識者の言うとおり、「いつもと明らかに様子が違う場合はためらわずに病院へ連れてきてほしい」ということは非常に大切である。明らかに様子が違う場合とは、たとえば、重篤な喘息発作、喉頭蓋の浮腫、腸重積といった病気の症状であり、これらの病気はいずれも、緊急性が高いのである。

ただ、救急搬送されるケースで、こうした重篤な病気の割合はきわめて少ない。私たち医師の仕事は、数多くの軽症患者（本来救急搬送の不要な患者）からこうした少数の重篤な患者をピックアップすることが大事なのだが、それはそのまま、もともとは、救急搬送が本来必要な人はきわめて少ない、ということでもある。

私は、救急搬送減少については、その理由よりも結果（それに伴う死者数増加などはないということ）を、もっときちんと報道して欲しい、と思う。そしてしたがって、その結果は特に問題にはなっていない、ということも。それがひいては、本来救急搬送が不要な患者数を減らし、ひいては、32時間勤務を強いられている当直医の疲弊軽減につながれば、と思う。

令和２年１１月１日　核兵器禁止条約は受け入れられない

令和２年１１月２日　”自民党”は、原発新増設から逃げるな！

本日のNHK日曜討論では、自民党は改めて、「現在の時点では」という枕詞つきではあるが、原発の新増設は考えていない、という発言を行った。

これは非常に残念な発言だった。私は、菅（すが）内閣こそは、と期待していたから。

菅（すが）内閣になって、福島の処理水問題が一歩前進した。菅（すが）内閣は、それまではタブーだった海洋放出”解禁”に踏み切った。批判は非常に強いが、かならずしなければならない政策であり、かつ、安倍首相ではとうとうできなかったことだった。

菅（すが）首相が、就任間もない段階で、この方針を打ち出したことは、非常に高く評価できよう。

菅（すが）首相は、やはりタブー視されてきた日本学術会議改革にも手を突っ込んだ。失礼ながら、学問とはまったく関係ない道を歩んできた菅（すが）氏だからこそできたことだろう。

次の大課題が、原発の新増設だった。折しも、菅（すが）首相は、所信表明演説で、”2050年CO2排出ゼロ”を打ち出した。このこと自体は、その実効性はともかく、あの中国でさえも、2060年CO2排出ゼロを打ち出していた以上、国際関係の都合上、やむを得ない面はあったことだろう。

カーボンニュートラル政策については、誰も反対はできないのだが、その手段については、原発を利用するかこれをなくして再生エネのみにするかの二通りがある。

つまりこの政策は、左右が呉越同舟となる必然性があり、そのために、菅（すが）首相は、所信表明演説で、前者の選択を明確に表明したわけであるが、そのことは評価するにしても、では原発を延命するにはどうしたらよいか、についてはお茶を濁していることは、いただけない。

本来は、原発を使い続けることを選択したのであれば、その将来についての言明も必要なはずである。

原発は無限に運転できるわけではない。運転期間を40年を60年に延長したところで、いずれは必ず寿命が来るわけで、当然のことながら、新規増設をしなければ、いずれ原発はゼロになる。高齢者社会になって、高齢者が長く働くようになったところで、若い血を入れなければ、国が滅ぶのと一緒だ。 だからこそ私は、この機会をとらえて、原発新増設に踏み込んで欲しかったと思う。

菅（すが）首相においてさえ、自民党がそこまで踏み込めなかったのは、やはり、世間というよりも、まずは公明党への配慮があるのだろう。NHK討論でも、公明党は「原発の新規増設はしない」とはっきり言明しており、その脱原発的姿勢は明らかである。

公明党は、そもそもその党是は、脱原発である。同党のHPには、それがはっきりと書かれている。つまり、カーボンニュートラル政策で本来公明党は、左に行くべきだったのが、与党でいるがゆえに、妥協したのである。ここは公明党が譲った。

しかし、そのための必然である原発新増設については、自民党が譲った状況と見てよいだろう（自民党も、河野太郎がいるように、原発については、一枚岩ではないが）。

つまり、現時点では、原発政策においては、与党内でも綱の引っ張り合い状態なのである。そのために、現政策の将来的必然である、原発新増設を言うことができない。

自公は、選挙制度がよほど変わらない限りは、今後も当面はひっついていると思われるが、党内野党としての公明党の存在は、これまでそれは良い面も悪い面もあった。自民党だけではなかなか救えない民意を拾ってくる役割としては、公明党は役に立っていた。たとえば、Covid-19禍での給付金が一律10万円になったのは公明党の力によるものだったが、あれはあの方がよかったことだろう。

だが、原発新増設に関しては、悪い面が出ている。だから自民党はまずは、公明党という、”内なる敵”と戦わなければならない。

それはともかく、新聞でもすでに、少なくとも、読売と産経は、社説でしばしば、原発新増設に言及するようになってきた。自民党は、まずは公明党をしっかりと説得し、その必要性を認めさせ、ひいては少なくとも数年後くらいまでには、これを表明すべきであろう。

P.S.　原発新増設のひとつのきっかけとしては、再来年のドイツの脱原発がうまく行くかどうかも大きいことだろう。