| 北海道新聞平成１８年７月７日付社説 | バックナンバー |
国際社会の自制要請を無視してミサイル発射を強行した北朝鮮に、これ以上暴挙を繰り返させないためにも、効果的な圧力を検討する必要がある。
決議案は《１》弾道ミサイルの開発や実験の即時中止《２》核開発をめぐる六カ国協議への即時復帰−などを北朝鮮に義務付け、加盟国にはミサイルや大量破壊兵器の開発につながる資金などが北朝鮮に渡らないよう求めている。
一九九八年に北朝鮮がテポドン１を発射した際、安保理は報道向けの声明を発表しただけだった。
北朝鮮に友好的な中国やロシアは、今回は一段上の議長声明にとどめるべきだとして、拘束力がある決議案の採択には反対している。
しかし、近年の北朝鮮の言動には到底看過できないものがある。
二○○三年に核拡散防止条約を脱退し、○五年には核兵器の保有を宣言した。中東などの不安定な地域へのミサイル輸出も続けている。
国際的な約束を平気で破ったり、世界の平和と安定を脅かすような行為に走ったりすることを、国際社会は容認しない。制裁決議には、その姿勢をはっきりと北朝鮮に示す意味がある。
ただ、中国やロシアが採択で反対に回ったり、棄権したりすれば、北朝鮮に対しミサイル発射を容認する声があるとの誤ったメッセージを送ることになりかねない。
ミサイルの脅威にさらされている日本には、決議案提示国として、またアジアのリーダーとしても、国際世論をまとめ上げる役割と責任がある。
小泉純一郎首相が靖国神社参拝問題などで、中国、韓国という北朝鮮に影響力を持つ国の首脳と直接対話できないことがなんとももどかしいが、政府は最大限の努力をしてほしい。
一方で、こうした非難や制裁が逆に北朝鮮を暴走させる懸念もある。
今後、各国の対応が「圧力」に軸足を移すことになっても、北朝鮮を国際社会のルールの中に踏みとどまらせるために「対話」の努力は続けていかなければならない。
北朝鮮はミサイル発射を「自主的な権利」と言い、「自衛的抑止力の強化の一環として」今後も発射実験を継続すると言明している。
しかし、核兵器をちらつかせる国が近隣諸国を威嚇する行為にどんな理屈をつけても、説得力はない。
制裁決議案の採否にかかわらず、ミサイルの開発や発射の凍結、六カ国協議への復帰などの要請にはただちに応じるべきだ。
二発目のテポドン２の発射準備を進めていると伝えられるが、これもすぐに中止すべきであるのは言うまでもない。
北朝鮮によるミサイル連続発射を受け、日本が国連安全保障理事会に提示した対北朝鮮制裁決議案に対し米英仏などは支持を表明したが、拒否権を持つ中国、ロシアは「法的拘束力のない議長声明がふさわしい」として難色を示し、協議は難航しそうだ。
一方、北朝鮮外務省はミサイル発射を「自衛的な国防力強化」を目的にした軍事訓練として今後も発射実験を継続すると明言し、国際社会の中止要請には耳を貸さない強硬姿勢を鮮明にした。
北朝鮮がこうした姿勢を崩さない限り、関係国が連携して「圧力」を強めながら６カ国協議という「対話」のテーブルに着かせ、即時中止に追い込むのは当然だろう。
もっとも強硬な対北朝鮮政策を展開するブッシュ米大統領も「外交的解決が最善の方法」と述べている。
北朝鮮の意図がどうあれ、国際社会の総意を踏みにじり、長距離弾道ミサイル「テポドン２号」など他国を射程に収めるミサイルを連射するのは「挑発」を超えた異常な行動だ。
この現実を見る限り、これまで中国や韓国が取ってきた対北朝鮮融和政策の限界も見え始めている。
日本も北朝鮮の貨客船「万景峰(マンギョンボン）９２」の半年間の入港禁止など初の制裁発動に踏み切ったが、これ以上暴挙を重ねれば、すべての船舶の入港禁止や送金停止など対北圧力を高めていくのはやむを得ないだろう。
だが、過剰な「圧力」をかけ、徹底して窮地に追い込めば北朝鮮指導部が冷静さを失って暴発する恐れも否めない。極めて難しい判断が求められる。
不測の事態を招かないためにも、日米など関係国が「圧力」の度合いや方法などに知恵を絞り、実効性のある戦略を練っておかねばなるまい。
国連安保理や１５日から開かれる主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット）を舞台に関係国がそうした論議を深めることを求めたい。
とりわけ６カ国協議の参加５カ国(日米韓中ロ）は早急に非公式会合を開き、打開策を模索する必要があろう。
北朝鮮に融和的な立場の中韓と、それに距離を置く日米の対応の違いがミサイル発射という暴走を封じ込められなかった要因にもなった。ここは５カ国の足並みをそろえておかねばなるまい。
とはいえ、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題などをめぐり日中、日韓の首脳の関係は冷えたままだ。
だが、いまは東アジア地域での緊張を緩和し、安定を取り戻すことが喫緊の課題だ。それは日中韓３カ国にとって共通する利益でもある。
「瀬戸際戦術」を続ける北朝鮮に自制を迫り、暴走を制止させるためには国際連携が不可欠である。最優先すべき課題を見誤ってはならない。
＝2006/07/07付
西日本新聞朝刊＝
朝日新聞平成１８年７月６日付社説
北朝鮮がミサイルの発射実験を強行した。きのう未明から朝方にかけて６発、さらに夕方１発という異様さである。日本などと交わした発射凍結の約束を破り、国際社会の制止も無視した。
無謀で無責任な行動に強く抗議する。
実験では３種類のミサイルが発射された。短距離の「スカッド」、中距離の「ノドン」、長距離の「テポドン２」である。北朝鮮が保有する弾道ミサイルのそろい踏みといった有り様だ。
いずれもロシアに近い日本海に落下した。外国を攻撃できる兵器をこれだけ持っているのだと見せつけ、威嚇するのが目的なのだろう。
●威嚇は許されぬ
米国のアラスカにも届くといわれるテポドン２に注目が集まっていた。だが、打ち上げ直後に失敗したと米政府などは見ている。
日本にとってより深刻なのはノドンだ。日本列島がすっぽり射程内に収まる。北朝鮮はこれを２００基配備しているという。核弾頭が積まれていたらと、ぞっとした人は少なくないだろう。
北朝鮮は９３年にノドンの、９８年にはテポドンの発射実験をした。その後、９９年に発射凍結を米国に約束した。０２年の日朝平壌宣言でもそれを確認した。今回の発射はこれをすべてほごにするものだ。
北朝鮮は核兵器を保有していると宣言した。核不拡散のための国際的な約束に背を向け、監視の目をかいくぐって開発したものだ。そんな国が弾道ミサイルを持ち、発射実験で周辺国を威嚇するのは許しがたい。
北朝鮮はミサイル本体や技術を中東などに輸出してきた。ただでさえ不安定な地域にミサイルの火種を持ち込むのは無責任きわまりない。
核保有宣言といい、ミサイルといい、一連の行動は「ならずもの国家」と呼ばれても仕方あるまい。
●対応は厳しく冷静に
北朝鮮はミサイルの開発、実験は主権に属することであり、他国の干渉は受けないと主張している。だが、国際社会の秩序を乱し、近隣国を威嚇するような国がいくら「自主権」を言っても、そのまま認めるわけにはいかない。
北朝鮮は国際社会からの猛反発は承知のうえなのだろう。それでもなおミサイルを発射したところに、北朝鮮の外交的な行き詰まりが見て取れる。
核放棄をめぐる６者協議が停滞するなかで、米国などは金融や人権で締め付けを強めている。だが、米国と直接協議したくても応じてくれない。日本も拉致問題などで圧力を強める。頼みの中国もさほど味方してくれない。
こんな局面を転換するにはミサイルという脅しのカードを使うしかないと見たのだろう。いつもの「瀬戸際作戦」だ。
ミサイルは、米国の独立記念日に合わせて発射された。北朝鮮問題に多くの時間を費やした日米首脳会談の直後、ロシアでの主要国首脳会議の直前でもある。挑発の狙いは明らかだ。
一方で、今回の発射をめぐっては、北朝鮮内部の統制の乱れを指摘する見方もある。独裁国家の、外からはうかがい知れない危うさである。
日本政府は北朝鮮の貨客船、万景峰号の入港を半年間認めないなど９項目の措置に踏み切った。強い抗議の意思を示すには当然だ。さらに送金や貿易の停止などの制裁措置も検討していくという。
国連の安全保障理事会は緊急会合を招集した。北朝鮮に強いメッセージを送る必要がある。いたずらに危機をあおっても逆効果であること、６者協議に誠実に向かい合ってこそ生きる道が開けてくることをはっきりと伝えるべきだ。
米国も「あらゆる必要な措置をとる」としつつ、外交的な解決を目指すという。冷静に、しかし厳しい態度で臨むという方針で足並みをそろえたい。
●日中韓連携を強めよ
重要なのは国際社会の一致した行動だ。日本政府は国際協調を率先して追求してもらいたい。北朝鮮の出方を見つつ、段階的に対応する構えが大事だ。
北朝鮮の問題を解決するにはやはり米国の存在が大きい。だが、イラクやイランへの対応に追われ、危機感をもって向き合ってこなかった面は否めない。
ミサイルの脅威を肌で感ずるのは日本と韓国だ。緊張の高まりには中国も安閑としてはいられまい。なのにこの３カ国の協調が何とも心もとない。
ミサイル発射と時を同じくして、韓国の海洋調査船が竹島周辺の、日本が主張する排他的経済水域（ＥＥＺ）に入った。日本の抗議は無視された。この問題では双方が突っ張り合い、感情的なもつれを増幅させるばかりだ。
底流には、盧武鉉大統領の民族感情をあおる強硬姿勢とともに、小泉首相の靖国神社参拝も大きく響いている。靖国問題は、日中でも首脳の相互訪問をもう５年も閉ざしている。
だが、平穏な環境をつくることこそが３カ国の利益が共通する最重要の課題ではないのか。日中韓の政治指導者は優先順位を間違ってきたとしか思えない。
米国の関与を促すと同時に、北朝鮮の暴発を防ぎ、危機の水準を下げるために３カ国の協調を早急に立て直すべきだ。