| 32 ガンの手術について パートⅡ |
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今回は前回の続きでガンの手術のうちの「姑息手術」についてです。姑息という言葉は世間一般
ではあまりいい意味では使われませんが、外科でいう姑息手術とは「ガンが進んでいて摘出ができ
ないが、患者のＱＯＬ（生活の満足度）を高めるために行う手術」のことを言います。外科医はな
んといっても根治術をしてこそガンの手術と思っていますから、こうしたガンを摘出できない手術
は何となく敗戦処理的な感じがする訳です。そのためにこうした名前がついたのでしょう。
代表的な姑息手術が昭和６２年に昭和天皇が受けられた手術です。昭和天皇は十二指腸乳頭部と
いうところにできたガンのため食物の通過障害があり、食事ができない状態でした。年齢からいっ
てもガンの摘出は困難で、結局胃と小腸をつなぐパイパス手術を受けられたのです。昭和天皇はガ
ンを治すために手術を受けたわけではなかったのです。
こうした姑息手術はあまり高度な技術も必要ないし、ガンを治すわけではないので上記のように
外科医はあまり好まないのです。しかし前回お話したように根治術が確実に患者のＱＯＬを下げる
のに対して、この姑息手術は患者のＱＯＬを上げるのです。根治術でも確実にガンを治せるとはか
ぎらず再発した場合はふんだりけったりである、と前回述べましたが、それに比べれば姑息手術は
比較的簡単な手術で確実に患者のＱＯＬを向上させられるのですから（ガンは治せないにしても）
外科医としてはそれなりにやりがいのある手術であると私は思います。（以前、手術ではありません
が食道ガンで食事ができない老人にステントという筒のようなものを内視鏡を使って食道に埋め込
み、食事ができるようになって退院していただき、最期の正月を家で過ごされて、おせち料理も少
しは食べられた、とご家族から感謝されたことがありました。）
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