原発事故の頃は、田原もまっとうなことを言っていたのだが、彼の最近の左傾化はまったくひどい。あの年になってついに、あちらの世界に生きるすべを求め始めたのか？

国民の多くは、極端に言えば、安倍首相以外ならば誰が首相になってもよい、とさえ考え始めている。

こういう発想から思い出されるのが、戦前の議会政治の崩壊である。

大正デモクラシーの頃は、かなりの議会政治が発達していたのに、おそらくは1930年代のいわゆる”統帥権干犯問題”頃から、議会政治の本格的な堕落が始まった。”敵を倒すためには手段を選ばず”で、さまざまなスキャンダルが使われたが、この”統帥権干犯問題”が何としても、一番大きかった。それは、軍が政治問題に介入する糸口を与えてしまったからである。（というか、問題の性質上、軍も動かざるを得なくなった、ということだと思うが）。

こうした実態は、国民に、「もう議会政治はだめだ、議会以外の勢力ならどんなところでもいい、そこに政権をあずけよう」という気持ちを醸成させた。

そんな折、５．１５事件が起きた。同事件は、こうした国民的雰囲気を背負っていたせいか、減刑嘆願が続出し、首相まで殺害されたにもかかわらず、犯人らは1人も死刑にもならず、事件の大きさの割りには、その罪刑は軽かった。

あまりにも議会政治が嫌われていたがゆえに、首相までが殺されたにもかかわらず、国民の「とにかく、犬飼以外の、議会人以外の人なら誰でもいい」といった感情が、軍人内閣の道を開いたといってよい。

田原総一朗ほどのジャーナリストなら、こうした歴史は知悉しているはずだろうが、”安倍憎し”でつい、感情的発言をしてしまったのだろう。

怖いのは、こうした田原発言をまともに信じてしまうB層である。誰かが威勢のいいことを言うと、単純な頭がそれを鵜呑みにし、それが世論となり、世論を重視せざるを得ない為政者は、ある程度はわかってはいても、誤った選択肢を取らざるを得ない・・・

民主主義の歴史は結局、こうした失敗の連続であった。


●民主党政権の悪夢を思い出そう
anything but 安倍というこの発想は、今から10年以上前の、”anything but 自民党”と呼ばれていた頃を彷彿させる。

当時と現在は、当時がリーマンショック、今回がCovid-19ショックという、世界的混乱があった（ある）という点で、共通している。

当時の麻生首相は、常々、「100年に一度の危機」を唱え、大規模な財政政策などを実行したが、小泉改革の負の側面がことさらに強調されたりした面もあり、「とにかく自民党政治はもうダメだ、自民党以外の勢力にとにかく一度政治をまかせてみよう」という（誤った）空気が日本中に漲っていた。当初の鳩山内閣の内閣支持率が8割近くとなっていたことだ、そうした空気を物語っていた。

だが、実際に民主党に政権が渡って見れば、その政治は散々であり、国民はそれが失敗であったことにすぐに気づき、リベラルな民主党とは正反対の、おそらく自民党史上最高に右寄りの政治家である安倍晋三を首相に選んだのである。

それを忘れてはいけない。