脱ダムによる治水事業の失敗は、まさに脱原発と重なる。

川辺川ダムについては、2008年に脱ダムを訴えた現樺島熊本県知事が当選し、その勢い乗って、翌2009年の民主党政権で正式にその計画が中止となった。

その後、10年以上にわたって、ダム以外の手段による治水事業が検討されたが、結局は工期、経費などから折り合わず、事実上それが放置され、今年7月の大水害につながった。

そして、ダムの効果の評価が行われ、その一定の役割が確認されたわけである。

この１２年の流れを見ると、その主張はまさに、脱ダム→その結果としての大災害発生にてダム必要、というように、災害によって、180度変化したことになる。

要するに、脱ダム派の完全な敗北なわけで、昨年のやん場ダムによる洪水予防効果とともに、脱ダム派の旗色はきわめて悪くなったことは、間違いない。

たとえば、次の選挙で樺島知事が、以前と同じように脱ダムを訴えれば、有力な対抗馬がいて、その人がダムの必要性を訴えれば、選挙にはもはや勝てないだろう。

つまり、やや大げさに言えば、大災害の結果、世の中の流れが変わった・・・言い換えれば、大災害が起きてやっと、正しい事象が理解された、のである。

●脱原発もまったく同じ
この脱ダム→要ダムの転換は、原発政策にもまったく同じように当てはまる。

2011年の福島第一原発事故は、脱原発派を勢いづけた。彼らにとって、原発事故は”天佑”だった。彼らの思惑通り、世論は脱原発へと大きく傾いた。

脱原発派の言い分は、脱ダム派とまったく同じである。すなわち、始めに原発なし（ダムなし）が大前提であり、その不足分の電力は、再生エネ（脱ダムの引堤防、遊水地、法水路、堤防かさ上げ、河道掘削etc,に当たる)で十分にまかなうことができる、というものである。

ダム以外の治水事業にダム以上の解決策がなかったように、発電において、コスト的に、原発以上のものはない、それがある程度モノがわかっている人たちの考えだが、すべての知性が平等に扱われる民主主義社会において、そのような正論は通らない。

したがって、原発の必要性を一般国民に理解してもらうためには、治水事業と同じく、何らかの”事件”が必要になるだろう。

実は、仔細にみると、それは何度か起こっていた。

たとえば、2018年1月の大寒波の折には、東京では暖房需要の急増で電力不足となり、東電は、他電力会社から、電力融通を受けた。計算上は、再生エネの発電設備で、電力不足にはならなかったはずなのだが、VREの宿命で、必要な時に必要な電力が得られなかったのだ。

また、同年9月の北海道胆振東部地震では、ブラックアウトが出現したが、この時もやはり、再生エネはまったく当てにはならず、そもそも泊原発の再稼動を前提にしていた火力発電の片肺運転が原因だった。

少なくとも後者において、私は原発の必要性がもっと世間で喚起されるものと期待したが、残念ながら、そうはならなかった。

おそらくはやはり残念ながら、人が何人も亡くなるような大事件でも起きないかぎりは、脱ダムのように、脱原発の誤りは世間から理解されないのではないか、と思う。

おそらくは、2018年の大寒波の折に、東京で大規模なブラックアウトが起こり、電力不足で死者が出たりしていたら、再生エネの無力性と原発の有用性が理解されたのでは、と思う。

むろん、そうならないように頑張った東電の努力は評価されてしかるべきだし、無事に電力不足を乗り切ったのも、職業上の責務としては当然ではあり、特に電力不足による死者など出ない方がよいに決まってはいるのだが、犠牲者が出ないと世の中が動かないことも確かで、そこがいろいろと難しいところではある。